2016/08/16 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯/滝」にタウさんが現れました。
タウ >  孤独。
 冷たい水が体温を奪っていく。あらゆる音が遮断されてしまっていて、まるで水中にいるような錯覚さえ覚えた。
 曰く水はあらゆるものを拭い去る作用を持ち、故に身に浸ることで穢れや淀んだ意識を奪い去ってくれるのだと言う。
 遠くは淫魔に起源を持つと言うダークエルフにとってはなかなか頭の痛い問題だ。欲望に身を任せてしまえば楽だろうに、楽ではない道を突き進もうとするものがいた。
 視線を隠す為のつばの長い帽子の中に衣服を入れて、杖も壁に立てかけてあった。身に着けるは一枚だけの布服。目が見えぬわけではなく、見ない女は一人滝に打たれていた。
 白布が透けて体の線があらわになっていた。滝壷で胡坐をかき、瞑想に耽る)

 「……」

 呼吸だけが彼女の会話文であった。

タウ >  見ないと言うことは、相手の視線を感じることがないということだ。相手がいかに凶悪な瞳を持とうが、危害を加えられることはないだろう。視線を合わせることで作動する術も同様だ。見ないのだ。見られないし、気が付かない。そうすることで、外部からの影響を遮断していた。
 喋らないのだ。舌が汚れることはない。
 唯一あるとすれば耳だろうか。言霊を防ぐことはできなかった。
 滝が頭の上から下へと全てを押し流していく。横につんと張った独特な耳の先端から冷水が滴っていた。

 「……はぁ」

 ため息を落した。声帯を通さずに口の中だけで完結する言葉だった。
 身が凍えるような温度だった。肌と言う肌が引き裂かれていく錯覚さえ覚える。次第に指先が震え始めた。健康的な血色を帯びていた褐色肌が次第に青ざめていく。歯がかちかちとなり始めた。
 水は冷たすぎた。これ以上はもたないかもしれない。女は限界に挑みかかることにした。滝壷という風車目掛け突撃する騎士を気取ってみたのだ。

 「はっ……はっ」

 冷たい。寒い。許しを請いたくなる気持ち。
 限界を覚えた女は滝からあがった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯/滝」にアーヴァインさんが現れました。
アーヴァイン > 弓を片手に洞窟の中を静かに進んでいく。
こうした自然に生まれた穴は、悪党の巣窟にされてしまう事もあり、交易の阻害をされないようにと見かければ探りを入れていた。
とは言え、道中に人の気配は確かめられず、この暑い季節にしては肌寒い温度に感じるほど冷たさを感じる。
こんなところをねぐらにするには無理があるかと思ったところで、僅かだが呼吸の音が耳に届いた。

「…」

更に音を鎮めながら進んでいくと、洞窟の奥へと到達する。
水しぶきのはげしい滝から上がってくる女性の姿を見つけると、弓を背中の鞘に戻しながら近づいていき、片膝をついて掌を差し出す。

「大丈夫か?」

水浴び…というよりは、足を滑らせて落ちたのだろうかと思いつつ問いかけた。
まさか滝行をしていたとは思っておらず、苦笑いを浮かべて様子を見やる。
冷えきった体の様子に、不幸にも水に落ちたのだろうとばかりおもってしまう。

タウ >  何かの気配がした。足音も同時に耳を打った。エルフ族特有の長耳がびくりと傾ぐ。
 どなたかいらっしゃいますか、と心の中では言っている。口には出さないし、出せない。
 しまったと悔やんだ。修行中水にさらわれては面倒だと、目元を隠す布をつけていなかった。つけているのは前の肌蹴た白服一枚だけだ。
 足音が自分の前で止まる。なんとなく音の方角に頭を向けると、かすかに音がさえぎられた。

 「……」

 こくんと頷く。またも、しまったと思う。羽ペンと羊皮紙は荷物の中だ。服一枚だけでは筆談も利かない。
 差し出された手を、これまた手探りで探し出そうとする。
 地面を探す。ぴとりと何かに触れた。それが男の膝であるとは思わず、手を順番に上に運んでいく。胸元。首。ああ、と頷き、手を握って。
 触れた手はお湯か何かのように温かかった。自分が冷え切っていることに気がついた。
 カチカチ鳴り響く歯を止めようとして。

 「くしゅん」

 くしゃみが出た。恥ずかしそうに口元を抑える。

アーヴァイン > 「そうか…こんなところで水に落ちた上に凍えたら、最悪の場合死にかねない。散策するにしても――」

頷いた彼女の様子に安堵しつつも、ここは人目につかなすぎて危険だと注意しようとしたのだが、這い上がるような掌の動きと、閉ざされた瞳に気づき、少し驚くもののこの状態に納得がいく。

「目が見えないのか…随分なところに迷い込んだものだ」

苦笑いを浮かべつつ、身体を引き起こそうとしたが、くしゃみと恥じらうしぐさに愛らしさに笑みが深まる。
立てるか? と問いかけながら様子を確かめると、腰のベルトに連ねた小物入れから折りたたまれた手拭いを引っ張りだし、広げたそれを彼女の片手へと掛けるように渡そうとする。

「気休め程度だが、それで体を拭いたほうが良い。着替えか何か持っているか?」

水気で張り付いた白い服を一枚だけ羽織った姿は、流石に朴念仁とか言われるこの男でも、目を惹くものがあり、ジロジロ見ないようにと視線を落として反らしていく。
とりあえず乾いた場所へと移動しようと、水飛沫のかかってない方へ促す。
立てないようなら、さも当たり前のように横抱きに抱えて連れて行こうとするだろうが。

タウ >  見えないのではなく見ない。言わないのではなく言えない。道のためであるが一般的観点からすれば苦行であった。
 相手が驚きに息を呑む。そのかすかな音さえ聞き取れる。目を閉ざして生活していると、耳が鋭くなるのだ。

 「……」

 首を振って否定はするものの、疎通が正確に取れていないであろうことは明らかで。別の意味にとられたかもしれぬ。
 手に布がかかる。はて、何の布かと鼻を近寄せてみて。手ぬぐいらしい。胸元で手を合わせると、顔を拭って、濡れた首元を拭いた。
 濡れた薄い白服は、ぴっちりと張り付き扇情的な体の線を浮き彫りにしていた。褐色肌に白布のコンストラスト眩しい胸元が肌蹴ていた。
 手を引かれたので腰を上げようとする。寒い。体の芯まで冷え込んでいる。ふらついた。危ういところで男にもたれかかる。

 「……っ」

 腰を抱かれ、足に腕をまわされる。驚きに喉を鳴らした。
 運ばれていった先は自分の荷物置き場だった。
 降ろしてもらうと、手を合わせて柔和に微笑み、

 「……」

 するりと白布の服を肩から落として着替え始める。
 頓着しないというよりも、どうせ見えていないならば相手を反対側向かせても無意味だという考えからだった。

アーヴァイン > 「…? 迷ったのではなくて、何か意図があってここに来たのか?」

迷ったのではないと答えが帰れば訝しみながらといかける。
木綿の手拭いはタオルのような厚みはないが柔らかく、肌触り良く水分を吸い取っていくだろう。
ふらついた身体を抱きとめると、やはり無理かと思いながらその体を軽々と横抱きにしていく。

「…あぁ、驚かせてすまない。だが、歩かせると危なそうだったものでな」

これなら安全だろうという選択だったらしく、変わらぬ声色で優しく紡ぐ。

(「あぁ、この手を合わせる仕草は礼の意味があるのか…」)

先程も見せた仕草の意味がわからなかったが、二度目の手を合わせた仕草に意図を理解すれば、大したことはしていないと呟き、緩く頭を振った。
風邪を引かぬように、魔力を使って空気を温めようとしたのだが…無遠慮に脱ぎ始めるのが目に飛び込むと、慌てて彼女に背中を向ける。

「…ぁー…流石に男の前で急に着替えるのはやめた方が良い…ここらだと、嫌な思いをさせられる」

少しでも厭らしいと思える一瞬があれば、ここらに住まう男は見境なく女を襲うことが多い。
彼女の無防備とも言える仕草に、慌てたのが分かるほど音が乱れた声で注意を促すと、背中を向けたまま周囲の魔力に自身の魔力を溶けこませていく。
活性化した魔力から放つ熱を、風を操って周囲にとどめていき、二人の周辺にだけ暖かな空気が滞留していく。

タウ >  「……」

 口を開き、首を振る動作を相手の前でやってみせる。しゃべることが出来ないのだと。伝わっただろうか。
 背中に手をやり両足を抱え込む抱き方をされて流石に驚くも、抵抗はない。初見でわかるのだ。相手は突然襲い掛かってくる暴漢の類ではないと。
 すとんと布服を肩から落とす。
 鎖骨から始まり薄く筋肉の浮いた腹の上に終わる褐色の豊かなふくらみが露になった。

 「……」

 嫌な思い。首を傾げると、悪戯っぽく口元を引き上げる。
 相手はきっと背中を向けているのだろう。理解すると、面白おかしそうに喉を鳴らした。
 急激に、辺りの大気が活性化し始める。熱だ。不自然に暖かい空気が発生すると、膜の内側に閉じ込めたが如くあたりに押しとどめられている。
 
 『ありがとうございます。訳あって喋ることが出来ないのです。目も開くことは出来ません。
  私はタウと申します。貴方様のお名前を頂戴したく』

 いつも羽織る服の上着だけを肩に引っ掛けると、荷物から文房具と羊皮紙を取り出しさらさらと一文を記す。
 背中を向けている相手に渡すべく、手を伸ばす。背中ではなく腰にぶつかった。ぴとり密着すると手を肩に持っていく。
 丁度相手の背中方面から近距離に身を寄せて羊皮紙を前方へと運んで。
 あいも変わらず胸元は肌蹴ているが。

アーヴァイン > 「……声が出ないのか?」

仕草だけでは上手く伝わらないが、まるで喋らないのは声を出せないのだろうというところまでは察する事ができた。
背中を向けると衣擦れの音が僅かに耳に届き、これはこれで性的なモノを煽られるところがある。
落ち着けと自身に言い聞かせながら、笑っているのも気づかず、深呼吸していく。
不意に腰から肩と何かがぶつかるのが分かる。
近づく気配に、肩越しに差し出された羊皮紙を確かめると、彼女の方へと振り返ろうとしたが、胸元がはだけているのに気づくとバッと直ぐに背中を向け直した。

「……開けない、喋れない、ではないんだな。何か意図したものがあるのかな? 俺はアーヴァインだ、よろしく、タウ」

見えてないにしても、身体を隠さないのは無防備過ぎると背中を向けたまま、困ったように眉間に僅かだがシワを寄せる。
また振り返って裸を見てしまうわけにもいかないと、そのまま言葉を続ける。

「タウは…自分の周りが目で見えないかもしれないが、ちゃんと身体は隠した方がいい。体目当てに襲われるのは嫌だろう?」

彼女の安全を気遣っての言葉をかけるも、僅かに見えた艶姿が傍に置かれたままだと思うと、心が乱れる。
思春期じゃあるまいにと心のなかで呟きながら、少しだけ俯いた。

タウ >  アーヴァイン。口が人名を音もなくなぞった。

 「……」

 一度振り返りかけた相手が慌てて背中を向けると、口元を押さえ音もなく笑った。
 触れ合うような距離だ。音や服の接触で相手の姿勢や向き位なら把握できる。声は低いが年齢は案外若いのかもしれないと思った。
 顎に手を宛がうと、再び羊皮紙に文を記して背後から見せた。

 『教えの為ですわ。邪教の類ではございませんからご安心ください。
  それでは、アーヴァイン様は襲うようなお方なので?』

 やけに丁寧な文体であった。相手を試すような内容でもある。
 もし理性が飛んで襲い掛かってしまうような輩であれば既に手を出しているだろうし。そんな考えがあったらしく。
 言われなくとも着替えるつもりではある。髪がびしょびしょなので、その場の敷き布の上に腰掛けて、鞄から大手のタオルを使い水分を飛ばしていく。
 紙を渡すまでもない。相手の裾を引っ張って同じ敷き布に座らせようとして。
 にこにこと笑いながら、敷き布の上を叩いている。
 両足を曲げて腰掛けている状態。裾から腹部と腿がちらついていた。
 お話でもしましょうよ、という意味合い。それでなければ座りましょう、という意味くらいは伝わるだろうか?

アーヴァイン > 20代の割には口調は穏やかであり、歳を重ねたように落ち着いている。
声が大きな判断材料なら、そんな違和感を与えることもあるだろう。
再び笑みを浮かべられているとは思いもせずに、再度差し出された紙には、閉ざす理由と試す言葉。
なるほどと前者には頷いていたが、続く問いかけには僅かに間が空いてしまう。

「――ゼロとはいえない。俺も男だ、何かのはずみで君に手を出すかもしれない。だから、絶対ないとはいえないな」

安易に大丈夫と言えず、小さな可能性にすら気を払ってしまう。
仕事柄用心深いといえば聞こえは良いが、すこしばかり細かいとも言える。
裾を惹かれるがまま振り返れば、敷き布の上を小突く仕草に求められる意味合いを察すれば、布を汚さぬように靴を脱いでからその上へ腰を下ろす。
相変わらず防備の薄い格好に、視線が定める先を求めてさまよう。

「教えといったが…さっきの言葉からすると宗教的なものか、まさかと思うが、滝行をしにここへ?」

宗教と滝と重ねれば、この答えにはすぐに辿りつけた。
だが、それでもこんなところでやるには危ないのは変わりなく、苦笑いのままに問いかければ、結局視線の先はほほ笑みを浮かべる彼女の瞳へと向かう。
それより下には視線を落とさないように、気を払いながら見つめる。

タウ >  年齢を知るには顔に触れるしかない。手、顔、胸元、腹部。それぞれに触れれば大まか判別が付く。
 触れられればの話だが。故に女の判断材料は声くらいなものだ。印象としては落ち着き払った中年男性位には聞こえていたが。
 男は言い切れないと口にした。
 ここに至って羞恥心が沸いてきたのか、寒さから解放された為に血気が戻ってきたのか、顔が高潮していく。

 「………っ」

 頷き、頷いて、ぴたりと動きを止める。
 男の視線の先がどこに刺さっているのかを知ろうと耳を澄ますという無駄な努力を重ねた。
 男が隣に腰掛けると、すんすんと鼻先を鳴らした。
 前が開きっぱなしだった着物の帯を纏わせると、両足を横に折って座る姿勢に切り替える。
 男の声が向かってくる。正面。こちらを見据えているのだろうと推測した。
 髪の毛の水分を取りつつ、片手ですらすらと筆を走らせて顔の前で紙を振った。

 「その通りです。私はここに身を清めに参りました。
  いいところがあると聞いてやってきましたが、危ない場所なのですか?』

 だとすると、男以外の危険な人物と遭遇していた可能性もあるわけで。
 いまさらになって恐ろしくなってきたのか辺りを開いていない瞳で見回す素振りをした。
 横に折られた足は途中で交差していて。しなやかな線を描き足の付け根に収束していたけれど、布服の裾で見えない。

アーヴァイン > 素直な言葉を投げかけると、先程まで見えなかった肌への羞恥の様子が浮かび上がり、僅かだが欲望が心のなかで疼いた。
恥じらい、崩れる一瞬に弱い男としては、そんな小さな仕草がとても好みで、僅かだが目元から視線をそらしてしまう。

「……ここにいる、見ないようにするのは大変だな?」

自分の位置を探るような仕草に、ゆっくりと掌を伸ばし、彼女の肩へと触れようとする。
届けば伸びてきた位置から、自分の位置がわかるだろうと思ってのこと。

「そうか…確かに静かで良い場所かも知れないが…人が寄り付かない分、何かが起きたら助けが呼べない。それに人気のない場所は、悪党のねぐらになりやすい。俺も通りがかったついでに、そうなっていないか探りに入ったんだ」

悪党が入り込んでいれば、彼女は間違いなく餌食になっていただろう。
おまけに声も届かぬ洞窟の奥、犯して放っておくにはうってつけである。
そうでなくとも先ほど凍えかかっていたのもあり、いろいろと危ういのだと改めて語る。
足を組み替えていく彼女の様子に、修行の身といった割には自由というか無邪気というか、真っ白いイメージを感じさせられて、思わず笑みが零れた。

タウ >  相手の欲望など露知らず。
 手のひらが伸びてくると、肩に触れた。手の位置。声。大まかな居場所をつかんだ女は、相手の顔を正面から見つめる位置取りを取った。
 もっとも目は閉ざされているのだが。
 肩に触れた手に手を置くと、無遠慮にも触っていく。皺の深さ。爪。肌の水気。年齢を推し量る意味もあった。
 相手の言葉には音のない相槌を打って反応していた。

 『とはいえ、人の多い滝では修行になりませんもの』

 古風な文体が踊る。さらさらと速度を重視した、達筆からやや外れた文章の列。
 肩をすかす動作を見せる。
 相手が笑っている声を聞いた。何がおかしいのだろうかと小首を傾げる。
 もしかして、とんでもないおかしな格好をしているのだろうか。頭を触ってみたり、服を調えてみたり、足を組みなおしてみたり。
 判明せず、首を傾げるばかりだった。
 さらさらと文章を追加する。

 『するとアーヴァイン様は自警団に所属しているのでしょうか?』

 人気のない場所で暴漢の類がいないかを警戒するものといえばそのくらいしか思いつかなかったのだ。
 紙が足りない。別の紙を探すも、見当たらない。困ったように自分の喉に触れた。

アーヴァイン > 肩に触れると、その手をさらに色々と触っていく様子をみやり、されるがまま触らせていく。
目に見えない分、こうして相手を知っていくのだろうかと思うと、もう少し距離が近いほうが良いだろうかと考える。
少しだけ距離を詰めて座り直すと、羊皮紙の言葉に軽く首を傾けた。

「そうなのか、こう…気配や音がうるさくてだめなのか?」

観光地のような場所で滝行をしているのを浮かべるも、出来ないというよりは煩そうだと思えてくる。
こちらの笑みに何か慌てふためく様子が見えれば、笑みに反応したのだとすぐに分かり、再び頭を振った。

「格好というか、タウが修行の身という割には無邪気というか…自由というか、そんな感じがした。近い年頃の女性にこういうのも失礼なのかもしれないが…可愛らしいと思った」

妖艶な体付きをしているのとは裏腹に、子供のようなマイペースな雰囲気が心地よく感じる。
だから和らいで笑みが浮かんだのだと、微笑みのまま語ると、続く問いに頷きながらも、外で待つ相棒たる使役獣に少しだけ静かにしてもらうように思念で伝えてから、わずかに魔力をまとう。

『自警団というよりは、九頭竜山脈の麓にある集落の長をしている。ここらは集落の交易路に掛かる場所だ、滞る事なく交通ができるよう、帰り道のついでに見回りをしたんだ』

使役獣と離れて通話するときに使う、思念の会話を彼女へと伝えていく。
触れた状態であれば念じるように喋ることで、こちらに伝えられると、意思伝達の方法を伝えれば、微笑みながらしゃべり方を教える。

タウ >  触れることで相手を深く知ることが出来る。それは目が見えていようがいまいが同じことだろう。
 男が首を振ると、直球でこちらのことを表現する。可愛らしいと。
 果たして喜ぶべきなのだろうか。年を重ねることをよしとする文化であれば憤慨するだろうし、逆ならば逆である。
 彼女自身がどう思うかにもよるが――――。

 「……」

 赤面していた。夕日があった。
 文面では流暢な女性を想像させるだろうが、その実はまともに男性とは会話も出来ない程であるなどわかったものではなかろう。
 魔力の作動。思わず肩を揺らし、その方角を探ろうとした。

 『……!? あ、なるほど……念話……ですか。先ほどの答えですが修行するからには人と音を断たねば……』

 念音で相手の思考に届くは、か細い透き通った声であろう。
 文章上の流暢な文字列とは明らかに反対のおどおどとしたどもりがちな声で。
 念話は使えないわけではないが、苦手だったのだ。専門が身に霊を降ろす術だからだ。
 言葉が通じるということがわかると途端に赤面の度合いが強くなっていく。タオルを頭に乗せて、口元を隠してうつむいていた。

 『長様……出すぎた真似をしました。無礼があれば謝罪いたします。
  そ、それにしても可愛いだなんて………そんな……』

 念話というのに酷く感じ取りにくいまでに音が低下していく。
 長ということは目上である。失礼はなかったかと気配を伺うべく顔だけを向けた。瞳は開かずじまい。

アーヴァイン > 可愛らしいとストレートに伝えていくと、褐色肌に浮かぶ赤色がよく分かるほどに恥じらっていた。
奥ゆかしい語りをしていた様子とは違い、何故か子供らしい愛らしさを感じさせられる。
不思議な人だと思いながらも、恥らいに一層笑みが深まっていく。

『失礼、驚かせてしまったかな? そうか…音を立つ必要があるのか、そうなると人里離れる必要があるが…それでもここは危ういな』

隔絶されすぎていると、彼女の要望には納得するも危険と思える。
落ち着いた文体とは逆に、どこか落ち着きのない音が脳裏に響くと、これが彼女自身の性格なのだろうと受け止めていく。
同時に一層恥じらう仕草がぞくりと心をかき乱す、欲と言うよりは、心が擽られて心地よい肌の粟立ちを起こす。

『いや、そんなに畏まらなくていい。俺としても気楽にいてくれたほうが嬉しい。 そうか? こうして思念とはいえ、音のイメージも伝わると一層可愛いと思ったよ。君の本当の部分はこんな感じなのかと…悪い輩より先にここにこれて、本当に良かったと思う』

こちらは思念となってもペースも口調も変わらない。
それどころか、その落ち着いた音と響きで遠慮無く甘い言葉も連ねていく始末。
音が僅かに弾むように明るく響くのは、見えなくとも彼が嬉しそうに微笑んでいるのが伝わるかもしれない。
俯いた顔をもっと見たくなり、肩に触れていた掌を無意識に滑らせて頬へと伸ばそうとする。

『…確りと顔を見せてほしい』

伏せられた恥じらいの顔を見たいと、確かめる程度に顔を向けるぐらいでは満たされず、もっとと語りかける。

タウ >  本質的には根暗なのだが。文で言葉を伝える時だけは一人前のお嬢様のような口調になってしまうのだった。
 言葉を音にしてはならない。逆を返せば音を立てずに言葉に出来るならば、よい。
 つまるところ念話という手段であれば通常通りしゃべることができるのだが、肝心の女の才能がなかった。

 『ええ、そ、そうです。しかし畏れ多い』

 目上は尊敬せねばならぬ。そういった社会の生まれ故の態度だろうか。
 目と口を塞いで暮らしていると、心のざわめきのような他者の精神の音色までが聞こえてくる。多少なりとも男の変化を聞いていた。
 変化の詳細まではわからなかったが。

 『そうですか……私は、つい文だとですね……気が楽なのであることないこと書いてみたり……
  あっ、今のはなかったことに……先にですか? アーヴァイン様は悪い人じゃない……ですよね? です、よね?』

 口説かれているのだろうかと思った。まさかと思ったが、どうにも男の様子がおかしい。
 念話で質問を投げかけてみるも答えが返ってくるかは怪しいところだった。
 微笑の様子は見えなかったが、弾む言葉で表情を推測することは容易だ。
 肩から手が離れていく。手を失った手は自身の腿の上にすとんと落ちた。手が自分の頬に添えられると、細い肩を揺らし俯いて。

 『顔を………? 顔だけですからね……』

 顔だけならばと念を押す。
 目は開かないままで相貌を相手の前に晒す。想像より顔が近くにあったせいか吐息と吐息がぶつかり渦巻くだろうか。
 見る見るうちに髪の付け根まで血色が登ってきた。

アーヴァイン > 『気にしなくていい、気づいたらそうなっていたもので、俺としては俺よりも動きまわってくれる仲間たちに頭が上がらない』

誰かがやらないといけなかったからこそ、そうなったようなものだと微笑みながら語る。
文字の時よりも饒舌に思ったことを語ってくれる彼女の言葉に意識を傾け、それとなく嘘をついたと匂わす言葉には内緒にしておこうと微笑んで答える。

『多分悪いやつではないと思う。先について良かったというのは…もし、悪いやつが先に来て、タウに良からぬ事をして行ったら、こんなふうに君の本当の部分を見れずにいたし、傷ついた様子に苦しくなっていたと思う。だから、今こうして君に触れられたのが嬉しい』

投げかけられた質問には、素直に思っていたことを語っていく。
甘い言葉を言うのも無意識に思ったことをスラスラと口にして、褒めちぎってしまうクセのようなものだ。
そして、そこに僅かに彼女へ向ける感情の揺れが混じったからこそ、その顔を見たいと値だったのだろう。

『……顔以外にどこを見られると思ったんだ?』

先ほど半裸を晒していた人と同一とは思えない言葉に、クスクスと微笑みながら意地悪な言葉がこぼれてしまう。
彼女は自分に何をされると思ったのやら、過ちを犯すような想像でも浮かべたか。
暗に問いかける言葉をささやきつつも、恥じらう顔を見つめていた。
それ以上は何も語らずに、じっと羞恥の滲む表情を堪能するように見つめ続ける。

タウ >  多分。なにやら不穏な単語を聞いたような気がするが、聞き流しておこう。
 男の舌から流れ出してくる流暢な言葉は女にとって悪い気分のするものではなく。むしろ心地よいものだった。
 ゾクゾクと耳元から鳥肌が立っていくような感覚。
 音を頼りに暮らしているからだろうか、音に敏感になるのも道理であろう。男の甘い口説き文句が甘美な酒のようにも感じられる。
 恍惚としかけた自分に渇を入れるべく大きく息を吸い込み吐き出した。

 『多分ですか……私もアーヴァイン様に出逢えてよかったです。“先に”ですけど………触れられてうれしいだなんて……
  お人が悪いです……』

 多分を聞き流せなかったらしく、眉に皺を寄せて問う。
 男の問いかけにきょとんとしたのも一瞬だけだった。すぐに意図を理解すると、唇をかみ締めていよいよタオルで顔を覆い隠す。
 白布越しに顔を見られるものならば見てみるがいいと。

 『……言わなくてはなりませんか? か、からだとか……もっと違うところとか……あぁぁぁぁ……』

 言葉が細切れになり念話にノイズが混じる。
 顔を見つめ続けられていることを感覚的に悟っていた女は、いよいよ我慢が出来ずに相手に寄りかかり手を伸ばそうとする。
 タオルという防壁を顔に押し付けることで視覚を塞いでやろうとするのだ。
 成功すれば男の視界は一面の白になるだろう。しくじればタオルは首にかかるだけで、防備を無くした女がいるかもしれない。

アーヴァイン > 『絶対といえる自信がない、俺も男だからだ。でも、泣き叫ぶ女の姿は苦手だ。 そう言ってもらえて嬉しいよ。 ん…何か変なことを言っただろうか?』

多分と不確定にしてしまうのは、自分もやはり男だからだ。
先程も彼女の艶姿を少し見ただけでも心は乱され、恥じらう姿に淡い興奮を覚えたのも事実。
万が一を除外できない、細かい正確な故の不確定要素だった。
心配させたかなと眉をひそめたものの、悪戯な言葉に素直な返事が返り、愛らしいと一層に欲が膨れた。
感極まって手を出すというのはこういう時に起きるのだろうか、なんて思いつつも、身のこなしのいい男はすっとタオルの反撃を避けてしまう。
防備をなくした彼女へ腕を伸ばし、すっと抱きとめてしまおうと背中へ両手を伸ばした。

『目が見えないんだ、あまり急に動かないほうが良い』

倒れたら危ないだろう?と言葉を付け加えながら、寄りかかった彼女に囁きかける。
柔らかに楽しそうに語りかけては、背中に手が届くなら優しくそこを撫でていくだろう。

タウ >  タオルで視覚を塞いでしまえと思ったが、仮にも目を自ら塞いでいる女である。タオルの向かう先はまるで顔ではなかった。
 むしろ男の肩を抜けて反対側の背中へ放り投げるような射線だったのだ。タオルは哀れ指先から地面へ落着した。
 あっと小さい声を上げる。己の計画が台無しになったことを知る。
 ふらついたりはしなかったが、必然的に口付けでもするような相対距離にあった。
 女の緩急つけた女性的な体躯が納まったのは男の胸元であった。

 『………おかしなことって……ずるいです。虐めないでください』

 唇を尖らせ女は言うと、耳元で語りかける男の胸元に耳をくっつけていた。
 心臓の音が聞こえる。生命を繋ぐ重要な器官が脈打つ音が。安心すると同時に、男の声が耳元にかかってくることにもなった。
 単純な発音だったが、エルフ族にとって最も敏感とされる耳元に、ただでさえ鋭敏になっている聴覚を刺激する男の声がかかった。
 腰から先がお湯で溶かされるような甘い感覚が走り抜けていく。

 「ふぁ……」

 思わず声が出かけた。ぱっと手で口を覆うと、目は閉じたまま睨み付けるという高度な技術に挑戦する。
 まぶたに力を込める。震えるだけだ。諦めて念話に意識を移す。

 『耳元でしゃべらないでほしいです。あ、要望であって、命令ではなくてその……』

 説明しきれず尻切れトンボと化した。

アーヴァイン > 放り投げるようなタオルを軽く頭を下げるようにして掻い潜ると、こちらへと寄りかかる身体を抱きとめた。
胸元には使役獣との契約の印が刻まれており、心音と声の響きとは別に、明るく綺麗な魔力の流れを感じるかもしれない。

『ずるいって…別に俺は虐めたつもりはないが』

恥じらう顔を見たいというのは意地悪かもしれないが、思った通りの言葉が意地悪になるとは思うこともなく、きょとんとしながら紡いだ。
不意に、甘くとろけたような声が聞こえると、痺れるように興奮が全身を走る。
一挙一動が妙に心を擽る、クスクスと微笑みながらあまり怖くない睨みつけを見つめ、歯切れの悪い言葉に答える。

『そうか…でもそれなら、この体勢から離れないといけない。それとこれは…お願いであって命令ではないが…このまま連れ帰りたいんだが、いいかな?』

昔の仕事で一つだけ先輩に習ったのは、気乗りした相手に恥はかかせるな だった。
あまりそのタイミングがわからなかったものの、自分ももっと先が見たいと思えば、やんわりとしたお誘いを囁いた。
ただ家に招くという意味ではないぐらい、彼女とて分かるだろう。
振りほどこうと思えば簡単に振りほどけそうなほど緩い抱擁、彼女が受けるも突っぱねるも、どちらも自由だ。

タウ >  とくん、とくん、と男の心音が耳に響いている。
 心臓の音色ほど安心できるものはない。相手が生きているという実感。自分が生きているという実感を得られるからだ。
 胸元に刻まれたなんらかの魔術刻印が女の体を撫でていく。知らぬ場所と繋がっているように感じられた。
 男が言いにくそうにもとい言葉を選びに選び苦しみながら言葉を発する。
 女は背中を撫でられ目じりに緩やかなカーブを描いていた。

 『そうですね……えっ』

 男の言葉にしばし女は沈黙した。
 暗に表現している内容を理解できないほど子供ではなかった。一晩を共にしないかと言っているのだろう。
 勘違いされやすいことだが、女が求める道は欲望の類を拒絶するものではない。
 見えぬものを見、言葉で言わずとも通じるものを得る。これも道の一端に過ぎない。むしろあるがままあるというのが教義の本質であるそうだが。
 男の抱きしめる力は小動物でも抱えるようなやんわりとしたものだった。跳ね除けて去ることも実に容易いように思えた。
 欲望に従うか、従わないか。
 女は欲望に身を任せることにした。声に酔いしれているとは男に伝えないだろうが。

 『…………いじめないでくださいね』

 女の艶のある唇が薄い三日月を描き出した。
 ニュアンスとイントネーションを変更した、酷く艶かしい旋律を伴っていた。
 目を閉じたまま男の胸に顔をこすり付ける。

アーヴァイン > 穏やかに、規則正しい鼓動を伝えながら腕の中の彼女を見つめる。
この男にしては珍しく自ら踏み込んで欲した言葉は、彼女を驚かせ、言葉を失わせていく。
流石に踏み込みすぎただろうか、そんな心配をしながら静かに見守っていたが、帰ってきたのは、暗に了承した言葉。
お願いの言葉には参ったなと眉をひそめながら微笑み、銀の長い髪へ指を通すようにして撫でていく。

『タウの恥じらう顔が見たくて、意地悪するかもしれないな』

艶やかな微笑みと響き、胸板に擦りつく仕草に淡い興奮すら覚えた。
今は少しだけこのままに、もう少しだけ彼女とくっつきあう静かな時間を噛みしめたい。
暗い洞窟の奥で出会った二人のその後のことは、今はまだわからぬまま今宵の幕を下ろすだろう。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯/滝」からタウさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯/滝」からアーヴァインさんが去りました。