2019/08/02 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にゼロさんが現れました。
ゼロ > ――――この周囲に、魔物が多く表れているという通報があった。
 第七師団としては、魔族も、魔物も国民を脅かすものであれば退治が必要だと判断する。
 故に、白銀の鎧を身に纏い、仮面を被った兵士は、愛用の槍を、短刀を手にし、やってきていた。
 夜の闇の中、鎧にを身にまとった兵士は、風のように走り、森の中を、木々の中をまるで平地の様に駆け抜ける。
 その手にも、腰にも、明かりとなる道具を一切持たずに、だ。

 しばらく走っていれば、何やら人の声と複数の魔物らしき声に、走り回る音。
 その音を聞きつけて、少年はそちらの方へと足を運ぶことにする。


「―――いた。」

 十数匹のゴブリンと、それに追われている一人の冒険者、か。
 少年は右手に持った槍を持ち上げる。
 何の変哲もない槍、穂先から、柄まですべて鉄でできた槍。
 それを持ち上げ、引き絞る様に振りかぶり、投げる。

 ぐるぐると扇風機のように回転して槍はゴブリンの方へと飛んでいく。
 貫通力よりも制圧を目的としての投擲は、槍の重量と勢いをもってゴブリンたちを一度、薙ぎ払っていくだろう。
 そして、速度を速め、冒険者の方へと。

「王国軍第七師団だ。
 加勢するか?それとも、引き受けるか?」

 仮面の下から漏れるのは、くぐもっていても、男の声。
 とは言え、まだ少年と言える程度の声であった。

クレス・ローベルク > 「――!」

遠くから聞こえる風切り音に、耳聡く反応する。
新手かと判断したが、その判断は直ぐに間違いと知れる。
追ってきていたゴブリン達の内、その過半以上が薙ぎ払われたのだ。
槍が投げられた方を見れば、そこにはフルプレートの金属鎧を着た少年。

「王国軍……?いや、この際何でも良いや。
加勢プリーズ!大した礼はできないけども、感謝なら無限にあげるから!」

そう言うと、男はくるりと反転し、ゴブリン達に向き直る。
一対多ならどうにもならないが、二対多ならば何とかなる。
剣を構え、ゼロの後ろへと回る――盾にするためではなく、奇襲や回り込みに対する盾になるために、だ。

「頼みますぜ親分!後ろはこっちで固めますんで、思い切りやっちまってくだせえ!」

と、そんな軽口を叩きつつ。
男は彼にゴブリンの大群の相手を任せることにした。

ゼロ > 投げ放った槍は狙いたがわずにゴブリンをある程度薙ぎ払えたようだ。
 混乱している様子のゴブリンが見える、戸惑いの表情を向けるゴブリンと、冒険者。
 急な乱入に驚きを隠すことができないのであろう、それに対して少年は、無言で腰から二刀の短刀――という名のゴツいナイフを引き抜いた。
 クの字に曲がっている、肉厚で切り裂くために作られたであろうナイフ。

「礼などは要らない、国民の平穏を守るのが、俺らの仕事だ。
 むしろ、このような状況を見落としたこと、謝罪する。」

 向き直る青年に対して、淡々と少年は言葉を連ねて、ゴブリンに相対する。
 その全身は、銀色の鎧に纏われていてゴブリンの攻撃であれば、通ることは少なそうである。

「任された。」

 後ろを守るという男、その言葉に対して一言返し、少年は砲弾の様に走り出す。
 地面を踏みしめ、えぐり、一歩ごとに加速していく。
 先ず手前のゴブリンに、加速した肉体で、鎧の重量でそのまま体当たりし、手近な木にぶちかます。
 ドゴン、と言う音がしたかと思えば、拉げたゴブリン。

 唖然としているゴブリンの中に向かい再度走り、右と左のナイフを振るう。
 その右手のナイフは肉厚の峰で頭部をたたき割り、左手のナイフは首を一閃して狩り飛ばし―――三体、ゴブリンを減らす。

クレス・ローベルク > とんでもねえな、と男は思う。
一応、万が一の可能性を潰すために、男もゼロの後ろにくっついては居るが……しかし既に、その速度が異常だ。
確かに、プレートメイルであっても、身体に合わせてあるならば相応の運動性能を発揮すると知ってはいるが――それでは説明がつかぬ程の運動性能だ。

「(っていうか、それを除いてもすっげえな、オイ)」

洗練された力任せ、とでも言うのだろうか。
荒れ狂う暴風の様に機動し、吶喊し、ぶちまける。
移動を含めた全てが力づくであるのだが、その動き自体に無駄がない。
時折、奇襲をかけてくるゴブリンを処理はしているが――あの様では、それも必要だったかどうか。

「残り十五体――」

せめて、数などの情報だけは提供しようとそう思い、ぐるりと見渡す。
すると、ゴブリンの内一体が、そろそろと戦場から離れるのを目撃した。

「――群れの右後方!部隊長らしきゴブリン!
撤退しようとしてる。恐らく、情報を伝えに巣に戻るつもりだ」

ゴブリン二十体を屠る程の強者が居ると解れば、ゴブリン達のリーダーは、縄張りを変える事だろう――孕み袋となった、犠牲者達も一緒に。
男としては構わないが――少年にとってどうかは解らないので、一応報告だけはしておく。

ゼロ > 少年は、ゴブリンを処理しつつも、すぐ後ろに張り付く冒険者の技量に舌を巻いていた。
 自分の体は、薬物で、魔法で強化されている肉体であるのだが、後ろの青年はその自分に合わせて動いているのだ。
 自分を作り出した国―――この国ではないが、その国の理論で言えば人間の限界に近しい少年の体。
 それにすんなりとついてくるのだから、冒険者と言うものは、凄いと言えるのだろう。
 彼も、恐らくひとかどの存在、なのであろう、と。

 地面を踏みしめ、急制動をかけてゴブリンの石斧を掻い潜り、カウンターとしてナイフを左薙ぎに一閃して切り倒す。
 膂力とナイフの切れ味に任せた強引な一撃。

 15体、なるほど、残り、14体か。
 仮面の少年は、ゴブリンの数を、冷静に数えていく。
 自分の視界にない其れは、かの冒険者が捉えてくれるのであろう。
 何とも心強いことだ、と。

「承知、一匹たりとも―――逃がさん。」

 少年は冒険者の警告に従う。
 ぎゅるん、と勢いよく回転しつつ冒険者の指し示す方角に体を向けつつ、足元に手を伸ばして地面から石を一つ拾い上げる。
 今は、少年は一個の暴力装置であることを、示すであろう。

 石ころでどうするのか、聞くまでもない。
 ずしん、と周囲が震えるほどの震脚、関節を、筋肉をしならせて振りかぶる腕。
 十分に、力を蓄えたのちに銀の籠手が、勢いよく振り降ろされる。

 ―――ぱぁん――― ! ! 、と音がした。

 石ころは、空気を割いて飛翔し、離れようとしたゴブリンの頭を砕くのだった。


「冒険者!
 左後ろの二つ目の木の上、吹矢で狙われてる。」

 暗がりに潜むゴブリン。
 少年は仮面の能力―――闇夜を見通す力を十全に使い。
 彼に警告を。

クレス・ローベルク > 「うぉ、ナイスシュート!」

自分たちの部隊長が呆気なく殺されたことで、ゴブリンたちに動揺が走る――野蛮であるが故に、命令系統は単純。
そして、指揮官が居なくなった群れは、その統制を失う。
逃げ出すもの、逆に連携もなく襲いかかるもの――どちらにせよ、ゼロの相手ではあるまい。
だが、その時、ゼロの警告が。

「(吹き矢か!)」

ゴブリンが使う武器としては、高度な武器に分類される武器だ。
だが、男はそれを食らってしまった。
実に呆気なく、油断していたのかと思うぐらいに……

「うぐっ……う、っっっっっっっっっっっ!!!」

悲鳴を血が出るほどの食いしばりで噛み殺す。
そうでもしなければ、舌を噛んで絶息していただろう。
食らったのは神経毒、非致死性ではないが、しかしまるで全身の神経を針で突き刺される様な痛みを感じる。
だが、男は構わず、

「こっちに、構わないで……敵を殲滅するんだ……大丈夫、これぐらいは、経験済み……だっ……!」

樹に背を預け、痛みに耐える男。
しかし、その目に、少なくとも嘘や強がりの色はない。

ゼロ > 野蛮であろうとも、そうでなかろうと、指揮系統と言うのは、基本単純である。
 複雑だと逆に、部下が混乱してしまうものなのだから。
 そして、少年は先ほど宣言した事を、実行するのだ。

 冒険者は、手傷を負ったようで吹矢には毒が塗られていたようだ。
 ゴブリンは、知恵がある、悪知恵といえるそれが。
 そして、それは時に危険であるのだ。
 ゴブリンは弱いが、油断してはいけないとよく言われる。
 ゴブリン専門の退治屋がいるぐらいの存在であるのだ。

「―――これを被って待っていて。」

 彼に背を向けたまま、少年は彼に仮面を寄越す。
 少年のつけていた仮面、それを寄越した理由は着けてみればわかるだろう。

 そして、彼に言われるでもなく、少年は、動きを止めなかった。
 逃げ出すものから先に、斃していくのだ。
 容赦なく、命乞いを始めるゴブリンを無情に一閃していく。

 逃げられず、命乞いもできず。
 ゴブリンたちは、発狂し、襲い掛かってくる。
 数を頼みにするつもり、なのだろう。

 それに対応するために、少年は、最初に投げた槍を、手にする。

クレス・ローベルク > 「か、めん……?」

正直、最早身体を動かすのもキツイぐらいだが。
しかし、今までの行動を見る限り、彼は余計なことはしない。
であれば、少なくとも考えはある。

「(最悪でも、死ぬことはないのは解っている……とはいえ……キツイはキツイ、しな)」

ぐぐぐ、とゆっくりとその仮面を受け取り、それを着ける――
すると、痛みが徐々に引いていく。
勿論、激痛には違いないが、少なくともまともに頭が回るぐらい、には。

「(おお……)」

そして、男は座ったまま、ゼロの戦いを見る。
否、それは最早戦いと言える物ではない。
戦いと言うには、殺される側が決定的過ぎる。
慈悲もなく、容赦もなく、勿論愉悦などもありはしない。
ただ、そうするべきだからそうするというような、そんな殺し方だ。

「(あれが、所謂"英雄"とか、そういう風に言われるヤツなんだろうな……)」

だからこそ、今や自分は安心して倒れていられる。
少なくとも、この森の中で一番安全な存在は自分だと、そう確信して……男は、後をあの頼もしき少年に任せることにした。

ゼロ > 少年の仮面は、癒しの力を込められたものであり、それを被っていれば、彼の肉体は徐々に癒えていくだろう。
 毒素に関しても、普段とはかけ離れた速度で中和されていくはずである。
 そして、仮面をつけていれば判るだろう、闇が闇ではなくなっている。
 仮面には目の部分がないが少年が平然と動いていた理由が判るだろう。
 魔力の流れも見えるし、ゴブリンのいる場所も、見えるのだ。
 そういう仮面なのである。

 そして、彼はひとつ間違っている。
 英雄たる資質、少年は大きく欠けている物があるのだ。
 淡々と処理していく動きは、確かに頼もしいものなのだろう。
 しかし、だ。

 感情というものが、無さすぎる。
 只々、戦うものではなくて、作業でしかない。
 殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。
 倒し、斃し、斃し、斃し、斃し。

 一匹、一匹、駆除をしていく姿は英雄と言うよりも人形のようである。
 正確な軌跡をもって、槍は振り回されてゴブリンの頭を砕き。
 喉を突き貫き、絶命させていく。
 血の匂いをまとわせて、少年は殲滅していく。

 そして、一匹残さずに、ゴブリンを駆逐する。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 「(……にしてもこの仮面、便利だな)」

正直とっても欲しいが、しかし命の恩人相手に盗むような真似は駄目だろう。
毒素も殆ど抜けてきた――最悪の場合、無理矢理解毒する手段はあったが、しかし絶望的な痛みを伴う物だったので、これには感謝しか無い。
未だ多少の傷みは残っているが、しかし動けるようになった以上、さっさと返すべきだろうと思う。

「もう終わった?あー、凄いねこりゃ」

戦闘というよりは、災害が起きた後のような有様だ。
その中を、慣れた様に歩き、ゼロの方に近づく。
そして、仮面を外してゼロに差し出す。

「ありがとね、大分楽になったよ。
睡眠系の毒か神経系の毒かどっちかだと思ってたけど、1/2で外れ引いちゃったからさ」

先程の戦いぶり――殺しぶりを見ても、恐れも、何も感じない。
男にとって、というよりは、男の育った家にとって、"英雄"とはそういうものであり、そう育ったからだ。
故に、実に気楽に、それこそパーティを組んだ冒険者どうしの様に。

「でも、そのお陰で"わかった"よ。
ゴブリン達の巣の場所は、北東の洞窟から、300m以内の場所だ。
まあ、多分その洞窟の中が巣だと思うけど」

あっけらかんとそう言う男。
まるで解りきった事の様に。
吹き矢から塗られた毒から割り出したその情報を、ゼロに伝えた。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ゼロ > 「………。」

 返された仮面、少年は直ぐに身に着ける。
 元の仮面の兵士に戻る少年は、彼の事を見上げるのである。
 その後ろでは、死屍累々となっているゴブリン達、そして、薙ぎ倒されたりしている木々がある。
 彼の表現はぴったりなのであろう、災害が起きた後、と言うのは。

「態と毒を受けたのか。」

 彼の言葉は、毒があることを知っていた口ぶり、なぜ、そのような事をしたのだろうか。
 少年の質問は深く深く疑問が込められていたのだった。
 少年には、英雄と言う言葉は無かった。
 
 兵士として作られた故に。
 兵士として、作り替えられた故に。
 気軽な声に対しても、特に感情の揺れはなく、彼の言葉を聞いていた。

「―――その、判別方法を、教えてほしい。」

 何故、そこまで分かったのか、彼の冒険者としての知識に深い感銘を受けた。
 その知識はあればとても役に立つと思ったから、で。
 そして、振り向く、彼が示した場所の方へ。
 ゴブリンの巣の方へ。

クレス・ローベルク > 「うん?ああ、まあね。
君に命を救けられたんだし、それぐらいはしないとと思って。
致死性の毒じゃない事は、解ってたし」

男はあっけらかんとそれを肯定する。
しかし、その内面では僅かな驚きがあった。
言葉の内容ではない、その言葉に込められた、疑問の色について、だ。
男は、この少年なら、否、この"英雄"なら、それぐらいの事はするだろうと、そう勝手に思っていたからだ。
ただ、その後に教えてほしいと言われれば、納得する――考えてみれば、英雄と言っても、自分の家と同じ修行をしているとは限らない。
恐らく、彼と自分ではタイプが違う修行をしているのだろうと。
ならば、教えるのに否やはない――こういうタイプの人間には、積極的に親切にしておいたほうが、後で得になるものだ。

「うん、別にそれぐらいは教えるよ。
王国軍って言うなら、多分修行も安全にできるだろうし。
ただまあ」

そう言うと、男は腰のポーチから、火打ち石や着火剤、それと調味料を取り出す。
そして、近くに捨てて来た自分のバックパックを指差した。
中には食料と、それに調理器具が入っている。

「飯食いながら話そうか。
ゴブリンは全滅させたから、後大体5時間ぐらいは猶予あるからさ」

ゼロ > 「―――……、その判断と、知略には素直に称賛させてもらうよ。」

 彼の中では、その毒矢を受けても死ぬ事はないとわかっての事。
 計算ずくの行動のようだ、それは称賛するべきなのだろう。
 織り込んでの行動であれば、少年からは言う事は何もないのだった。
 彼の思う通り、少年は―――言わば。

 個対多数―――対軍兵器として調整された、戦争の駒である。
 軍隊や、群れに対しては最高のスペックを発揮する兵器であり、それ以外のスキルは並みの冒険者とさほど変わら―――否
 並の冒険者よりも低いと言っていいだろう、特化型と言うものはそういうものなのだから。

「ありがたい。」

 と言いながらも、動くことのない相手は、何やら準備を始めているのを見る。
 カバンから取り出される調味料に、鍋。

「それなら、これも使うと良い。
 補給は大事、だからな。」

 飯と言う言葉と、時間の猶予に関しては、彼の方が詳しいのだろう。
 其れであるならば、と少年は自分のカバンから、固形に固めたスープと、干し肉を取り出す。
 男が二人いるのだ、食料は多い方がいいだろう。

クレス・ローベルク > 「おお、干し肉と固形スープあるのか。
いや、これは助かるな。丁度干し飯があるんだ。一緒に入れて雑炊風にしよう」

そう言うと、早速準備に入る。
鞄の中には、鍋の他に、包丁やロープ、それに俎などもあった。
冒険者の装備というよりは、寧ろ行楽のキャンプに近い装備だ。
適当に枝を集めて火を着けて、ゼロから受け取った固形スープと、干飯を入れる。
後は適当に煮詰めれば、雑炊風の干飯の完成だ。

「ゼロの分は少し多めにしとこう。
若いんだし、沢山食べないとだし。あ、スプーンと器出しといてねー」

二人分の器に雑炊を注いで、完成。
いただきますと言って、男は食べ始める。
冒険者と言うには、割と綺麗な所作だ――少なくとも、かっこんだり、米を落としたり、そういう事はしていない。
尤も、

「うん、美味い!黒パンと迷ったけど、結果的には干飯で正解だったな!
……っと、待たせて悪いね。それじゃ、講義と行こうか」

喋りながらの食事になるので、そこのお行儀は良いとは言えないが。

ゼロ > 「長期行動するには必要だから。
 干し肉は手に入れやすいし。」

 ぞーすい、とはなんだろうか、この国の食べ物では聞いたことない。シェンヤンの方の食べ物だろうか。
 ポイポイと鍋に投げ入れられる干し肉と固形スープは水で溶かされ解されて、コメなる物が投げ入れられる。
 それを見て理解する、リゾット……だったか、それ系の食糧の事なんだな、と。

「――――。
 等分にするのが、公平だと思うのだけれど。」

 若いという言葉に、そのようなものなのだろうか、と少年は考える。
 冒険者も体が資本なのだ、若いとかそうでないとかで分けるのは違う気がしてならなかった。
 が、器とスプーンはちゃんと出しておく。

 出来上がった雑炊、少年はそれを食べていく。
 仮面を少しだけ上にずらして器用に食べるのだが、顔を見せないように隠しながらの食事。
 なのに、コメを落としたりはしない模様、食料は大事に食べるのだ。
 だというのに、速度は速くて、パクパクもぐもぐ、と。

「―――。」

 講義と言う言葉に、仮面を上げて彼の方を見る。
 こくり、とうなづいて、彼の言葉を聞く体制を見せる。

 

クレス・ローベルク > 食事を続けつつ、男は言う。
飲み込んでから話し、話してから食べるを繰り返すので、多少言葉は途切れだが、まあそれは仕方あるまい。
幸い、彼は短気な方ではないようだ……ゆっくり話すとしよう。

「まあ、言うて判別法っていうか、そういう修行法なんだけど……
要は、知識と経験なんだよね」

そう言うと、ポーチから地図と万年筆を取り出す。
そして、地図の内、洞窟の場所を示す記号に丸をつける。

「まず、この辺には洞窟は一つしか存在しない。
正確には後3つ程あるんだけど……そっちは別の魔物の巣なんだよ。
洞窟内で生態が完結してるから、外には出てこないけど」

わざわざ敵が居る所に自分から巣を作るのは考えづらいので、洞窟に巣を作るとしたら、此処だと言う。
では、何故洞窟に巣を作ると断言できるのか。
それは、毒と、ゴブリンの異常な大量発生――つまり、孕み袋を手に入れた事に関係すると言う。

「さて、問題。
君は今、ゴブリンだ。君は遂に念願叶って孕み袋である人間のメスを手に入れた!やったね!
――しかし、困ったことに、人間は大分脆い。特に人間のメスなんて奴は、筋肉もないし、森に放置して生きていられるほど頑強そうじゃない。
さて、君はこの脆弱な孕み袋を、何処に置く?」

此処で問題を出すのは、少年がどれほどに真面目で、どれほどに想像力があるのかを確かめるためだ。
敵の立場になって考える――これは、狩りの基本でも有る。
それを理解しているのか、そして理解しているとして、それを実践できるかを確かめて、そのレベルに合わせて話をしよう、と。

ゼロ > 「修行法……。
 知識と経験。」

 もぐ、もぐもぐもぐもぐ。仮面の下で少年は、ぞーすい租借しながら反芻する。
 経験は、まだまだ足りないところがある、知識もまだまだ偏っているのだろう。
 それを正すいい機会であろう。
 
 不意に取り出される地図、この周辺の地図だと認識する。
 少年の記憶にある三種類の洞窟を思い起こした。
 そのうち討伐に行くためにチェックをしていた其れであるが―――今は後に考えよう。

「そうだね。
 弱いというのならば、守らねばなるまい。
 子供を育てる点を考えるなら、十二分に防衛力のある場所
 その両方を満たすというなら拠点―――つまり、巣という事になる。」

 少年は思考して彼の質問に対しての返答を返す。
 そして、しかし、だ。
 なぜ、それで――――。

「巣が、割れてるとするなら。
 隠す必要もある―――か。」

 ふむ?
 少年は、先ほどの彼の言葉を思い出した。
 『ゴブリンの巣は北東の洞窟から、300mほどの場所。
  其処がおそらく巣になる』

 巣が、二つあるとするなら。と。

クレス・ローベルク > 「(……かなり深く考えてるな)」

敢えて、男は『洞窟に巣がある』様な言い方をしたが。
しかし、先程の言い方では『洞窟周辺に巣がある』言い方だった。
そして、男は嘘は言っていない。
巣は、二つある――正確には、二つ以上ある可能性がある、のだ。
とはいえ、これは敢えて驚かすためのフェイクのつもりだったのだが、

「理解の早い生徒だね。フェイントに引っかからなかったか」

教える際にフェイントを混ぜるのは、驚きで記憶を定着させるため。
言い換えるなら、そこが大事だと、教えるためだ。
だからこそ、此処を重点とするつもりで、

「そう。一定以上増えたゴブリン達は、砦と城の関係の様に、巣を分散させるのさ。
一番大事な孕み袋を"城"に置いて、その周りを"砦"で守る」

そうすれば、人間は"砦"をそのまま"ゴブリンの巣"と誤認する可能性もあるし、"城"が攻撃された際、"砦"の戦力を別働隊の様に動かす事もできる。
そして、

「俺が毒を食らったのは、その"城"の位置を確定させる為なんだ。
何せ、今の考えは、全部知識から来る予想に過ぎない――もしかしたら、ゴブリンは洞窟なんて見つけていないかもしれないし、見つけてたとしても、無視している可能性もある

・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・
十中八九そうであるだろうけど、そうであると断言はできない――だから、確実な証拠を見つける必要がある」

そこで、毒だ。
毒にも、種類がある。
死ぬもの、痛みを与えるもの、ただ眠りに就かせるもの。
だが、ゴブリン達に毒を調合するだけの知識はない。
あるとしたら、その場にあるものを適当に使うだけの――

「俺は、実家の修行で、大体百種類ぐらいの非致死性毒を食らっていてね――その見分け方も、大体解るんだよ。
この毒は、ある種のマムシの毒だ。
そして、このマムシ、主な生息域は洞窟なんだよ」

此処で修行法が出てくる。
知識と経験、それを覚えさせるには、両方同時に教えるのが一番手っ取り早い。
学生が声に出しながら言語の書き取りをするように、毒の知識と、経験を一緒に覚えさせたのだ。

「となれば、少なくともゴブリン達は、このマムシの近くに居る事になる。
そして、その場所は城に一番適している――洞窟という地形がそもそもそうだし、マムシの毒はそのまま武器にもなるしね
ついでに言うなら、孕み袋を長く使いたいなら、雨曝しよりは、洞窟の方がマシでもある」

故に、ほぼ確実に、彼等は洞窟の中にいる。
そう、男は断言する。

ゼロ > 「成程、増えているなら、今いる砦が手狭になる。
 それならば、砦を増やせばいいし、砦が増えれば守りも盤石になる。
 盤石になったところに城を作り、其処にこもればいい、という事。」

 そうなると、二つ以上の砦―――巣があってもおかしくない。
 ゴブリンは繁殖力が強いからそういうのもあるのだろう、と彼の解説にうなずくのだ。

「ゴブリンの思考はゴブリンではないから、推測するしかない。
 傾向を覚えて経験による選択するしかないと。」

 そして、そこで毒を受けた理由が判り―――少年は肩を落とす。
 なるほど、それは立派な経験で、いい判別方法だ。
 だが―――。

「それは、使えない、な……。」

 薬物を使い強化され仕切った体は、薬物に、毒に強い抗体を持ってしまった少年。
 毒を受けない故に、毒を受けての判別が使えないという事が判った。

「知識は理解した、経験はできないことが把握できた。
 あとは、貴方の先導をもって、城を襲撃する、だけだな。

 ―――捉えられた女性を助ける役割と。
 陽動として暴れる役割がいるな。」

 自分につかえない技能、それにこだわっても仕方がない。
 其れよりも大事なのは、捕虜―――捕まっている女性の救出に施行を切り替える。
 少年は彼を見よう。
 いい案があるかどうか、無い場合、どちらを選ぶか、と。

クレス・ローベルク > 「えっ、あの仮面の上に、更に毒物耐性あるの?それは予測してなかったというか、君の身体どうなってるの……?」

流石にそれは予想外過ぎた。
毒耐性がないからこその仮面だろうと思っていたのも有るし、そもそも毒が効かない人間というのが予想外過ぎた。
人間が凄いのか、この子単体が凄いのか……と流石に人間の可能性について深く考えてしまうが、しかし一応フォローはしておく。

「ま、まあ、自分でやれれば一番ラクだけど、それができないなら試薬や試験紙って手があるさ。っていうか、ウチの実家が頭おかしいだけで、大体のハンターはそうだろうし。
色や匂い、それに毒が効かないなら舐めた時の味とかでも大分解るし……ゴブリンぐらい人間に近い形なら、生け捕りにしたヤツで試せば良いわけだしね」

最後にさらっとえげつないことを言うが、この少年ならやるだろうと最早確信できる。
『怖い』とかではなく、『使えない』と言ったのが良い証拠だ。
彼は、戦いのためなら、自分も……そして、それが敵ならば他人も犠牲にできる。
そういうタイプだ。

それが嫌で、男は逃げ出したけれど。
そんなヤツは嫌いだと言えない程には、男は"英雄"への憧れを捨てきれていないし――何よりこの少年、普通に良い子だ。
せめて周囲の人間が良い奴なら良いな、とほんの少し願う。

ともあれ、伝えることは伝える事は伝えたし、後は巣の襲撃だ。
本当なら、後は彼に任せるつもりでいたが――乗りかかった船だ。
最後まで付き合おう。

「まあ、そうなるよね。
じゃあ、どっちがどの役割するかって事になるけど……これ、事実上一択だよね」

ゼロが陽動、クレスが侵入。
それがベストと言うか、他に選択肢がない。
クレスがゴブリンを相手にしたらタコ殴りにされるだけだし、ゼロが侵入するとしたら確実に鎧は置いていかないといけない。
お互いの装備や能力差を考慮すると、どうしたってそうなる。

「まあ、その為には君がある程度手加減して、敵が中に引っ込まないようにしないといけない訳だけど……その辺の心配はないか」

暴走とか、失敗とか、そういうのからは一番縁遠い存在だろう。
ならば、後はやるだけだ。
救出した女性に恩を着せるとかならともかく、ただ助けるというのはキャラじゃないが――偶には、英雄の介添人も悪くない。

「――っと、そうだ、聞き忘れた事があった。
俺の名はクレス・ローベルク。君の名は、何ていうんだ?」

こんな初歩的なこと、最初に聞くべきだったと若干罰が悪そうにしつつ。
男は、ついさっき出来たばかりの生徒――否、後輩の名を聞く。

ゼロ > 「魔術での肉体強化、毒や麻薬を含んだ薬品による肉体強化。
 この仮面は、生命維持のための物
 外したうえで全力を出し続ければ……体が崩壊する。」

 物理面、魔法面両方からの限界を超えた強化を行われている少年。
 その代償は肉体の崩壊―――簡単に言えば、強化に耐えきれていないのだ。
 仮面をしていたとしても、全力を解放すれば体が崩壊するのだ。
 そんな……実験台のような人間であった。

「試薬に、試験紙、確保が難しそうだけれども。生け捕りであるなら楽、か。
 尋問にも使える。
 それは、とてもいい。」

 さらっと言われるえげつない行為に、ああ、その手があるのか、と納得する。
 『敵』に容赦などはなく、慈悲などはない。
 彼の確信の通りに、淡々と粛々と行うのは間違いはないのだ。

 そして、話題は移動し、襲撃になっていくのだが。
 少年は、彼を見やる。
 彼の選択を求めるように。

「わかった。
 ならば、精々派手に暴れさせてもらおう。」

 とは言え、陽動ならば、ある程度手を抜かねばなるまい。
 だから、彼の言葉に対しては、一つ頷いて見せる。大丈夫だ、と。

「救出ができたなら、合図をしてほしい。
 そうしたら、殲滅をするから。」

 なにがしかの方法、彼ならば用意をしているだろう、合図さえ決めておけば何とでもなるだろう、し。

「王国軍第七師団所属偵察兵……ゼロ。」

 名字はなく、名前だけ。
 平民によくある形ではある、ちなみに偵察兵なので、実は潜伏潜入はそれなりの技量は持っている。
 彼が侵入をしてくれるのであれば、それに任せるつもりではあるが。

「ローベルク、よろしく頼む。」

 ちゃきり、少年は槍を持ちがちゃり、がちゃり、とわざわざ音を立てて、巣の方に先に歩き始めるのだ。
 其処からの救出劇の功績は、クレス・ローベルクに入るのであった。

 なぜなら、兵士として当然の事、褒められたりする必要はないと、殲滅終わった後にそのまま去るのだから。

クレス・ローベルク > 「俺とは丁度逆ベクトルの強化か……ソフトじゃなくて、ハード面の強化。
っていうか、その仮面そんな大事な物だったの!?
いやまあ、毒に侵された人間に不覚なんて取らないだろうけど……」

さりげなくとんでもないリスクを背負ってたんだなこの子、と戦慄する。
まあ、何というか、だから英雄は怖くて、凄いのだ。

「OK。救出できたら、そうだな……適当に狼煙でも上げようか」

着火剤はあるし、多分洞窟の中にも燃料のような物はあるだろう。
なければ服でも燃やそう。宣伝のために着てるけど、闘牛士服普通に暑いし。

「OK。ゼロね。それじゃ、後は頼んだよ」

ちなみに、この後、やってきた王都軍に、事情聴取と労いの意味も兼ねて城に招かれたのだが。
残念ながら、男は家出中の身。
闘技場関係者という肩書ならともかく、ただの冒険者という肩書で城に行くと、実家に連れ戻される可能性がある。
よって、『誘拐事件の最大功労者が城から脱出』という、何とも奇妙な事件が起きたりするのだが――それはまた、別の話。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 森林」からゼロさんが去りました。