2023/02/05 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森」に布都さんが現れました。
布都 >  
 自然地帯の森の奥は、人の凡そ住まうような場所ではない。
 其処に住まうというのは、犯罪者か、逃亡者か、何か訳アリで、碌な人物ではない。
 とは言え、だ。人間は、完全に個人で外界を断って生きるというのは難しいものだ。
 最低限の軌道に乗るまでは、矢張り、街が人手が必要となる。
 此処に庵を作るときには大工を、大工を雇う金を手に入れる為の冒険者としての身分とギルド。
 そして、金を貯めて、生活基盤を作り、漸く一人で生活できる、という物なので、この庵を知る者は矢張りいる。
 基本的に、向こうからくることは無いが、例外が一つ。

 冒険者ギルドだ、登録し、加入をしたからには、其処での役割が生まれてしまう。
 ギルドの脱退をしたとしても、此処に、居る事は知られているだろう、完全に秘することはできない。
 伝説の存在、とか、貴族にコネさえあるもの、であれば、だが、逆にそんな方が目立つ。
 最低限にしたいとしても、矢張り、人の関わりというのは在るのだろう。



 ――――今、それをひしひしと、感じている。


 鍛冶場で、刀を打っていた手が、止まる。
 庵の外周に、何者かが来たのを知る。
 刀鍛冶として、刀を売っている際は、雑念がすべて消えるからか、庵の周囲に関しては、手に取るようにわかる。
 敵意の無い何者かが、庵に向かってきている、柵を超えて此方に、近づいている。

 眉根をひそめ。面倒くさそうに鍛冶防止のために炉の火を小さくするのだ。
 また、此奴はやり直しだ、と、熱い鉄を炉に、放り込んでおくのも、忘れない。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森」に影時さんが現れました。
影時 > 人が住まおうが住まうまいが――地続きの場所であるならば、到達することは不可能ではない。
移動の面に於いて、翼なきものの中で忍者という生き物は抜きん出ている。
背に大荷物を担いでもなお、その歩みに疲れや淀みというものは生じない。
それを示すように森の陰に紛れるが如く、歩みを進める影がひとつ、あった。

気づけるものは気づけるかもしれない。
認めることができるものが居れば、認めることは出来た、かもしれない。

数々の荷物を括りつけた背負子を担ぎ、茂った枝葉の合間を縫い進む男の姿を。
羽織る柿色の羽織の袖や、前から覗く装束の色は玄色。
識者が見れば、忍び装束と定義しそうな装いを纏ったその姿が口元を覆うマフラーを引き上げ、やがて見えてくるものを視認する。
柵である。明らかに何者かの手が入ったことを、あからさまに定義する人工物。
それを微かな助走を経て跳び、超える。着地の足音は響かせないが。

「……――気付かれた、かねェ?」

何か、境を踏み越えたような。あるいは結界を踏み越えたような。
第六感を微かに震わせるような予感に、マフラーの下で口元を緩める。
鳴子の類やら、他の罠めいた仕掛けやらがなくとも、この地を陣地とするのなら、気づいてしまってもおかしくはない。

或いは、背負子に括りつけた籠のなかでごろごろと怠惰に転がっているナマモノのせい、かどうか。
どちらでも善い。ひとまず、余分なものは近隣に寄ってないか。
散らばる獣やらそれ以外の何かの死骸の痕跡を一瞥したうえで、遠く見えてくる庵の方に進もう。

布都 >  
 敵意が無いから、客だとは限らない。
 敵意が無いから、刺客ではないと、限らない。
 此処は、森林地帯の奥の奥だ、低級の冒険者では来る前に死ぬ。上級の冒険者であればたどり着くこと自体は可能で、それが脅威。
 とは言え、此処に来る用事の大半は、聞かなくても判る。

 ・・・・・・
 此処が何処かを考えれば良い、判らない奴は、阿呆だ。
 そして、この場所の主が判らないというのなら、お仕舞いだ。
 面倒臭ぇ、とぼやきながら、近づく気配の足音を――――足音。

「ふゥン?」
                      ・・
 足音が、していない、聞こえて来ていない。『いる』のは、確か。
 なんぞ、七面倒臭ぇ事の始まりなのか、と、再度眉根を寄せた上。
 近くにある直剣の、十束の剣の柄を握りしめる。
 手元にあり、直ぐに手にできる所に置きなおしたのちに、それを見る。
 近づいてきているのが判るから、もうすぐ、扉の辺りだ。

影時 > 敵意はない。敵対する由縁がなきが故に。
害意はない。害をもたらしに行くには、この荷物は重すぎる。
もっとも、それらを携えていても刃の下に隠すのが、忍者の在り方であるが。

森を跋扈する魔物、獣の類は気配を潜め、消しながらすり抜け、どうしようもないものは適宜除く。
余分な血の匂いを纏わりつかせずに進むのもまた、この男の姿をした影は異様に手慣れている。

――ここにいて、いない。淡い月の光が地に投げかける影の如く朧。

だがら、待ち構えるという選択は正しい。
水が高きから低きに向かって流れるのが自然であるのと同じように、その考え方は間違っていない。

(ったく)

そろそろ、動きだしそうな頃合いであろうか。
身軽を信条とする忍者も、いざ戦う等となれば背に担いだ荷物は重い。僅かとはいえ、動きに遅滞を生みかねない。
ほどなく見えてくる庵の扉を前にすれば、足を止める。
羽織の下、左腰のあたりからから突き出た刀の柄の上に左手を乗せつつ、右手で喉を弄って。

「喧嘩を売りに来たワケじゃねぇから、開けてくれねェかね。荷物が重くてよう」

――と、氣を乗せて声を放つのだ。だが、それは扉を震わせるだけではない。
庵の中にあろう、人の手が入った器やら金属物やらからも、反響するように響くのである。
まやかしめいた幻術、幻惑の術の一種。これでどう、というわけではないが、何者が来たかは察せるだろう。
この手の変な、妙な術を気軽に行使できる、余分な予兆もなく使える術者はどれほどいることか。

布都 >  
 扉の外から聞こえてくる声は、中々に大音量だ、家がびりびりと震えて、そして、家の中の金属迄震えると来れば。
 チッと舌打ちを一つ零す。
 何を考えて居るんだ、この馬鹿は、この森の中で大音量、ケダモノに、妖魔に、此処に居ますよ、と公表しているようなものだ。
 それが狙いなのか、だとすれば、飛んだ馬鹿だ。
 苛立ちが、燃え上がる様に。
 しかし、主は動かぬ、動くものではない、何故なら。

「礼儀を学んでから出直しな!
 何様の積りだ手前ぇ!
 呼びつけた客でもねぇ癖に、いけしゃぁしゃぁと!」

 そう、用事があるならこちらが呼ぶ、其れなら開けに行くのもいいだろう。
 呼んでもない人間を出迎えに行くほど優しい人間ではない。
 聞いた事のある響きのある声だが。
 その御仁は此処にいるはずもない人間だ、ならば別人。
 東方の礼儀を学んでから出直しな、と。

 だから、ギルドでもドワーフ以上の偏屈と言われる。
 ある一定以上の技量を持つとそう言う風になるものなのだろう。

影時 > 獣やら妖魔程度は――どうとなる、というのは自惚れが過ぎるか。
だが、背に担いだものが重いというのは、本当である。
甕入りの酒やら精錬済みの金属の小塊、インゴット、錬金術師の工房に依頼して買い付けた骸炭(コークス)等々。
可能であれば、それこそ手押し車に積載して持ってきたかった位のものだ。
雇い主に頼めば、勿論それらを全部まとめて詰め込める魔法の袋が手に入るだろうが、そうしないのは単に己がこだわりだ。

「おうおう、悪かった悪かった。
 ……差し入れのつもりで揃えてきたものが重くてよう。これは本当だぞ、と」

洒落がてら使った術、手管はお気に召さないらしい。それもそうか、と。
聞き覚えのある声にやはり、と目を細めるも肩を竦め、背に担いだものを下す。
中身を傷つけない意味も込みで、下ろす所作はゆっくりにならざるをえない。どすん、とありありと音が響く。
その上部に括りつけた乾物入りの籠が震えれば、もそもそと栗鼠とモモンガが這い出して、眠そうに周囲を見る。
そこで待ってろ、と顔を出した二匹の毛玉に告げれば、腰に差した刀を鞘ごと外し、右手に持つ。
そうやって持つのは、敵意を持たないが故の証として。

「というわけで、こっちから開けンぞ。いいな?」

鍵、閂の類はかかっては――いるかどうか。だが、罠の類をわざわざ仕掛ける様な性質ではなかった筈だ。
刃が扉の向こうから出てきたら? それはその時である。

布都 >  
「―――ハ。
 本当だ、と信じる莫迦が何処にいンのさ。」

 扉の外、知れぬものとして扱うなら、その言葉全て戯言であり譫言だ。
 聞くに値するものではない、そう言う意味であれば、何一つ、誰一人信用しないのがこの女の基本。
 悪魔の証明という物があるのだが、毎回、何かにつけて「それ」なのだから、性質が悪い事この上ない。
 重そうな音が、扉の外から、それが、扉を叩く音ではない。流石にその重量のものが扉にぶつかれば、木の板は吹き飛ぶ。

 許可を求める声には、返答をしない。
 許可をしなかろうが、そう言う存在は扉を開けるからだ。
 なれば、鍛冶師のすることは、十束の剣を何時でも抜けるように、自然体で座る。
 居合―――と呼ばれる剣術は、座った状態からの初速の抜刀で切り倒す技術。
 扉が開かれ、其処に居るのが慮外物であれば、遠慮なく、その首を掻っ切る。

 彼の推測通りに閂は掛けては無い。
 かけた所で人は来るし、悪は来る。
 自然災害も考えるなら、掛けない方が最終的には被害が減るものだ。
 そして、自分でも敵わぬような相手は、閂を気にしない、それ毎扉切り落とす。

 だからこそ、閂は掛けない。

 扉を開けば、何時でも切りかかる様に、来客を凝視する鍛冶師が居る。
 呼吸は浅く、鋭く、その存在そのものが、一本の刀。


「―――ンだ、ンでコンナ所にいやがるんだ、ジジィ。」

 来客の顔を見て、まず出てくるのは呆れの一言。

影時 > 「さて、なァ?
 殊に――忍びの云うことなんぞ信ずるな、という事なら確かにそうよな」

わざわざこういう場所に住み、暮らすという時点で、余程だろう。
人間、独りで暮らすには無理がある。そうとなれば、こうも刺々しくもなろう。
急に扉を叩くなり、声をかけてくるものとは、この地に於ければ魔性。狐狸化生の類でもあろうから。
特に女独りで暮らすとなれば、余計にそうであろう。己だからという道理でもなかろうが。

しかし、何だろうか。
問題はある。己が知っているであろう相手の出方である。
何といっても、苛烈だ。斬られるか。斬られないか。
あの剣でとなると、迂闊に分身で受けたとしても、本体たる己でもただではすまぬという予感もある。
扉の表面や仕立ての変化、風情を吟味するならば、鍵の有無は然程考慮していない。

斬ってしまえば――それで、一息で片付いてしまえる。そんな信念さえ感じる佇まい。

「……あいっ、かわらず口が悪ィでやんの。
 俺をジジィ呼ばわりする奴なんぞ、お前位ぇなもんだぞ。

 そっちこそなんでこんな所に棲んでんだか。色々物入りなときに困るだろうに」

扉を開けば、嗚呼。刹那に切られるという事だけは辛うじてなかったらしい。
手にした鞘籠めの太刀を扉の傍に立てかけつつ、かかった言葉に、うっ、と呻くが如くよろめき、口を緩める。
向こうがそう云うなら、こちらもこう云うとばかりに言い返しつつ、息災で何より、と付け加えようか。

装いの細部や得物の変化こそ多々あれど、老いることを忘れたものは過日と変わらぬ顔で其処にある。

布都 >  
「忍?なんで、忍が。」

 彼が忍だというのは、一応知っている、その頃鍛冶里での付き合いのあった忍の里で。
 此処に忍びがいるというのは不可解ではあるが、忍という物は判る……状況による、としか言いようがない。
 任務で正しく言う必要があるときは、正しい事を言うもの。
 スパイなどの時とかは、正しい事を云う事は無いのだろう。
 つまるところ、彼の心の奥一つ―――信じるな、が一番楽だ、女的に。

 そして、彼の知る頃よりも、苛烈になっている、その理由としては。
 技術を嫉まれ、疎まれ、村八分にされた上で捨てられた。
 信じた者は、伴侶は、村長に紹介された女と通じてこの女を捨てた。
 捨てられた女だから、捨て去り、流れ流れた上で此処に来た。
 知り合いが此処に来るとは思わなかった。
 驚きは、警戒は、幾分か堕ちて、しかし、それでも無くならないのは、経験の仕業。

「あぁ、ジジィは、知らんのか……。じゃあ、仕方ねェナ、伝えておくか。
 おン出されたんだよ、手前ぇらよりも上手く刀を打てるってよ。
 旦那に捨てられ、名前も捨てられて、村も捨てられた。

 だから、流れてここに来たのさ。

 知り合いだし、お得意だったからな。
 誼として先に一度だけ、言っとく。

 ―――呼ぶなよ?」」

 ジジィババァ呼ばわりに関しては別に。
 だからこそ、彼の持ってきた荷物に視線を向けて、剣を背中に背負いなおす。
 腰に挿すには、剣は大きすぎる。
 奥に行ったかと思えば、酒瓶を一つ、東方の酒だ。

「茶なンて、飲む様なジジィじゃねぇだろうな?」

 自分の分の酒瓶を持ってきつつ、用はなんぞ、と、視線で問う。

影時 > 「抜けたからなァ」

抜けた――抜け忍であるとはいえ、忍びの技で糧を得てることについては否定できない。
忍者ではなく、侍を気取る、真似事をしてみせるのも容易いが、本領は何かというのは、明瞭だろう。
お前は忍者かと問われて、素直にはいそうです、と答える気はなくとも、向こうが己が何者かを知っていれば、韜晦する意味は薄い。
属していた一党、里がかかわりがあった中、随一の使い手がこんな異国にいる理由なぞ、一言で済む。

国が平らに治まり、不要となりつつ者が素直に隠棲する気にはならなかった。
まして、生き神めいた扱いもまた無用。
少なくとも、技を継げるものが少なからず居るなら、不要と無用を兼ね備えた者は失せても困るまい。
放たれた追手を退け、振り払って海を渡り、行き着いた先で知った者が居た、というのは何たる奇縁か。

「少なくとも、俺が抜けた後のコトはなぁ。
 いやま、手段を択ばなけりゃ向こうにツラ出せなくもねぇが、そうする気も沸かん。
 
 ――然様か。
 
 そう言いたげなツラと手合いも思い出せなくもねぇが、まだ残ってるンのかね今もあそこは」
 
さて、此方に至るまでの略歴と発端を聞けば、あー、と呻きつつ、虚空を振り仰ぐ。
口元を隠すマフラーを引き下げ、呆れの色濃い表情で吐き出す嘆息は長い。
女だからとはいえ、腕っこきを捨てるモノは今も永らえているかどうか。
戦いが終われば、刀鍛冶の需要も減る。見目ばかりの注文刀を打って糊口をしのげれば良いが、そればかりでも居られまい。
あそこもあんまり長くなさそうだ、という感慨を内心に抱きつつ、顔を戻す。

「そいつは困ったな。今は何と呼びゃあイイ?
 森の向こうに居る腕利きの話を聞いたからもあるが、可能なら知っておきてぇコトもあってよ」
 
ともあれ、荷物は外に置いておくわけにもいかない。
話ができる体制になったことを剣を仕舞う姿に察しつつ、外に置いたままの荷物を運び込みにかかろう。
少なくとも、土間にでも置いておけば荷解きの時にも困るまい。
寄ってくる男の姿に、籠の縁上で拾った木の実を吟味していた小動物が、ぴょいと男の肩に飛び移り、頭の上までよじ登ってくる。
話は終わったか?とばかりに見下ろすさまに、肩を竦め、遠慮なく庵の中へと荷物を運ぶ。
受け取るがかどうかはさておき、荷物は置いてゆくつもりだ。同じ目方を持って帰るのはつらい。

布都 >  
「さいで。」

 抜けた、抜け忍というのは居なくもない。
 ただ、基本的に抜けた存在は、追われるものだ、そして力が無ければどこかで、命を落としているようなものだ。
 彼の決めた事に、此方が言う事は何もない、求められたときにはじめて、言葉を伝えればいいのだ。
 彼の言葉に成程、という納得を一つするだけで。

 そもそもだ、男の仕事とされる鍛冶仕事、其れの一番の技術者が、神に認められて技術を授けられたのが、女だ。
 誇らしい、というよりも悔しいのだろう、今までは、仕事で手が足りないから見過ごしていたのだ。
 其れもなくなり、平和になり、仕事が減ったなら、後は目の上のたんこぶを切り捨てたいのだろう。
 その技術も、何もかも、自分らで、何とかなると、思っているのだろうその里は。

 今はもう、知らない。放逐されてから、どうなったか、気にする積りもない、此方も、切り捨てた。

「滅べ、としか思えねぇな」

 だからこそ、影時の言葉に対して、自分の差と、切り捨てた過去に関しては一刀に切り捨てている。
 思い出させんなよ、と、舌打ちと唾棄しそうになったが、流石に知己の客であろう男の前で、すこしとどまり―――。
 家の中に流れる、冷却用の水をくむための川に吐き捨てる。

「此処に居るから、おいでも、ばばぁ、でも。
 鍛冶師でもいいさ。

 ―――んで?何を」

 呼び方に関しては、過去を思い出させるものでなければ問題は無い。
 つまり、そう言う風にしておいてくれという物だ。
 荷物を運びこむ彼を見やりながら、その中身を確認すれば、武器の調整、若しくは打ち直しなどを求めると推測する。
 だから。
 彼の武器を見やり、どれを直してほしいのだ、と。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森」に影時さんが現れました。
影時 > 「そうでなきゃァ、島国抜けてこんなトコで冒険者とやらをやっちゃいねぇな」

一党からの離反者、離脱者は許されない。裏切者となるのなら、猶更だ。
だが、一党=忍びの里の長にもなろうと思えばなれたであろう力量者にして、最強の駒が抜けるというのは、どれほど危険なことか。
それは止められない、引き止められないことも意味する。
離脱した時点で考案していた、体得していた術の悉くは秘伝書という形で認め、残してはおいた。
しかし、己を捕縛、あるいは封印しうる術を使えない、使えても其れが出来る状況にお膳立てが出来なければ、何の意味がある。
追手はわざと殺さず、出来る限り五体満足のままで退けた後は、どうなっているやら。

里のありかを知りえた小さなナマモノが、不意に風のように現れ、去ってゆく憂き目にあっている――のかもしれないが。

「だよなァ。

 分かった分かった。……ババァ呼ばわりはしねぇぞ、流石に。
 ともあれ捨てられたものを拾うまで、あの名で呼ばねえようには極力心がけようか」

そうも言いたくなるであろう、と。吐き捨てる様な言の葉に羽織で包まれた双肩を竦める。
近くに立てば、敷地の構造、建物の様相も見聞、算定もできる。
治水の是非の考慮も必要であるが、水車でも拵えてふいごを動かす絡繰りでも仕込めるのではないか?
名工には程遠くとも、鍛冶と彫金の心得は男もある。製鉄の知恵も同様に。

手伝えというには無理がある小さな生き物を頭の上に乗せつつ、男は荷物を運び終える。
戸を閉じれば、その傍らに立てかけた鞘込めの太刀を掴み上げて。

「――こいつだ」

鍛冶師の女の方へと放ろう。外装は使いこまれた様相はあれども、著しい破損があるわけではない。
だが、鞘に収まった刃には力とともに来歴という謎がある。

布都 >  
「まあ、そうなるわなァ。
 同じような事でもあるけどな。」

 自分で抜けるか、放り出されるか、その違いは在れども、その場所に居られなくなった。
 其処から、自分の居場所を探して、様々な所を当てもなく彷徨い歩き、今ここに、この場所にやってきた。
 恐らく、有名な国だから、いろいろ情報が集めやすい場所だからこそ、集まったのだろう。
 良くも悪くも、集まりやすい場所だった、と考えられるものだ。

 だから、此処にやってきて、此処で出会えたのは、確率の高い事だと言えるのだろう。

「それを出した場合は、ジジィ、貴様でも、放り出す。
 心しといてくれ。」

 感想を聞いた彼の返答に対しては、鼻息一つ。
 呼び方に関しては、彼の言葉に感謝もなく悪態一つ、それがもう、常時となる。
 感謝の心はあるが、それを出すには、年を食い過ぎている。

 庵は簡単に言えば、軽めに組んだ櫓の上に船があるようなものだ。
 川をまたぐ形で建てられているゆえに、大雨が降れば大水が来る。
 其処で家が壊れても、船で助かるように作られている。
 家の中で川が流れているので、水はたんとあるし、魚も釣れる。
 からくりに関しては、壊れても直すことが出来ないから最初からない。

「――――。

 あの姫武者は死んだンか。
 自分の覚悟を、銘として刻んだ兄弟刀、屠龍。
 もう一つ、封護ってのが、在ったはずだが、流れたか。」

 これは、過去に作った刀だ、銘に関しては、姫武者が自分の覚悟を刻んだはず。
 自分の作りではない柄を見て目を細め、徐に炉の扉を開けて石炭を放る。
 柄を眺め、歪みを確認し。

「で?打ち直しか?復元か?それとも調整か?」

 どれがいいではなく、どれを望むのか、と。

影時 > 「まぁ、好きには生きてられるのは気楽でいい。誉れやら何やらはどうでもいいンでな」

自己意思か。それとも他者からの強制か。
出奔と放逐の違いこそあれ、己も向こうも居場所がなくなったということには大差ない。
移動経路も完全に同じかどうかは、無理に聞き出すつもりはないが、西へ西へと移動していれば、こうなるのは道理だろう。
そう考える。二つのサイコロを転がして、何回目の試行で同じ目が揃うか、という位にはありうること。

「分かった分かった。
 ……仕方がねぇ。よく刻んでおく。あの剣で斬られるのはたまらん」
 
決して斬られた、まともに食らったわけではないが、ちゃんと使える者があの大剣を振るったらどうなるか。
想像するまでもない。長さで云えば、同等と云える野太刀を戦場で振るう武者も数々見てきた。
そんな使い手たちが、いくつも拵えた死体を見聞した記憶を思い出すなら、ぞっとしないという感慨も自ずと湧いてくる。

ただで斬られぬようにするための防具も纏ってはいても、最初からそうするためのものでないのだ。
強いものとの手合わせは一種の楽しみとしていても、最悪、双方に相打つような結末は望まない。

「……――おい。よもや、とは思ったが、出所がお前さんとは思ってなかったぞ、ったく。
 見立てた銘、号まで揃うか。
 
 小さい方なら、俺の弟子に呉れてやったよ。竜の子だからか、どうにも抜けなくなっているようだがな」
 
さて、まさか。己が氣とともに染み込んだ想念の類を読み取ったのか。
目釘を外し、刀身の銘代わりの紋まで改めるまでもなく、素性と付けた呼称を口にする有様に目を瞬かせる。
頭の上に乗った栗鼠とモモンガも揃って目をぱちくりするが、続けて「なぜ?」と首をかしげるような様を感じつつ、息を吐く。

「復元というよりゃぁ、調整の方かねぇ。由来が見て取れるなら知りたかったのさ。
 刃毀れさせる使い方はしてねぇし、龍殺しとしての使い方もそうそうあるまい。
 
 ……ああ、それと差し入れついでに骸炭を持ってきたから試してみろ。
 石炭を蒸し焼きにしたもんでな。木炭と同じくらいには捗るはずだぞ?」

座れそうな場所があれば、そこを陣取るか。座敷でもあるならば、それが一番いい。
背負子の中から布に包んだ燃料と甕を沸け、一抱えもある甕を手近なところに置こう。杯はあるだろうか。

布都 >  
「それァ今、十分に堪能させてもらうさ。
 邪魔ァすンじゃねぇよ?」

 どんな状態にしろ、今はもう、自由の身なのだから、思う様にして行くだけである。
 思う様に鍛冶をして、思うように生活をして、唯々、技術を上げていく。
 行先を、やれることを、一つ一つ、潰していければいいと、考えた。

「変な事をしなけりゃ、斬りはしねぇさ。
 とか言いつつ、ジジィ、斬りかかっても往なすだろう。」

 高々剣豪程度の腕前だ、片手間で此処迄来たのは確かに、才能が有ったのだろう。
 然し彼程の使い手であれば、余程の事が無ければ一撃を入れる事など適う訳では無い。
 怖い怖いというようす、何を言ってンだ此奴、と半眼で見やる。
 10打ち込んで、上手く斬れるイメージが1~2程度か、偶然性も高い、と。

「ハ。そりゃ、其方の里だけ受けてるわけじゃねぇし。
 打った刀位、見分けられる、舐めんな。
 偶々だ、女だてら邪竜を討伐する誓いを持った姫武者と知り合い。
 感慨を受けた女が、刀を打った、それだけの話。
 先程も言ったけど、あの娘の覚悟を銘として刻んでヤッタ、願いも込めてな。
 あんたらの手に渡ったのは其れこそ、あの娘の無念が、させたのだろうね。
 竜を斬れ、とな。

 それはそれとして弟子が居んのかアンタ……いても良いのか、と、寧ろ、取るとはね。
 そんな気質じゃねぇように、思ったけどよ。」

 抜けないのは、自分の作りの所為ではなく、刀の―――姫武者の想いなのだろう。
 見ても、その辺りは判らない。
 魔力とか、呪いとか、そう言った物は、一切ない。
 東方の感覚として、そう言った物がある、と認識しているだけだ。
 寧ろ、弟子を取っていたことに目を丸くする。竜の子に対竜の刀を渡すのか、と唖然。

「由来は言った通りさ、調整ね、なら、やってやるさ。
 その石炭の礼としてな。
 暫く待ちな、台所にあるからよ。
 振ってもらうから、飲み過ぎんじゃねぇぞ、寝てたら、首かっ切るぞ。」

 刀の目ぬきを外し、柄の調子を確認し。
 刀鍛冶は、久しぶりの刀に触れて、砥石を用意し――――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森」から布都さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森」から影時さんが去りました。