2022/08/11 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 午後の一見穏やかな森の奥深く――、とある依頼を受注して樹海に分け入り獣道を進んでいた。
枝葉が心地よい日陰を作り、草間を吹き抜ける風は都市よりもずっと涼やかでこの時期でも屋外活動は辛くはない。ただ虫の多いのだけは難点で、虫や獣避けになる香を纏わせ、不意に目の前に飛んでくる蜂を避けたり、喚くように鳴き散らす蝉の粗相を避けつつ。
時折地図やコンパスで位置を確認しながら、ゆっくりと傾きかけてはいるがまだ十分に高い日差しを仰ぎ、
「明るい内に森を抜けないとね――……」
暗くなると一気に危険度は増すし、迷う確率も上がる。野営するにもこの辺りは向いていない。迷わないように慎重に進路を選んで、前後左右を気にするあまり――
ずっ……!
「えっ……?!」
足元が疎かになってしまっていた――
一見何もない、枯れ葉の堆積した地面だったが、その下には深い縦穴が隠されていた。
狩猟用の罠か、あ、と思った時にはもう遅く、
「ぅ、ぁ――きゃあぁぁぁああぁ!!」
思い切り踏み抜いて真っ逆さまに落下――悲鳴とともにその姿が地上から掻き消えた。
■ティアフェル > ずささささささ――!!
枯れ葉を巻き込み、身体が、視界が上下左右にぐるぐると大回転して穴壁に擦り打たれながらしまいに、どん、と全身を強打して穴底でようやく止まる。
「っ――……い、たた……」
成す術もなく下まで落っこちて膝やら腕やらあちこち擦って打ち付けて、木の葉に塗れながら穴底で呻いた。
しばし悶絶した後眉をしかめ、のそのそと緩慢に起き上がりながら、地上を見上げる。高さは2、3メートルと云ったところだろうか。真面に手は届きそうにない。這い上がろうにも取っ掛かりもない。
「ぁー……どうしよう、これ……。狩猟罠かな……穴底に逆杭打たれてなくてまだ助かったけど……。あったら一発アウトね」
穴底も枯葉が溜まっていて地表も比較的柔らかく湿気ていて、泥に汚れたが大した怪我はない。
ともかく頭上を仰いで口元に両手を翳して拡声器代わりにし、
「――おーい! おぉーい!! 誰か、いませんかー!!?」
地上を歩いていた時は誰もいなかったようだしかなり期待薄だが、一応外に向かって大きく叫んでみた。
「だーれかーぁ!! たーすーけーてぇぇええ!!!」
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 少女が穴に落ちてからしばらくして。
森の中、軽い足取りで男が歩いている。
それなりに膨らんだバックパックを背負っている所以外、街にでもいそうな格好だ。ピクニックにきたと言われれば信じてしまうだろう。
人の声に気付くと立ち止まり、眉を顰める。短剣を抜き警戒しつつ声の方向に向かうと、地面にぽっかりと穴が空いていた。
「なんだ、罠にでも嵌ったか?
ちょっと待ってて。ロープを垂らす」
穴の中に声をかける。周囲を見渡しつつバックパックを下ろし、ロープを取り出すと穴から2mほどの距離にあった木の幹に結びつけ、先端を穴の中に投げる。
木の幹や枝、周囲を見つつ、何が気に入らないのか男は渋い表情を浮かべている。ひっきりなしに周囲を見つつ、穴の中から出てくる人物を待った。
■ティアフェル > 期待薄、とは感じながら試しに一発叫んでみたら――。
「!」
しばしして返答があった。もうダメかなー誰もいないかなーと諦めかけていた頃の応答。
無意識にアホ毛をぴんと立てて反応し。明らかにこちらの声に応えている男性の言葉によっしゃあぁ、とガッツポーズ極め。
「うっそ、ありがとーう! 超助かるー! ラッキーィ!
おにーさんかっこいー!いけてるー! ナイスガーイ!」
途中で気が変わって見捨てられないようにここは相手の顔も碌に見えてない段階で誉め千切っておく。
割とチャラついた高い声を発すると、やがて地獄へ天から垂らされる蜘蛛の糸のごとく神々しく見える救いの縄に手を伸ばし。
じゃれつく猫のようにすか、すか、と何度かは空振りしてしまいながらも、はしっと握りしめ。
ぐ、ぐ。と強く引っ張って強度を確かめると。
「よーし、おっけ。ロープが解けないか見ててねー」
うんせ、よいせ、と垂直に一生懸命よじ登り始めた。
■ヴァン > お兄さん、という言葉に表情を一瞬緩めるが、すぐ元に戻る。
「あぁ、しっかり見ておく。
お世辞はいい。早く上ってくれると嬉しい」
男はロープを両手で柔らかく掴む。ロープがぴんと張ると、しっかりと握る。その間も目は周囲の景色に異常がないかをチェックしている。
数分後、少女が落とし穴から這い上がってくるのを確認すると、軽く安堵の息をつく。本来ならば優しい言葉をかけるべきなのだろうが、男の表情は硬いまま。
「大丈夫かい?疲れているところ悪いが、ここから離れたい。
お嬢さんの目的地まで一緒に行こう。二人の方が安全だ。歩きながら説明する」
自己紹介もせず、移動を促す。
■ティアフェル > 「お世辞だなんて。一応本心なような。
――っく、ん、ん゛、しょ…っふん…!」
なんとも曖昧な返答をカマしながらも、いつまでも穴底にいたい訳もない。
地上が恋しい。ロープを握って足も使ってロープを挟みつつよじ登るものでなんとも見れたもんじゃない絵面だったが。
それでもどうにかこうにか這い上がって。
じりじりと昇りようやく穴の縁に手が届くと上半身を穴の底に出すようにして下半身をぶらつかせ。
それも、一気に腕力で押し出すと。
「っは、はあ、はぁぁ~……さ…すがに汗かく……。
腕ががくがく……ぇ? え~……ちょっと、待ってぇ~……」
全身を支えて重力に逆らって昇ってきたもので腕が震えて足取りもがくがくと覚束ない。
「ちょ、分かんないだけど。それならちょぃ、手、貸してくんない? あ、あ、ロープ! 回収しなきゃ」
事情が呑み込めないもんで、よろよろとした足取りで握っていたロープを一度離すと括りつけられていた木の幹から解き。
それを手にしながらはあはあ呼吸を乱しつつ脚を引きずるように大分おいて彼ながらその背についていき。
■ヴァン > 少女の上半身が穴から出るとロープの状態を確認した後に近づき、手を貸す。
その時に穴の中をのぞき込むと、何かを確信したようだった。男の動きからは、冒険者にとって大事な装備である筈のロープを置いてでも立ち去りたい様子が窺える。
手を貸してほしいという言葉には、荷物を代わりに持つと申し出る。
「通常、ハンターは罠の周囲に目印を置く。木を傷つけたり、布を枝に結んだりな。
君のようなのが罠にかかって稼ぎをふいにされたくないからだ。それがない。
それだけならハンターのミスも考えられる。さっきの穴、深さは君が簡単に上れないくらいあったな?そんな深さ、兎や狐には必要ない。
一方で、鹿や猪クラスなら、引っ張り上げるのが一苦労だし、逆杭をうって弱らせておくもんだ」
疲れている少女の状況を気遣いつつも、男は周囲を見るばかりだ。奇妙なのは、木の周囲を歩こうとしていない。
数百メートルは歩いただろうか、森の中でも木がない、やや開けた場所で立ち止まる。
「結論として、ありゃ人間用の罠だ。仕掛けたのが誰かわからんが、ろくでもない連中だろう。
救助の場面をそいつらに見られてないか心配だったんだ。
どうやら……追っているような気配はない。ひとまず、安全だ」
そういうと、やっと男は柔らかく笑った。バックパックを下ろすと、少女に休憩するように薦めた。
■ティアフェル > どうもどうも、とほとんど自力で這い出していたが一応手を借りておく。
最後の一押しで脚を滑ららせたら目も当てられない。穴を覗き込む様子に小首を傾げながらも、忙しない気配に目を瞬き。
荷物はウエストバッグひとつだ。友人謹製、特殊な技のかかったそれは見た目よりもがっつり大容量といった魔法仕掛けになっており。
スタッフは腰に差しておくことにするか、むしろそれを歩行杖代わりに使っていくので負担してもらいたいものは特になく。大丈夫、と返答して、ふらふらよろよろしながらも、とにかくゆっくりしてられないらしいと察してなけなしの体力を振り絞り、その場を離れるに従い。
説明に耳を傾けては生きてる説なアホ毛を左右に揺らし。
「………ふぅむ………なるほどー…?
狙いは……人……つまりわたしはちょうどいいカモになるとこだったって訳か
……。ぞっとしないなぁ……」
周囲を警戒しながら安全地帯を求めて森を抜けるのに、引きずりがちな足元を、木の根などにとられないか用心しながらも進み。
ようやく脚が止まると、
「話は分かったぁー…!
そしてもうダメ………しばし起動停止させてください……」
ばた、と木々の疎らな森林の平地の真ん中で大の字で倒れ込み。汗で前髪を張り付かせ、はー、はー、と荒い呼吸を繰り返し、顔を真っ赤にして。
「ちょー……ハードォ~……
でも助かったわ、どうもありがとう」
倒れ込んだままひらっと片手を上げて謝辞を口にし。
■ヴァン > 少女が大の字に倒れ込むと、男は少し離れて座り込んだ。
バンダナを外し、服の袖で顔の汗を拭う。
「獲物がかかったら穴の中に吸入式の麻痺毒でも投げ込むんだろう。で、動けない獲物にロープを括り付けて、複数人で引っ張り出す。
下に杭がないのは、獲物を傷つけずに捕獲したいからだろうな」
男は冒険者には見えない。バックパックは冒険者の店などで売っているセットだが、どう見ても昨日か今日買ったような新品だ。
少女が手に持っているロープも、新品ゆえに握っている途中で痛みがあったかもしれない。
警戒のために抜いていた短剣は銀製で、おそらく魔法の発動体だろう。
バックパックから取り出した水筒で水を口にすると、落ち着いたのか大きく息をついた。
少女がぜーはーしている姿を見ると、おかしそうに笑う。
「あぁ、自己紹介がまだだったな。ヴァンという。神殿の人間だ。
地下図書院から本をかっ……調査で本の回収にいく途中だ。一緒に潜る連中より一足先に向かってた所、あの場所に通りかかった。君は?」
口の開き方から、かっぱらう、と言おうとしていたようだ。人助けはするものの、完全な善人というわけでもないらしい。
男の首には、言葉を裏付けるようにホーリーシンボルがアクセサリーのようにかけられている。