2023/05/20 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にブランシュさんが現れました。
ブランシュ > ここは煩い、そして、明る過ぎる。
ひどく喉が渇いているし、暑くてたまらなかったけれど、
両手を後ろ手に縛られ、ボール状の轡を噛まされている今、
それを訴えることも出来ず、そもそも、訴えを聞いてくれるとも思えなかった。

細い首には首輪が填められ、右の足首には頑丈そうな鎖で、重い鉄球が繋がれている。
奴隷市場の中央に設えられた円形広場、赤々と燃え盛る灯火によって照らされた、舞台の上。
同じように拘束された奴隷たち、数人と並べられたそこから逃げたくとも、
縛られた両手は舞台上から突き出た鉄柱を後ろ手に抱いた格好であるから、
逃げるどころか、疲れたからと屈み込むことさえ許されない。
太鼓腹の商人と思しき男が、濁声で奴隷を紹介し、観客たちが口々に囃し立て、
値を吊り上げるために奴隷が見世物に供され、やがて木槌の音と共に買われて、引きずりおろされてゆく。
どうやらそういう流れが、舞台にあげられている皆を待つ運命のようだった。

三人買われて、己の番が来るまで、あと、二人。
未だ己の番ではないのに、時折、舐めるように肌を這う視線が煩わしく、
俯いて目を伏せ、意識をこの場から逃がそうとする。

「助けて、……助けて、――――――――――……」

祈るように呟く言葉は、掠れて、途切れる。
そこで呼ぶべき名前を、音にして発することは無かった。

ブランシュ > 紡ぎたかった名前、瞼の裏に描きたかった顔。

その、どちらも思い出せないまま、己の意識は暗転する。
がなり立てる商人の声も、人々の歓声も、怒号も。
何もかもが、遠く、遠く――――――。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からブランシュさんが去りました。