2019/07/27 のログ
ご案内:「不思議な泉」にベルモットさんが現れました。
■ベルモット > 王都の門を出て街道沿いに歩いて行くと、誰かに破壊でもされたのか男女の判別がつかない朽ちかけの石像が一つ建っている。
像の横を抜けて街道から逸れた森の中に入ると、最初こそ道無き道だけれど次第に石畳の痕跡、木々の合間の苔生した古道に気付く。
後は道なりに森を往けば森の中の空白地帯、直径にして10m程のまあるい泉の周囲に緩やかに草も茂る不可思議な空間へと辿り着く。
泉の中央に設えられた台石の上には、水瓶を携えた乙女の石像が建っていた。
「なぁるほど……確かにこれは穴場かも!何より気兼ねしないのがいいわあ!」
──森の中に魔物の寄り付かない泉がある。
高熱に苦しむお婆さんに薬を上げた時に、御礼代わりにと彼女が話してくれた事なんだけれど最初は正直眉唾だった。
先日の出来事もあって森に良い印象が無かったからかもしれないわ。でもお婆さんが『昔は良く泳ぎに行った』。
なんて懐かしそうに笑うものだから、ついついと足を運んでみてしまったの。
結果は御覧の通りに透き通った水を湛えた美しい所で、衣服を脱いで荷物を纏め、颯爽と飛び込んで水遊びに興じるあたしの独り言も愉し気に跳ねようってもの。
少し冷たい水温も、火の精霊が錯乱でもしたんじゃないかって気温と日差しの前では心地好かった。
■ベルモット > 水面より手を翳し上げてから身体を逸らして足を上げ深く潜る。そんな水妖《フーア》のように泉に遊んでいると幾つかの疑問が浮上する。
話では泉だって言うけれど、水は何処から来ているのかしら。
植物が繁茂せず底まで見渡せる泉の何処からも水は湧いていない。これでは池だけど水は澱んではいない。
他にも泉の形状そのものも奇妙だ。所謂擂鉢状になっていて中心部に行くほど深くなっているんだもの。
だから2m四方程の台石も台と言うよりは石柱のようで、誰がどうやって建てたのか?なんてことも気にかかる。
「それに魔物が寄り付かないって理由も判然としないし……怪しい……」
顔を上げ、緩やかに水を掻いて泉の中央に向かい、乙女像が建つ台石に上がって彼方此方と触ってみる。
像そのものは2m程で材質は特別な所の無い石だ。風雨に曝され、所々苔生している以外は変わった様子は見られない。
誰かが管理でもしているのかしら?と視線を上に下にと揺らしていると、足元に奇妙なものを見つけた。
「……溝?いえ、これは……」
石像の足元に像を囲むように円形のスリットがある。まさかと思って像を右に回してみると、堆い月日の重みが二の腕に襲い掛かって来た。
でも、少しだけ動いたのが判った。
「お"っもっ!……ちょっとこれはあたしの腕力じゃあダメね。あたしの予想ならごりごり回せば何かがある筈なんだけど……」
無理をして身体を傷めたら元も子も無いのだからそれはせず、台石に座って足だけを水面に垂らす恰好で天を見上げた。
何某かの鳥が森の木々に切り取られたような青空を横切って行く所で、後を追うように風が木々を揺らす。
濡れた身体にそういったものは心地よく、不可思議な謎はあたしの精神に心地よかった。
ご案内:「不思議な泉」にルビィ・ガレットさんが現れました。
■ルビィ・ガレット > 稀代の芸術家兼建築家であり兄弟、デュドネかディディエ制作の石像が――、
風の噂で、とある泉の中央に建てられている、と。聴いた。
彼らは既に故人。出身も育ちもマグメールではなく、彼女の祖国から遥か北方だったはず。
誰かの無責任な憶測を、自分は掴んだのかも知れない。
――しかし、デュドネとディディエと言えば、祖国の陛下が愛している芸術家のひとり、いや二人だ。
もし噂が本当なら、さすがに持ち帰るのは無理だが、精巧な写し絵を残すか、
堅物で気難しいが写実派で、そのまま風景を切り取ったかのような絵を描く知り合いの画家に、
石像とその周辺の風景を画かせるか……そう考えて、半吸血鬼はひとり、探索をしていた。
そして。件の泉と思われる場所へたどり着いたのだが――、
「………」
先客がいた。以前、女がもったいぶって脅かして、別れ際に意地悪をした感じになった少女。
相手は無防備にも、裸身の状態で。目線のやりどころに困る、というほどではないが。同性だし。
ともかく、最低限の作法として、余所見をすることにした。
■ベルモット > 「……少し鍛えた方が良いのかなあ。ううん、あたしは天才錬金術師だもの。
腕力が必要だとしても、何か別のアプローチがあるわ。例えば……逞しいホムンクルスとかゴーレムを作るとか!」
背後の石像を見上げて、少し考えて渋い顔になって、けれども直ぐに猫みたいに笑って鼻を鳴らす。
天才で聡明な錬金術師さんは、星が瞬くように鮮やかな解をいつだって導くものなのだから。
それならあたしだってそうなるに違いないと──平穏な泉に高笑いが響き渡る。
「ま、今日の所は素直に水遊びに興じるけれどね。お婆さんに素敵な乙女像の泉だって教え──」
一頻り笑ってから立ち上がり、さてもうちょっと華麗に泳いで……なんて視線を巡らせた所で、何処かで見た誰かが視界に、映る。
「う"わあっ!?」
誰かが居る。
その一点であたしは吃驚して泉に落っこちて水柱を叩き上げ、けれども直ぐに水面に顔を出し、台石にしがみつく形で相手を見た。
忘れようにも忘れない。青白の光に満ちた花畑で出会った女性が──吸血鬼だと謳った女性が其処に居たのだから、
あたしがドラゴンに遭遇したコボルドーのような顔になってしまうのも無理からぬこと。
でも──
「……いやいや落ち着きなさい聡明なベルモット。今は日中だし、あの人の歯は尖ってはいなかったじゃない。
だから、ちょっと変わった転移魔法を使う人ってだけよ。そもそも魔物が寄り付かないって話じゃない、この泉」
あたしは聡明で、天才だから慌てない。
「こんにちは!ルビィさん……よね。貴方も泳ぎに来たの?それとも何か調べもの?」
よし、と小さく頷いてから努め務めて平時の声で御挨拶だってするわ。
■ルビィ・ガレット > わざと少女から視線を外しながら、考えていたことは第一声の内容。
急に声をかけては驚かしてしまいそうだった。驚かすのは此間やったし、今日はしなくていい気がする。
……とは言え、状況が状況だから、物言いにいくら気をつけても、少女を動揺させることは不可避な気が――、
「あ」
激しいと言うよりは、派手な水音があたりに響いた。
何事かと目線を泉中央に戻すと……少女が溺――れてはいなかった。
バランスを崩して泉にいったん落ちたものの、自力ですばやく台石に取り付き、
こちらを見ているではないか。なんだか健気に感じられた。
日中は弱体化するし、聴力も視力も人並みに落ちる。
腕力は、成人男性より少し強いくらいに落ちる。……それで。
彼女が自己暗示のように何かひとり言を言っているらしいのはわかったけれど。
それの詳細は、鮮明には聞き取れない。ただ、内容のニュアンスはなんとなく想像できた。
女は小さく笑うと、泉の際まで歩み寄り。
「こんにちは。ベルモット。……私は芸術家の遺産――創作物を探していて。
あなたの頭上にある乙女像が、ひょっとしたらそうかも知れないんだけど」
少し声を張って、そう少女に返す。
ちなみに女は聖性を帯びているものに耐性があるから、
ここに平気で来れた――というだけで。「魔物ではない」という保障にはならない。
■ベルモット > 緩やかに笑むルビィさんの表情は穏やかに見えた。
良く通る声は好く聞こえ、あたしは示されるままに頭上を見る。
そう言われると何だか良い造作な気がしなくもない。水瓶と掌に生えた苔とかがいい味をしているような気がする。
「へーえ、この像が?遺産ねえ……そうそう、この像。台石にスリットが刻んであって、どうも左右に回るみたいなのよ。
此処、泉だって言うのに水の湧き口が無いから、ちょっと怪しいなあって思ってたんだけど……貴方は何か御存じない?」
いや、苔は関係無いわ。
与太を閑話休題をとし、あたしは像を見てからルビィさんを視て、それからすいすいと水面を移動して彼女の傍の岸まで向かう。
「ちなみにあたしは此処の事は街で聞いたのよ。お婆さんに薬を上げたら御礼代わりにって教えて貰ってね。
ほら、今日って凄く暑いでしょう?話の真偽を確かめるのにとっても丁度いいと思って!」
探求心と好奇心は魔道を歩く者には欠かせないもの。
勿論無論にあたしも確り持っているのだから、岸へ上がるあたしの顔はそれはそれは晴れやかなもの。
「折角だから貴方も泳いでみたら?……ああ、でも吸血鬼って水泳は出来ないんだっけ?」
銀の武器、お日様の光、足が着かない水。
最後のは流れる水だったような気がしないでもないけれど、此処が真実泉であるなら何処かに水の流れはある筈。
勿論冗談めかして茶化した言葉だから、どちらにせよ意味なんて無いんだけど、意地悪の仕返しくらいも許される筈。
■ルビィ・ガレット > 「スリット? 左右に回る?? ……じゃあ、残念だわ。
デュドネかディディエ制作の石像かも知れないと、期待していたんだけど。
彼らが創るものにはあまり遊び心というか、仕掛けはないはずなのよ」
ただし、黄金比率に基づいて生み出される、彼らの精巧美麗には、
揺らぎようの無い、一定数の支持者とコレクターが付いて回っている。
遠目からでは、泉中央の乙女像の細部はわからないが……ともかく、
少女の話が本当なら、いくら出来がよくても、女が探しているものではなさそうだった。
「あいにく、私は何も。……確かに、暑いけれど。
街中で最近見かける『水着』を着るのも煩わしいほど、あなたには暑かったのかしら?」
こちらまで泳いでくる少女。泉や像の仕掛けについては、詳しいことは知らないと首を横に振った。
裸身を晒したまま、地上に上がってくる彼女には、遠まわしに指摘を。
こちらの間が悪かっただけだから、少女は何も悪くないのだが。ついつい薄い笑みを浮かべて意地悪を言ってしまう半吸血鬼。
「太陽がだめ、招かれていない家には入れない、鏡には映らない――いろいろあるけれど。
元をたどれば、あれは人間のでっちあげよ。宗教上の教え。
私たちを化け物呼ばわりして、信仰心の増強手段に利用していただけよ。
――天使のために、悪魔がいるんだと。聴いたことはない?」
曖昧な微笑を浮かべながら、すらすらと応えてみせる。
いや、少女の質問にはちゃんと答えていなかったか。
「水は平気。――だから、泳げる。泳ぐより、水の上を歩いたほうが楽だけどね」
■ベルモット > 「ええ、左右に回るの。あたしの予想なら……石像の立っている台石が水源の上に建っている。だと思うのよね。
この泉は擂鉢状になっていて中心が一番深いんだけど、普通そんな形って無いでしょう?
著名な芸術家が彫塑した物であるならば、きっと乗せる台座も拘……って違うの?なぁんだ、作風なら仕方ないわね」
創り出すものに込めるもの。
あたしなら多分に遊び心を詰め込んで、様々な人が色々に顔色を変えるような、幸せになれるようなものを込める。
芸術家と錬金術師は勿論違うものだけど、自らが望むものを作り出す。と云う一点に於いては同じ生き物なのだから、
あたしの自信満々な言葉は熟練の狩人が獲物を撃つように正しく当る筈──だったのだけど、
残念ながらにルビィさんの好きな芸術家さんはあたしとは路線というか作風が違ったみたい。
あたしは肩を竦めると立ち上がって纏めた荷物、濃緑の鞄まで向かって浴布を取り出して水気を拭い始める事にした。
「水着……国元だとああいうの無かったもの。あたし、湖で泳いだりする時はいつもこうよ?
殿方と泳ぐような事、無かったし……ああ、でも噂の水遊場とやらに行くなら誂えないと不味いって事は判るわ。
やっぱり土地ごとのルールってあるものだし……ところで、悪魔ってそういう成り立ちなの?」
髪の毛を拭い、身体を拭いて、それからに下着を穿いて身に着けて。
そうした水着に対する言葉に優雅に泳ぐように答え、けれども合間にルビィさんから紡がれる吸血鬼の謂れには
口に水を含んだかのように言葉が止まる。
まるで、根も葉もない噂に辟易としている。そんな風にも見えたし
「ふふ、まるで本当の吸血鬼みたいな言い方だわ。でも水を上を歩くだなんて幻想的ね!
やっぱりそういう魔術なの?それとも履物にそういう効果がある代物なの?」
超然と言ってのける様が堂に入ってて感心しちゃったのもあるのかも。
止まった言葉の次には歓声のように声が出て、手をぱしりと叩いて、瞳が弓のように細くなるわ。
まるで「やってみせて?」って口程に物を言うような眼差しを、矢のように飛ばすが如く。
■ルビィ・ガレット > 「ベルモットの推測が合っているとしたら。……石像を正しい作法――たとえば『右に1回、左に2回、後は左右交互に1回ずつ』みたいな――で回せば、泉の水が引いて、いかにも宝物を封じ込めた箱が出てくる、とか?」
代わりに、回答で遊ぶ半吸血鬼。女の言葉には遊び心と言うよりも、幼心みたいなものがちらついていたが。
仕掛けの謎解きに対する推理は適当だし、ひょっとしたら回転するだけかも知れないし。
もし台石の下に水源があるのなら、水が引くと言うよりも溢れるほどに湧き出しそうだし。変なことをすれば。
あいにく、乙女像は女が探していたものではなかったけれど。
無名であれ、著名であれ、腕のいい芸術家が創り上げたものだとは思う。
少女と話す際は……あまり裸身を見ないように意識するのも、かえって不自然、失礼かも知れないから。
せめて、相手の顔だけを見るようにした。少女の顔中心に目線を向け、その際、少し相手の素肌が視界に掠っても。
それは仕方ないことだろう。
「そう、ね……私も集団で水遊びする経験って無かったし。『水着』というのは、そのためにあると思う。
衣類を纏うとは、つまり、他人の視線を意識していることでしょうから。
私だったら、あなたみたいに人気のない場所で、ひとりで水浴びするほうが――あら、知らなかったの?」
水遊場で水着が必要なのは、そういった理由からだろうと。自分の見解を話して。
吸血鬼に纏わる伝承の根っこや悪魔の役割について、かいつまんで話したところで、
少女に僅かな沈黙が。それについては、女は面白がっているような表情で、聞き返して。
「……私たちの魔力はほぼ無尽蔵だから、高度だったり手間の掛かったりする魔術を習得するしか無いのよ。
――気が、狂うから。力を持て余してね。長命で、永遠に近い命を持つからこそ、かえって脆い面もあるの。
……退屈や無感動を厭うあまり、同胞同士の諍いも過去に何度もあったらしいから」
無表情に近い真顔で言う。顔にも声にも、どこか陰を落としながら。
とは言え、そこまで愁いを帯びているわけでもない。半分は若い世代として、
対岸の火事みたいに捉えている部分もある。だから、「過去に何度もあったらしい」と、
伝聞系の物言いだし。また、彼女は人間と吸血鬼のハーフだから、純粋な吸血種と比べれば、寿命は短い。
魔力に関しては、「ほぼ無尽蔵」に偽りは無いものの、女の場合、どちらかと言えば殺人衝動に苛まれることが――、
「私が水の上を歩くよりも、面白いことがあるわよ。
……ベルモット。あなた、普通の手鏡は持っていない?」
途中で長い思考を切れば。少女に向き直って。
意味ありげな笑顔で問うた。
■ベルモット > 「そうそう、そういう感じ!まあ、水源の管理をしているだけだとするなら、案外栓をしめるだけかもしれないけど」
あたしとルビィさんが二人がかりで銅像を回転させる光景を想起する。
ごりごり回ってがごりと鳴って、二人してハイタッチをした所で詰まった水が噴射して、
哀れ二人は台石ごと水に打ち上げられてしまう。
「………おほん。ええ、衣類ってやっぱり人目を意識するわ。例えば魔術師なら魔術師らしい恰好。
なんてのもある訳で、錬金術師なら錬金術師らしい恰好も当然とある。ルビィさんの今の恰好なんかは冒険者らしい恰好。よね?」
頭を振って想起を振り払い、空咳をして話題を切る。俯瞰した与太思考は無事に着地をし、
あたしは衣服の話題に胸を張るけれど、生憎と今の恰好は白無地の下着姿だから恰好がつかない。
その点については、衆目の前ではないと云う事で自分勝手に納得しておくの。
「ええ、知らなかったわ。これでも神様は信じる方だけど……貴方って怖い話が得意なのね。
吸血鬼のそういう話も知らなかったわ。あたしが知っているのだと……彼ら彼女らは鬼で、人の形をして人に紛れて人を貪る者。
天離る月夜を領土とし、日に拠る全てに仇成す宵闇の貴族。何処の国にも広く普いて逸話があって、夜歩きを諫める忠言の題材に成り過ぎているくらいに有名な怪物。
あたしの国だと霧雨の夜は妖精が子供を攫いに来る。なんて御伽話もあるけど、彼らは現実に其処に居る脅威。
竜種も厄介な脅威だけど、あっちは近寄らなければ大丈夫な事もあるし、身近にして最大の脅威ってなるとやっぱり吸血鬼じゃない?」
吸血鬼に襲われた犠牲者もまた血肉を貪るアンデッドや吸血鬼になる。一つの街に紛れ込んだ吸血鬼の所為で、町全体が蠢く死者で満ちてしまった。
そんな実しやかな噂は怪談の定番だ。
そういった定番からこそ外れるものの、夜中に寝物語で聞かせるならば、さぞや迫力があるに違いない吸血鬼談を語るルビィさんの様子は堂に入る。
けれども此処は夏空の下陽光も鮮やかに落ちる涼やかな水辺。どうしたって様子と調子はずれるもので、
言葉を返すあたしが怯むことは無い。何より、もう寝物語で怯える子供じゃあないのだから。
「鏡?勿論あるわよ。髪の毛が乾いたら髪の毛を結わないといけないし……これでいい?」
大人なのだから、身嗜みに使う手鏡だって抜かりはないわ。
濃緑の防水ザックから何処にでもあるような、一般的な柄付の手鏡を取り出して彼女に差し出すの。
■ルビィ・ガレット > 「……ベルモット、仰いよ。あなた今ひとりで何か、楽しいこと考えていたでしょう?」
空咳ひとつで騙されないぞ、とでも。女は言いたげに。
どこか愉しげに笑いながら、頭の中にどんなイメージがあったのか。
軽い調子で問いただす。飽くまで冗談の一種だから、無理強いはしないのだが。
「――そりゃ、そうよ。『人間の冒険者』の振りをしているのだから」
衣類や格好の話になれば、愉しそうな含み笑いを浮かべつつ。
意味深なことをひとつ言って。否、今更意味深でもないか。少女と初めて出会った時から、
「自分は人間ではない」と言っていたのだし。彼女がそれを、どこまで信じているかにもよるけれど。
「『怖い話が得意』……人をからかうのが好きなせいかしら。努力せずに長じてしまった感じ?
――冗談はさておき。……確かに、夜しか出歩けない吸血種もいるけれど。彼らは流布された噂や言い伝えの被害者なのよ。
元は太陽も平気だったのに、多くの人々が伝え聞いたものを信じ、強くイメージしたことで――、
まあ、つまり。強固な『共通認識』のせいで、虚構が真実に成り代わった。
……私の国では、吸血種と人間は結託――じゃなくて、解り合えているから。
本来の事象を塗り潰すほどの、恐ろしい神秘や奇跡は起きていないけれど……。
個人的には、最大の脅威は『人間』だと思うわ――パパが嘆いていたもの。
『仲間の一部は伝承や噂話に負け、【吸血鬼は日に当たると灰になる】という事象を許してしまった』と」
言葉の端々に、冗談だったり、どこか不穏なものが混じったりする。
本人は実しやかに言うものの、確認や実証が難しい話もあるし。
そして、話している途中で気づいたのだ。……少女の肝が据わっているのか。
ベルモットに動じた様子が無いことに。自分の話を作り話とまでは思わないものの、
やはり彼女は、自分を吸血鬼だと信じていないようで。……だからこそ。
「――ありがとう。……ねえ、よかったら一緒に鏡を覘きましょうよ」
疑いの余地を、少女から奪うことにした。
柄付きの手鏡を借り受ければ、空いているほうの手で彼女を手招きして。
叶えば、少女と一緒に鏡を覘くことになる……すれば。
そこには人外の風貌が映ってるわけで。
血のように赤い目、縦長の瞳孔……実物よりも更に白く見える肌。
髪は白に近い銀髪で、髪の一部が不気味に、赤く発光している。
耳は……小さく尖っている。歯は、女が口を閉じて笑っているからわからない。
ここまで見せても、少女が信じないのなら――その時は。試しに歯を出して、笑って見せよう。