2019/03/03 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」に空木さんが現れました。
■空木 > 抜刀。
宙にきらりと反射光が迸るや、手を伸ばしかけていた中年太りの男の首に刃が食い込む。
研ぎ澄まされた刃は薄皮一枚を切り裂くだけで静止し、使い手の女の意思を反映したかのように動かない。
「お戯れを………そのように手を伸ばされますと、あぁ、つい、つい、わたくしも手が“滑って”しまいます故」
中年の男の首から刀を放して、にこりともせずに鞘に収める。
ここは奴隷市場。せりが行われている場では、せりの結果に納得できずに係員や他人の所有物である奴隷に手を出そうとする不届き者が発生する時がある。
その不届き者にとって不幸だったのは、それが女がいたということだったろうか。
すごすごと退散していく男を見遣り、また柱に寄りかかり目を閉じる作業に戻る。
「はあ」
奴隷市場は悲鳴、歓喜、その他多くの感情で溢れていて、少し離れた地点で用心棒をしているほうが気が楽だった。
■空木 > こんなつまらない仕事のときは酒でも飲んでいるに限る。
悲しいかな、こんな場所であるためか、酒は大抵の場合誰かが握っているもので、“拝借”することもままならぬ。
時折、他人を恫喝する輩があらわれる度に、女のような雇われものが出て行き場を収めるのである。主に、暴力という手段で。
今日の市場はにぎわっていた。いきのいい若いミレー族が大勢やってきたとかで、欲望に渦巻く老若男女が鼻息荒く、せり会場に押し入っていた。
せりの光景を見つつ、怪しいものがいないかを見張るだけの作業。
血肉踊る殺しの仕事と比べたら、なんと容易いことか。貰いはいいが、つまらない。時折会場には強者の香りのするものがやってくるが、まさか人並み掻き分けていくわけにもいくまい。
鐘が鳴る。ボーンボーンと鳴り響くそれは、時を告げるものだ。
女の仕事の時間が終わったことを意味する。
雇い主である人物と目があった。
「時間のようで………」
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にカーレルさんが現れました。
■カーレル > 衣服の上からでも判るほど筋骨逞しい男に囲まれて歩くとまるで自分が貴人になったような気がしないではない
両脇に男を引き連れて競り会場のそばまで来れば、あとはオレ一人で十分、と二人に告げて中へと入る
熱気渦巻く競り会場の中、視線を彷徨わせて目当ての男を見つけ出せばさらに周囲を見回した
騒がしくなれば警備だの、用心棒だのが動き出すだろうからその位置を確認しておきたい
会場内に鋭い視線を向けている者の位置を大まかに確認すれば、鐘がなるのと同時に、人混みの中へ分け入った
「ほい、捕まえた
ダメだよ、ボスの金持ち逃げしちゃあ…死んじゃうよ?」
前に立つ男の襟首を捕まえると男が振り返る
捕まった男の顔色が変わるよりも素早く、捕まえた男を引き倒すと手首を捕まえ捻り上げる
「しーっ…言い訳はボスに
俺に向かって泣き叫んだってどうしようもないから」
口元に人差し指を宛てがい静かに告げれば捻り上げた手を引張り、男を起こして
ざわざわと騒ぎになり始める周辺に向かって、失礼、と頭を下げてみせて
「…大変失礼。どうぞ、引き続き競売をお楽しみあれ」
何食わぬ顔で捕縛した男を入り口で待つ筋骨逞しい男たちに引き渡すため、出口に向かう
金を持ち逃げしたこの男を彼らに引き渡せば自分の仕事は完了である
■空木 > あとは支払いを受けてこの場を立ち去ればよい。
そうなるはずだったが――。
「………ほぉ」
感嘆の吐息。手馴れた様子で己の雇い主を捕縛して連れて行こうとする男が一人いるではないか。
契約は後払い。すなわち、男がどこかに連れて行かれてしまっては、貰うものが貰えない。金に頓着はないが、飯が食えなくなるのは困る。
女は腕を解くと、細い体を人ごみに紛れ込ませていった。ゆらり、ゆらり、柳のように身を滑り込ませては人をかわし、せり会場出口へと先回りをする。
鍛え抜かれた男が二人、出口で待ち受けている。ならばそれよりも早く前方を塞いでしまおうか。
人の波が一瞬、水に生じたあぶくの如く途切れたのを見計らい、先を塞ぐ。
「もし、そのお方。その殿方をどちらにおやりに?」
目は閉ざされたまま。柄に指を巻きつけた女が、金糸の男の前で壁となった。
「その殿方の護衛依頼を受けておりますので、連れて行かれては………」
静かに言うと、じりじりと距離を詰める。いつでも刀を抜けるように、指先に力が入っていた。
■カーレル > お迎えが来ているからキリキリ歩こうか、と男の手首をキュッと捻りながら歩くように促す
人混みを超えて男たちの待つ出口はすぐそこ、という所で人影が立ちはだかる
「…よりによって一番、ヤバそうなやつか…」
はあ、と嘆息した
事前に彼女の姿は遠目に捉えていたがまさかこの男の雇った用心棒とは思ってもいなかった
この男がいくら持ち逃げしたかまでは聞いていなかったが会場内でもとびきりヤバそうなこの人物を
まさか雇い入れていたとは…この男、どうやら用心棒を見る目だけは確かであったようだ
「…この男は組織のボスの金を盗んで逃亡中なのさ
どちらにやるか、までは聞いてはいないけど、あそこのお兄さん二人が今から懲らしめるんじゃあないか?」
突如、現れた彼女に筋骨逞しい男二人もそれなりに『使える』ようでこちらへ駆け寄ろうとしている
それに気がつけば、苦笑を浮かべてふるふる、と首を横に振り視線を投げて男たちを制して
再度、彼女の方へ視線を向ける
「俺も雇われの身でね
こいつを見つけて捕まえるのは確かに俺の仕事だけど斬り合うのは俺の仕事じゃない
ここは1つ、刀を収めて話し合っちゃみないか?お互い妥協点を見いだせると思うが?」
人の多い場所だ
こんな場所でやり合うのも馬鹿らしい。握られた柄に視線を一度落とせば、再び彼女に視線を向ける
どうだろう、と小首を傾げた所で初めて彼女の両眼が閉じられている事に感づいた
■空木 > 用心棒の仕事にプライドを持って当たっているわけではないが、流石に雇い主からの支払い前に連れていかれるのは困る。
阻止せんと通せんぼをした女は、当然背後から接近して来ているであろう男二人組みについても、気がついている。
目が見えぬが故に、音だけは人一番敏感で、足音二人分を喧騒から抜き出すことは容易かった。
「はぁ、“面倒”のかかる相手からお金をくすめていたということでございますね……」
怯えきった雇い主は哀れ金髪の男に押さえ込まれ身動きが取れぬ様子。
女は柄に這わせた手とは逆側の手で己の顎を撫でた。
「こちらとしては、異存はありませぬが………支払いがまだでございます。
支払いさえ済ませていただければ後は煮るなり焼くなり、そこの市場に出すなりなんとでも」
仕事の時間はもう終わっている。
支払いさえ済ませればどうにでもしろと“提案”をする女。
雇い主である男がなにやらぶつぶつと不満を口にしているが、まるで聞こえない振りだった。
「このように人の多い場所での斬り合いもまた乙、一興かもしれませんがね」
言うと、ため息を一つ。
どうやら目の前の男は強者に分類できるよう。柄にかかった指がピクピクと動き、痙攣しかかっていた。
■カーレル > 「理解が早くて助かる」
彼女が大凡、こちらの事情を理解してくれれば、安堵の吐息を零す
こういう場面で話も聞かず斬りかかってくる相手ではないらしい
義理だとか、信義だとか、そういう繋がりでは無いこともなんとなく推察できる
まあ、金を持ち逃げする男に義理堅い部下だったりが付くとも思えぬが
「そう言ってもらえると助かる
それじゃ、あのお兄さん方と相談すっからちょっと待ってな…通してもらうぜ?」
彼女の言葉を聞けば男を連れて彼女の脇を歩いていく
男たちに捕まえた持ち逃げ犯を引き渡しつつ、彼女の事情と要求を男たちに伝える
説明としては彼女が腰に挿してる『太刀』が扱いづらいものでそれを持つ彼女が使い手であるとか、
斬りあいになったら自分を含めて三人揃って死体になるとか、まあ、金で解決できるのであれば、
それに越したことはないというような説得であった
説得も無事終わり、迷惑料も含めて彼女が雇われた際に提示した金額より少し多めの金額を男たちから受け取り、
彼女の方へと振り返って歩み寄っていく
「ほらよ、迷惑料込みだ
……あまり剣呑なことを言わないでくれ。アンタみたいのに凄まれたら震えっちまう」
ほら、と金の入った革袋を彼女の方へと差し出し受け取るのを待つ