2019/10/24 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート 奴隷競売所」にアデラさんが現れました。
■アデラ > 「失礼」
と一言。カートを押した少女が通る。
女中の一人だろうか。それにしては些か扇情的に過ぎる衣服であろう。
片手に収まるだろう厚みの胸を強調するかのように括り、それでいて〝衣服〟としての体裁は整えて肝心な部位は隠す黒革の拘束具。
背や腹は殆ど全て露出している。腰から下は──脚の曲線がそのまま浮いている他は、こちらは上半身より慎み深い。
露出した肌に、奴隷につきものの傷跡や所有の印は無い。そういう少女だった。
カートに乗せて運ばれてきたのは、先に用意された茶に合わせた菓子類。
単品で味わうには甘さの強く、喉の渇きも覚えよう焼き菓子だ。
ローテーブルの上に菓子の乗った皿を置いて、少女は両手を軽く打ち鳴らす。
するとまた別の──こちらは真っ当な服装の──女中が現れて、カートだけ何処かへと運んでいった。
「お楽しみいただけておりますかしら? ……なんて」
少女は恭しく頭を下げた。それからソファへ──あなたの隣へ、許可を待たずに腰を下ろそうとするだろう。
「こちらの〝商会〟の旦那様は、音曲の類いがお好きなのよ」
■ジナイア > カウンターで受け取り、カップを運んだのは自分。席を決めたのも自分。
そのままこの広間でひとりきり、放って置かれると思っていた所。
翠で見据える景色の中へと現れた、様々な意味での思わぬ闖入者に数度、瞬いて。
やがて、その闖入者―――煽情的な衣服の少女は手を打ち鳴らし、傍らへと滑り込んでくる。
思わずそのすべてを視線で追ってしまっていてから、しかと話しかけられたと気づいて…女の熟れた唇に苦笑めいたものが浮かぶ。
「――ああ、すまない、ありがとう…
音曲、ね……あれも、一種の…それなのかな?」
『あれ』という言葉と共に、今しもざわざわと厚みを以て分厚い扉震わせる向こうを、赤銅色の手指が指し示す。
そうしてから、少し首を傾げると、女の肩から黒髪が零れ落ちる。
「――…そうだとしたら。
その『旦那様』とやらは、私とはあまり、趣味が合わないみたいだ」
苦笑を艶やかな笑みに変えて見せると、少し肩を竦めて。
『キミは?』と様々な意味で問う視線を、隣の少女に。
■アデラ > 「ええ、音楽というものの定義にもよるけれど……少なくとも合唱ではあるでしょう?
複数人の声を束ねる、音の強弱や抑揚もある。ああ、それから」
道具も使うわね、という冗談の後には口を押さえてクスクスと。
その仕草もソファへの腰掛け方も、卑賤な冗談と不釣り合いの洗練されたもの。
身を手で隠す様子もなければ、言葉のよどみも、表情の曇りも無い。
その少女は間違い無く自分自身の意志で此処にいるのだ──と窺えようか。
「私は、そうね……根本的な所で合わないかしら。
だってここの『旦那様』は男の人だもの」
問われたと悟れば、包み隠さず応じる。〝そちら〟は自分の趣味ではないと。
ならば趣味が合うのはどういう相手か。言葉にする代わり、さらりと零れた女の髪へ手を伸ばす。
「綺麗……エキゾチック、って言うのかしら……?」
指にその髪を乗せて、さらり、さらり。時計の砂を落とすように指から零し、また拾い上げる。
なめらかな手触りに遊びながら、ソファの上、少女は僅かに身を貴女へ寄せる。
……少女の髪もまた、黒髪だ。肩へ届くかどうかの短いものだが。
そこからは、菓子や茶などより余程甘い香りが漂っている。
香水か、それとも焚く方の香か。……扉の隙間から漏れ零れてくるものに近いかも知れない。
人を酔わせて誑かす、そういう店につきものの、情欲を擽る甘い香り。
■ジナイア > 少女の発した言葉の、その意味を捉えようと、数度瞬きをする。
クスクスと笑いが聞こえる頃になって、漸くああ、と少し顎を上げてから、また唇を苦笑めいたものに形作る。
どう考えても、自分よりも、少女のほうが『そちら』の知識が豊富なようだ、と。
同時に、悲愴な雰囲気が感じられない事に、安堵したりもする。
――――つい先まで、その雰囲気を纏っているであろう者がいる、扉の向こうを思っていただけに、猶更。
そうして、安堵している自分自身に苦いものを少し、強くしながら。
また、数度瞬く。
少女の言葉を、その間を借りて理解して。
「―――嗚呼、男性が苦手、なのかな?」
飲み込めていない、そんな雰囲気を隠そうともせずに片方の眉を上げて、己の髪へと手を伸ばす少女を眺める。
気付けば、菓子とは別の、香しい香りを少女が纏っていて―――それを思わず、密かに、探っている自分にまた、苦笑を浮かべる。
「ありがとう。あまり、手を掛けているつもりでもないんだけどね…
魔道に通じる何かを扱う時には、都合がいいから伸ばしている。
―――合わない旦那様の所で働くのは、何でかな?」
苦笑は消さないまま、あけすけに問うてみる。
少女の馴れ馴れしい、というより…素直な感情から出ているであろう動きに、こちらも合わせるように。
■アデラ > 「男性が──苦手、なのかしら……?
ううん、ちょっと違うわね。なんて言ったらいいのか難しいのだけど……。
ほら。犬と猫は同じ家で暮らすことは出来ても、つがいになることはないでしょう?
それと同じ。苦手だとか嫌ってるとか、そういうことはないの。ただ──」
香の種別を言うのなら、さして珍しいものではない。〝この街〟ならば。
嬌声も水音も喧騒と同程度に聞こえるこの街に似合いの、少しばかり理性を解きほぐす香り。
不快なものではないだろう。体に害も与えない。だから探った所で悪いことなど無いのだ。
けれども貴女は苦笑する。それを、背丈の差から産まれる角度で見上げて、
「──偶に、こうして遊んでいるの。
此処の『旦那様』は物わかりが良いわ。私が嫌だと言う相手に迫れとは言わないもの。
それに、長旅で疲れたお客様をねぎらう為の用意は、招待者のたしなみでしょう?」
また少し、距離を詰めようとする。
香の香りを届けるのと、貴女の髪に近づくのと、二つの為に。
近づいただけ声を潜める。そうすれば会話に紛れて消えていた、扉向こうの気配も戻るのだろう。
「お疲れではありませんかしら、お客様。
寝室のご用意ならいつでも致しますよ……?」
クスクスと口元を押さえて笑う仕草はそのまま。回りくどい言葉ではなく、直裁に少女は言った。
〝そういう用途〟の為の女中を置く商家は珍しくもあるまい。この街、この国では。
■ジナイア > 少女の説明に、またああ、とすこし顎を上げて、成程、と零す。
「――言い得て妙だな。
まあ、兎に角キミは『そう』なわけだ」
何度かは嗅いだことがあるような、甘い――角ばった思考を遮る香り。
また、苦笑が零れる。
見上げる少女が紡ぐ言葉を聞きながら、脳裏で『そのこと』を理解する。
そうして、少女が近付けば香りは更に、強くなる。
―――――困るのは、それが不快、というわけではないからで…
ひたすらに、苦笑を零す。
「遊び、ね……まあ、キミは聡い様子だから。危険なことにはならないんだろうな。
……私の場合は、招待されたわけではなく、只の使いだから、労う必要はない」
『それ』が仕事のようなようなものだから、と言葉を継ぎながら、漸く苦笑をうっそりとした笑みに変える。
そうして不図
クスクスと笑う、少女の顎を掬ってみる。
そうして少し上から、その不思議な白銀を、理性の宿ったままの翠で覗き込むようにしながら。
「――あまり、疲れてはいないな。
でも、キミにはすこし、興味はある」
どうしようかな……等と低い声で次いで。
笑みは消えて、本気とも冗談とも取れない。真摯な翠がじっと見つめる。
■アデラ > 「……そうね。『そう』いうこと。おわかり頂けて何よりですわ、お客様。
こればかりは生まれつきのものだから、ええ。抑えようとしても駄目なの。
だって、そうでしょう?」
媚香の如き香りを漂わせながら、少女は──貴女の髪を全て手から落とした。
指先が向かうのは、また別の箇所。
それは例えば貴女の、この国の者とは異なる色合いをした肌の上から。
槍を振るう者の鍛え上げられた手、その腱をなぞるように、つうっ……と指を這わせてみる。
例えばシャツの下に隠されている、戦う為の筋肉。
布越しの接触はくすぐったい程弱く、貴女の上を指が滑る。
そうして暫し戯れていると──顎を掬い上げる手指。
「ぁ……」
首を傾けられ、白い喉を晒す。紅を塗った訳でもないが、紅い唇の間から、声よりも幾分か濡れた息を吐いた。
覗き込まれる瞳に返すのは、既にして〝この先〟を期待し蕩け始めた瞳。
貴女が理性を保っている分だけ、少女が溶けていくようですらある。
「興味がおありなら、是非、暴いてごらんあそばせ。
……使いであろうと外からのお客様。もてなさぬのはこの家の名折れ──と言い訳をしようかしら。
それとも、もっと簡単に。〝女に恥をかかせないで〟なんてヒステリックに泣いてみる……?
どういう趣向がお好みかしら、貴女は。……ええ、どうぞ。暴いてくださいませ、お客様」
■ジナイア > 「……『理解』、という言葉が、陳腐に聞こえるな」
少女の嗜好は『了解』した、と頷きながら言葉を零す。
相手が『そう』だというなら、『そう』なのかと受け入れるのは、果たしてどちらの意味が近しいのか…
甘い香りに巻かれながらも、取り留めない事を考える。
―――考えられる。
少女の手指が、こちらの肌を探って来る。
弱く、伝ってくる感触は、女の赤銅色の肌をすこし、粟立たせる。
熟れた唇に――苦笑ではなく、強い笑みが浮かぶ。
蕩けた、滲むような白銀に浮かぶ、自分の翠を見透かすほどに覗き込んで。
「暴く、ね……
さて、どちらかというと、私の方が暴かれそうな気もするな」
顎を掬った指を解くと、その先でつう、と少女の喉を伝わせて行く。
鎖骨までくれば、そのまま滑らかに肩口の方へ、輪郭をなぞる様に。
「はは。ヒステリックに泣いてみても良いよ。本心ならね……
『もてな』さなくていい。
キミの…そうだな。新しい友人だということにして」
その程度でいい。と言うと輪郭をなぞっていた手を離す。
身体もテーブルへと向き直り、カップへと手を伸ばすと、残った紅茶をことさらにゆっくりと飲み干して。
「―――菓子は、キミの部屋ででも頂こうか」
少女へと向き直った顔にはまた、平然としたもので。
どうすればいい?と首を傾げて見せれば、また黒髪が零れ落ちるのだろう。
■アデラ > 「ん、ぁ……あっ、んっ」
顎から喉へ、肩へ、滑る指。素肌をなぞる、異なる色の肌。
体の底から湧き上がる感覚が、少女の喉を内側から押し上げる。
ぞくぞくと体を震わせ、けれども指から逃れることはなく。
寧ろ指先の愛撫をねだるように、また少し身を寄せて肌を押しつけていたが──
「……ぁん、もう……」
一度、手が離れた。その程度のことで少女は、不満げに唇を尖らせた。
ずっと触れられていないと足りないという、不自由無く育った者らしい贅沢。
貴女が紅茶を飲み終えるまでの間、少女は何を言うでもなかったが、ぴたりと傍に身を寄せていただろう。
そうして、ようやく。
貴女が焦らすように問うのならば、少女はソファを立ち、菓子の皿を手に取る。
「ついていらして、此方へ。空いてる客室を一つ、借りてるの。
そう広くはないけど清潔だし、家具の趣味も良いわ。何より──」
片手に菓子の皿。もう片手を貴女へと差し出して。
「他の部屋から遠いの。……何をしたって、誰にも知られない。素敵な部屋よ」
その手を取って求めるのなら、少女は案内することだろう。
競売所の上階、廊下の端。遠方からの客人を留め置く為の、少女の言葉通り、さして広くもない部屋へと。
■ジナイア > 悶えるような少女の様子に、女は只目を細める。
内心、猫の様だな……と思った言葉は、唇の形で紡がれた、かもしれない。
そうして、此方が紅茶のカップを置き、問いを発するまで律儀に待つ少女が立ち上がるならば
それを見遣る翠はゆっくりとその動きを追い、揶揄にも似た色を浮かべている。
「――そうか。
まあ、キミの『旦那様』にはあまり、音曲は献上したくないものな……」
趣味も違うだろうし、と言葉を継ぐと、熟れた唇でくすりと笑った。
ぞろりと立ち上がる。
少女の手は取らずに、やや後ろの横へと並んで。
「大丈夫だ。ちゃんと着いていくから。
それよりも、皿に気を付けた方が良いと思うな」
割ったらそれなりに『こと』になりそうな皿だ。
目線で指すと、またくすり、と笑って、少女の頭を頂から、首筋へと撫でよう。
―――そうして
分厚い扉の向こうからの熱気と、紅茶と、甘い残り香だけが広間に残る。
ご案内:「奴隷市場都市バフート 奴隷競売所」からジナイアさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート 奴隷競売所」からアデラさんが去りました。