2020/09/02 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にステファニーさんが現れました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からステファニーさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にステファニーさんが現れました。
■ステファニー > かぽん――――――かぽ、ん。
雨上がりの裏路地に、妙に間延びした靴音が響く。
ゆうらり、ゆうらり――――――まるで水の中を漂うように、
酔漢めいた千鳥足で、あっちへふらふら、こっちへふらふら、
大通りから一本、裏に外れた細い通りでなければ、
激しい雨に降り籠められた後の、静かな夜明けの街でなければ、
とうに何処かの娼館主か、奴隷商人の手に堕ちていても可笑しくない。
――――――何せ此処は、あらゆる悪徳が公然と蔓延る街なのだから。
自らに迫る危険など、まるで無頓着に、無感情な茫洋たる表情で、
ふらふら、ふらふらと、童女は街を歩く。
水溜まりを避ける程度の頭も無く、ぴちゃん、と跳ね上げては木靴を斑に濡らし、
何処かの窓から遠く聞こえる早起きの誰かの声に、ゆるりと視線を向け、
けれど次の瞬間には、其の全てから興味を失くして。
向かう先に何があるか、勿論知りもしない。
奴隷市場――――――流石に、そんな界隈まで出て行ってしまえば、
何の力も持たない、見るからに搾取されるしか能の無さそうな童女など、
あっさりと囚われの身に陥るか、物陰に連れ込まれるか、であろう。
しかし今は、――――――何も知らず、何も悟れず、目的の無い彷徨が続く。
■ステファニー > 「――――――う、ん?」
不意に腕を掴まれて、緩慢なる歩みは中断を強いられる。
よろり、とバランスを崩し、つんのめる一歩手前で辛うじて留まり、
掴まれた場所を見下ろして、其処からなぞり上げるように視線を流す。
そうして、さも不思議そうにぱちぱちと瞬き、小首を傾げながら。
「なんだい、……ファニィに、何か用事があるのかい?」
物陰からにょきりと伸びてきた腕の持ち主は、見るからに荒事慣れした強面の男だった。
鼻筋の歪みが特徴的な、年の頃は恐らく壮年といったところ。
にやり、という擬音が当て嵌まりそうな、口角を不自然に吊り上げた笑みを認め、
童女は更に深く首を傾げることになる。
「何なんだい、………用が無いなら、ファニィはあっちへ行くよ。
此処は少し静か過ぎて、歩いていてもつまらないからね」
特に不機嫌そうにも、まして、怖がっているようにも見えないだろう。
しかし、掴まれた腕を振り解こうとする動きは、のんびりした雰囲気と裏腹、
意外にも鋭く、確固たる意志に満ちていた。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にロブームさんが現れました。
■ロブーム > 「そこまでにしておけ」
その筋肉質な男の後ろから、彼とは全くかけ離れた――丸々と太った男が歩いてくる。
最初に怪訝そうな顔をしていた男は、しかしその次の瞬間には意識を刈られていた。
ロブームの拳が、まるで無造作に叩きつけられ、気絶したのだ。
「ふん……。所詮は只人、鍛えてあってもその程度か。
そこな少女、怪我はないかね」
そう言って、彼女に親しげな声をかける。
■ステファニー > 如何に確固たる意志があっても、童女の膂力ひとつでの解放は難しかったろう。
手を振り解こうと腕を振っただけで、呆気無くバランスを崩しかけていたのだから。
しかし――――――深く絡みついていた男の手が、ふっと解けて離れて行く。
丸く見開いた瞳が捉えたのは、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる男と、
其の背後にいつの間にか近づいてきていた、別の男の姿だった。
一拍、二拍、瞬きを繰り返す間を空けて。
童女は無表情の侭、ふるりと一度、左右に首を振り。
「無い。
ファニィは、こう見えて結構頑丈なんだ」
其れから、また一拍考える間を措き、小さく首を傾がせて。
「……もしかすると此れは、お礼、とやらを言うべき場面だろうか」
お礼の言葉よりも先に、相手に確認してしまうという台無しぶりを露呈する。
■ロブーム > 少女の振る舞いは可愛らしいが、何というのだろうか、妙に空白を感じる。
普通、この年頃の娘であるならば、自分よりも年上の男に捕まった事にもう少し恐怖を持っても良いはず。
「(ふむ……)」
彼女の身体を頭から足先まで見遣る男。
どうやら、ただの少女という訳でもないらしい。
正確には、今やただの少女という訳でもない――が正しいか。
しかしながら、その無垢な心は、男が気に入るに十分なもの。
男が穢すには――十分なもの。
「否、礼などは不要だとも。
ただ――そうだな。もし良ければ、少しばかり一緒に街を歩いてはくれないかね?
朝方の散歩を楽しんでいたのだが、どうにも一人は寂しい」
彼女が承諾すれば、男は人気のない路地に誘導し、そこで彼女を『可愛がる』事だろう。
断ったなら――その時どうするかは、男の気分次第と言った所で。
■ステファニー > 人間の娘ならば、本能的に恐怖し、警戒し、怯え震えているところだろうか。
しかし、非力な童女の形をしていても、ただひとつ、
此の身が壊れ難いことだけは理解している童女に、恐怖、という感情は生まれ難かった。
目の前で、まあまあ巨漢であった男を、一撃のもとに沈めた男が相手であっても、
不意に触れてきたりしない限り、其れは変わらない。
「……そうか、お礼、は言わなくても良いのか。
ふ、む――――――独りは、寂しいのか?」
要らぬと言われれば、有難う、のひと言は綺麗に省かれる。
代わりに何やら傲岸にすら思える態度で、胸の前辺りで両腕を組み、
心持ち、不思議そうな眼差しで相手の男を観察した。
見たところ、立派な成人男性と見えるが――――――人間は、大人も寂しがりなのだろうか、と。
相手が故郷を同じくする存在だと気づくことも無く、
また暫しの間を空けて、童女の頭は縦に振られた。
「良いだろう、ファニィは別に、独りでも寂しくはないけれど。
何となくだが、大人の男が寂しくて泣く姿は、ちょっと、見たくない気がする」
相手の真意に気づかず、向けられる視線の意図にも無頓着に。
かぽん、かぽん、気の抜けるような靴音を道連れに、童女は男と歩き出す。
其の先の顛末は、――――――男と、童女のみが知るところである。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からロブームさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からステファニーさんが去りました。