2018/08/14 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にオデットさんが現れました。
■オデット > 夏の日に照らされて生い茂る草のいのちの速度はなみなみならぬものがある。あっという間に屋敷のまわりを覆い隠さんと伸びる摩訶不思議な蔦や叢草の処理は、つい数年前までは夫に頼んでいたのだが、そんな彼も今や冷たい墓の下。この二度ほどの夏は日差しに肌を焼かせるまま草の手入れをしていたが、女の細腕がカマを振るえる時間はそう長くもなく、であれば自分のそれにかわる偉丈夫の腕が必要だと繰り出した奴隷市。夫の肉を食った女と街の人間が気味悪がって近寄らない。女が一人で歩くには危ういこの都市にも女の噂は決して良くない形で伝わっていた。何に警戒するでもなく、いつもの調子で気ままにヒールの先を鳴らす
「 …ねえ、両腕を一つ買いたいの。 」
女はふと、立ち寄った奴隷商人の小屋の前で商人に声をかけた。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にセイン=ディバンさんが現れました。
■セイン=ディバン > 「……変わらないねぇ。この街は」
久しぶりに来たバフートの街並み。実ににぎやか。と言えば聞こえはいいが。
ハッキリ言って一般人的にはこの街の喧騒はちょっと刺激が強い。
随分長い間仕事で旅に出ていた男は、自宅に帰るための中継地点としてこの街に寄ったのだが。
「……長居する街ではねぇよな。ここは」
男も奴隷を二人『雇って』いるが。この街の雰囲気はどうにも好きになれなかった。
食料、回復薬、その他の雑貨を買ったらとっとと帰ろう。
そう思っていた男の視界に。
「……うぉっ……」
とんでもない美人の姿が現れた。思わず男は息を呑み、立ち止まりその女性を見てしまう。
なんとも艶やかといってもいい。気品すら感じながらも、どこか臭い立つような色香を感じてしまう。
相手の姿を観察すれば、なにやら奴隷商人と話している様子。
なるほど、どこかのお貴族さまか? などと考えつつ。失礼だとは思うものの、目が離せないまま立ち尽くしてしまう男。
■オデット > 庭師を一人だとか、男手が欲しいだとか、そう言った言葉で品物を求める口ぶりとは逸脱した女の言葉は、けれども至って平静、まじめに呟かれた。一瞬目を丸くした商人はしかし、擦り手揉み手でへらりと笑い禿げかかったこうべを垂らした。
「 あ、いいえ、観賞用や食用ではないのよ。 ちゃんと動く両腕がほしいの ―― つまり、 」
何と言いかえれば良いかと思慮を巡らせふと視線を反らした先、肌を刺すかに直線の誰かの視線を感じとった。
通いあう瞬間は至極ったりと。道の途中に突っ立った和装の男がほかの誰でもなくしかと自分を見つめていることに気づくと、知り合いかどうかの記憶を探るよりも前に小首を傾いだ。「わたしのお知り合いかしら?」言葉にしたならそんな物言いの。
「 …… こんにちわ。 」
商人が女の求める物を探しに小屋の奥へと引っ込んだのを目で追うでもなく女は其方を向いた侭。
気品と色香の称賛が正しいかどうかは人の視方によるが兎も角、それを払拭するだけの陰鬱や陰りを纏う女の流し目が目深くかぶったフードの内側から男を撫ぜた。
■セイン=ディバン > いくら男がスカウト、シーフの経験が豊富でも。人ごみの中、距離のある相手の言葉までは聞き取れない。
身体強化の魔術を使ったのなら可能かもしれないが。男には初見の相手の日常会話を盗み聞きする趣味もない。
……仕事に関わらないのであれば、だが。
「……あ」
男がのんびりとしている間に、相手が視線に気づき、男のほうを見た。
くい、と首を傾げる仕草は、逆に見た目に反して可愛らしく思えた。
少女的とも言えるかもしれない。
「……え、っと。こんにちは。はじめまして」
声をかけられたのであれば、男も挨拶を返し。
自分がずいぶんと往来に立っていて、通行の邪魔になっていたことにそこで気が付くと。
男は、気恥ずかしそうにしながら相手へと近づいた。
「その……えっと。奴隷を、お求めで?」
さぁどんな風に会話を切り出して、『アナタを見てはいましたけど怪しいものではございません』と主張しよう。
そん考えつつ、男の口から出たのはそんな言葉であった。
相手にしてみれば奴隷を買おうが何をしようが男には関係ないだろうに。
男は相手の姿に思考能力と心を奪われてしまい、そんな間の抜けたことを尋ねるしかできなかったのだ。
■オデット > 和装のそれが少し珍しく、あまり見かけぬ風に感じてしまうのは、女が普段家に籠りすぎてあまり人を知らぬせいだ。
自分よりいくらか年嵩があるのだろう、人の行き来を縫う形でゆっくりと近づいてくる相手の人好きのするようなてらいを静かに見つめ、その間に傾いだ首を縦に戻した。
ぎこちなく返された挨拶に薄紫の紅を敷いた口角をほんの少し持ち上げて返す。みじかく打つ瞬きと相槌は初めましての挨拶の代り。
「 ええ、だってここは”そういう”ところでしょう? …ふふ、おかしなひと。 」
初対面の男に返すにはやや礼を失した指摘も、笑みを織り交ぜて返せば小生意気な冗句として受け取ってもらえるだろうか。未だ戻ってくる気配のない商人を待つ格好で、俯くと垂れる前髪を丸い耳節に掛けてから、
「 腕を買いにきたのよ。 」
■セイン=ディバン > 近づいて分かった。鮮やかに。そう、鮮烈に感じる赤。その美しい紅の色に、思わず男の心臓がどきり、と跳ねるが。
男は、これ以上相手に警戒されないように(そしてマヌケな姿を晒さないように)、紳士的な笑顔を浮かべた。
「……ハハハ、それは、そうですね。
ただ……アナタの様にお美しい方が奴隷を買うなんて、ちょっと不思議だったもので」
相手の言葉に、苦笑しつつ頭を掻く男。男の言葉の意味。
奴隷とは概ね『労働力』であるというのが常識だが……この街で男が見てきたのは、『男が女を買う』というものが多く。
要するに、『そういう目的』での奴隷売買ばかり見てきたせいで。
「……は、い? 腕?」
続いての相手の言葉に、今度は男が首を大きく傾げた。
腕、とはどういう意味だ? と。
奴隷という単語と、腕という単語がどうしても結びつかず。
■オデット > 落ち着きを備えた真摯然とした様でいながら、少しあどけなさを溶いたような風がある。奴隷市場にはあまり似合わない穏健な空気に、女のかげりがゆっくりと混ざる。
美しい、の賛辞のくすぐったさがほんの少し。しかしそれを否定して頭を垂らすには女の性格は気ままで素直過ぎた。にこ、と笑い。
「 ありがとう。 ―――醜くなければ奴隷を買っちゃダメかしら。 」
これも揶揄だ。男が慌ててかぶりを振る未来を思い描きつつ、あちこちで奴隷を叩き売る商人の声や、売り飛ばされるのに駄々をこねる子供や客同士の喧騒を遠くに聞いた。しかしそこに憐みや関心は無い。奴隷とはそういうものである。
「 腕よ。 こ 、 れ。 」
と、伸ばした青白い手のひらが男の左腕に触れた。触れるというよりは軽くなぞって離すと言った方が正しい。
「 庭先が草でまみれてしまって。 私の腕じゃあ丸一日かかっちゃうから、 刈り手がほしくなったの。 」
腕を買いに来た。それだけで通じないのは当たり前である。腕の形容と用途を語りながら、ふと男を見つめ直した。
「 わたしは腕。 ――あなたはなにを? 」
■セイン=ディバン > 率直に言えば。男は雰囲気に飲まれていた。男とて様々な女性と対峙してきたものだが。
こういった雰囲気の女性は……あまり慣れていないというのが本当の所である。
「い、いやいや。そういう意味じゃあないんですが。
……まいったな」
おそらくは相手の思惑通り。男は必死に言葉を否定するのだが。
もしや、からかわれているか? と気づき。男は頭を掻くだけだ。
「……うわ、っち! ……う、腕って。だから……」
唐突に触れられ、男が後ずさる。
触れた掌の感触。滑らかで、男のキズだらけの手なんかとは大違い。
「……あ、あぁ。そういう……。
なんとも、紛らわしいというか……」
相手の言葉から、その探し物の真意を理解し、男が息を吐く。
腕が欲しい、なんていわれれば色々と想像してしまっていたから。
安堵の息と共に、男の喋りが地に戻ってしまうのは、気が抜けたからに他ならず。
「あぁ、俺はちょっと物資の補給を……。
名乗りが遅れて申し訳ない。俺はセイン。セイン=ディバン。
冒険者をやってる。……って、そうだ。
草刈だったら、オレを雇いませんか?」
相手に尋ねられ、男は身分と名を明かすが。そこで男は閃き。
そう提案してみた。何も冒険者は冒険だけが仕事ではない。
むしろヒマな時は本当に雑用じみた仕事こそ稼ぎの生命線なのだ。
■オデット > 思った通りだ。おもばゆく頭を掻く男の様子が少し可笑しい。触れてすぐの怖じ気づいたような反射もそうだ。初いのそれとは少し異なるが、それに似たものを感じる。くすくすと、空を揺らす鈴鳴りの声で優しく嗤った。
「 あらごめんなさい。 擽ったい? 」
女はおかしみを隠さずにはにかんだ儘だ。触れた節くれたつ異性の肌は硬く、どちらかと言えば岩肌に似た。
紛らわしいの評価を免れぬ物言いに、そうかしらと傾ぐ仕草で返す。無論食用に人肉を甘噛むのも構わない。
丁寧な名乗りに頷き返して向き直り、膝を短く追って辞儀をした。言われてみればここは様々な物が揃うと聞く。奴隷のみを売りさばく市が主とすれども、表の市場には通らぬ品が裏人の手を行き来するのであろう、ふと女は首を傾ぎ。 丁度そこで―――、
『お客さん!申し訳ない。』ふと、女は戻ってきた商人に向き直った。どうやら翌朝に新しい男手が入荷するらしい。―――【唐突で急な用】を思い出したらしい商人がまた慌ただしく小屋の奥へ踵を返したのを見送りつつ、女はややあって男を見上げて。
「 また明日来るわ。 ――――セイン・ディバイン。
私はオデットよ、 (ふと小生意気に苦笑してから)冒険はしてないわ。
―――――あなたも良い物をお求めになって。
もし、 」
草刈を担うとの申し出をかえりみる。そ、と肩口に伸ばした腕はしかし、先ほど静電気にでも触れたように退いた様を思いかえして微笑ましく笑い、再び丁寧に辞儀をして、来た道を振り返る。
「 もし、私の腕になってくださるなら、 ぜひ。
ここへ連絡をちょうだいな。 」
そう、女は袖から小さな羊皮紙を取り出した。羊皮紙、というか、羊皮紙を割いたものだ。其処に女の連絡先が描いてある。
そこからは男の返事がどうであれ女は元来た道を辿り返し、黒の布裾を引きずって奴隷市場を退くのだ。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からオデットさんが去りました。
■セイン=ディバン > 見事に主導権握られたまま、男は相手の振る舞いに注目してしまっている。
というか、目が離せないのだ。
「い、いや。そんなことは」
触れられ、醜態を晒すなど。そう思い、平成を装うものの。
実際驚いたのは確かだし、少し心地よい感触だった、なんて思ってしまっている。
何とか呼吸を落ち着けるものの、丁度そこで、商人が姿を現した。
ふむ、どうやら相手の求めている物が見つかったようだな、と思い。
男は相手の言葉を聞く。
「オデットさん、ね……。あぁ、こりゃど~も。
……、と、っと……」
冒険者としては、セールスも大事。とはいえ、雇う雇わぬは依頼人次第というもので。
こりゃあ、お仕事は空振りかな? なんて考えていたのに。
相手が笑い、紙を渡してきて。
「……は、ぁ。考えておきます。
こちらとしても、仕事しないと食えないんで」
奴隷市場の目抜き通りを歩く美女。その姿と振る舞いに男は考える。
あれ、なんかオレ、声かけたらいけない人に声かけた? なんて。
だけど、不思議とその連絡先に惹きつけられる様な心地よさがある。
お宝を求めるなら危険に飛び込むべし。男は冒険者らしくそう考えるのだが。
なによりも、まずは買い物である、と思い直し。男もまた買い物に戻るのであった。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からセイン=ディバンさんが去りました。