2019/03/17 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > 『では本日の行軍演習はこれで終了とする!各自解散!
 早急に街道へ戻り帰還するように!』

森の中から声が響き、無数の蹄の音が大地を揺らす。
街道を駆ける駿馬の群れには、白銀色の人影が揺れている。

ここは自然地帯の森の中。
さほど魔物も強くなく、気候も安定しており、木々も鬱蒼とせずある程度見晴らしがよい。
騎馬隊の林中行軍演習にはもってこいの場所であり、実際その騎馬隊が訓練の真っ最中であった。


「……………。」

その騎馬隊が行軍練習を昼で切り上げて去った後、一頭の馬と一人の鎧騎士だけが森に残った。
巨大な体躯を更に巨大な黒緑の鎧で包んだ、ゴーレムとも見紛う大人間である。
彼は辺りの枯れ木をかき集めては山と積み、火打ち石で枯れ草に火を灯した。

要は焚き火である。

ヴィルヘルム > そして騎馬の首元、ちょうど鞍の前辺りに備え付けられたポーチから棒を取り出す。
その棒は中空構造になっており、引き伸ばすことで一本の長い棒になった。
それに針の付いた糸をくくりつけ、行軍用の糧食である魚の干物を取り出し、小さく小さく解す。
そして餌を針に突き刺し、小川へ投げる。
実にシンプルな釣りのスタイル。

「……………。」
本日のメニューは川魚の塩焼きの予定。

ヴィルヘルム > ……そんなこんなで数十分。
川魚の脳天を指で強く弾いてから塩をまぶし、串に刺して焼き始める。
串というより、そこらへんで拾った手頃な木の枝を削ったものだが。

一人分なので一匹でいい。
そこまで大食らいというわけではないし、何より最近は川魚の数が減ってきているという噂も耳にする。
領地を持った貴族連中の流したデマかもしれないが、気を付けるに越したことはない。

ヴィルヘルム > がしゃ、とヘルムが開く。
丹精だが、同時に雄を強く携えた青年の精悍な顔が、黒緑の兜の奥から覗いた。
青年…ヴィルヘルムは白煙を上げる魚の前に恭しく片膝を付くと、がちりと指を組む。

「我らが主神、ヤルダバオートの神名の下に、本日も糧なる命を賜りました。
 願わくばこの恵みが天に昇り再び地に還り、新たな美しき命と為りますよう。
 頂きます。」

…ヴィルヘルムには、特段強い信仰はない。この祈りも、形式上のものではある。
それでも、食した命に感謝し、滅ぼした敵を悼み、喪われた友を懐う。
それは、戦場という死の蔓延る場所に生を求める、自らの責務と悟っていた。

そして彼は、刈り取った命を食べ始める。

「…はふ、あっつ。あふ、ほふ…… はー、んまーい…!」

川魚に、塩。ただその二つの材料でしかないにも関わらず、眼を見張るほどに美味である。
行軍練習が昼上がりとなる土の日の楽しみであった。

「…モンドール、おいで。もう火は消したから。
 お前、戦場では平気なのにこういう焚き火は苦手だよなー?」

愛馬を手で招けば、愛馬もそれに応えて近寄る。
優しげに笑う青年の顔には、王国内での評判の影は微塵も見られない。

曰く、『鬼』。 曰く、『怪物』。 曰く、『不死身』。
如何な戦場でも、如何な劣勢でも、如何な強敵でも、
誰よりも速く戦場に辿り着き、誰よりも後に前線から離れる。
己の血で返り血を洗い、紅血を尾のように滴らせ、尚も敵を倒さんと膝付く事なく肉薄する蛇。
『紅の尾のヴィルヘルム』。それが彼の名である。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からヴィルヘルムさんが去りました。