2021/05/02 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にレオリックさんが現れました。
レオリック > その夜、バフートの門衛に立った衛兵たちは、馬の背に巨大な人狼の死体を乗せた来訪者に度肝を抜かれることとなった。
眼の前で交差されるハルバートに、馬の手綱を引いていた男は歩を停める…。

マントのフーどを目深に被ったその男は、見やれば全身にいくつもの傷を負っていた。
人狼の爪は鎧すら時には容易に斬り裂くという。
その爪に晒されて、この程度の傷で済んでいるというのはむしろ、傷が好くな過ぎる…。常人が人狼と闘ったのならば。

誰何の叱責にも似た声に、男はようやくフードを外した。

銀色の髪は、肩に届くかどうか。そして、金色の瞳孔を持つ、瞳。
それは、変異者として恐れられ、時には忌み嫌われもする魔狩人の証。

「…途中の森で出くわした。最も近場の街はここだと聞いた」

誰の依頼を受けたわけでもない。が、人狼の死体だ。爪、牙、毛皮に内蔵。欲しがる者はいるだろう。
況してやここは奴隷都市。
どのような物も、躊躇いなく購う死の商人どもが集う街だ。

馬の背からは、ぼた、ぼた、と重たい音立てて、人狼の濁った血が今も垂れていた。
見れば、街道には転々と血の痕がここまで続いている。

次第に耐えがたい臭気を放ち始めた人狼の死体。
平然と男は、門衛達が己の前に道を開くのを待っている。

気圧されたかのようにハルバートを引いた門衛二人の間を縫って…男は馬の手綱を引くと、バフートの喧騒の中へ、人狼の死体と共に踏み入ってゆく…。

レオリック > 買い手は、労せずして見つかった。
用心棒らしい大柄な男を二人従えた、身なりの良い初老の男だった。商人と名乗りはしたが、何を商うものかは知れたものではない。
並べ立てられる美辞麗句を遮り、男はその商人に短く告げる。

「金貨500枚だ」

路傍での交渉が煩わしい。それは、破格と言ってよい値段の筈だった。男が総身に負った傷と比して、人狼が負った傷は少ない。
目立つものは、二つだけだ。毛皮を剥ぎ取るにしても、無駄にするところは少なく済む。その爪牙も傷んだものはほとんどなかろう。

依頼を受けて倒すのでない限り、報酬を得るには魔獣の死体を売りさばかねばならない。となれば、『売れるように殺す』必要があった。それだけのことだ。

それでも値切ろうと商人がしてみせた瞬間。
男は黙って手綱を引いて歩き始めた。

交渉決裂。
言葉にする手間すら無駄と、男はフードを被り直す…。

レオリック > 商人はすぐにも男に追いすがり、しつこく交渉を続けようとした。が、魔狩人が歯牙にもかけぬと理解をしたのか、ようやく言い値で買うと言い出した。

差し出された袋のずっしりとした重さを確かめ、男は商人が連れていた男達に頷きかける。
『荷』を下ろし、持って行け、と。

この破格の取引でそこまで世話をしてやる道理はない。
フードを被ったまま、魔狩人は男達が人狼の死体を馬から下ろすのを待った。

これだけの金が手に入れば、秘薬の材料を購うこともできるだろう。
そして、少しばかりの休息をとることも許されよう。
…魔狩人に、贋金を掴ませるような愚行を、この商人がしていなければ。

そのような愚か者とぶつかるような縁は御免こうむりたい。そう、魔狩人は秘薬の副作用に疲労の増す身体をひきずりながら、バフートの街の闇に飲まれていったのだった…。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からレオリックさんが去りました。