2021/11/12 のログ
■ピッチ > 樹の根元に座り込み、幹に背中を預ける。
夏から秋へと移り変わろうとしている季節は、森の夜でも過ごし易く。
そのままぼうっと虚空を見上げることしばし、
少年は双眸を閉ざす。
一、二時間もしたら、夜明けに都に着くペースで動こう、と考えながら。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からピッチさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 短草 石塊 静気川の領域」に燈篭さんが現れました。
■燈篭 > 寒い 寒い 季節はもう冬の傍
北は雪が降り、日が落ちれば薄い衣では体が震える
川の傍ではそれが本来ならば、きっともっともっと感じることだろうさと
皆は言うだろう
林周りは歩きやすい 風なんて遮ってはくれない
不気味なほど川の音がしない傍は、向こうへ渡れば別の世界なんじゃあないのかって
そう思ったって不思議じゃない
そんな川の傍には、鬼がいた
「嗚呼、冷える 冷える 酒がなきゃあ私の体が凍え冷えるっと。」
平たく割れた岩の上 腰を下ろし、寝そべることも用意な岩の幅
女童と呼べそうな身体の丈じゃあ、硬い寝床に収まってしまう
昼の川べり 川の傍は石砂利で充ち その向こうは短草の敷物のよう
その向こうが互いに屈み合わせのように、林の木々が真っ直ぐに立っている
余計な草花茂、手入れを怠ったようなそれとは違うもの
林の向こうで通る何かが要ればきっと見えてしまう そんな場所にて
小鬼は岩の敷物の上 ばちりばちりと燃える焚火の傍で手を炙る
冷える冷えると言いながら、まるで掌は焼けちゃあいない
まるで熱した空気だけ求めているかのように、そのごつごつとした
殴り覚えたような掌は、温もりだけを吸い取っている
そして手が思うままに温まれば、腰の大瓢箪 酒の音が波打つそれ
紐で括られた栓を、逞しい太い歯列が引き抜くのなら
ぽんっと鼓のような軽快な音が鳴る
直のみの口元が、口端から零れる酒はやや黄色がかったもの
まるで古酒のような色のそれ 呑みながら、一度も咽ることがない
頭と肘に生えた角が示す通りの、酒豪と思わせる素振り
「ぶはぁぁ……。」
そして離れた、その小さな唇は 酒で熱の灯った五臓六腑
そこから出したような白い吐息で冷たい大気に染まり出ていく
まるで煙管でも一服したかというくらいの、白い吐息だ。
■燈篭 > 鬼が 私が 此処にやってきた理由は一つしかない
酒だ 酒の肴
見通しは好い 川べりの砂利もいい
静かな川ってやつがどれほどの肴になるかと 瓢箪にそこらにいた大蛇を殴って酒に“詰めた”
酒は熱くて 中々野性味のある漬けられた味ってやつがした
舌が灼ける味ってやつだ
けれどどうにもいけない
土地の眺めを肴に、土地のものを使って飲んだっていうのに
どうにも肴がつまらない
「嗚呼、音がないっていうやつは、こういう時楽しめない お月さんや星とは違うなぁ」
川の音が無いと、どうにも水たまりを眺めて酒を飲むかのような
太湖ならばまた違っただろう 鏡のように映る林を肴にだってできたかもしれない
しかしどうにも、鬼は流れる太目の川 時折魚の影が見えていても
音がないっていうやつは不思議だが、寂しい
傍で燃える焚火の木々が割れる音 こちらのほうが酒を進めているのだ。
「まぁいいや 夜は居心地良さそうだ。」
そう言って酒を飲む
蛇の 目も 頭も 皮 も 臓腑 も 命 も 全て溶け消えた酒
米や身とは違う味がする
あれだけ太く生きてきたんだ 賢かったんだろう 馬鹿にはなれなかったんだろう
嗚呼、吸われて命を惜しんだ味がする 恐れと名残りのそれがする 旨い
「……お」
口端から、一滴垂らす酒と共に、今腰を下ろす川べりとは逆
鏡映しのようになっている林の向こうがで影が見える
鬼の瞳に見える影 角獣か 綺麗に影絵のように 角の獣が 鳥が移りこんでいる
林の隙間隙間で映りこんでいる 鬼はそんな影絵のような光景や林の趣で
酒を自然と傾けていた。
「ぷふぅ……うん、悪くない。」
その表情は、大蛇の命で酔いしれた、熱を帯びる頬
瞳も唇も笑みを浮かべている なんだい、星を待つことはなかったかい、と。