2015/10/26 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/とある教会の近く」にツァリエルさんが現れました。
ツァリエル > 午前中の教会での仕事、掃除やお祈りなどを済ませ
午後は頼まれたお使いへ出かけるため表通りを歩く。
いつもお世話になっている信者の家へ簡単な説法という名の茶飲みに付き合うのだ。
司教様は後で行くから先に出かけなさいと言われ出てきたはいいものの
約束した時間まではまだある。
比較的のんびりした足取りでてくてくと歩いていく。

すれ違う人は修道女が多いのはさすが宗教都市というか。
ただ最近は少しばかり雰囲気が悪い。
今もまた陽の差さない路地の隅では思わせぶりな修道士と修道女が必要以上にお互いの体を撫でまわして触れあっている。
そういうものを見るたびにツァリエルは瞼を伏せて視線をそらす。
みだりに姦淫するべからずと主は仰せなのにこのありようはどうだと眉をひそめた。

ツァリエル > 少なくともツァリエルが修道士として神の道に入ったころは
まだこんなことも少なかったように思う。
いや、成長して視野が広がったからこのような状況に出くわすようになったのか。
何事にも光が当たる場所とそれとは逆に影になる場所があり
ヤルダバオートの教えに従い日々を粛々と過ごす、慈悲と求道の道が日向なら
男女が教えに背いて姦淫にふけるような堕落した生活をするのが影なのか。

人間の欲求である面は否めないが、それを自制し律するのが修道ではないのだろうか。

それともこのような考えをする自分が、幼いだけなのだろうか。

ツァリエル > 頭を振る。他者がどのようであれ自分は自分だ。
主の教えをいついかなる時も守り、その御心に従って恵まれぬ人々を助け、時に助けられお互いのために日々を守る。
そのことに変わりはないのだから他者を気にしても仕方ないのだ。

たとえ何らかの誘惑があろうと、自分を理性で律するのが人というものだ。
そうありたいと少なくともツァリエルは思っている。

ツァリエル > そうして考えにふけっていると前方も不注意になるものだ。
向こう側から歩いてきた相手と腕がぶつかる。
慌ててごめんなさいと謝ろうとする前に相手の手が自分の腕をつかんで引き寄せた。

『おい、気をつけろよ』

修道士ではない、体格がよく顔つきもやけに険しい男だ。
この街を訪れた傭兵のようで、どうもガラが悪い。

「申し訳ありません、気をつけます」

そう素直に謝罪するがどうやらそれが良くなかったらしい。
舌打ちをした男がツァリエルの胸ぐらをつかんで引き上げる。
細く頼りない体はやすやすと持ち上がり息苦しさにもがく。

『誠意がたりねぇなぁ。
 神様はこういう時もっと心を込めて謝罪しろって教えねぇのか』

そういってツァリエルの顎をつかむとまじまじとその顔を眺めて下卑た笑みを浮かべた。

『おう、よく見たらお貴族様みたいにきれいなお顔じゃねぇの。
 なんだい、坊さん相手に腰振る稚児か。
 なら俺の相手もしてくれよ、それで許してやるからよ』

卑猥な冗談を投げかけて笑う男にツァリエルの顔がかっと赤らんだ。

ツァリエル > 「離してください!」

怒りから渾身の力でもって男の脛を蹴る。
ぎゃっと悲鳴を上げた男が思わずツァリエルを取り落とし、なんとかよろけながら着地した。
男が悶絶している隙に全速力で路地裏へと逃げ込む。
地の利はツァリエルにあるのだ。だてに何年も暮らしていない。
地元の人間しか知らぬような道をあちこち使って走り抜けながら男が追ってこないことを必死に祈る。
恐ろしさで後ろはついに振り向けなかった。


そうしてどれくらい走っただろうか。すっかり目的地から離れた場所でやっと一息つく。
どうやら男の影は見えず無事にまいたらしい。
はぁはぁと呼吸を整え、安堵したがあの下品な冗談を投げつけられたことが許せるわけではなかった。
心にわだかまりを抱え、だが怒りは自身を滅ぼすとの教えの通り胸の内で聖句を唱えて自制する。

時間に遅れてはならない、慎重に件の信者の家へと足を運びながらそれでもツァリエルの心はなかなか晴れなかった。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/とある教会の近く」からツァリエルさんが去りました。