2021/04/18 のログ
■ミシェル > 「そう、貴族。だから替えの服なんて何着も持ってるよ」
服を汚されて怒るような貴族はそもそも平民に手なんて差し伸べないだろう。
だがまぁ、そういう貴族や平民に難癖付けて痛めつける貴族を知らないでもない。
ミシェルはまたため息をついた。
「…ただの幼体なら少数でも十分、か。なら依頼をした人間に文句を言うべきかな。
そもそも情報も揃ってないのに討伐依頼なんて出すもんじゃないよ」
とはいえ、こういう魔物のせいで商売や生活が脅かされるほうからすれば、
一刻も早く討伐してもらいたいのも事実。
なのでしばしばこういう事故が起こり可哀想な冒険者が犠牲になる。
「で、残り一人はあっちか…。なら大丈夫かな。ここに来る前に冒険者を見かけたよ」
とはいえ、弓士から話を聞いた冒険者達がこちらに来るかもしれない。
待った方がいいか合流しに行ったほうがいいか…。
まぁそれはそれとして、女魔術師は己の仕事をする。
ミシェルは背中のリュックから縄を取り出すと、オークの死骸に向けて投げつける。
するとそれは独りでに蛇のように巻き付いて、オークの死骸を縛り上げていく。
「討伐の証が必要だろう?首でも持っていくかい?
賞金受け取った後は僕にくれると嬉しいんだけど」
彼女が言っていた通り、研究に使うのだろう。
ミシェルはおもむろに空に向け指笛を鳴らす。すると、箒が一本、音も無く空から降りてきた。
魔法の箒らしく、浮遊している。ミシェルはオークの死骸に巻き付いた縄を、それに引っ掛けて吊るしていく。
■ティアフェル > 「う~ん…すごい勢いで助けてもらってなんだけど……さては変人……」
こともなげに返された言葉に思わず悟りを開いた、三みたいな眼をして呟いた。いるんだよ、数いる貴族の中でまあまあいるんだよ、変わり種って奴がさ。としみじみしていた。
「まあ、ちょい強いゴブリン程度の戦闘能力の幼体に三人はむしろ多いと思ってたけど……はは、罠ってどこに転がっているやら。
この剣士も……自称ではもっと強い筈だったのよ……」
オークの幼体ごとき、と舐めてかかっていた末路がこれだ。日々起きている珍しくもない悲劇。
しかし、跪いて剣士の遺体に祈りと哀悼を捧げ。
それから顔を上げると彼女の返答に肯いて。
「ええ、来る時にわたしたちもすれ違った。行き先も聞いていたから――そっちに助けを求めに云ったんだと思うわ。あの子の判断だけが結局正しかったのかもね……」
今は冒険者たちに保護されている若い弓士。その子だけが自力で難を脱したと云える。まあ、踏み台になったヒーラーとしては嘆息しか出ないが。恨むほどでもない。
そして、オークの遺骸を縛り上げて、浮き上がる箒で運搬してくれるという態に、ぱた、と瞬いてから、
「ありがとう、それは助かる――むしろわたしたちは討伐に失敗をしたのだから、それはまるまるあなたのものよ。
ごめんなさい、申し遅れたわ。わたしはティエフェル。お察しの通り冒険者でヒーラー。
厚かましいついでにひとつお願いがあるのだけど……」
魔術師の腕前を見込み、さらにその人格も貴族にしては至極変わっているがとても親切な人柄だと感じて、少し云いづらそうに剣士の遺骸を見下ろし、そちらに視線を呉れた。
………この遺体を教会へ運ばなければならない。オークの死骸などよりもそちらの方が重要で。
■ミシェル > 「……なんで普通に助けただけで変人呼ばわりされなきゃいけないのさ。まだアプローチもかけてないのに」
変人という評価はあながち間違いでも無いようだ。
「ゴブリンもあれはあれでナメてると酷い目に遭うからね…。
君もせっかく回復魔法が使えるのだから攻撃に使える魔法も覚えておくといいんじゃないかい?」
魔術師とは極めれば単体でもかなりの戦力なのだ。極めた戦士が後方支援を不要とするように。
故に、ミシェルもこうやって一人でうろつけている。
「ま、二人で背を向けていたら逃げられずに二人とも死んでた可能性はあるさ。
君は良くやった。偉い子だ」
さりげなく近くに立つと、遠慮なしに頭を撫ではじめる。
並んで立てば、身長差が結構あることに気付くだろうか。
「それは死んだ彼も浮かばれないだろう?報酬は貰うべきだよ。
葬式代の足しにでもするといい」
そう言うと、ふと、彼女の視線がその彼を向いていることに気付き。
頼みと言われれば、ああなるほどと納得する。
「うーん、僕はこのまま奥地に調査に行く予定だったんだけど…君みたいな美女の頼みじゃ仕方ないな。
人の遺体ならあんな運び方は失礼だろう。担架でも作ろうか」
そう言うなりまた指笛を二回吹くと、今度は空飛ぶ箒が二本、飛んでくる。
そして、二人の近くに音も無く着地した。
■ティアフェル > 「胸に手を当てて訊いてくれ……」
そうとしか最早云えません。真顔で呟いていた。
「どういう行動に出るかっていう予備知識が欠けてるとやられますという好例ね。
わたしはヒーラーよ。魔術師とは少し系統が違うの。ヒールできる医者みたいなもんだから。できるのは回復系の術と薬品の調合身体ケア」
神官ともまた、少し違う。専門職ヒーラーというのは世間的にはあまり詳しく認知されていないなあとつくづく感じた。なんでもできるチート型が王都に多すぎるがそのクチではない。
「……っはは……そう云われると……なんだかちょっと泣けてくるね」
労う声。ほぼ他人とはいう仲の剣士とはいえ今日仲間と云える存在を瞬殺された後にはなかなかに響いて、頭を撫でる手にくしゃりと表情を崩しては泣き笑いのような表情を刻み。汚れちゃったね、と髪にも飛んだ血が彼女の手に付着するのに小さく笑った。
「そうね――敗北したわたしたちに、その資格はないと思うんだけど、あなたがそう云うならそうさせてもらうわ」
依頼料の全額は剣士の遺族に充てようと肯いて改めて頭を下げた。
「こーんな血みどろで服もぼろっぼろなのに美人だって云ってもらえるとは思わなかったなあ。お礼は身体で払ったらいいかしら――肉体労働という色気も素っ気もない泥くさい意味ですが」
などと、おどけながら肩を揺らし。それから、鎖骨辺りや脇腹など各処裂かれた衣服と覗く肌を隠す為に、借りたハンカチで血を拭った後はウェストバッグから取り出した白いケープを肩にかけて。
漂ってくる箒を見て、わたしも乗ってみたい、と子供のような顔でじーっと見上げていた。
■ミシェル > 真顔で言われた通り、胸に手を当て目を瞑ってみるが、特に理由も思い当らず首を傾げた。
どうも自然体でやっているようだ。
「ヒーラーねぇ…治すことが出来るなら壊すことも出来そうなもんだけどね。
いっそ研究してみるかい?僕と一緒に」
ミシェル自身も、その周りの魔術師も、どちらも出来る人間ばかりなので回復専門は珍しいらしい。
興味深げに顎に手を当てながら、ティアフェルの顔を見ている。
「過程じゃなくて結果だよティアフェル君。
君が粘ったから僕がコイツを仕留められた、これは勝利じゃないかい?」
血も構わずに頭を撫でると、流れるようにティアフェルの目尻の涙を拭う。
そして頭を下げられれば、いやいや当然のことをしただけだと謙遜した。
「うーん、肉体労働は間に合ってるなぁ…メイドもいるしゴーレムでも作ればいいし。
そもそも体を動かすのも苦じゃないし…。ということでどちらかと言うとベッドで払って貰えるとうれしいかな」
にこやかな顔でそう返す。
冗談なのか本気なのかイマイチ判別がつかないだろうか。
それから、こちらも飛んできた箒二本に布を結び付け、即席の空飛ぶ担架を作ると、
次は剣士の遺体に向き直り、静かに杖を振る。すると、彼の体が浮かび上がる。
その下に空飛ぶ担架が静かに滑り込むのを確認して杖を下げると、遺体はゆっくりと布地に降りた。
と、その時、箒を見るティアフェルの視線に気付く。
「ん?どうかしたかい?」
■ティアフェル > 天然や……天然素材や……。
実行している様子にまたしても三の両眼をして暖かく見守った。
「ううん、大丈夫。わたしはわたしでこの専門職を極めるつもりだから」
謹んで辞退した。人にはそれぞれ適性というものが存在する。他の魔法に関しては適性なしとの検査結果のもと首を振る。
器用貧乏になりたくないものある。
「プラス思考なんだね。わたしからそんなこと云うと図々しいだけだけど――ミシェルさんから云ってもらえるならアリね。採用」
そういう考え方もあるか。と前向きな結論ににこと笑みを浮かべて首肯して。目尻を拭われるとくすぐったげに肩を揺らした。
「そうか~そうなのね~じゃあわたしにできることは何一つない――いや、そうだ、それではせめてこれを献上いたそう!
『肩叩き拳』です!」
労働は間に合ってるとのことでのらりくらりかわそうとしたが、不意に思い当って、ごそごそと取り出したのは紙片に『肩叩き拳(券ではない)』と書かれた孫がおばあちゃんに上げる定番のようなふざけたソレ。
魔術師でも肩は凝るだろう……むしろそんなでかい乳しとったら凝るだろう。
器用に中空に漂う担架を仕立てて遺体を乗せる様子におおーと感心しつつ、どうかしたか問われて、慌ててあらぬ方向を向き、ぴーぷーと口笛を吹きながら。安い誤魔化しにかかる。
「んーん? べーつーにぃ?」
■ミシェル > 「そりゃ残念…いやぁしかしヒール専門ってのは珍しいから気になるんだけどなぁ…」
これは純粋に研究者としての好奇心のようで。
視線を他に向けても、ちらちらとティアフェルのほうを見る始末。
「ふむふむ…なるほど……」
ティアフェルの眺めた紙をしげしげと眺めるミシェル。
おもむろに杖を取り出すと、とんとん、と先端で軽く紙を叩き、
それからティアフェルの手からそれをいただく。
「じゃあありがたく貰うとするよ。『マッサージ券』」
にこにこと笑顔を向けるミシェルの手元の券をよく見れば、
文字の部分が『僕が君にマッサージする券』に変わっている。
ついにははっはっはと笑いながら、それを服のポケットにしまおうとする。
「いやあ楽しみだなぁ…僕のマッサージ技術を見せるの…」
おおよそ恐ろしい意味なのは一目瞭然だ。
作業を進めながらも、口笛を吹きながら明らかに何かをごまかしている彼女。
その様子にミシェルはにやりと笑う。
「んー?んー??」
再度指笛を吹くと、どこからかまた箒が飛んでくる。
ミシェルはその上に座ると、腕組みをしながら、にやにやとティアフェルを見ている。
■ティアフェル > 「そうかしら? 一本気なもので。
初志貫徹徹頭徹尾、そういうヒーラー…ってウリになりそうでしょ?」
食べ物屋でも、いろんなメニューがある店もいいが専門店となると期待値があがる。好奇心にはお答えしますよ!と胸を張っているが――大した出汁はでないだろう。
「ほんの気持ちです! 一回こっきりですいませんけども……さらっと改変しやがった……、あ、そこ、説明ちゃんと見て。
※ただし原則揉みません。のとこ」
ぺら、と紙片の後ろを示すとそんな注意書きが。そんな改変にも対応する注意書き。
※本券の使用は一回のみ。
※叩きます。ただし揉みません。
そのような列挙。
使用なさるのはどんとこいだ。砕けないでね。肩。砕けても治すから安心してね肩。
「……なによ、いーもん別に、わたし冒険者だもん。きびきび歩くもん。足腰を甘やかさないんだもん」
己の心中を見透かしたようにもう一つ飛んできた箒に乗っかる様子をちらちら横目で見ながら――無駄に意地を張る挙措は単純に子どもっぽい。
■ミシェル > 「はは、確かに。
僕なんか気になった魔法と女の子にはすぐ手を出しちゃうから何が専門なのか自分でもわからないや」
そう言って頭をかく女男爵。
とはいえ、その全てをそつなくこなすのはその血からくる魔術の才か。
「ふむ…じゃあ仕方ないねぇ叩くしか…叩くしか……」
裏面を見てからそれを懐にしまうと、両手でぴんぴんと何かを引っ張る仕草。
多分鞭だろう。マッサージには絶対使わない代物だが鞭だろう。
女の子相手ならあらゆるプレイをそつなくこなすのは何の才能だろうか。
赤くなってもちゃんと治してあげるから安心してね。お尻とか。
「うんうん、そうだねぇ。歩くのはいいことだ。健康は大事大事。
まぁ僕はこれで帰るとするけどね。いやぁラクチンラクチン」
器用なことに箒に横向きに腰掛けたままスイー、と空中を進む。
他の箒達も宙に浮くと、ミシェルに続いてゆっくり進み始める。
■ティアフェル > 「マルチなのもいいと思うんだけど、あんまりあれこれ手を出すと無節操のレッテル貼られっちゃうからねー」
用心が必要だし、いろいろ出来るということは特化していることがないということにも転じかねないし、世間はそう見る。
ヒーラーバカ一代、くらいがこのヒーラーには手頃なレッテル。
と云いつつ特攻もカマすが。
「ちなみにおねいさん。打つと叩くは違うからね~?」
エア鞭の手つきに気づいてさらに注釈が必要だ。
最終的に何を要求されるのだろう。ほのぼのなのか殺伐としているのか分からない『肩叩き拳』だが、彼女に進呈したのは軽率だったかも知れない、と真顔になった。
さらに、叩くのはコッチの役目だけど。そこも理解しているだろうか。
「――わたしも大概だけど、あなたもコドモだよねえ」
んー。ガキ二名。遠い目をしてそちらを見上げながら、てくてく地道に歩いて行き。
そういえばほぼほぼ赤の他人ではあるけど……一応遺体を運搬中なのだ。神妙にしていよう…と遅れて気づいて伏せ眼がち。
大分手遅れだが。
■ミシェル > 「はは、それもそうだ。よく言われるよ」
それははたして魔術なのか恋愛なのか。
とはいえ、専ら専門家の世界で働く分、結果さえ出せば相手は黙る。
世間離れした魔術師には結果が全てだ。
「おや、そんなに年は離れていたかな?僕の見立てだと同じぐらいだと思うが」
そんなことを言ってはぐらかす。
その最中にも杖の先で『マッサージ券』をさらにぽんぽんと叩いている。
最終的にどんな文面になったのかは渡された時のお楽しみかもしれない。
「僕は君と大人の付き合いがしたいのだけどね」
とうとう口説くのを隠さなくなってきた女男爵。
どういう大人の付き合いなのか。
箒は音もなく高度を下げて、ティアフェルの横をゆっくり進んでいる。
■ティアフェル > 「レッテルを剥がす気がそもそもなさそうだ……」
色々べたべた貼られても意に介していないらしい気配はつかんだ。
若干脱力したように呟いて春の蒼穹を仰ぐと殺伐としている地上のことなど解することもなく、悠然と巡る鳶が円を描いていた。
「? 同年代でも呼び方は間違っちゃいないでしょ?」
お兄さんとか禁断のおばさんとか云い出したらそれは可怪しいが。何に対しての突っ込みなのだろうときょとんと小首をかしげたが――要は適当に話をそらしているのだろう。誤魔化しムードに肩を竦め。
「無理でしょ。先に大人にならないと」
にべもなく箒で漂う隣を見て、こきこきと肩を回しながら嘆息混じりに返答。
こちらは徒歩なので速度に差異がでるだろう。無理に合わせてくれなくっていーよとは云っておく。樹海も深部は抜けて凶悪な魔物は出ない区域になってきているから。先に行っても構わないと一応告げておく。
歩く隣をすいーといける箒でわざわざのろのろ進むのもなかなかイライラしそうだし。
■ミシェル > 「貴族なんて生まれた時からレッテルまみれだよ」
はっはっはと笑いながらこちらも空を仰ぐ。
悠然と空を飛ぶ鳶は、獲物を見つけたのかどこかに急降下していった。
あちらもあちらで殺伐としているのだろう。
「それもそうかな。どうせなら『愛しのミシェル様』とか呼んで欲しいのだけどね」
話をどんどん変な方向に転がしていくミシェル。
相手が肩を竦めても、どこ吹く風だ。
「おや、君には十分大人の魅力があると思うけどね。
どうだい?今晩僕と一緒にワインでも」
付け加えて、何かあっても事だし、何より当事者と一緒でないとこの剣士の遺体の説明に困ると返す。
それに、こちらは先に逃げた弓士の向かった方向。
となればもうすぐ彼女を見つけた冒険者達と合流できるかもしれない。
一緒にいたほうが事の次第の説明に便利だろう。
■ティアフェル > 「そんなもんかね。むしろ生まれたのがレッテルまみれの家系だったって訳じゃないの?」
貴族全体を一括りにして説く乱暴さにさすがに肯きかねる様子で小首をかしげて。
レッテルを家のせいにしたらそもそもいかんなあ、と遠目で狩りをする猛禽を見た。
「はあ。何故に?」
惚けた表情でダイレクトに訊いた。初対面でそんな風に思うか思わないかで云えば後者。
いっぺんでそんなこと云い出したらいわゆる一目ぼれという現象なのだろうなと。
「――あらそうかしら。そう云われるのは満更でもないけれども――むしろあなたはちょっと子どもっぽいんじゃなくってミシェルさん?
それに葡萄酒はちょっと苦手なのよね……シードルならいいわ」
酒は飲めるがエールだめ、ワイン不得手、穀物酒が大体好きじゃない。酒の好みにうるさい女は誘いを辞退した訳じゃないが――好き嫌いは主張しておく。
真面な道と云う道もない森の獣道、時折スタッフで枝葉を薙ぎ払いながら進む物で、まあまあな鈍行だ。
■ミシェル > 「そういうものだよ。君だって最初は僕のこと『貴族』として見ただろう?」
仮にこちらが見るからに平民で、冒険者だったら、
血まみれでも構わずに差し伸べた手を掴んでくれただろうか。
「命を救った騎士様に、お姫様はそう言うのが童話のお決まりじゃないかい?
まぁ僕は魔術師だけど」
けらけらと笑うミシェル。
本気で言っているというよりは、からかっている様子だった。
「僕が子供っぽい?本当にそうかな?試してみるかい…ベッドの上で」
すす、と近寄って、顎をくいっと上げて。
瞳を見ながらそう言う様は、背後に星でも瞬いてそうで。
ふと、彼女がスタッフで枝場を薙ぎ払っているのに気づくと、ミシェルは自分の杖を軽く振る。
すると、そこから風の刃が現れて、猛烈な勢いで枝葉を切り払って道を作っていく。
「もっと気軽に頼ってくれてもいいんだよ?」
にやにやと笑みを浮かべる。
■ティアフェル > 「あなたにとっちゃそれがレッテルって訳?」
汚れた手で人に触れるのは基本的に誰であろうが躊躇うけど――確かに、貴族相手だと余計にやめとこうという気にはなる。
冷遇の差別優遇の差別、と差別にも二通りあるものだが、彼女は優遇という差別を受けがちなのだろうとは理解した。
「こんな血生臭い姫はリアルにボツっす」
揶揄と云うかただの軽口と受け取り、肩を竦めて微苦笑気味に、拭っても拭ってもまだべったりと血の沁み込んだナリで頬を掻き。
「そういう所が逆に子どもっぽいぜ。――それは大人ってことじゃなくって女ったらしってゆーのよ」
ずばん、切り捨てごめん状態で云い切る。顎を持ち上げられて持ち上げられた顎をかくかく、と上下に振ってしゃくりながら、べーっと舌を出したこいつこそそれなりにコドモだ。
「――できないことはちゃんと頼っているわ。
でもできることまでお願いしてやってもらったらそれって甘ったれてるだけだもの」
ぶわ、と前髪やスカートの裾を翻して障害物となる枝葉を薙いで行く不可視の刃に、一瞬目を眇めつつ、スタッフの先を向けるようにしてそちらへやり、一応できた道を辿って行きながら。
そうして進んでいると確かに予測より早く街道に出て、道の向こうに人影を見つけた。遠いが冒険者の集団のようだ。
■ミシェル > 「まぁそういう訳かな。少なくとも愛する女の子には一人の人間として見て欲しいんだよ」
どこか寂しそうな顔でそう呟く。
貴族として生きる恩恵は計り知れないが、しがらみも多いのだろうか。
「汚れなんて洗えば落ちる。君の可愛さはそんなもので汚せないよ姫君」
謙遜する(?)彼女に、きらりと光りそうな笑みを向ける。
そこは本気で言っているらしい。
「おっとっと、お気に召さなかったようだね。はは」
舌を出されても、余裕たっぷりの表情でにやりと笑っている。
と、釣られて前を見れば複数の人影。冒険者達もこちらに向かっているらしい。
ミシェルは箒から降りると、一緒に街道を歩き出す。
「見上げた心意気だね。惚れちゃいそうだ」
■ティアフェル > 「だけど、レッテルの呪いからは逃げられないことも知ってるって訳か。
ご愁傷」
軽く黙祷の所作を見せたが、確かに貴族同士の付き合いならともかく平民やそのさらに下を相手にしたいとなると障害の度合いは半端ない。恵まれた環境ならばその分のツケは払わされるもんだと納得した。
「マジか。じゃあ今日から身なりは血みどろでも心はプリンセス気取って活動してゆくので夜露死苦」
び、と大真面目な顔で親指を立てて主張する漢気すら感じる毅然とした物言いに姫感など微塵もない。
「わたしゃたった今から心はプリンセスなのー。そんな安い口説き文句でオチないのー」
大層ふざけた口を叩いて、今度はイーッとする顔は姫どころかその世話をする侍女の域にも達していない。なんなら門兵の方がマシなくらいだ。
「わたしの惚れると火傷するぜ――なーんてな! いっぺん云ってみたかったー」
とことんバカなことをカマしながら、街道まで出るとた、と駆け出す。遠くに集まっている連中に大きく声を掛けながら彼らを足止めして、その集団の中に例の弓士がいることに一応安堵して、それから事情を離して、剣士の遺体を連れ街に帰投する運びとなろう――風変わりな宮廷魔術師はどこまで付き合ってくれたかは、さて不明だが。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からミシェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にトーラスさんが現れました。
■トーラス > 冒険者は全ての責任を自身で担う個人事業主でありながら、
依頼を受ける際には一時的にせよ、継続的にせよ、徒党を組む事が多くある。
得意分野の役割分担による効率化に加え、生存率を格段に向上させる事が出来る為だ。
尤も、それは飽く迄も、経験や才能が近しい者達が組んだ場合の恩恵となる。
熟練が足手纏いの新米と組めば、当然、効率も生存率もへったくれもありはしない。
その不公平感を解消する唯一無二で、一番分かり易い方法が金、即ち、報酬の取り分だ。
他人の足を引っ張る半人前には、文字通り、半額の報酬しか支払われず、
熟練者や特殊技能持ちには二人前として、1.5倍や2倍の報酬を分捕る者も存在する。
そして、半人前同様、報酬の分け前を減らされる事が多いのが女性冒険者である。
これは差別等ではなく筋骨隆々の女ならば別だが、怪我を負った際に背負ってくれる男と、
まともに担いで走れない女、どちらと組みたいかと言えば常識的に前者であり、需要が減れば値が変わる。
だが、そんな女冒険者でも等分の、或いは、それ以上の好条件の分け前を得る方法もあり――――。
「――――さて、飯も喰ったし、明日も早いし、……そろそろ良いか?」
夜更けの森の中、焚き火に当たりながら、革袋の酒を呷っていた中年冒険者が傍らの女に声を掛ける。
相手は高額報酬の魔物退治の依頼を受ける際に分け前の等分を約束して一時的にパーティを組んだ女冒険者。
その条件は、疲労やストレスを体で癒す事、即ち冒険中に肉体関係を結ぶという極ありふれたもので。
■トーラス > そのまま、夜が更けていき――――
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からトーラスさんが去りました。