2020/03/30 のログ
ラディエル > ――――此の街では何でも売り物になる、何でも商われる。

其れは知っていた、もう随分前から。
己だとて、いつ、何でも、の範疇に入っても可笑しくないという事も。
然し―――――

「……ま、物好きだよな、売る方も買う方も」

後者については、もしも居れば、の話だが。

其れなりに繁盛しているらしい、店先には大きさも材質も様々な檻が並び、
中からは時に啜り泣く声が、時に道行く人々を罵倒する声が、
そしてまた別の檻からは、媚びるような甘い声が聞こえている。
そうした中で、僧衣姿の決して小柄では無い体躯を窮屈そうに丸め、
膝を抱えてしおらしく座り込んではいるものの、
明らかに人々を冷ややかに観察している太々しさは、異質、には違い無い。
――――そして、売れ易いとは思えなかった。

売る気も無ければ、売られる気も無い。
そんな己が買い手に媚びる筈も無ければ、行く末に怯え泣きじゃくる筈も無かった。
売れ残れば処分されるかも知れない――――唯の人間如きに、己を滅する事が出来るなら、だが。
其れもまた興味深い、と思う歪み具合を隠しもせずに滲ませて、己は檻の中に居た。

ラディエル > ―――――いつしか、退屈さから来る眠気が意識を凌駕する。
ごろりと檻の中で身体を倒し、図々しく眠りこける男など、
買い手がつく筈も無い。
結果として一晩を檻の中で過ごすとしても、何ら構うものでは無く―――――

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からラディエルさんが去りました。