2019/03/27 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にカナンさんが現れました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にネイトさんが現れました。
カナン > 奴隷市場都市バフートには観光都市というもう一つの顔がある。
その目玉の一つ。歴史地区の旧市街に残る古刹の境内。
正規の拝観ルートからは立ち入れない寂れた一角。
ぽつんとたたずむ四阿(あずまや)の床が今はぽっかりと口を開けて。
地下へと続く階段の先、謎めいたくぼみのある石の扉や幾何学模様のパズルのさらに向こう。
即死級のデストラップを五つも六つもくぐり抜けた、迷宮の底。

狭い通路を猛スピードで転がり落ちてくる巨石から逃げ回ったり。

「ああああああああ!」

古い時代の骸骨が山ほど串刺しになっている落とし穴にはまりかけたり。

「あああああああああああああ!!」

感圧式の罠から射出された矢の雨をとっさの魔術障壁で防いだり。

「ああああああああああああああああ!!!」

流れこむ水で満たされていく密室で謎を解いて大脱出したり。

「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!!」

絶体絶命のピンチを超えて。

「…………はぁ………はぁっ……せんぱい、生きてますか……?」

暗殺教団の支部と目される遺跡に、ボロボロのヨレヨレになった二つの人影があった。

ネイト >  
「ぜぇ……ぜぇ………」
「呼吸してるだけの状態を生きてるって言うならそうだな…」

命とは。最早そんな哲学に片足を突っ込みかけている。
生きててよかった? そんな気軽に言っていい言葉か!!

「この先にどんなお宝があるってんだカナン……」
「女になった、ミレーになった、冒険者の紛い事をした」
「もう大抵のことじゃ驚かないぞ」

とぼとぼと買ったばかりの服の裾を絞って。

「いくらなんでも厳重すぎるだろ……僕を何回殺したいんだ」

カナン > 「そこはそれ、秘密の暗殺教団ですし……?」

書令史の官服は今や水を吸って砂にまみれて、露わになった肌にも細かい切傷や打ち身ができていて。
黒髪もべちょべちょのドロドロになって悲惨そのもので、げんなりした顔でため息をつく。

「帝国の領内にも似たような場所はあるのですけど、暗殺教団の構成員はミレー族が多かったそうで」
「『いっぱしのミレーならこんぐらい無敵のフィジカルで突破できるはずですにゃー?』」
「みたいな…こういう………トラップがですね……」
「というか先輩だってわんちゃんのミレーなんですから、もっと華麗にシュバババ!ってできないんですか??」

筆記具の入った鞄も途中で失くしてしまった様で、身ひとつでヨロヨロと立ち上がる。

「おサイフも落としてしまったのでまた無一文になってしまいました……ふふふ」

一番のショックはそれでしたね。ええ。

「まあ、無事にたどり着いたので良しとしましょう」

かろうじて手元に残ったランタンをかざして書庫を探す。

ネイト >  
「秘密の暗殺教団って言っても………秘密主義にも程があるだろ…ぜぇー、ぜぇー」

荒れた肌を見て溜息をつく自分を、
あざ笑うように頬を両手でぺしっと叩いた。
別に肌が荒れたくらいでなんだ。僕は男だぞ。

「ミレー族はそんなことにも使われているのか…」
「ええい、即死トラップをなんとかできる機敏性があったら奴隷商から逃げるだけであんなに苦労してない!」

げんなりした様子で手の甲の擦り傷を舐める。

「今日どうするかも困るだろうそれ……」
「ここが書庫……?」

きょろきょろと見渡す。
また罠があるかも知れないし、こんなところで即死トラップを使ったら本が汚れるので罠はないとも思える。
とりあえず慎重にカナンの後ろをついていく。

カナン > 「ここバフートは、善も悪も秘密のベールに覆われて眠る場所……」
「王国にも帝国にもいろいろな時代がありました。「あってはいけない」モノの定義もそれぞれに」

暗殺教団のシンボルが染め抜かれた飾り布も、今では色あせてカラカラに乾ききっている。
人跡が絶えて幾星霜。うず高く埃が積もった様子には古代遺跡のような趣がある。

「禁書を隠すにはいい場所だったということです」

書庫への入口を見つけて、朽ちた扉の前でふと立ち止まる。

「あの、先輩。私が前衛っておかしくないですか?」
「ここは『危険がないかちょっち見てきますわご主人!!』とかなんとか言ってですね」
「それはもうブンブンと尻尾を振りながら突撃をかますべきシーンでは?」

すすっと先輩を前に出し、両手で背中をぐいっと押していく。

「………それとも、オルブライトの若さまは」
「か弱い乙女の影に隠れてビクビクしているような意気地なしなんですか?」

ドアは蝶番が朽ちいてるのでそのまま外れて倒れそうな感じです。

「ゴー! 先輩ゴー!!」

ネイト >  
「あってはいけないモノねぇ……」
「奴隷の売買が公然と行われてるだけじゃ飽き足りないのか、ここの歴史は」

うっかり埃を舞い上げてしまって何度もくしゃみをする。
へくちっ。へくちっ。

「な、なんだと!? ぼ、僕の勇気を疑っているのか!?」
「い、いいとも……僕が前衛、カナンが後衛だ…」
「こんなのちっとも怖くなんてないんだからな…」

背中を押されるとなけなしの勇気が払底する。

「ちょっと押すなよ!?」

騒いでいるうちに書庫の扉を手で押して開けてしまう。

「あ」

ギィーと不気味な音を立てて開いていく年代物のドア。

カナン > 「ほら。平気だったじゃないですか」

先輩の傍らを通り過ぎて書庫の奥へと進んでいく。

「先輩もくしゃみがかわいい人でした」
「そういうところも似てるんですよね……」

特に管理の厳重な一帯、持ち出せないように鎖でつながれた鍵付きの書物を手に取る。
吐息を吹きかければ埃が吹き散らされて題名が露わになる。

「これは……原書であれば300年ほど前のものでしたか、陛下の書庫にも一冊しかない稀覯書です」

短い詠唱とともに手をかざすと、弾けるような音がしてひとりでに鍵が外れる。
紙葉を壊さないように丁重に開いて、軽く目を通して棚に戻す。

「私が探しているのは陛下の書庫にすら存在しない書物なんですよ」
「もっと古いものを探してみましょうか」

棚の配置から年代と分野の法則性を読み取り、錬金術や薬学に属する書物を紐解いていく。

「……ちなみに、この本一冊で先輩が10人買えます。私が値段をつけるとしたら、ですけれど」
「ところで、この間のアレ。何か思いつきました? そのお姿での仮の名前、みたいな」

ネイト >  
魂が抜けた様子でドアを押したまま硬直していると、カナンが横をすり抜けていった。
ハッと意識が戻ると、慌ててついていく。

「くしゃみを褒められても嬉しくもなんともないけどな……」
「そんなに今の僕に似ているのか、その先輩は」

なんだか随分と希少な本を手にしているらしい。
不思議だな。どこにでもありそうな古本にしか見えない。

「へー……僕は本の扱いに不慣れだから周囲を警戒しとくよ」
「ってそんなに高価なのか!? 古本マニアってそんなにお金持ちで!?」

いろんな意味でズレた感想しか出てこない。

「あー……咄嗟に呼び間違えてもカバーできる、音が近い名前がいいだろ」
「僕が女性でいる必要がある場面ではネリーと呼んでくれ」

カナン > 「むしろ、先輩が先輩に似ていたのかなって思いはじめています」
「ああいえ、先輩というのはネイトちゃん先輩が昔の先輩にっていう意味で」
「お顔立ちとか、男性の時とそんなに変わってない感じですか? それともまったくの別人です?」

顔立ちが似ていれば骨格も似ているということで、自然と声も似通ったりする。
もしかしたら、以前のネイト・オルブライトは先輩の男版みたいな感じだったのかもしれない。

「モノの価値は人それぞれです。然るべき方に示せばそれくらいの値がつくという話で」
「持ち出したいのはやまやまですが……この場所を教えてくれた方との約束もありまして」
「それに、お金儲けがしたくて本を探しているわけでもないので……」

お喋りをしつつ、諸王の時代まで遡る古い書物を片っ端から解錠して中身を記録していく。
理解ではなく記録だ。見たままの姿を記憶領域に写真のように記憶している。

「ネリー。いい名前じゃないですか。昔の彼女かなにかですか?」

ネイト >  
「それって………」
「僕を弄くった魔術師の好みが、カナンの言う先輩に似ているってことか…?」
「言っておくが僕の顔はこんなに女性的じゃあないぞ、全然似てない」

指をくわえて本を戻す姿を見ている。
自分じゃあ扱えないお宝の山。
路銀代わりに一冊……は、彼女の不興を買うだけか…

「速読、得意なのか?」

諦めて背中を向ける。見ていても物欲にかられるだけだ。

「茶化すなよ、今パッと考えただけだ」

カナン > 「なので、先輩を知っている人かなと。思い出せないんですよね? 記憶がロックされているか何かで……」
「その方の身元がわかれば、先輩を探す手がかりにもなりそうなんですけれど」

また一冊読み終え、施錠しなおして棚に戻す。

「本を読むということは……文字を通じて、言葉を通じて、私自身が写しになるということです」
「速読というよりは、ただ記憶しているというか」
「ここには現代でもノーシス主教の名の元に禁じられた書が多くあるので……」
「見聞きしたことは口外しない方がいいですよ」

『プレーローマ法典』の形成期とほぼ同時代まで遡る博物誌を紐解き、ランタンの明かりを近づけて挿絵を眺める。
北方帝国における本草学の失われたピースを補う重要な発見が含まれているかもしれない。

「先輩が今日ここにいたことを誰かに知られれば……たくさんの人に追われることになるでしょう」
「一緒に来てしまった時点で一蓮托生、というわけです」

書物とランタンを置き、むくれる先輩を眺める。ムラムラとして、情欲に火がついてしまいそうで。
我に返った時には、先輩の身体を壁際に押しつけて柔らかい唇を貪っていた。

「………ごめんなさい先輩。あまりに可愛らしくて、つい」

ネイト >  
「そういうことか……よし、魔術師を探す理由が一つ増えたな」
「僕を元の男に戻させるついでに、カナンの先輩のことを聞こう」

読み終える度に元通りにしているカナン。
背後にその姿を感じている。

「はいはい、命の危険命の危険。全く、帰りはもっと楽をしたいもんだな」
「……じゃあなんだ、危険ってのは罠だけじゃなく」
「ここに来たことがバレた時点で何もかも終わり名危険もあるのか……」

ぞっとした。身震いする自分の細い肩をさすっていると。
壁際に押され、姿勢を崩したまま唇を奪われていた。
なされるがままにキスをして。

「ん……ぅ…お、お前な…………」
「可愛らしいとはなんだ、僕は………」

はぁ、と疲れた様子で溜息をついて。

「今は女か」

そう言うとカナンに抱きついて、首筋の傷を舐めた。