2021/10/11 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にウェンディさんが現れました。
■ウェンディ > ――――初めてその街を訪れたのは、未だ、幼い王子であった頃のことだ。
父親が傍仕えの女を新たに雇い入れるのだと言い、後学のために、と、
年端もいかない我が子を連れてきたのは、十年近く前のことだったと思う。
あの日買い求めた奴隷女は、すぐに姿を見なくなった。
父親はその後も時折、同じようなことをしていたようだが、
己が父親の供をすることは、二度と無かった。
そんな街へ足を向けたのは、この街で手に入るのが、
人間、奴隷だけではないからだ。
王都の賑わう大通りでは、決して売られていないだろうものが、
ここでなら、密かに手に入るのだという。
だからこそ―――――、
「それにしても、……何処に何があるか、分かり辛い所だな」
肩を寄せ合い、崩れそうなのを紙一重のところで支え合っているような、
商店なのか工房なのか、個人の家なのかも判然としない建物の並ぶ界隈。
けれどギルドで仕入れた情報によれば、この辺りにある筈なのだ。
外法の類を得意とする魔術師が営んでいると噂の、後ろ暗い店。
売り物は薬であるとも、特別な奴隷であるとも――――どちらであっても、
己のほんとうの目的は、もの、ではない。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にルヴィエラさんが現れました。
■ルヴィエラ > (必要な人間が、必要な時に訪れる
千客も万来も不必要であり、目立つ事なぞ考えても居ない
――其れでも、十分に商売として成り立つからだろう
下手をすれば、看板の様な物を掲げている保証すら無い、其の店は
純粋に一人で探し当てるのは恐らく、至難であったろう
――そんな折、探し人の目の前に、人影が一つ、通り過ぎる
こんな喧噪の場では僅かに目立つ、まるで社交場にでも現れたかの様な燕尾服
其れが、ゆっくりと角を曲がり、人気の失せた路地へと進んで行く。
其方にもまた、建物が連なって居るのが知れるだろう
そして、其の奥で。 一軒の建物に、足を踏み入れて行くのも。
今にも崩れて仕舞いそうな外観に、少々重たげな古い扉
店、と判ずるにはあんまりにもなあんまりな様相でしかない、が
もし、そんな些細な出来事を気に留めて、後を追うなら
――良く見れば、扉の取っ手には、小さく紋様が刻まれているのが見て取れるやも知れぬ。
ギルドで唯一の、確かな情報。 ――其れが、店の場所を示す物だと言う、魔術紋様が)。
■ウェンディ > 人種も性別も身分も様々、混沌たる街並みに、
相応しい人物、という雛型は、恐らく無いも同然。
しかし、それでも、――――相応しからぬ人物、というものは、きっと存在する。
己の目から見て、その人物は正しく、相応しからぬ人物、と思われた。
上等な衣を纏った者も、見かけることはあるだろう。
そもそも、金に糸目を付けぬ者たちが集まる街でもある。
だが、―――――礼装で、というのは、いささか。
その姿を目で追ったのも、その後を追って歩き出したのも、
単なる気紛れ、思いつきだ。
けれど、その男の姿を吸い込んで閉ざされた扉の前。
暫し間を措いて歩み寄り、何気なく、視線を這わせた先に。
「―――――― いや、」
まさか、そんな都合の良い偶然が。
ほんの少し、警戒する気持ちが浮上する。
けれども、ここでこうして難しい顔をして、考え込んでいても埒が明かぬ、と、
思い切って右手を伸ばし、その扉に手を掛ける。
やや前屈みに、左手はブーツの脹脛へ向かい、そこに仕込んだ武器の所在を確かめながら。
果たして、扉は、己を受け入れてくれるだろうか。
■ルヴィエラ > (扉は隙間だらけ、だが、中を覗いても暗闇しか広がらぬ
確かめるには結局のところ、扉を開き、足を踏み入れるより外に術はあるまい
鍵は掛かって居らぬし、用心棒の様な輩に制止される事も無い
問題無く、拓かれる扉の其の先、薄暗くぼんやりとした空間を、もし、目に留めたなら
其の瞬間、僅か立ち眩みの様な感覚を覚えるだろう
浮遊感、或いは、地面を失ったような心地、平衡感覚が乱れ、或いは立って居られないかも知れぬ
次の瞬間、気付けば視界には、薄暗い店内の光景が広がって居る筈だ
様々な魔術に関わるのだろう装飾や道具、薬草や薬品が棚へと並び
炎、では恐らく無い仄かな光源が、カンテラの様に灯されて居る
視界の先、正面には、カウンターであろう場所が直ぐに見え
そして、其処に立つ燕尾服の後ろ姿と、フードを、ローブを着た店主らしき者の姿が、其々。
――吸い込まれた、と、多少なりと知識が有れば、想起出来ようか
何せ、外観から見た建物の大きさに比べ、店内の空間は、違和感を覚える程広いのだから。)
「――――――――――――――」
(会話の内容までは、聞き取れまい。
だが、店主と燕尾服とが、比較的親しげな会話をしている雰囲気だけは。
そうして、ふと、後ろを振り向いた燕尾服が、後客の姿を目に留めれば
軽く帽子を取り、会釈めいて、挨拶を向ける事だろう。)
「―――――おや、御機嫌よう。 珍しいお客さんだ。」
■ウェンディ > 左手の指先で、脹脛に添って収められた細身の刃を辿りつつ、
右手で扉のノブに刻まれた、特徴的な紋様をなぞる。
視線は何とか隙間から、屋内を窺おうとしていたが――――その試みは、深過ぎる闇に阻まれた。
力自慢の用心棒が居らずとも、施錠がされておらずとも、
この店が己の期待通りであれば、なんの不思議もない。
優れた術者の根城であれば、そんなものは必要ない筈だ。
もちろん、それは、目に見え、手で触れられる脅威よりも、余程厄介なものだが。
今にも倒れてきそうな古びた扉だったが、軋みもせずにすんなり開いた。
無人では無い筈だけれど、それにしてはひどく暗い――――
そんなことを考えながら、一歩、踏み出した瞬間に。
「っ、―――――― は、………」
足許の地面が、不意に歪んだような感覚。
いや、歪んだのは地面だけではない。
視界が、空気が、どろりと溶けて、崩れて、
その中に、否応なく吸い込まれてしまうような。
その感覚はほんの一瞬だったが、―――――危うく、舌打ちをしてしまうところだった。
術中に嵌まった、罠にかかった、そう、意識するには充分過ぎる。
ここはもう、外界とは遠く隔てられた場所。
肩越しに振り返ってみたけれど、もう、そこにあの扉は無かった。
前を向くしかない、こうなれば、店の主と対決するよりない。
前方に見える二人の人物の、会話を遮る無粋は犯さないまでも。
「――――――どうぞ、わたしのことは気にしないでくれ。
そちらの用事が済むまで、ここで待たせてもらうから」
客人であろう礼装の男が、振り返って、こちらを見遣るなら。
己は異変に気づかぬ愚鈍な者のふりをして、微笑み、軽く肩を竦めてみせる。
あくまでも、用があるのはこの店の主だ。
少なくとも己は、この時点では、そう、信じている。
■ルヴィエラ > (ぼろぼろの外壁や扉では、外の喧騒を完全に遮断できる筈も無い
けれど、今室内を包むのは、静寂。 中に居る者の、会話の音だけ。
会釈が終われば、燕尾服は再び帽子を頭に乗せ、カウンターから数歩退く
傍には椅子があり、其れが来客用であると既に知って居るかのよう
店主の了解も無く、腰掛けては。)
「―――――いや、構わないよ。 私は顔を出しに来た程度の用でね。
こんな所に訪れる位だ、余程君の方が御入用、だろう?」
(順番は譲ると、相手に向けて告げたなら、カウンターへと促す様に片掌を差し伸べて。
ローブ姿が、フードに隠され見えないだろう其の表情ながら
後客たる相手へと、視線を向ける気配を見せたなら。)
『―――――……御用件を。』
(――声は、男にしては、少々高く。
低めの声の女が、意図してより低く話す様な、そんな印象を受けるやも知れぬ。
燕尾服は、棚から一冊の本を勝手に取り出し、のんびりとページを捲って居る
小説や、図鑑の類とは違う。 其れが一種の魔術書である事に――果たして、気付けるだろうか
もし気付けるならば、少なくともこの燕尾服が、魔術師の類であると言う事にも
思考が行き当たるかも知れない、が)。
■ウェンディ > ――――そう、ここは静か過ぎる。
もう、深夜と呼んで差し支えの無い時間であろうけれど、
扉の向こうに居たときは、確かに聞こえた街の喧騒が、欠片も聞こえてこない。
恐らくは、この店の主がそれを許すまで。
ここからまともに出ることは、叶わないのだと理解した。
それも問題ではあるが、それ以前に、この、礼装の男だ。
「いや、……だが、わたしは、――――――…」
出来れば、余人の目の無い場所で、店主と相対してみたかった。
しかし、椅子に腰かけ落ち着いてしまった男を、
店主と思しき者が、そこに在るまま許してしまうのならば。
己に、何が言えるだろう。
僅かに眉根を寄せて、奥歯を軽く噛み締めて、溜め息を噛み殺し、
ならば、と軽く頷いて、男の前を通り過ぎる。
フードを目深に被った、いかにも、といった風体の人物の前に。
カウンタへ軽く右手を預け、その顔を、覗き込むように見据えて、
「……実は、さる御方からの御依頼で、優れた術者を探しているんだ。
ここの主殿ならば、能力は折り紙付きだと聞いてきたのだが」
そんな風に切り出す間も、背中が気になって仕方ない。
礼装の男が何か、書物を手に取ったのは横目に捉えたが、
その書物の内容までは、ここからは窺い知れない。
ただ、落ち着き払ったその態度が、ひどく、神経を刺激していた。
「どうだろう、たとえば王都まで来て、仕事をしてもらうことなどは……?」
軽く探りを入れながら、また、ちらりと横目で客人の男を見遣り。
■ルヴィエラ > (店主――少なくとも傍目にはそう見えるローブ姿が、相席を赦している
この場において、其れは誰にも勝る絶対的な権限を持つと、理解して居る様だ
話が出来る相手である、と、恐らく其の評価は、相対する二人が共に抱いた
嘘偽りないモノであろう。
――静かに、聞き入る用件に対して、ローブ姿は僅かに肩を竦める
決して、本題には触れぬ、遠回しな協力の要請
其れが、燕尾服の存在を気にしての物であるとは、何れも推測出来ようが。)
『私が、この場所で店を開いている理由を?』
(短く問う。 術者としての力量の評価では無く、純粋に。
”王都まで出向いて仕事が出来る"立場だと、そう、思って居るのか、と
其れが許されるならば、王都に店を構える方がよほど効率的だ
王都から離れた地に、此処迄秘匿された店を構えて居るのは
ひとえに、其れが外法の術を扱うが故に他ならない
――ローブ姿が、暫し相手を"視る"。
そして、僅かな間を置いて、擡げた人差し指で、其の顔を示せば。)
『――――――………呪われて居るのだろう、其の身体。
其れも、外法によって。 ――だから、此処に来た。
性別の反転――否、変質の様だが。 ……如何かな?』
(――其の最後の問いは、相手には、自らに向けられた物としか感じられぬだろう。
されど、其の隣で、燕尾服がまるで反応する様に、一度小さく呟いた。 ――80点、と。
ぱたりと、流し読みして居た本を閉じて、二人に向けて顔を上げ。)
「――――……其れは呪詛。 呪術の一種だが、系統が少々特殊の様だ。
さて、どんな経緯で其れを受けたのかは知る由も無いが――
……確かに、真っ当な手段で如何にか出来る物でも無いだろうね。」
(店主に代わって――言葉を放つ燕尾服が、再び、客人へと会釈をした。
椅子からは立ち上がぬ儘で、緩く膝を組んでは。)
「解呪は出来ぬよ。 ――いや、厳密に言えば不可能ではないが。
……解呪しても、恐らくは再び、同じ呪いが繋ぎ直されるだろうね。」