2016/10/12 のログ
■アダン > 奴隷市場に用があり、アダンはバフートを訪れていた。
案件はいつもと変わらぬことである。
自らが罠にかけ、罪人と仕立て上げた冒険者や貴族の娘を奴隷として売り渡しに来たのである。
だが、ここに来た理由はもう一つあった。
それは、最近アダンの耳にも届いてきた占い師、或いは呪い師の話であった。
このご時世、そういう職業のものは多く現れるものだが、そこそこ当たるという評判をアダンは聞いた。
何より興味を引いたのは、その占い師の容貌であった。
「あれか」
奴隷の引き渡し後、アダンは情報屋から情報を買い、件の占い師がいるという路地へとやってきた。
何やら男の先客がいるらしい。男の方はどこか必死な様子ではあったが、アダンには関係がない。
占い師と男がやり取りをし、男がどこか驚いたかのように立ち上がったところで、アダンは彼の後ろまで歩き、肩を叩く。
「失礼、もう終わったということならそろそろ代わってほしいのだがね」
薄く笑いを浮かべながら男にいい、それとともに件の占い師を見る。
「次、よろしいでしょうか」
■ヘレナ > (先客は立ち上がってもなお、何か云いたげではあったが、
別の男が背後から声をかけたことで、ようやく諦めた様子。
―――と、云うには、少しばかり様子がおかしい気もした。
どうやら、先客は新たな来訪者の顔を知っているようだ。
何やら口の中でもごもごと、云い訳ともつかない言葉を並べ立てて、
逃げ出すようにこの場から離れていく先客を呆れ顔で見送ってから、
改めて、新たに現れた客の姿を見上げ)
―――――今日はもう、店仕舞いにしようと思うておったのだが。
(鬱陶しい客を追い払えたのは、目の前の男のおかげ、と云えなくもない。
がしかし、恩義を感じるほどのことでもない、と思っているため、
対応はあからさまに冷やかである。
卓上へ右肘を預け、頬杖をついて視線に角度をつけると、
男の身なりとその表情とを、観察するようにじっくりと眺めて)
……何とも、薄ら寒くなるような笑顔じゃの。
(どうにも、占いを信じるようなタイプには見えない。
虫の好かぬ種類の人間である、と、瞬時に断じた様子で)
■アダン > アダンは先客の男と幾つか言葉を交わした。
アダンは彼を特には知っていなかったが、あちらはこちらを知っていた。
聞かれると不味い相談を行っていたらしく、アダンに幾つか言い訳めいた言葉を述べていく。
呪詛の以来をしようとしていた、などという事実は、アダンのような男に聞かれればいいように罪に仕立て上げられてしまう。
アダンは王都の警備隊の一つを私兵のように率いており、さらには地方監査官として地方に赴くこともある。
そのこともあってか、アダンはあっさりと先客と入れ替わることができ、静かに笑みを湛えつつ、水晶玉の前の椅子に腰掛けた。
アダンの服はかなり質の良い物である。見ただけで上流階級の人間だとわかるだろう。
「ハハ、そうおっしゃらずに。『先生』の噂をお聞きして王都からここまでやってきたのですよ」
『先生』、などと思ってもいない敬称で呼びながら、店じまいだという言葉の後にわざわざそのように言う。
何かしらアダンの人となりを読む力がある者なら、アダンがおよそ善人でないことはわかるはずである。
相手がこちらを観察するように見れば、こちらも同じように相手を観察するように見ていく。
「今の乱れた世では、占いにさえ……いえ、占いに頼りたくなるというものです。
私の家の未来というか、繁栄について占っていただきたいのですが、いかがでしょう」
アダンはあくまで引く様子を見せない。
■ヘレナ > (見る、と応じてもいないのに、勝手に目の前の椅子へ腰掛ける男。
頬杖の体勢を崩さず、怒るというより呆れ果てた面持ちで見つめるが、
目許まで覆うフードのおかげで、表情は半分も見えない筈。
先刻の客が目の前の男によって追い落とされようと、
占いの対象だった娘が、父親の庇護を失い玩ばれ売り飛ばされようと、
己にはいずれも、まるで関係のないことである。
―――ただ)
先生、だなぞと呼べば、妾が舞い上がるとでも思うておるのか。
あいにくと、嫌味にしか聞こえぬわ。
(吐き捨てるように呟いて、また溜め息。
ようやく頬杖を解いて、形ばかり姿勢を正し。
俯き加減に男から視線を外すと、小さな掌を水晶玉へ翳して)
…まぁ良い、少しだけなら見てやるとしよう。
(水晶玉の中に、己だけが見ることの出来る幻影がある。
この男がこれまでの人生で、どれだけの悪行を重ねてきたか。
どす黒い、魔族の己ですら怖気をふるうほどの、魂のいろ。
深く眉根を寄せたのは、ほんの一瞬。
水晶玉をひと撫でしてから、掬い上げるような眼差しを男に向けて)
……足許に、幾つもの落とし穴が見えるの。
…じゃが、案ずるには至らぬじゃろう。
そなたほどの穢れきった魂の持ち主であれば、この程度の陥穽、
逆手にとってますます、強大な権力を握るのじゃろうからの。
(あるいは男を良く知る占い師であれば、見え透いた世辞で塗り固めた、
耳に心地良い言葉を並べ立てたものかも知れぬ。
しかし魔族たる己は、所詮、たかが人間に過ぎない男の身分を慮り、
おべっかで取り繕う必要を感じなかった。
どころか、言葉を切ったその唇を、にぃ、と吊り上げて笑いさえする)
■アダン > 「おっと、これはどうにも手厳しい。お世辞のつもりはないのですがね。
何しろ、よく当たると聞いてやってきたのですから」
フードを被った占い師の言葉は鋭いものだ。
背丈の程からすれば子供としか思えず声もまさに子供のそれだが、その口調はどこか老いた響きがある。
相手の顔も隠れてよくは見えない。だが、声に少女らしさは感じ取ることができた。
吐き捨てるように言われた言葉に対して、肩をすくめて大げさに反応する。
実際、彼女の言うとおり嫌味であった。相手への敬意など一切存在しない。
そもそも、アダンは占いなどに興味はなかった。
「これはありがたい。是非ともお願いしたい」
ため息の後に、占いの承諾の言葉が放たれる。
またもアダンは大げさに頭などを下げて反応して見せるが、明らかに嘲笑するような笑みを浮かべてもいた。
彼女が水晶の中を覗き込み始めたので、アダンは椅子に腰掛けたままそれを見守る。
占いの手法自体はどうでもいい。だが、その結果は重要だ。
それが著しく当たっているのであれば――普通の人間の使う術ではない。
むしろ、そうであることこそをアダンは望んだ。ただそれだけが必要だった。
「……なるほど。実にためになる」
占いの結果を聞いて、薄い笑いを再び浮かべる。
穢れきった魂などと言われても、アダンがそれについて怒りを覚えることはなかった。
そんなことは自身でもよくわかっている。そして、それを悪いと思ったこともない。
重要なのは、方法はわからねど、相手がおそらく自分の悪行の限りを見たということ。
そうでなければこのような言葉は吐けない。
「確かに、『先生』は本物のようだ。『先生』の言うとおり、私は清純な魂など持ち合わせてはおりません。
ですが、感謝しておりますとも。私のこれからさえも保障してくれたのだから。
ああ、しかし。これで確証が持てた。
ご自身の流儀に殉じるのは結構ですが、お世辞というものも使ったほうがよいでしょうな。
『先生』については、怪しげな妖術を使うという噂が流れておりましてね。はたまた、魔族、とさえも」
アダンはぺらぺらと喋り始めた。
相手の占いの腕は本物だ、と述べた後で、妖術師の疑いがある、魔族の疑いがあるなどと述べていく。
「王国の安寧の一端を預かる身としては見逃せませんなあ。
私の魂の色まで見抜けるとあれば、それを悪しきことに使うこともできましょう。
貴女が本当に悪しき妖術師なのか、魔族なのか、調べさせてもらいましょう。
……何、心配はしていません。『先生』は私の未来を保障してくれたのだから」
相手が適当にこちらを世辞など投げてさえいれば、アダンもそのまま去っただろう。
しかし、相手の占いは本物だった。
故にこそ、いくらでも因縁のようなものはつけられる。
アダンは実のところ、相手が魔族かなど今の時点では一切確証などなかった。
そうでもかかわらずに、このような行動に出たのだ。
本当に魔族なら、自身の命の危険さえあるにも関わらず。
ただただ、目の前の存在に欲望をぶつけるためだけに。
「では――来てもらおうか。魔族の疑いあるものは尋問せねばならん」
相手が口角を吊り上げたように、こちらも口角を吊り上げて、ひどく邪悪な笑みを浮かべる。
それと同時に、何人もの衛兵が現れ、アダンと占い師を取り囲み始めた。
これは一種の賭けでもあった。相手にこの状況を覆せる力があるのかどうかの確認である。
■ヘレナ > (良く当たる、というほど目立った働きをしたつもりはないが、
歯に衣着せぬ物云いが、結果として占いの精度をつりあげているのだろう。
あるいは子供にしか見えぬ姿かたちで、妙に老成したことを云うのも、
目立つ要素になってしまったのやも知れぬ。
いずれにせよ、己は己のやり方を貫くのみだ。
そうして、己は自らの足許へ――――気づかぬままに、深い穴を掘った)
……はて。
辻占い師如きの言葉、心に留め置くような男にも思えぬが、
―――――……、
(ち、と微かに、舌を打つ音が薄闇に響く。
成る程、この男はこうして伸し上がってきたのだと、唐突に理解した。
他人を踏み台に、弱い者を片端から犠牲にし、あるいは切り捨て、
そうして自らの名を、地位を高めていったのだ、と。
そして今、踏み台にされようとしているのは、この、己自身だった。
椅子に座した姿勢のまま、水晶玉から離した手が、マントに覆われた胸元を掴む。
そこには父から譲り受けた、後継者の証たる指輪がある。
魔力の一切を封じられている己にとって、唯一、扱えるささやかな力。
即ち、この身を父の居城へ転移させてくれる、それだけのものであったけれど)
……なんとも、物々しいことだ。
妾ひとりに、このような人数を……、
(溜め息交じりに軽口を叩きつつも、金色の瞳は油断なく目の前の男を、
それから、近づいて来る衛兵たちの動向を見極めていた。
指輪の使い方は、至極簡単だ。
掴み出したそれへ唇を触れさせて、父の名を呼ぶだけで良い。
次の瞬間には、この身は金色の光に包まれ、父の居城へ転移できる筈。
―――――指輪を掴み持ち上げる手の動きを誰かに気づかれ、
阻まれてしまったなら、その時は万事休す、となるのだが、果たして)
■アダン > 「いやいや、『先生』のお言葉は何よりも信じておりますとも。
確かに私は占いなどは興味がない。もしそれで運命が左右されるというのであればなおさらだ。
だが、『先生』はこれからも私の勝利の未来を視てくださった。
魔族の疑いありとして捕らえなければならないのが心苦しい」
相手の業績を過剰に称えて心にもないことを何の躊躇もなくアダンは述べていく。
その言葉は明らかに相手を小馬鹿にしたものだった。
一部の噂―ーもっとも、確証などない本当に噂に過ぎないようなもの――を拡大解釈し、
自分の都合の言いように捉え、一応の面目を立てておく。
実際このような真似をする意味はないのだが、要は相手を愚弄したい、ということである。
相手が真に魔族であるのなら、それを欲望のはけ口にしたいなどとは普通思わない。
しかし、アダンは自らの恐怖心を魔術的な方法で殺していた。
そのような狂気と危険さえ自らに与えながら、目の前の存在への欲情は尽きることがない。
一度、魔王と呼ばれる存在を陵辱したことがあった。それからというもの、そういう人間以上の存在への興味が増し続けていた。
アダンの冥い光を秘めた瞳が彼女を見る。
「一部の噂によれば妖術を使い、呪詛を行う者であるとも聞いているのでな。
さらに魔族であるという噂も本当ならば、これぐらいは当然ではないかね。
私はただの人間なのだから」
アダンは薄い笑みを浮かべているのみであった。
衛兵たちは槍や剣を持ち、その切っ先を彼女に向けながらじりじりと迫る。
中には魔術師もいる。ひどく大げさなものである。
だが、それだけにアダンの冥い欲望の深さを物語る。
「……おっと、危ない」
一瞬のことだった。
占い師が胸元から何かを掴みだそうとする動きを、アダンたちは見逃さなかった。彼女の挙動一つが自身たちに危険を及ぼすかもしれないのだ。
彼女の顔のギリギリまで槍の切っ先が伸び、それとともにアダンが相手の手の動きを阻止せんと手を伸ばす。
他に彼女に手段がなければ、彼女の腕を掴むこととなるだろう。
■ヘレナ > (白々しい、何もかもが白々しかった。
この男にとって、己が真実、占い師だろうが呪い師だろうが、
そこには大して意味がない筈だ。
この男が信じているものはきっと、まるで別のところにある。
あるいは己が魔族であっても、人間であっても構わないのか―――
―――――否。
確信を抱くには、到底至らぬけれども。
この男は何故だか、魔族、という存在には、ある種の拘りがあるように見えた。
ならばなおのこと、ここで、この男に、捕まるわけにはいかない)
ただの人間、……ただの、とは、随分と、
(ただの人間、なぞであるものか。
喉奥に潜む笑いが引き攣れたのは、己の意識がマントの中から掴み寄せた、
指輪の冷たい感触に向かっていた所為だ。
人間たちの構える剣も槍も、己にはさして脅威ではない。
囲まれようと直ぐに逃げ出せる、という、一種の油断もあった)
……っ、―――――!!
(己の唇が指輪の黄金色を捉え、父の名を紡ぐより、一拍早く。
眼前に突きつけられた鋭い切っ先、細い腕を掴みあげる男の強靭な力。
目深に被ったフードの奥で、僅か、苦痛に顔が歪む。
そして、痛みに耐え切れず解けた手指の間から、
首にかけた細い革紐の長さの分だけ、胸元へ垂れ下がる黄金色。
男が、または男の連れている魔術師の誰かが、その方面の知識に明るければ、
その指輪に刻まれた紋章がとある魔王のものであると、気づかれてしまうかも知れない)
■アダン > 「『先生』の占いによれば、私は小さな落とし穴があったとしても乗り越えることができるらしい。
さて、これもそういうことなのだろうかね」
アダンには魔術の素養などはほとんどない。
魔力もなければ、魔術的な知識も乏しい。
アダンが使うのは発掘される古代の魔導機械のみである。
故に、彼女が何をしようとしていたのかはわからない。
だが、彼女の手から零れ落ちたものを逃すことはなく。
「ほう、これは――」
自身が握りしめた彼女の腕から落ちたのは、革紐に結ばれた黄金色の指輪である。
アダンが魔術的な知識に乏しいといっても、普通のものでないことは理解できた。
何より興味を惹かれたのは、その指輪に刻まれている紋章である。
いつの時代からであったか、この国は魔族との戦いを続けている。
アダンも職務として、個人的な興味もあって、魔族の王たちについては多少調べていた。
彼女の持っていた指輪に刻まれたそれは、ある魔王のものだった。
「ふむ、これは例の魔王のものか?」
『はっ……おそらくは間違いないかと。魔王の紋章の一つです』
アダンはその指輪を手の中で弄びつつ、対魔族の術を学んだ魔術師の一人に確認のために見せる。
彼もまた、アダンの考えに同意した。
この指輪が重要なものであるらしい。
「ハハ、ハハハ……まさか本当だったとはな。適当も言ってみるものだ。
これは魔王の印章だな。ならば、お前が魔族にまつわるものであることは確定した。
私達が生きているところを見ると、この指輪が重要なようだな……いいだろう、尋問だ。
魔族、あるいはその関係者ならば遠慮することもない。公開の尋問でもいいが……。
よし、私の別宅に連行する。そこで徹底的に話を聞かせてもらうとするか」
アダンは実に愉しそうに大笑した。
まさに、本当に魔族、否、魔王の関係者であるらしいというのだ。
アダンの欲望は更にその度合いを高めてしまった。
アダンは国への忠誠心などない。魔族が国に侵攻しようが、自身に影響がなければそれでよいとさえ考えている。
尋問などというのも、要はそういうことである。
アダンに命じられ、衛兵の数人が彼女を囲み、腕を拘束し、鉄鎖で縛り上げていく。
「何、後で返してやる。それで私が死んでも、それはそれで面白いものだ」
指輪の結ばれた革紐を槍の先で衛兵の一人が切り、それをアダンが受け取る。
アダンたちは彼女を引き連れながら、アダンの別宅へと歩み始めた。
■ヘレナ > (零れ落ちた黄金色は、己にとっては唯一の拠り所。
それが無ければ己はただ、見かけ通りの子供の力しか持たず、
抵抗も遁走も覚束ない、脆弱な存在に成り果てる。
男が己のそうした実情について、すべてを一瞬で知り得たとは思わないが。
揺れる指輪の紋章の意味を、この男が正しく読み解いたこと、
それが男の疑惑を確信に変え、己の立場を決定づけたことは明らかだった。
男に命じられた衛兵たちが、瞬く間に己の腕を掴み、捻りあげ、
後ろ手に拘束して、頑丈な鎖で自由を奪いにかかる。
己の手を離れ、ただの硝子玉にも等しいガラクタと化した水晶玉が、
がたがたと押し退けられたテーブルから転げ落ち、粉々に砕け散った)
―――そなた、
……後悔、するぞ。
妾に、このような…このような、辱めを与えた、こと。
その、穢れた手で、妾の持ちものに触れたこと…、
(きっと、後悔させてくれる。
そう、呪わしげな声音で告げる己は、もはや自らが人ではない、と、
公言してしまったに等しい。
つまり、尋問の必要なぞない、ようなものではあるが、
男の目的が魔族の尋問、取り調べではないとするならば、
この拘束にも、続く拘引にも、意味はあるのだろう。
引き立てられ、何処ぞへ連れ去られていく道すがら、
己の頭を支配するのは恐怖ではなく、純粋な怒りである。
もとより、幾ら魔力の全てを封じられていようと、この身は決して、
見た目通りのか細い、弱々しいモノではない。
あるいはそのことが一層、この先に待つ筈の「尋問」を
苦行に変えてしまうのかも知れなかったが―――すべては未だ、闇の中に。)
■アダン > 相手の力の全容などアダンは知りようがなかった。
高位の魔術師などであれば違ったかもしれないが、アダン当人はそう言った素質はない。
まだ隠している何かがあるかもしれない、という不安は残っている。
だが、アダンはその不安や恐怖では止まらない。
それで自身の命の危機が迫ったとしても、それはそれで良い、などとさえ思っていた。
もし使えるならば今この場で使っているはずであった。
ならば、今はまだその使える条件は満ちてはいない……という推理も一応は行っていた。
しかし、そんなものより今は魔族や魔王の関係者であろうものを手にした喜びに満ち満ちていた。
彼女は本当に子供のように掴み上げられ、拘束されていく。
その姿をアダンは愉しそうに見つめていた。
そこにはある種の狂気の片鱗が垣間見えるだろう。
「……ああ、後悔させてみてくれ。
私を憎み、怒りを、殺意を向けてくれ。
そういう感情を持った者を、私の手で辱めるのが何よりの喜びだ。
人でないのならば、より徹底的にな」
相手の言葉は自身が人ではないことを自白するようなものであった。
それを受けて、アダンもこれから行うことが尋問ではないということを吐露する。
彼女の顎を掴んで嗤いながら、アダンは踵を返す。
――こうして、「尋問」のために、アダンたちは彼の別宅へと向かったのだった。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からアダンさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からヘレナさんが去りました。