2015/10/23 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にシドさんが現れました。
■シド > 重厚なパイプオルガンの音が肌を震えさせるようだ。皆が皆、ステンドガラスを透かして色づく神像へ信心深く頭を垂れていた。
長い銀髪が古ぼけたテーブルに垂れるに厭わず祈りを捧げる青年は己の名前が呼ばれるのに静かに立ち上がる。
教祖の元へと武骨な手を捧げるに、銀のナイフが突き立てられる。表面を微かに斬った指先より滴る血が……杯に満たされたワインに波紋を広げて落ちていく。
それを教祖が口に含み、その皺だらけの手から受け取った青年もまた口に含む。血と酒精が織り交ざるなんともいえぬ味わいを。
「シドニウス・アルケイオス。これよりも御神の教えに従い、王家の尽力することを誓います。
どうか、我が血を神の一部とさせて下さい。」
――入信者への近いの儀式。教祖にその血を捧げることで神をより近く感じさせるイニシエーション。
常よりもずっと顔を引き締め葡萄色の眸はじっと心臓を崇め今一度膝を突く。然してその口端は吊り上がっている。
やがて儀式が終わると、教会に集まる信徒は解散してゆく。貴族ならずとも平民も異民族も、はては王族すら、ここでは等しく扱われる。
様々な顔ぶれが出ていき、或いは教祖に教えを乞う姿を、肩口に垂れる横髪を後ろへ払いのけながら眺めていた。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にイルミさんが現れました。
■イルミ > 「……はぁー…… 」
口から出てきた吐息は感嘆の溜め息だった。教会というところに来たことは今まで一度もなかったけれど、せっかく「神聖都市」とすら呼ばれる信仰の中心地に来たのだからという貧乏性と、神について多少なりとも知っておきたいという気持ちからここへ足を運んでみたが、その荘厳さには軽い感動すら覚える。……自分のような存在には不似合いな感動ではあるけれど。
「えと……えーと、すみ、すみません……」
何かしらの催し物でも終わったのか、人々は協会から去っていく。その中から声をかけやすそうな人を探してみるが、いざ声を出そうとしても蚊の鳴くような囁き声は足音に掻き消されてしまう。何があったのか聞いてみるのは、あらかた人が去ってからにしようかと思い直すと、外に出る人の邪魔をしないよう通路の脇に身を寄せた。
■シド > 儀式を終えても帰らぬものがいる。神像に祈りを捧げるフリをしながら長い前髪の向こうに透かす人々を見渡す。見知った顔を何人か見つける。
また仰々しい僧服を着た信徒達と入れ替わるように若く美しい少女が、乳色がかった豊かな胸元があわやすっかり覗かぬばかりの薄衣纏いて彼らの許へいく。
寄付金という名の売春宿―― そこに入り浸る貴族の密告が青年の目的だった。そのために信じぬ神にまで入信して。だが……
「どうしたんだ?お祈りかな?」
新たに入りゆく女性の、その雄そそる様相にと食指を動かされて近づこうとするものが現れるのに見過ごすことが出来ず。
誰ぞ話しかける前にと青年が間に割って入りて紫髪の女性をじっと見つめた。
■イルミ > 思った通り教会の中に残る人たちもいくらかはいるらしく、その事実にほっと胸を撫で下ろす。「自分一人教会に残される」という、最も恐れていた事態にはならずに済んだらしい。さて誰に声をかけるべきか、と残った人々の様子を見ようとしていたとき、
「あっ……ぁ、こ、こんにちは。その……こういうところには、あまり来たことがなくて。お話でも、聞ければと」
男性に声を掛けられて少し驚いてしまったが、これはこちらから声を掛ける勇気を振り絞らなくてもよくなった、と前向きに考えることにする。身長の都合上、どうしてもこちらがやや見上げる形になるけれど、じっと視線を合わせるのは憚られて上目遣いになってしまった。
■シド > 「お話ねぇ……この時世に信心深いことだ。」
ましてやこの汚れた教会で……素性を知らないから初見のものとはいえ興味津々とその姿を見つめてしまう。
視線が絡むのが気まずいのか、やがて上目遣いとなるその姿に片目を瞑る戯れもして。
「こういうことは神父様か信心深い教徒に聞けばいいのだろうが……生憎、『今』はいないみたいだ。
私で良ければ答えるよ。入信して1日目のものでよければ、だけれど。」
酷くゆっくりと大きな手を差し伸べる。その手を握るならば居場所がない子のように壁背に身を預ける肢体をそっと引いて、席の一つに着かせてやろうと。
■イルミ > 「えへへ……」
信心深い、という彼の言葉にはへらへら笑って誤魔化す以外どうしようもなかった。自分はむしろ、信心とか信仰とかいうものとは真っ向から対立するような存在なんだから、そんな風に言われるのは気まずいこと気まずいこと。しかし、
「……!……え、えっと、それじゃあ、今日は、何か……その、催しというか、何かあったんですか?」
慌てたように続けた言葉が詰まってしまったのは、彼のウインクのような仕草にドキリとしてしまったからだった。あまり彼と一緒にいるべきではないかもしれない、と思う気持ちと、彼の話を聞いてみたいという気持ちは、ほんの数瞬の躊躇いを経て後者の勝ちとなり、恐る恐る彼の手を取ることにする。彼が今日入信したばかり、という事実はあまり問題ではなかった……というより、今の自分の気持ちはむしろ「教会について」ではなく「彼について」聞いてみたいとすら思っていた。
■シド > 「でも、昼があれば夜がある。太陽が眩く照らすとどす黒い影が出来る。教会に憧れるのは良いが、気を許してはいけないよ。」
さてもその最たるこの教会で売春まがいが行われてるとは口に出来ない。謎かけの如く囁くしか彼女には教えられない。
その繊手を手に取り席に座らせたのなら、その隣にと腰を下ろす。眼前には外から注がれる陽光に色とりどりのステンド硝子が輝きて。
神々しく造られた偶像を飾っていた。
「そうだな。今日は集会みたいなものだ。お説教とお友達紹介。
お説教は古き教えを今の時勢の問題と絡めて長々と話してくれる。ありがたくて欠伸が出る。
お友達…新しい信徒が入るならば今日なんだ。皆の前で教祖様に私の血を飲んで貰って、お友達ですよ。仲良く宗教交流してくださいねって教える。
――おおざっぱに言えばこんな感じ。」
噛み砕いて説明する内に、その眼差しがどうも気になる。初見にしては好意的な――
不意に悪戯心が湧き上がってしまう。
「ところで君はどうしてこの時間に?もし入信するなら誰よりも早くこないとイジメられてしまうぞ?」
そっとその肩に腕を寄せて此方に引き寄せようとする。既に信徒達は皆が皆、個室に入って『集会のオマケの時間』を楽しんでるのだ。
咎めるものなどいないはず――
■イルミ > 「新しいお友達……ですか」
昼と夜とか、太陽と影とかいう話は正直よくわからないが、この一見荘厳で清らかに見える教会にも何か「裏」があるということ……らしい。話の本題は説教や新しい信徒のことの方なのだろうというの話のもちろん分かったけれど、そちらはあまり頭に入ってこなかった。多分、その新しい信徒というのが目の前の彼のことなのだろう、というのはなんとなくわかったけれど。
「……えっ?あ、い、いや私は、少しその……!見てみたかった、だけでして……ええっと……」
肩に彼の手が回ってくると、急に早口になって言い訳のようなことをブツブツ喋り出す。彼のことは気になるけれど、男性は男性、怖い気持ちもある。それに、「夜」とか「影」の話を聞けば、入信なんていう大それたことをしようなんて思えはしない。……しかし、身体は彼を拒絶しようとはしておらず、抱き寄せられるならそのまま彼に寄りかかるような格好になってしまっていた。