2020/03/31 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にラディエルさんが現れました。
ラディエル > ――――今宵は如何やら、商人たる男の機嫌が悪いようだ。

先刻から意味も無く、気弱なミレーの小娘が入った檻を蹴りつけたり、
怯え切った新入りの少女を繋いだ檻に睨みをくれたり。

成る程、今宵はあまり商談が巧く行っていないらしいが。

「……商人が、笑顔を忘れちゃ駄目だよな。
 そうでなくても、アレな面してるんだからさ」

顏の造作はともかくとして、此れも立派な商売ならば、
やはり、愛想は重要では無かろうか、なぞと。
余計なお世話を口に出して、商人の神経を逆撫でして睨まれても、
押し込められた檻を蹴られても、何だよ煩ぇな、程度の感想しか無い。

ごろん、と檻の中で寝転がる身の程知らずの売り物を、
商人の方は、今直ぐ切り刻んでやりたそうな顔で見つめていたが。
何処から切り刻まれても再生する身体の持ち主は、痛くも痒くも無いのである。

ラディエル > そもそも、僧衣姿の其の下には、決して癒えぬ傷がある。
目立った特技があるでも無く、生娘のような可愛げなどある筈も無く。
純粋に労働力として買い叩くには非力である、という、如何にもならない奴隷である。

そうした諸々が商人には気に食わないのだろうが、
【色】を見るまでも無く小悪党丸出しの人間相手に、
己がそよとも心を揺るがす事は無い。

大体、仕入れたのは商人の方であろう、とも思う。
どんなしがらみがあったのか、抱き合わせ販売の類なのか、
売り飛ばされる際には珍しく意識を刈り取られていた、己が知る由も無いが。
仕入れてしまった以上、売るのは商人の責任であり、
意思を無視され売り物にされている側の己は、精々、お手並み拝見、と言うほか無かった。

「……いっそ、諦めて放り出してくれりゃ、俺も楽なんだけどね」

呟き落として、溜め息ひとつ。
何しろ非力な身なもので、自力で檻を破る事も出来ないのだ。
此処から引き摺り出してくれたなら、逃げる努力をしても良いのだが。

ラディエル > ―――――其の夜、太々しい奴隷が檻から出される事は無かった。

こうなると根競べか、俺、苦手なんだよな、なぞと呟く声は、
苛立ちも露わに繰り出された商人の全力のひと蹴りに揺らされ、
通りまで届く事は勿論、無かった―――――。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からラディエルさんが去りました。