2015/12/03 のログ
ご案内:「ヤルダバオート 地下売春施設『神の左手』」にツァリエルさんが現れました。
■ツァリエル > ツァリエルが姦淫の罪を2度にわたって犯したことが発覚するのは時間の問題だった。
一度目は戦場で、恩人のためにということで見逃してもらった手前もあるが
二度目は自分と神の家に等しい教会の裏庭で、どこの馬の骨ともわからぬ魔族相手にということだからこれを許されることはなかった。
そもそもツァリエルにはいかがわしいことをしてそれを自分の胸に秘めて黙っていることのほうが
よほど罪悪感にさいなまれ、苦しめられることだった。
年上の修道士や司祭に問いただされれば、懺悔するほかなかった。
仕方ない面もあるとはいえ、素直に告解し反省の様子も見受けられたのだから
神の前でもうしないということを誓い、鞭で100回叩くだけで許そうとしたのだが
どこからか別の教会の司祭の一団が現れてこういった。
「もっといい償いの方法がある。神の御前にて身体を持って奉仕するのだ」と。
その一団が売春施設を取り仕切る一員であるとはその時誰も知らなかった。
■ツァリエル > 薄暗く豪奢なつくりの古い修道院に無理やり連れていかれれば
叫んでも誰も助けに来ないような石造りの部屋で、むりやり甘い煙草のような煙を嗅がされる。
ぐらぐらと意識が揺れて濁っていくと体がだるく、立っていられなくなる。
その場に力なく屈みこむと、目隠しをされ衣服をはがされ
無理やり両脇を抱え上げられどこかへと連れてゆかれる。
足音や音の響き具合、空気の冷たさから地下へと降りていくのが察せられたが
詳しい場所まではどうもわからなかった。
目隠しを外されると目に入ったのはオレンジの火の灯った灯りだった。
石造りの広い遺跡のような、あるいは墓所か聖堂のような壮大な場所に薄絹のカーテンが掛けられ、
空気にはあの甘ったるい煙のよどみが漂っている。
何より先ほどと違うのは匂いだ。さまざまな人の気配と共に女や男の体臭が入り混じっている。
カーテンに写る人々の影がなまめかしく動き、それこそ姦淫の罪を重ねているとわかった。
しかもここにいる人間のほとんどが修道女や修道士であり、どの人間も衣服と呼べるほどの着物を着てはいないのだ。
引きずられるように裏手の一室に連れて行かれるとそこにはカウチソファと胸をほとんど丸出しにした修道女たちが二人待っていた。
なまめかしく化粧をし、何か香をつけほとんど娼婦のような修道女二人に抑えられ
同じように香りのついたオイルを体に刷り込まれ、汚れを湯で洗い流され磨かれる。
与えられた衣装は胸と局部をわずかに隠すだけの小さな布でそれを着せ付けられると何やら甘い酒のようなものを口にそそがれる。
それから先はもうただふわふわとしたおぼつかない感覚だけになった。
ご案内:「ヤルダバオート 地下売春施設『神の左手』」にヴァレリィさんが現れました。
■ツァリエル > 気づけば先ほどとは違う部屋の一室、豪勢な絨毯とクッションに囲まれ
深く霧のような淡い色の透けるカーテンに閉ざされた場所に座らせられていた。
傍にはふくよかな腹を揺らす中年の男性。その太い指にはツァリエルが見たことも無いような黄金や宝石の指輪がジャラジャラとはまっていた。
ツァリエルの他にも別の少女や少年が男に侍り、大きな羽扇で風を送ったり
黄金の器からみずみずしい果物を手ずから食べさせていたり
あるいは水差しからは赤く香しいワインがなみなみと男の杯にそそがれていたりした。
だが、ツァリエルにとってはどうでもよいことだった。
目の前の光景も今のぼんやりとした幸福感にとっては天国の一部であり
なんとも不思議な光景を見る様に緩く微笑んでいた。
■ヴァレリィ > バン! 売春施設の扉が勢い良く強引に開かれる。
押し入った数人の武装した騎士の集団の先頭に立つのは
長い焦げ茶髪の凛とした面持ちの女性であった。
鎧の上にサーコートを羽織り、長剣を佩いている。
「神殿騎士団だ! 全員神妙にせよ!
神聖都市ヤルダバオートでこのようなふしだらな行い、貴様ら全員神罰が下ると思え!」
有無を言わせぬ剣幕で高々に宣言する。よく通る声であった。
ヤルダバオートの騎士はこのような売春施設、本来であればいちいち取り締まったりなどしない。
それどころか裏では癒着しているとさえ噂される、鼻つまみ者の集団のはずだ。
しかし彼女たちは完全にそれとは別物だった。
「修道士ツァリエルが先ほどここに運び込まれたはずである。
彼はどこにいる!」
■ツァリエル > 突然の侵入者にそれまで興じていた客や修道女たちが一斉に騎士団のほうをみやる。
薬の影響か、悲鳴は控えめで押し入ったところで特に動じもしないぐでぐでの娼婦たちがほとんどだったが
貴族と思しき客や、騎士と思われるものなどは一斉に青ざめてその場から逃げ出そうとした。
一瞬の混乱ののち、禿頭をした皺の深い司祭が名乗りを上げた女性に近づいてくる。
この場を取り仕切る長のようなものらしい。両脇に僧兵をつれて軽く頭を下げると相手の様子を伺うように切り出した。
「これはこれはまた……どういったご用件でしょう。
神殿騎士団にはすでにご納得の上だったと思っておりましたが。
寄進の額が足りませんでしたか?あなたたちの立派な鎧も剣も
我々のこうした日々の営みと神への奉仕によって成り立っているのはご存じでしょう?」
いやらしい含み笑いでそう述べる。が、ツァリエルの名前が出れば顎を撫で
「ふむ、そんな修道士がいたようないなかったような……
何かの間違いではないでしょうか?
同じ年頃の修道士なら大勢いますので」
あくまでとぼけるようだった。
■ヴァレリィ > 女騎士はヴァレリィ・ジャスティスと名乗った。
確かにヴァレリィという騎士は神殿騎士団に名前を連ねてはいたが、
彼女を知るものは、もっと神殿騎士団らしい騎士であったと証言するだろう。
施設内を見渡し、客や娼婦を一瞥し、老司祭へと相対する。
「なるほど。つまり我々の要求には応じるつもりはない、
と解釈していいんだな」
ふいに、こてん、と首をかしげる。
はじめに見せていた毅然とした表情とはまったく異なる、
厭らしい、嘲るような下品に眼を剥いた笑い顔を作った。
「おまえらはよくよく愚かだな。
この短気なおれが生き残る機会を与えてやろうとしたのに。
――面倒だ! 沙汰は今すぐ下す!」
地獄から響くような濁った声。
叫び、長剣の鞘の先端を床にがんと打ち付ける。
それが合図であったかのように、背後の騎士たちの兜がいっせいに落ちた。
兜の下は真っ暗だった。
「全員、死ね」
騎士を装っていたものたちの輪郭が歪む。
けたたましい羽ばたきの音。
騎士に化けていた夥しい数の真っ黒な蝙蝠たちが修道院内に充満する。
動くものすべてを食いつくすために。――ツァリエル以外の。
■ツァリエル > 女騎士の顔が凛々しいそれから一瞬にして反転し、
相手を見下すような恐ろしい形相に変わったとき老司祭は実に不快そうに眉を歪めた。
「くどいですなぁ……何度言ってもそのような修道士はいないと……――!」
そこまで言っておいてそこから先の言葉はヴァレリィの号令と剣を突き立てた音にかき消された。
騎士たちの兜が脱げ落ちて固い床にあたり、一斉にガラガラと耳障りな音を立てた。
最初に蝙蝠たちの餌食になったのは老司祭であった。
不愉快な表情のまま、あ、と叫んだように思えたがそのまま口を開けて首筋に噛みつかれ
おびただしい血しぶきをあげてぐるりとその場に倒れた。
その次に後ろに控えていた僧兵たちが手に持った槍を突き出し薙ぎ払おうと必死に努力したが無駄だった。
顔面の、特に眼鼻のあたりに襲い掛かられついには槍を手放し顔を覆って悲鳴を上げる。
まだ正気を保っていた者たちは一斉に蝙蝠の群れから逃げようと施設内を右往左往していた。
薬に我を失くしていた者たちはむさぼられるのも快楽の内というような夢を見たまま死んでいった。
ツァリエルはその場に動かずじっと座って一部始終を見ていた。
傍にいた中年の男が脂肪も余さず食われていくのを。
同じ年頃の少年少女が悲鳴を上げながらその体が蝙蝠にたかられていくのを。
顔にぴしゃりと生暖かい液体がかかってぼんやりと掌で拭う。
それは誰かの鮮血だった。
ツァリエルにはよくわからなかった。天国だったところは一瞬にして地獄に変わる。
不意に気づいて辺りを見回すともはや生きているのは自分だけらしい。
きらびやかな内装は無残に荒らされ、そうしてツァリエルはショックから意識を手放した。