2023/07/22 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にエルビー・カルネテルさんが現れました。
■エルビー・カルネテル > 余はエルビー・カルネテル。
王都にある学院の生徒である。
本日、余は自然地帯の森の中を散策している。
手には大きな虫取り網。
何しに来てるのか?
勿論、昆虫採集である。
今、一部の学院の生徒の間で昆虫を戦わせる遊びが流行っているのだ。
戦いと言っても円の中から出たほうが負けという遊びだ。
余も参加したくなり、こうして王都の外に来たわけである。
「目指すはマグメール・オオカブトだな!」
余は興奮気味に森の中を歩き回る。
■エルビー・カルネテル > 「うぉぉ!?」
余の目の前を蝉が通りすぎた。
網を持ったまま、叫んで固まる。
実の所、余は虫の類が基本的には苦手だったりする。
見た目もなんだか恐怖をそそられる。
特に蜂の類は最高に恐ろしい。
外見もそうだが、毒針で刺してくるとか恐ろしすぎる。
「うっかり蜂の巣を刺激しない様に気を付けないとな。」
さっきも言ったが、今日の目標はマグメール・オオカブトである。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にマハシャさんが現れました。
■マハシャ > セミの鳴き声が響く森にじじ、と別の雑音が混ざった。
今を盛りと歌う声とは異質な低音で無機質なその音は次第に唸るようなものとなり、周囲の虫もその音に不安を覚えたかのように一つ二つとその声を途切れさせていく。
「よぃしょ……と」
そんな空間に暢気ともいえる声が一つ。同時に空中から白く細い指先がにょっきりと飛び出していた。その指先は空中をさわさわと触るとそこに障害物がないことを確認したのか腕、肩と姿を現していき
「はい、うまくいきましたね。
少々精度が悪い点は問題ですが……イシノナカニイル、とはならないようで大変結構です。さてさて」
森の中では少々軽装ともいえる衣装に身を包んだ女は全身を木々の間から降る木漏れ日に晒すと小さく伸びをした。吹き抜ける生ぬるい風がこの季節を象徴するようにじっとりと肌を舐めていくもあまり気にした様子はない様子。
「ついでに少し息抜きで散歩と参りましょうか。
キャビンフィーバーでは進むものも進みませんものね」
どうやら本人も実験がてら外出する予定であったようで、何処かのんびりとした空気を漂わせた女研究者は森に積もる枯葉を踏みしめながらゆっくりと歩きだした。
■エルビー・カルネテル > 「…ん?」
すっかり学生暮らしを満喫しているので時々忘れそうになるが、余の本来の素性は魔王。
なので魔力に優れており、他の者の使う魔法にも時々敏感になってしまう時がある。
つまる所、突然の魔力にも余の身体はきっちり反応してしまうのだ。
「なんだなんだ? 多分誰か出てきたぞ。」
まだ姿は見えないが、恐らくそう遠くない場所に何者かが現れた。
本来なら警戒すべきかもしれない場面だが、今の余が出した結論は…。
「昆虫採集のライバルかも知れんな。
マグメールオオカブトは余のモノだぞ!」
余は姿も見えない誰かに負けじと自らを叱咤する。
…そもそも相手の目的が何かも知らないのだが、この時の余は
マグメールオオカブトのことしか頭にない。
「どこだ~。 マグメールオオカブト…。」
樹液を出しそうな大きな樹を探し回る。
■マハシャ > 「んん~……やはり気分転換は自然な場所に限ります。
適度な負荷に新鮮な空気。ヒトや獣の脂臭さが鼻につく場所とは大違いですね。
適度な息抜きに健全な研究。まさに我が世の春。夏ですけれど」
喧騒を取り戻した森の中を軽快な足取りで鼻歌をも交えながらそれは歩く。木々の間を吹き抜ける風が髪を靡かせ、さくさくと足元からなる軽快な音はまるで舞踏会のように気分を高揚させる。
「……おや、冒険者でしょうか。
遠路はるばるご苦労様ですね。こんな場所に」
そんなご機嫌な女研究者の耳に風に乗って少し高い、張りのある声が届き、僅かに歩を緩めながら独り呟いた。此処はそれほど王都から離れている訳ではないが魔物がいない安全な場所でもない。来るとすれば採集の冒険者か傭兵かそれに類する者か。別段他人の安全に興味はないけれど、たんに興味と好奇心からその声の主はどのような人物か確かめてみようと思った女はくるりと向きを変え、その声の方向へと歩き始めた。
「……危険なら正当防衛という事で捕獲しても構いませんよね?
くふ、ええ、正当防衛ですもの。仕方がないことですわ」
朗らかな人好きのする笑みを浮かべ、それとは全く異なる剣呑な言葉を零しながら。
■エルビー・カルネテル > 「どこだ~。」
後で知ったことだが、カブトムシの類を捕まえたい時は事前に蜜の類を樹に塗っておくらしい。
この時はそんなこと微塵も知らず、ただ闇雲に虫取り網を手に森の中を歩き回っていた。
焦っている余の耳に人の声が聞こえてくる。
何を言っているのかまではわからないが、声の感じから多分女性。なんとなく年上。
多分だけどオオカブトを狙っている。
と思っていると所でいよいよ声の主が余の視界に入る。
背丈は余と同じくらい。
見た感じは年上の女性。
なんだか笑顔を浮かべているが、雰囲気がちょっとやばそう。
余は元々荒っぽい連中を打ち負かしたので、その辺は鋭いのだ。
「誰だ? 虫取りに来たのか?」
余は白いコートを纏った女性へ警戒気味に声をかける。
昆虫採集で頭がいっぱいの今の余には、皆が虫取りに来てるようにしか見えなかった。
■マハシャ > 「おや、思いがけない顔ですこと。
こんにちは少年。風の心地よい良い日ですね。」
草木をかき分けがさがさと音のする方向へと向かうと見えてきたのは森に似つかわしくないスーツを着た少年と思しき人物。手に持っている虫取り網が若干わんぱく感を演出しているけれど、中性的で端正な顔立ちをもっと別の場所で見れば見違えたかもしれない。
「ええと……虫、ですか?」
元気よく誰何する声に思わず首を傾げつつ僅かに戸惑ったように返す。見た目通りではない存在も多いためそれほど心配が必要ではないとは判っているものの、虫取りにわざわざこの辺りまで来るというのは見た目の割に少し元気過ぎません?というのが正直な所。
「私は目的もなく歩いているだけですが……
ええと、虫取りというと?」
つい疑問符が浮かんでしまうのはこの辺りで、虫取り網で捕まえられそうなものはこの辺りに来なくても?という感想から。もしかすると冒険者同士の符丁なのかもしれないが生憎その辺りはあまり詳しくないのでその真意がつかめず……
「すみません、私世間知らずなものでその言葉がどういった意味を持つのか少々わかりかねるのですが……」
まさか本当に虫取りに来ている訳ではないでしょうにと少し困った思案顔。
■エルビー・カルネテル > 「そうだな。
今日はそれほど暑くなくて過ごしやすいな。」
余は一瞬固まり、直ぐに笑みを見せた。
なんだか虫取りのライバルって感じではなさそうに見えたのだ。
大人の女性って感じがするし。
「ん、虫取りに来たわけではないのか。」
あれ、この人なんだか戸惑ってるぞ。
本当に違う目的できたのかな。
余は金色の瞳をくりくりと丸くし、瞬いていた。
「目的もなしに歩くのか?
王都の外は危険らしいぞ。」
人のことを言えた立場ではないのだが、そんなことを言ってしまう。
「本当に何も知らずに来たのか?
今、余が通う学院で昆虫バトルが流行っていてな。
余は皆に勝てるような虫を探しに来たのだ。
なんでもこの辺りにマグメールオオカブトと言う立派な虫がいるらしくてな。」
余は出会ったばかりの女性にここへ来た目的を話してしまった。
困った人を見れば放っておけないのが余なのだ。
■マハシャ > 「はい、私何方かと言えば虫は苦手なので」
うぞうぞと這い回られると叩き潰したくなってしまうので虫は苦手。視界の端で這い回る虫が多い環境からリフレッシュに来たとはいえ、出来れば見学するくらいで留めたいという思いはある女研究者は小さく肩を竦める。
「昆虫バトル」
きょとんとそのままオウム返しにするのはあまり馴染みのない言葉。クリクリのおめめが腕白そうに瞬いて可愛らしいですね。と別の方向に引っ張られかけた思考をはてと頬に片手を添えて軌道修正しつつ考え込む。そういえば確か学院でそんな感じのものを戦わせる遊びが定期的に流行っていた……ような気がすると女はふんわりと思案する。もしかすると授業の一環で何か戦わせているのかもしれない。
「え、オオカブト、本当に、本当にオオカブトでよろしいのですか?」
ええと、と僅かに首を傾げて考えこんだ女はまぁこの子がそういうならそうなのでしょう。変に水も差したくないですし、形から入る人もいるのですからそういうものなのでしょうと疑問を飲み込んだ。その為に遠路はるばるこんな所まで来る学生も居ないではない。はず。多分。きっと。
「……そういえばしっかり観察したことはありませんね。
俄然興味がわいてきましたぁ。」
それなら少し見学していこうかしら。あわよくば何かの参考になるかもしれないと閃いたそれは、はたと拍を打った。一人で探すのは下準備をしていない分面倒なので同行としてこの少年に付き添うのも暇が紛れてよいだろうと。なんとなくこちらを伺う様子は心配しているように見えるのでこの子はそれほど敵意を持ってはいないように見える。私の事を知ってはいないようですし。
「ふふ、では少々お供させていただきますわね。ええ、そうしましょう。
このままあてどなく歩き回るよりそちらの方が楽しそうですもの。」
相手が断るとは微塵も思っていない口調で提案すると共に両手の指先を合わせてそれはにっこりと笑みを浮かべた。
■エルビー・カルネテル > 「実は余も蟲苦手だぞ。
なんか顔とか怖いし、おまけに毒とか持ってるだろ?」
虫が苦手、と言われて余も頷いてしまった。
いやいやいや、これだと何しに来たんだと思われそうだな。
「そうそう。
カブトムシとかクワガタムシを戦わせて追い出された方が負けという遊びなんだ。
面白そうだから余も参加したくなったのだ。」
なんだ? 不思議そうに返してくるが。
やはり大人の女性にはなじみのない遊びなのだろうか。
そんなに不思議そうになれると余が子供じみてる気がしてくるのだが。
「オオカブトと言っても、マグメールオオカブトは他のとは違うらしいぞ。
なんでも出した瞬間に相手は負けを悟るレベルらしいが。」
ただのカブトムシだと思ってそうな女性に滔々と語りつつ、虫探し。
と言っても兜も鍬形も出てこないな。
やっぱり準備不足だろうか。
「興味を持つのは自由だが、獲ってもあげないからな?
二匹目以降が出てきたら別だが。」
なんだか不思議な女性が同行することになった。
余は女性に時々視線を向けつつ森の奥へ。
この辺りは足元も悪いし、冒険者風でもない女性に何かあれば直ぐにでもフォローにまわるつもりだ。
「いいけど、無理はするなよ?
余は色々持ってるから何かあれば早めに言うのだぞ。」
ムフーっと鼻息を荒げた。
こうして市井の人々の為に手を差し伸べるのが余なのだ。
森の奥に向かってしばらくしてからバキバキと音がする。
木の枝を踏み鳴らす音か何か。
音の感じからして大型の生き物だろうか?
「…なあ、なんだか物音がしないか?」
余は女性の元へと近づく。
これは女性の安全を守る為。
決して、怖くなってきたからではないぞ?
■マハシャ > 「顔怖いですねー。私も苦手です。何処を見ているのかわからないあの感じが」
複眼って怖いですよねぇと身震いしたあとふむふむ、と頷きながら身振り手振りで熱心に説明をする少年へと耳を傾ける。要は昆虫を調教師みたいに戦わせる遊びですね。多分。成程理解しました。(していない)
「それは凄い。さぞかし立派な昆虫様なのでしょう。
見た瞬間というと王者の風格、といったところですね。
それは一度直接みてみたいものです。
ああ、連れて帰りたいという欲求は今の所ないのでご安心くださいまし。
わたくし飼育、というものがどうしても苦手でして。
上手く長生きさせられないのです。こまったものですね」
確かに何か組み合わせに使えそうならそのつもりも無きにしも非ず……ではあるものの、少なくとも研究所に昆虫バトルに熱中している所員は居なかったと記憶している。それに飼育しているモノが他にもあるので今はそれを増やす気はなかった。
「ほら行きますよ少年。
オオカブトは待ってくれません」
そうと決まればGo♪と言わんばかりに軽快な足取りで歩き出す。勿論本人も何方に行けば良いかなどわかっていないというのに自信ありげな様子で少し先に進むと
「ほら少年、置いていってしまいますよー?」
振り返って小さく手を振りその少年が近くて辿り着くまでにこにこと見守る。気分はすっかり昆虫採取と何処か自慢げに鼻息を荒げる生き物を見学する事にしていて
「……おやぁ?」
そんな折に背後から何やら破砕音。近づいてきた少年へと手を差し伸べながらなんだか物騒な音が聞こえるなぁと暢気に首を傾げ。
「しますね。ばきばきと」
こんな音を立てるのは少なくともセミではないはず。大型動物だったらどうしましょうか。この距離に来て逃げないとなるとそこそこ気性が荒い魔物でしょうか。捕獲しても良いですし、少し脅かして逃げるのも面倒が無くてよいですね。等と考えながら振り返る。そこに居たのは……
■エルビー・カルネテル > 「そうそう。
後何考えてるのかまるでわからんからな。」
複眼とか具体的なワードまで出てきたので、それ以上は勘弁と視線を送る。
この女性は余より虫のことに詳しそうだし、この辺りで止めないとグロイ話とかされそうだ。
「え、飼育?
なんだか興味がつきないが、
多分聞かない方がいいんだよな。」
この女性の雰囲気、余は分かるぞ。
これは虫ではなくなんかヤバいのを飼ってる人の雰囲気だ。
この国には奴隷制もあるし、ひょっとしたらそっちかもしれない。
あるいは魔獣や魔物、魔族の類かも知れない。
その辺りは余でも察しが付くが、掘り下げるのはやめることにした。
この女性がその辺りの話をするのなら、両手で耳を塞いじゃうだろう。
「え、さっき余が危ないって言わなかった?」
何故か余よりも先をぐいぐい進む女性。
元気そうなのはいいのだが、怖いものなしか?
余は女性に遅れないよう慌てて後ろをついていく。
「ほらほらほら。
余が言った通りだろう?
とりあえず、余の後ろに下がるのだぞ。」
余は女性の前に立ち、虫取り網を構えた。
そして、破砕音が大きくなり、近づいてきたのは…。
「出たーーーーーー!!」
なんと、マグメールオオカブトである。
体長は2~3メートルほど。
カブトムシ特有の黒い外骨格、
立派角と鍬形。
そしてカブトムシにしては太めの足。
これぞ余が求めていた獲物である。
「いた! いた! いたぞ!
マグメールオオカブトだ!」
余は興奮し、その場で喚き続けた。
オオカブトを指さし、はしゃぐ。
■マハシャ > 「別にそんなお話するようなものではありません。
単純に苦手というだけですから。」
ちょーッと強めにするとすぐ死んでしまうので苦労している。とそれはため息を一つ。
テロリスト等”もう死んだこと”になっている存在ならいざ知らず、それ以外をあちら送りにすると何かと煩わしいのでその辺りは注意しなければいけないため結構な気を使う。勿論”事故”はいつの時代もつきものだけれど。
「いけないいけない……つい、余計な事を考え……て……」
――思考を呼び戻しながら振り向いた先にそれは居た。
「出ました――――!?!?!???」
倒れた生木をズンと踏みつけながら現れたそれは思っていたそれの二回り、いや数周り大きかったようで、その混乱と衝撃に声を揃えて悲鳴を上げた。
黒々と艶めく外骨格を煌々と日光に晒し、先端を地面に食い込ませる棘を持つ強靭な六脚が足蹴にした木を粉砕しながら地面へと突き刺さる。
「一体何を食べたらこんなに大きくなるんですか……」
嬉しそうに叫ぶ少年に庇われる形で対峙しつつ思わずといった様子で後ずさりしてしまうのはそのスケール感故か。
昆虫というよりこれはもう魔物では?と脳内で突っ込みを入れているものの嬉しそうに燥ぐ少年を見る限り、昆虫の枠なのかもしれない。いや確かに分類的には昆虫ですけれども。
「ところで……」
特徴的な角を携えたそれは、鋸の様な細かい歯の付いた胸角と大型の刺突剣もかくやというような頭角に挟んだ倒木をがちんと切断するように砕きながらこちらへと向き直り、
「……狙われていませんか?」
その先端を真っすぐこちらへと向け乍らゆらゆらと上下に揺らしていた。
■エルビー・カルネテル > 「うむ。」
余は抑揚をつけて頷いた。
考えても分からない時にやる余の癖である。
こうしておくとまあ、だいたい場が収まるのだ。
「見た? 見た?
凄いぞ。 樹をバキバキってやってる。」
余は網を持ったままで飛び跳ねてはしゃいでいる。
樹々を折り、踏みつけて現れる様はまさしく森の王。
これで昆虫バトルに行けば優勝間違いなしだ。
「そりゃあ、カブトムシだから樹液。
あ、そうだ! 事前に樹液を塗ればいいんだ。」
ここに来て漸く、樹液を樹にぬる作戦を思いついた。
今となっては必要なかったのだが。
「奇遇だな。
余も同じことを考えていた所だ。」
…余は青ざめた顔を女性に向ける。
確かに相手は殺る気満々だ。
立派な樹でも容易に切断できるあんな角でやられたらひとたまりもない。
「とりあえず、昆虫採集なので網を試してみるぞ。
…えい!」
余は両手に持った虫取り網を…投げつけた!
メキメキと音を立て両断される柄。
ただ、運が良かったのか網の所が角に絡まった。
網を振り払おうと暴れまわるオオカブト。
生憎だが、暴れた所で網はびくともしない。
「ひょっとして、余の勝ちか?」
■マハシャ > 「えぇ、その、はい」
百聞は一見に如かずとはまさにこのこと。名前とサイズ感は知識として知っていたものの、それをイメージ出来ていなかったというのは反省すべき点。そして何より……ああ、ちゃんとサイズ感が分かってこの装備なのですねと若干少年の評価を改める。
「わぁ……これは確かに圧勝ですわね……。
こんなものが学院に出てきましたらわたくし迷わず憲兵を頼ってしまいますもの……。
そうですわね。樹液を塗れば宜しかったのですね……。」
飛び跳ねて燥ぐ少年とは対照的に、若干引いているのはやはり虫が苦手というのもあってか。
これを養える樹液が近辺の木に塗れるかどうかは甚だ疑問ではあるものの、燥ぐ姿は可愛らしいので大人の曖昧な肯定で語尾を濁らせつつようやく脅威に気が付いたらしい少年の青ざめた顔に曖昧な笑みを向ける。
「試してみましょうか……。」
ひとまずは気のすむまで色々試してみても良いのではないかと虫取り網の奮闘を見守る。哀れにも一瞬で粉砕される虫取り網。巨木を砕く虫相手に笹のような細さのそれが耐えられるわけもなく、けれど意外にもそれに付随した網が角に絡みつき健闘を見せる。先程までに明確にこちらを狙っていた甲殻虫はそれに気を取られ、こちらは眼中にないまま頭を振り回し始めた。
「案外何とかなるものなのですね……。昨今の虫取り網もなかなか馬鹿にならないのだと私感心しました。」
少なくとも刺されたり挟まれることは無くなった……と考えると幾分か脅威が減ったのかもしれない……が、現在進行形で暴れまわるオオカブトはむしろ余計手が付けられなくなったというべきか。巻き込まれた周囲の樹木が地響きを立てながら倒れ込み、そして踏みつぶされ弾き飛ばされ空中で角の一閃により真っ二つになり
「ところで、これは杞憂、かもしれませんが
……状況が悪化していたり、しませんか?」
絡まった網を外そうとその巨躯を存分に生かして見境なく暴れまわるそれは先程とはまた別の方向で危険な存在に見える。近づかなければいいとは言うものの恐らく気のせいではないと思う。
■エルビー・カルネテル > 「え、憲兵呼ばれちゃう?
それは不味いじゃないか。」
今、余の中で全ての考えがガラガラと崩れ落ちた。
この女性は余よりも大人。
そんな女性が憲兵を呼ぶと言うことは、学院、多分王都も含めて
どこで出しても余は逮捕されちゃうし、虫は討伐されかねない。
なんだか興奮していたのがウソのように落ち着いてしまった。
百年の恋ではないけど、まあそれに近い心境のような気がする。
「あの網は多分素材からして市販品じゃないと思う。
余の部下がどこぞから入手してきたからな。」
普通の糸ではなく、魔物から出る糸とかなんか希少品だったかもしれない。
「うむ、二重の意味で状況が悪化しておるな。」
オオカブトは冷静さを取り戻して暴れてるし、
余は昆虫バトルに使うことができないと分かって逆に冷静になってしまった。
「其方のおかげで余はあれを持ち帰ってはいけないことに気付いたぞ。
あのまま放置と言う訳にもいかんので、網を切ってやろうと思うが構わないか?」
角が使えなく、半狂乱のままでは忍びない。
余は金色の剣を取り出す。
魔力が体中に漲り、ただの少年ではないと分かってしまうかもしれない。
■マハシャ > 「国民の命に深刻な影響を及ぼす恐れがある、なんてお題目でそれはもう早急に」
それはもう驚いてしまうほどアウトですねー。とにこやかに告げる。同じような事を企む学生が今までいなかったとは思えない。きっと毎年同じような事が起きているはず。
「ふふ、ご友人が驚く顔は見られるかもしれませんが
そのままこっぴどく叱られることになりそうですね。主に憲兵に。
運が悪ければ一晩ほど楽しい別宅にご招待となるかもしれませんが、
そこはまぁそういった経験も人生の糧となるという事で良いのではないでしょうか。」
この世の終わりというような表情で落ち着く少年を仕方がないねーと宥めつつ持って帰ること自体は別に止めないというのが性質の悪い所。なんだかんだ貴重品の糸で組まれた網を渡す関係者もいるようなので、別段それほどひどい事にはならないだろうという目測もある。
「なんにせよ少々大人しくなってもらう必要がある事は確かです。
自然の摂理とはいえこのままというのも少々罪悪感が擽られてしまいますし……」
はて、どうしたものやらと形よい胸元を揺らしながら腕を組み片手を頬に手を当てたところで目の前の少年が得物を抜いた。ある程度この昆虫の姿を理解していたことから対抗策は持っていると予想はしていたものの……
「はいはい。ではよろしくお願いします。
がんばってくださいね。少年」
ぱちぱちと拍手をしながら巻き込まれない様数歩下がると女研究者は笑みを浮かべたまま少年の武器へと視線を向ける。
■エルビー・カルネテル > 「確かにその通りだ。
これはもう昆虫バトルでは許されそうにない。」
余は青ざめたまま、コクコクと頷き続ける。
あと、恐らくだが他の生徒ではこんな所まで来ないだろう。
だから自慢できると思ったのだが。
「おお…そうなると余は逮捕されるではないか。
流石に逮捕は不味いぞ。
というか、見せられないのなら捕まえても仕方ないしな。」
あの昆虫が言うことを聞くとは思えない。
まあ、昆虫全般そうなのだが。
やはり虫というのはどうも扱いが難しいような気がする。
「まあ、逃がしていいのなら余がなんとかする。
大人しく見ていてくれよ?」
余がわざわざこの女性に言ったのは、この女性ならその気になればオオカブト相手でも仕留めてしまえそうだから。
初対面で素性も分からない相手であるが、初めから強者の匂いは漂っている。
なので拍手を受けつつ、余は魔法を使って一度消える。
次に現れた時はオオカブトの頭上。
剣で網を切り裂き、自由になるオオカブト。
それが女性の方に向かうと大変なので、三方を魔法の鎖で取り囲む。
始めこそ体当たりを試みるオオカブトだったが、やがて踵を返して去って行った。
後姿が遠ざかったタイミングで剣と鎖をしまう。
「これで安心と言った所だな。
これから王都に戻るのか?
良ければ送っていくが。」
余はやり遂げた感を顔に出し、胸を張る。
■マハシャ > 「そうですねぇ。すこぉし、難しいかもしれませんね」
こんな巨体が闊歩すれば例え大人しくともある程度通報されると思いながらもオトコノコのロマンというのはそれ位ではめげないしょげないという事は一応知っているのでそれを傷つけないようやんわりと。なんだかどこか警戒されてしまっているような雰囲気を受けるのはまぁ仕方のないことと割り切っている。実際に素性も知らない相手を安易に信用するほど擦れていない人物というのはこの国ではある意味珍しい。
「はい、私は大人しくしておりますよ?
非力なわたくしには少々手に余りますので」
飄々と嘯いて見せるのは少年だけでも何とかなるという目算のため。力を揮うのは必要量、必要な時だけで良いのだから、此処は少年に任せるのが妥当であるとそれは考えていた。その為か少し距離を取って眺めているばかりで、綱から解放され鎖の壁に体当たりする迫力にまぁ凄いと口元まで抑えて驚いてみせる。
やがて落ち着いたのか森の奥へとのしのしと去っていく巨大甲虫の後姿を見送るとほぅ、と一息安堵のため息を零した。幾ら甲虫とはいえ、あれは巨大すぎてメンタル的にあまりよろしくない。
「はい、ありがとうございます。危うく大怪我をするところでした。
見た目よりもずっと頼りになる方なのですね。
そうですね……心情的には甘えてしまいたい処なのですが
私この辺りで薬草の回収をしなければなりません。
ですのでお先にお帰りになられた方がよいかと。
夜にしか咲かないものですので遅くなってしまいますわ。」
やり遂げた感満載で胸を張る少年に思わず口元が綻ぶ。
可愛らしいなぁという感情に関しては嘘偽りではないと言えるため、撫でまわしたい衝動を抑えているのも一苦労な所もあった。
■エルビー・カルネテル > 「フハハハ。
余は凄いだろう、凄いだろう。」
オオカブトを追い払った後、女性の前で得意げに胸を張る。
おまけに高笑い。
最近こんな風にする機会に恵まれなかったので、ここぞとばかりに威張って置いた。
で、ひとしきりいい気分になった所で耳を傾ける。
どうやら夜までこの森の中で待機するつもりなのだろう。
流石にそんな時間まで待てないので今日の所はここでお別れか。
どうしたものかと思うと、なんだか女性の口元が緩んでいる。
こんな状況、実は余は経験があるのだ。
多分、余の事を可愛い奴、あるいは小動物的に思ってるのかもしれない。
それ自体は余としてはとっても歓迎なのだが。
初対面の相手にそこまでこっちが見抜いていると打ち明けるのも気持ち悪いだろう。
だから、こうしよう。
「余は名をエルビー・カルネテルと言う。
機会があればまた会おうな。」
相手が拒まなければ、近づいて軽く抱擁を交わす。
嫌がるようなら名前だけ伝えて。
その後は魔法でこの場を後にする。
■マハシャ > 「ええ、非常に素晴らしいものでしたわぁ。
偶然とはいえここでこうして出会えたことは幸運でした。
一人では一体どうなっていた事やら」
べた褒めに聞こえるのは基本的に可愛らしいものは好きだから。男女問わず無邪気な存在にはある程度の好感が持てると考えている。
そして酷く純粋な者にも女は一定の評価を有していた。だからこそ、警戒されていても気が付かないふりをする。
この辺がどうしても小動物に好かれない理由ではあるのだろう。実に些細な事ではあるけれど。
「あらあら」
機嫌よさげな高笑いに同調するようにころころと笑い声を上げたあと交わされる抱擁には上機嫌に応え、僅かに指先で髪を泳がせる。とんだ波乱の一幕ではあったものの、良い気分転換になったのだからと丁寧な一礼を見せて
「ええ、さようなら」
そんな言葉を見送りに添える。
――――――――――――――――――――――
「さて」
掻き消えるように移動する少年をにこやかな笑みのまま見送り、そのまましばらくぼうと立っていた女は懐から小さな小瓶を取り出すと地面に逆さにその中の液体をばらまいた。
そのまますぅ、と回転し、爪先で地面に円を描けば浮かび上がる聖域化の術式による音と獣避けの文様。
その中にすとんと座り込むとふぅ、と一息吐き出した後、表情が全くと言って良いほど抜け落ちてそのまま目を閉じた。
まだ夜までしばらく時間がある。一度戻って空いた時間を有効活用してもいいけれど
(……エルビー・カルネテル。強力な魔力を所有するが好戦的傾向はみられない。
養子を名乗るもそれまでの背景が明確に不明……。
偽装情報の可能性が高く、魔族の可能性も示唆される……でしたか。
やはりある程度直接観察するというのは有用ですね。
偶然であったとはいえ、良い時間でした。)
遮断され、外部からの干渉を断ったその場所は考え事や瞑想にふけるにはぴったりで
(随分と可愛らしいですが……
王族の一端としては、過ぎるかもしれませんわね)
そんな一言を内心呟くと同時に面の様だった顔の口元が僅かに吊り上がり、歪な弧を描いた。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からエルビー・カルネテルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からマハシャさんが去りました。