2019/03/04 のログ
空木 > 「別に、あなた様のためにしたわけではございません」

 あくまでも己のためである、と女は言った。
 金なら払う助けてくれと懇願するかつての護衛対象だった男。
 その金がボスとやらからせしめたものなのであれば――。

「また機会があれば御贔屓に」

 面倒ごとは嫌いな女にとって、もはや路傍の石以上の価値は見出せなかった。
 にこりともせずに、男が筋骨隆々の二人組に引き渡されるのを待つ。
 聞いていれば、金の音がした。交渉は成立したようだった。
 予想に反して眼前の男は、背後の二人組とは違う勢力あるいは組織な模様で、あるいは用心棒のような職業なのかもしれないと見当をつける。
 男が戻ってきた。
 女は皮袋を受け取ると、チャリチャリと音をさせて重さと枚数を確かめると、それを懐に収めた。

「多少色をつけて頂いたことには感謝をしますが………。
 それで、貴方はわたくしと同じような日雇いでございますか?」

 人が大勢いる中で剣を抜くほど無鉄砲ではない。
 震える手を隠すように腕を組むと、話を振る。
 身にまとう雰囲気からして一般人ではないことは確かだった。確かめるべく言葉をかけた。

カーレル > 「そりゃそうだ」

彼女の言い様に笑って返事を返す
自分の為であれ誰の為であれ、面倒事を回避できたのでそれで良し
誰も怪我すること無く全て丸く収まった

連れ去られていく男に向けた彼女の言葉を聞けば堪えきれず笑い声を零す
恐らくはもう生きて合うことも無いだろう男に中々洒落の聞いた事を言う
彼女に金を渡す際にもクス、と堪えきれず笑い声がわずかに溢れていたかもしれない

「……ん?まあ、そんな所だな
 普段は王都で『何でも屋』をしている…今、アンタの護衛対象を連れてったのは、
 雇い主のトコの若い衆、捕物になると人手がいるかもしれないからってさ」

核心に触れない程度、というか世間話の延長程度にこちらの事情を明かす
自分が『何でも屋』である事を知られるのは全く構わないし、彼らが組織の構成員というのも話した所で、
どうということもない

「…で、姐さんは用心棒家業の人か?いつもこんな事を?」

見慣れぬ衣服に腰に挿した『太刀』と『脇差』
彼女の持つ武器の由来は師の所にいた頃、聞いていたから彼女の生国がこの辺りではないことはわかる
異国で女一人では苦労もあるだろうな、なんて一言も付け加えて

空木 >  二度目があるとすればそれはきっと生まれ変わったときだろう。
 連れ去られていく元依頼人。男二人組。騒動になることを期待していた野次馬らも既にいなくなっていた。
 相変わらずむっつりとした無表情にて、女は男の返答を待っていた。
 男の笑い声が聞こえても、特に何かを言うでもなかった。

「何でも屋………日雇いに少々色をつけたような仕事と聞いてはおりますが、なるほど。
 わたくしは、まあ、そうでございますね、用心棒家業………頼まれれば護衛をする、
 といったところで。普段も大体同じでございますが、今回のように話し合いで解決はまず、ないとだけ」

 女は言うと、腕を解いて腰をとんとんと軽く叩いてみせ、得物を見せびらかす。

「話し合い以外の解決方法のほうが遥かに……くく」

 男の笑いが軽いものならばこちらは不気味極まる喉で詰まった笑いだった。

「そうでもないですがね………おんな、めくら、と聞いて油断する男の多いこと。
 油断していれば自然と付け入る隙はありますので……」

 女は言うと、ひらりと肩をすかした。

カーレル > 異国の佇まいに無表情
眼は口ほどにモノをいう、というがその瞳も閉じられているのだから底知れなさが彼女にはあるように思える
そんな不気味さを持つ女であるが、彼女の黒髪の前では全て吹き飛んでしまう
王国ではあまり見られない髪色だからというのもあるが

「そうさな、言葉通り何でもする
 姐さんのように用心棒に雇われる事もあれば、薪割りに家事の手伝い…
 金さえ貰えば殺し以外は何でもするさ、食っていかにゃならんからな」

彼女が腰に挿した得物に視線を誘導させれば、そちらへ視線が向けられる
続いた言葉を聞けば、ついつい、怖っ、と言葉を漏らしてへらり、と
それを誤魔化すようにか幾分、引きつったような声で笑って

「ふぅん…そういうものかね?
 何にせよ、姐さんみたいのを見かけても後ろから抱きついたりしないよう、心掛けておくさ
 色気出して斬り殺されてもつまらねえし…」

剣呑、剣呑、と繰り返しつつも癖なのか彼女の身体付きへと視線が向かう
外套が翻って見え隠れする彼女の鍛えた身体を見れば、丸く収まって良かった、と再認識する
まあ、それも一瞬のことでちらちら見える肌色にうーん、と唸ったりするのだけど

空木 >  目は開かれることがない。見えぬのだから閉じていても同じだからである。
 視線が移るのを感じる。人、特に意思のあるものの視線は感知が容易い。
 どこを見ているのかはわかっても、表情や顔立ちまでは判断が出来ない。しかしごまかし笑いは聞こえた。

「……薪割り、家事………あぁ、つまり小間使いのようなものでございますか。
 それであればこのような場所ではなく、お屋敷にでもいけばいいのでは?」

 人間性の掃き溜めそのもののような場所にて女は言う。
 少なくとも街に出たほうが家事仕事は見つかるだろうと。

「その姐さんという呼び方は許しがたいので、止めていただいても?
 わたくしは空木、という名前がありますので………。
 別に、色気を出して殺す程手が早いわけではございません。
 まあ、よほどの“へたくそ”なら斬って捨てるかもしれませんがね」

 不吉な物言いをして、それから視線の先がどこかを感じ取ろうと小首をかしげる。
 隠してこそいるが外套の下の肢体は女性的な部分を隠しきれていない。
 ああ、と唸る。
 外套の胸元をちらりと覗かせて、窮屈そうにしている布地をわずかにさらす。

「わたくしに興味がお有りでございますか?」

カーレル > まさか視線の移り変わるまで感知されているとは思わないからマジマジと彼女を見てしまっていた
しかし、彼女の衣服や腰に挿した得物であったりあまりお目にかかれるものではないから仕方がない

「そりゃあね、仕事選べるほど忙しけりゃ良いけどね
 毎日、お屋敷に出ていって仕事ありますぅ?なんて訪ねて仕事貰ったって生活しちゃいけないからな
 たまにゃ肉だって食いたいし、魚だって食いたい…中々、思う通りにゃいかないもんさ」

彼女だって連れて行かれた男が気に入ったから、とかで護衛を請け負ったわけではないはずである
小間使いみたいな事もするけれど、生きていくには口外できないような仕事も請け負わなければならないのが、
『何でも屋』の辛いところでもある

「…んじゃあ、空木と呼ぶわ。俺カーレルな、よろしく
 そうかねえ…どうも、俺には斬りあいたくって仕方ないのを押し殺してるように見えるけどな…」

ぽそり、と呟き続く彼女の言葉を聞けば、うぇ、と声を漏らして
やっぱり、迂闊なことはしないようにするよ、と見えてはいないだろうが参った、と両手をふらりと上げる

こちらの視線に感づかれたようで彼女が胸元を晒せば、一瞬、ひやり、ともしたが、はあ、と嘆息を零す

「…そっちの方はかなり使えると見込んだけど、男心はからきしってタイプか…
 物言いが真っ直ぐなのは手っ取り早くて良いけれどな、空木よぉ…
 もうちょっと情緒を大切にしたほうが良いぜ…簡単に胸元ちらつかせてるんじゃあねえよ」

えい、と何の気なしに彼女の頭にチョップを繰り出す
眼は開かずともそれを感じさせぬ彼女であれば、いとも簡単にかわすことができるだろうけれども

空木 >  強者との殺し合い、斬り合いに法悦を感じる類の人間ではあるが、流石に大衆の面前でやらかすほど狂ってはいない。
 仮にここでやれば場を仕切る私兵やら傭兵が飛んでくるだけである。
 無感情で一瞥であれば感じにくいが、好奇心などの感情を込めた視線ほど分かりやすいものはない。
 男の視線は好奇心が多分に含まれており、集中するまでもなく感じ取ることができた。

「ああ、やはり、気付きますか………そうでございますね、ここが例えば人通りの無い路地裏などであれば……。
 戦場であれば……カーレル様に斬りかかっていたかもしれませぬ。
 ご安心を。ここではやりませんので。ここでは」

 かたかたと震える指先をそっと武器から離して腕を組む。
 溢れんばかりの戦闘意欲をかろうじて押さえ込むことに成功する。
 頭部に伸びる手は、女が両手を挙げて白刃取りしたことで接触に失敗した。手の刃をどけて、ようやく瞼を持ち上げた。
 光を映さない赤い瞳が男のあたりに向けられる。

「はぁ、情緒の類はそのあたりの野犬に食わしたものでして。
 大抵の男は乳房を好みます故、試してみましたが………まあ、これで食いつかれても、お預けにさせますが」

 捕まえた手を開放。
 目をまた閉ざすと、歩き始める。

「戻ります。用件なければこれにて………」

カーレル > 好奇心故に、というのは自分の言い分であって、彼女からすれば迷惑この上ないのだろう
けれども、彼女の瞳は閉じられているからつい、好奇心が勝ってしまう

「ひえぇ…ゾッとする話だわ、それ
 連れてきた若い連中を止めておいて正解だったな…
 ………というか、ここではって、連呼するの止めろよ。後日改めて斬り殺しに行きますって聞こえるからよ」

おちおち、暗い夜道を歩けなくなってしまう、とか苦笑する
繰り返すのは彼女なりの冗談で本当に暗い夜道で見かけたら斬りかかって来るとは思わない
――…しかし、震えている彼女の指先に気がつけば、考えを改めた
しばらく暗い夜道には気をつけよう、と強く心に誓った

彼女の頭を目掛けて振り下ろされたゆるーい手刀は彼女の両手に阻まれる
ホントは見えてるんじゃねえか?と突っ込もうとした矢先、赤い瞳がこちらを見上げる
正確には自分の顔の少し後ろの辺りのような気もするが

「そりゃあ、勿体無い。しかし、情緒を食うとはその野犬とやら大分、空腹だったみたいだな…
 …まあ、俺も嫌いではないよ。話を聞かなけりゃあ俺もニヤニヤしながら空木の胸元を覗き込んでたわ」

彼女の人となりの一端を知ったので迂闊な誘いには乗れない
万が一、自分が下手くそ、と一蹴されてしまえば、それまでである
情緒だなんだは本音だけれども、それを置いておいても彼女に迂闊なことは出来ない
そう思うとわずかに揺れる黒髪がより艶やかに見えるが気のせいか?

「おう、迷惑かけたな…また仕事で行き合ったら………
 ―――そんときは加減してくれ」

想像してひやり、とした
去っていく彼女を見送ると自分も競り会場を後にする…背筋に感じた寒気を酒の一杯でも飲んで取り払おう

ご案内:「奴隷市場都市バフート」から空木さんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からカーレルさんが去りました。