2018/10/07 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にチルユキさんが現れました。
チルユキ > 身動ぎ一つ起こさない泥のような眠りに次第に倦み、漸く意識が浮上する。
ぱちりと開いた瞳は朱色で、揺らぐ理性が空腹を思い出させようと頻りに訴えてくるが。
鈍く持ち上げた左手を括る、武骨な錆かかった鉄の輪が淡い仕草を地に結ぶ。

眠っている処を見つかって、まるで目覚めないからこうして無造作に括られているんだろう。
厳重とはとても云えない襤褸な小屋の片隅。

深い眠りを揺さぶられた理由は、小屋が其処を目指すよう集まった中心地からのどよめき。
大きな競りがあったのだろう。熱気や、興奮や、悲嘆が肌をびりびり痺れさせるほどで、振り払いたがるよう頭を振った。

店の人間も其方に押しかけている様で。
繋がれた何かもここには無い。
動くもののの姿を探してのろりと視線を巡らせる。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」にアルクロゥさんが現れました。
アルクロゥ > フード付きのマントを深く纏い、黒い帯をマスク代わりにして顔を半分隠した姿で奴隷市場を訪れる。
とくに隠し立てする必要もない身分だが、不穏な場所で進んで顔を晒すメリットも感じないための出で立ち。
研究で作成した薬の実験台を手っ取り早く欲しい時もあれば、欲望のはけ口として使う女を探しにくることも珍しくない。

清潔とは言えない状態の石造りの床をわずかな足音を立てて歩いてくると、大きなざわめきが上がって一瞬何事かと思い顔を向けるが、歓声の様子から出来事を察するとそちらにはあまり興味なさそうに再び歩き出して面白い出物でもないかと辺りを見回していく。
めぼしい奴隷も客の集まる方へ移動させられたのか空の檻ばかり並んでいるような有様だったが、やがて暗がりの通路の先で自分の銀髪とは対照的な長い黒髪の娘を見つけ、そのまま近づいていき彼女の目の前で立ち止まって見つめ下ろした。

何だか虚ろに辺りを見回すような相手の様子に少し怪訝な表情を浮かべると、片膝をついてしゃがみ、ゆっくり手を伸ばして彼女の顎先をつまみ自分の方を向かせようとする。

「意識がはっきりしていないようだが、薬でも飲まされているのか……分かるか? お前、名前は?」

優しさはないが怒ったりするわけでもなく、落ち着いた口調で尋ねながら彼女の瞳を覗き込む。

チルユキ > 何か、を探そうとする六感は、押し寄せるように上がる狂騒に何度となく遮られて、理性の方が圧し負けそうになる。
その所為か、夜闇に紛れた静謐な足音が、己に向かう事に気付く事も無く。
肩先に、髪に掛かる黒い影を知覚するよりも早く。
指先に取られた頤が男の方に振り向かされる。

月明かりの方がよほど明るい、煩く明滅を繰り返す電灯の影を覆うよう髪先が揺らぐ。
似つかわしくない朱色の双眸が、男を視界いっぱいに映して見開かれる。

「薬は、――――………何も。チルユキ」

癖の強い、千切れたような喋り方を返す。
左手がその頬に触れようと動きかけるが、じゃらりと気難し気な音を立てて未然に塞がれる。

―――売り手でも、奴隷でも無い。明らかな買い手側の、”人間”
感情の抑制された、のか。違うものなのか。己には読めないその眸の奥底を、覗き込もうとするように硝子玉に似た目が見返す、理性と。

もう一つ。

「―――――……は、 ―――……」

そそられる、匂い。顎先を捕まえる指の温み、いのちのにおい。
ぐらりと揺れた理性を抑えるように小さく瞳を歪め。

拘束されていない右手が、男の首筋に触れたそうに伸ばされる。

アルクロゥ > 奴隷にしては仕草に合わせて美しく流れ落ちる黒髪。
自分自身の魔力には乏しいこの男に彼女の正体をすぐ看破できるほどの力はないが、薄暗がりの中で明かりに照らされて病的にも思えるような肌の白さが浮かび上がって見え、どこか非現実的な人間離れした雰囲気は感じられる。
くい、と自分の方へ向かせて見つめると、朱色の瞳を見て興味深そうな笑みを浮かべた。
自分の瞳も赤くはあるが、彼女のはもっと美しく透き通り深く感じられる。

「チルユキ……この辺りでは珍しい名前の響きだな」

素直に答える様子に頷いて言う。
各地からここに連れ込まれる奴隷は多く、この娘も同じ運命を辿ってきた一人なのだろう。
奴隷の中には薬漬けにされたり、もっと悲惨な状態の者も少なくはないが、幸いにも彼女はきちんと受け答え出来るため、最低限の商品価値はあるようだ。

これが他の場所であれば自分も名乗る程度の礼節は持ち合わせているが、奴隷相手に仲良く接するほどお人好しでもない。
代わりに無遠慮な手つきで彼女の頬を摘んだり、その細腕や脚を掴んで体つきを確かめていく。

「おっと、何だ? なにか欲しいのか……」

不意に娘の片手が伸ばされると、その手首を掴んで意地悪く尋ねる。
そして知ってか知らずかゆっくり顔を近づけるとその耳元へ囁きを続けるが、それは彼女にとっても感じた匂いにすぐ届きそうな距離でもある。

「残念だがチルユキ、お前は今は繋がれた奴隷の身だ。何を欲しがろうとも与えられはしない。
……だが、運良く寛大な者に買われれば務めさえ果たせば褒美にささやかな褒美を得られることもあるだろう」

幼子を眠りに誘うような低く静かな口調で囁き、片手で手首をつかみ上げて制したままもう片手で試すように彼女の足首に触れ、そのままふくらはぎ、太ももへとゆっくり這い上がらせて、もう一度彼女の瞳を見つめた。