2016/09/04 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にジョセフィーヌさんが現れました。
ジョセフィーヌ > 盛大に顔をしかめて渋る侍女を説き伏せ、連れてきてもらったバフートの街。

―――連れてきてくれた当の侍女とはいつの間にか逸れてしまったが、
時刻は未だ昼前、お日さまもさんさんと降り注いでいる。
危機感を覚えるような事態では無い、と気楽に決めつけて漫ろ歩くうち、
見つけてしまったのがこの広場だった。

中央に設えられた舞台の上で、ひとりの娘が奇妙な椅子に四肢を拘束され、
うねうねと動く肉色の何かに絡みつかれ、泣き叫びながら身をくねらせている。
傍らに佇む男は売り主なのか、それともこの場の司会役なのか。
彼女の年やら、胸のサイズやら、これまでの調教成果やら、
さまざまな情報を提示して、彼女の『値段』を公表する。

色めき立つ群衆の外側、はしたない、とは思いながら、ついつい
立ち止まってそちらを凝視してしまう己の姿は―――たぶん、
どうしたって買い手には見えないだろう。

「すご、い……あんなにいっぱい、入っちゃう、なんて……」

自ら呟いた言葉の生々しさにすら、頬が紅くなってしまうほどなのだから。
両手で己の頬を押さえて、なお、視線ばかりは舞台に釘付けであったが。

ジョセフィーヌ > ―――気がつけば、空は夕暮れ。

人間が、あるいは少なくともひとの姿をしたものが、
公然と売り買いされている現場を目の当たりにして、
少女らしからぬ高揚感にしばし、捕らわれていたものの。

あたりが暗くなりそうな時間帯だと思えば、募るのは恐怖。
逸れてしまった侍女の姿を探して、心細げに視線を彷徨わせることに―――。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からジョセフィーヌさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にファルケさんが現れました。
ファルケ > 壇上で、数々の奴隷が引っ張り出されては競り落とされてゆく。
新たな玩具を求めていきり立つ買い手たちの中に、魔術師ファルケの姿があった。

気に入りのチェシャ=ベルベットに代わって連れてきているのは、
チェシャに比べて随分と華に欠けた、それでいて美しい人間の少年だった。
彼を果たしてどこで拾ってきたのだったか、ファルケはとうに忘れてしまった。
だが人が次々と売られてゆく光景に表情を硬くしている辺り、あまりよい思い出はないのだろう。

椅子に腰掛けたファルケは、壇上を見ているのかいないのか、正面を向いたままじっと黙りこくっている。
隣に座った従者の少年は、代わる代わる姿を現す奴隷とファルケとへ交互に目配せしている。

ファルケはじっと黙ったままだ。

ファルケ > 競りも終わりを迎えようとしている頃、ファルケの杖の石突きが、従者の靴をこんと叩いた。
“買え”の合図だ。

従者はファルケの判断にぐっと息を呑んだ。
何しろ壇上に現れたのは、痩せこけてがりがりの、どう見ても「仕込み」さえ十分でない、
それに加えて手足に皮膚病の跡さえ薄らと見えているような、どう見ても不細工な少年だ。

判りきったことのように、値の上がり方は芳しくない。
漸う買い叩かれる直前になって、従者が真っ直ぐに手を上げた。

声を上げる。

従者が発した値段に、競売場がどよめく。
どう見ても、“商品”には不釣り合いな高額だ。

周囲の人間が好悪綯い交ぜの視線を向ける中、
ファルケはこの従者を声の好さで選んだことをふと思い出していた。
ああ、そういえばそうだったか。

ファルケ > 取り引きが行われる間も、帽子を目深に被ったファルケは無表情だった。

奴隷にさえなれない屑に、救いの手を伸べる慈善家か。
それとも単なる露悪趣味か。

新たに買った奴隷と、その首に掛けられた鎖を引く従者を先導して、
ステッキを突いたファルケが市場の中を歩いてゆく。

分不相応な値を付ける、奴隷の買い方を知らぬ成金。
そんな風に刺すような、はたまた縋るような視線を意に介することもない。
今日はもはや“他”を買い求めるつもりはないらしく、ファルケの目は真っ直ぐに出口を向いたままだ。

この男ならよい金づるになると踏んだのか、声を掛けてくる商人の声はねっとりと甘い。
ファルケが辞する代わり、従者が商人を睨み付けて黙らせる。

まるで市場で出来の悪い芋の山でも見渡すみたいに、ファルケの目が気まぐれに街並みを見渡した。

ファルケ > やがて街はずれに止めていた馬車へ、三人で乗り込む。
御者も主人が買った奴隷のなりには驚いたらしく、丸々と目を見開いた。
奴隷の穢れが馬車に触れて、主人を患わせることがあっては堪らない。
少なくとも、たかが皮膚病ごときに罹るようなファルケではないのだが。

戦々恐々とする御者を見たファルケが、御者を見上げてふっと笑う。

ファルケと目が合った御者は、さながら世界が破滅する瞬間のように竦み上がったが、
しかし彼に終わりは来なかった。今日は主人の機嫌が良いらしい。

「骨格と、目玉の色が好かったのさ」

それだけ言って、ファルケが馬車へ乗り込んだ。

御者は人知れず嗚呼、と憐れみを含んだ顔で天を仰ぐと、そのまま馬を走らせ始める。
服のみならず、肉まで着せ替えられてしまうのだ。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からファルケさんが去りました。