2019/03/10 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 滝」にアルブムさんが現れました。
■アルブム > うららかに晴れた初春の昼下がり。日は燦々と照れど、まだまだ風は冷たい。
そして当然、滝に近づけばより体感温度は下がり、ましてや水浴びなんて時期尚早にも程がある。
……しかし。
「……………うう…………がまんがまん………!」
落差10m弱、幅2m程度、ギリギリ滝と呼べる規模のささやかな水落地。
浅い滝壺の真っ只中に、アルブムはピンと背筋を伸ばし、うつむき加減に立ち尽くしていた。
降り注ぐ冷水を背筋に受け、その打撃に肩を揺らしながらも懸命に耐える。滝行の最中なのだ。
ローブと雑嚢は川べりに乱雑に放置し、全身を覆う空色のタイツ1枚で、冷水の中。
保温性の高いタイツのおかげで少しは気楽だが、それでも寒いことには変わりない。
「……………《かみさま》、あとどのくらい…………えっ、あ、はい………黙りますぅ………」
《かみさま》に言われての滝行。アルブムに拒否権はない。
■アルブム > 水位は、アルブムが立てば股間にギリギリ達するくらいの程よい浅さ。
タイツにぷっくりと浮かび上がる男の子の証も、寒さで限界まで縮こまっている。
水に浸かる両脚も、降り注ぐ落水を受け止める背筋も、長時間の滝行で冷え切ってしまい感覚が鈍っている。
「………あうぅ………」
歯をカチカチと鳴らしながら嗚咽を漏らす。腋をぐっと締め、寒さと水の重さに耐え忍ぶ。
とんでもない苦行である。しかしアルブムは《かみさま》に許しを請えど、恨み言は吐かない。
すべてはアルブムの心の弱さが招いた問題ゆえである。
……悪者に対し、己の愉悦目的で罰を振るってしまったり。
……初対面の女性に不浄の穴を弄られ、恥ずべき快感を受け入れてしまったり。
とてもとても、聖職者としてあるまじき痴態である。今一度、己の心と身体を引き締めなければならない。
《かみさま》はそう思い、アルブムにこの滝行を課しているのだ。
実のところ、ここでの滝行はすでに3回目である。
それだけアルブムは心が弱い少年なのだ。《かみさま》だってそれを知っている。
まぁ要するに、これは修行を装った《かみさま》のいじめなのだ。アルブムは決して疑わないが。
■アルブム > 常緑樹に囲まれた手狭な滝壺、苔むした岩。
鳥の声、たまに獣の鳴き声があちこちから響くが、多くは滝の怒涛に阻まれてアルブムには聞こえない。
風光明媚な、そこそこ人に知られた景勝地。スピリチュアルスポット。
情欲に流されやすいアルブムを誘惑するものはココにはないハズ……だが。
「…………うううう……温まりたい……温かいもの、ほしい………」
冷水に身体の芯まで冷やされ、すぐにでもここから逃げ出して熱を得たい欲求に駆られる。
焚き火にあたりたい、熱いお茶を飲みたい、とろとろの粥を食べたい……。
……人肌に触れたい……。
「………ん、う……」
アルブムがこの国で触れ合った幾人もの人々の、肌のぬくもりを思い出してしまう。
己に触れてくる手の感触を思い出してしまう。お尻を弄ってくる手指のしなやかさまでも。
冷え切って痺れていたはずの臀部に、ちりちり、と甘い熱が籠もる。括約筋がひくつく。
甘美な愛撫を幻視し、縮こまっていた男性器までもがムクリと力を帯び始める……が。
「………ああああっ!? わ、わわわっ……痛い痛い痛いっっ!!」
突然、頭上からいくつもの氷の小塊が降り注いでくる。
ビー玉くらいのサイズで、直接当たっても怪我するほどではないが、痛く、そしてすさまじく冷たい。
思わず肩をすくめ、滝壺から逃げてしまいそうになる。
「……ごめんなさいっ! 《かみさま》、変なこと考えちゃってごめんなさいっ! もうしませんから!」
目をつむり、絞り出すように謝罪の言葉を叫ぶ。その悲痛さに、鳥の歌声がつかの間止まる。
《かみさま》の与えた氷の懲罰を、アルブムは逃げる寸前のところで堪え、その身で甘受する。
■アルブム > やがて時は過ぎ、空がほんのり朱に染まり始める頃。
「………………えっ? も、もういいですって!? わかりました、ありがとうございます!」
脳内に《かみさま》の赦しの言葉を賜り、アルブムの青褪めた顔が歓喜の色を帯びる。
冷え切って凝り固まった脚に懸命に力を込め、滝壺からの脱出を試みる。
水たまりを横切って5mほど歩くのに、1分以上も時間をかけ、アルブムはようやく岸にたどり着く。
「………あう、あうあうあうあうあうあう……」
冷水から身を引きずり上げても、吹き付ける夕風にタイツの水分がさらに冷やされ、寒さは変わりない。
肩を震わし、歯を鳴らしながら、アルブムはまずローブを羽織り。
そして覚束ない手指で雑嚢を開封し、あらかじめ拾っておいた小枝をガラガラと地面に撒き散らす。
小山の形にまとめ、そこに手を翳すと……火打ち石もほくちも無いのに、勝手に木々が燃え上がる。
パチパチと火力を増していく焚き火の前に屈み、アルブムは数時間ぶりの熱をその身に受けることができた。
「…………はぁ……温かいぃ……♪」
思わず顔がほころぶ。
■アルブム > 弱々しい焚き火だが、それでも近くで当たればとても暖かい。
濡れそぼったタイツが急激に乾き、骨まで冷え切った四肢にも熱が戻っていくのを感じる。
しかし、やはり体力の消耗は激しい。いつもどおり、今日もここで一晩野営してから帰ることになろう。
「………《かみさま》、いつもいつもごめんなさい。ぼく、いつまでたっても弱い心のままで……。
それなのに、見捨てないでいてくれる《かみさま》は優しいです」
ここまで自分を追い込んだのは《かみさま》なのに、アルブムはそんな存在に向けて感謝の言葉を紡ぐ。
脳内に、とくに返答は帰ってこない。
「……大丈夫、です。4時間しっかり滝を浴びて、全身引き締まりました。
もう二度と《かみさま》を呆れさせるようなことはしません。ですから、見守っていてください!」
儚く燃える篝火を見つめながら、得意げな笑みを浮かべるアルブム。
《かみさま》は知っている……この程度でアルブムの弱さが改善されるはずもないと。
アルブムは《かみさま》の手駒、いや玩具である。
玩具が理不尽な苦行を受けてなおさら従順さを見せる様に、《かみさま》はどんな顔をしているだろうか?
それは誰にもわからない。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 滝」からアルブムさんが去りました。