2015/12/10 のログ
■ティネ > 曇りのない笑顔に、ティネもつられて笑い返す。
手招きされるままに、草をかきわけて、砂利に転びそうになりながらも
のろのろと近づいていく。
「……エールーカ。へえ。人魚さん。
見たのははじめてだし、おとぎ話の中だけかと思ってた。
……ボクがずっと陸にいるからってだけかもしれないけど」
すっかり緊張は解け、
人魚と名乗るのを聞けばますます興味深そうに、
エールーカの回りをちょこちょこと歩き回ったりぴょんぴょんと跳ねたりして
彼の全身を好奇に満ちた様子で観察しようとする。
「蝶々、か……
そうだったらいいんだけど」
ちらりと背中の羽根に視線を向けた。
得意げに自分を蝶と呼ぶエールーカに対し、きょとんとした表情を見せる。
確かにこれは蝶の羽根であるし、ひょっとしたらそうであるという可能性もなくはない。
けれど違う。
ではなんなのか。
「……ボクは人間だよ」
普段余人には話さない自分の信じる正体を、初対面の人魚にあっさりと告げた。
羞恥を覚えたように俯く。
■エールーカ > 地面に肘を突いて身を乗り出し、ティネに顔を寄せる。
自分よりもずっと小さなティネが歩き回るのを、魚の子どもを眺めるようににこにこと目で追う。
「おとぎ話を書いたひとは、きっとぼくや、ぼくに似た人魚をみたことがあるに違いないよ。
うれしいな。きみは、ぼくがおとぎ話の中だけじゃないってわかってくれた」
自分を蝶ではないと話すティネに、一呼吸置く。
「……ごめん、きみは人間だったんだね。
だけどどうして、そんなに悲しい顔をしているの、ティネ」
俯いたティネを、覗き込むように見つめる。
「他のひとより羽がひとつ多いけれど、すがたは人間となにも変わらないでしょう。
……すこし背が小さいのかな?」
些末な差を見るかのように、首を傾げた。
■ティネ > 自分と標準の人間の違いを、なんてことはない、と事も無げに言うエールーカに、
信じられないものを見るかのような視線を向け、何度かぱちくりとまばたきをした。
「…………。
そうかな……?
言われてみれば、そうかもしれないな……」
あっさりとそう言われてしまうと、あたかも本当に
大した問題ではないと、信じてしまいそうになる。
「……いや、全然違うよ。少しじゃすまされないよ。
ふつうの人間の大きさ、知ってるでしょ。
これだけ違うとね……だれも同じ人間としてなんて思ってくれないんだから。
かりに見てくれたって……不便だし……いろいろと……」
ぶんぶんと首を振って、必死の様子でそう反論する。
どうして自分が劣った大きさだということをこうも熱弁しなくてはいけないのか、
しゃべっていてよくわからなかった。
■エールーカ > ティネの懸命な説明に、真剣な顔で聞き入る。
「知ってるけど……海のなかにだって、いろんな大きさの魚がいるよ。
たしかに君ほどに小ちゃな魚たちは、すぐに食べられてしまって……。
……きっとティネ、君も大きな人間たちに食べられないように生きてきたんだね」
無毛の額が、眉を下げたかのように浅く歪んで凹凸を作る。
「でもぼくはきみのこと、ほかの人間と同じものだと思ってるよ。
ぼくは人間じゃないから、こんなことを言ってもきみはよろこばないかもしれないけど……」
しゅんとしながら、ティネに指先を伸ばす。
透明な水かきに繋がれてつるりとした手が、ティネの小さな手を取ろうとする。
「もしかしてきみには、落ち込まずにいられる姿のころがあったの?」
■ティネ > 伸ばされた手に取られるままに持ち上げられる。
それに伝わる感触は今まで触れたいかなる手とも違うもので、
びっくりして唾を飲み込んだけれど、そう悪いものだとは思わなかった。
その指をぎゅっと握ろうと力を込める。
エールーカの問いかけに、図星をつかれてバツの悪そうに目をそらす。
たしかに元からこの姿であったなら、ここまで卑屈になることはなかっただろう。
「……うん、きみの言うとおり……
この蝶々みたいな姿になったのは、ほんのごく最近の話。
ほんとうは、ふつうの……」
言葉が詰まった。
ほんとうの姿とはなんだろうか。
かつての自分の記憶というのは、靄が掛かったように曖昧なものとなっている。
あまり自信満々に口にすることはできなかった。
「なんて、言ってもしかたないよね。
どうせ元に戻れるわけでもなし……」
ため息。おどろくほどに平坦な声。
■エールーカ > 人間の見た目をして、海獣のような弾力を持つ手。
握り返されて繋ぎ合った手を、人真似の握手で上下に小さく揺らす。
「そっか。最近……きみはそういう姿になったんだね。
それじゃあ、前はぼくの知らないティネがどこかにいたかもしれないんだ」
言いかけて口を噤むティネに、ぐいと顔を寄せる。
緩く突き出したマズルが、ティネの胸元に触れそうな距離だった。
「元のことをいうのが仕方なくても……
『今のきもち』をいうことはできるんじゃあないの。
今のきみは、きみにとって『ふつう』ではないんでしょ。
仲間はずれにされて、ふべんで、それならちょうちょのほうが良いくらいなんでしょ?」
赤いガラス玉のような瞳が、眼窩の中でてらてらと光る。
ティネの小さな小さな顔のつくりを見定めるように、まっすぐに。
「『いっても仕方なくはない』こと……ぼくは、あると思う」
■ティネ > 「わわっ……!」
急に近づく顔で視界がいっぱいになる。驚いて小さく後ずさった。
心臓がばくんばくんと脈打った。
「いまの気持ち、……」
告げられる言葉を反芻する。
透き通るような瞳の、赤い光をじっと見つめていると、
どこか夢のなかにいるようなふわふわとした気分になってくる。
「……わからない。
ボクは本当は今どんな気持ちなのか、わからないんだ。
ずっとこの姿でいるうちに、いろいろな気持ちが、
まぜこぜになっちゃって……」
……それは実際のところ、嘘ではないにせよ、真実でもなかった。
本当は言葉にできる明確な気持ちはあった。
けれどそれを口に出して表明してしまったが最後、
呪いのように身を蝕んでやがて死に至らしめてしまうであろうということが、
うすうすとわかっていたのだ。
「確かに、言えることは……
…………ボクは、こわい。
とても、こわいんだ……」
だから口に出せたのは核心からは少しだけ離れた、
漠然とした感情の発露であった。
きつく目をつぶり、もう一歩、歩み寄る。そうしてエールーカの顔へ触れようとした。
■エールーカ > ティネが吐露する曖昧な心情を聞いて、もう片方の手も伸ばす。
両手でティネの身体を覆うように優しく包むと、水かきがヴェールのようにティネの周囲を囲んだ。
相手に触れられるがまま、目を閉じたティネの顔を見つめる。
濡れた手が触れないよう隙間を開けて作られた小さな空間に、エールーカの手のひらの熱が籠もり始める。
「……すこしだけあったかくしよう、ティネ。
ぼくはきみの『こわい』を晴らすことはできないけれど……、いっしょにやり過ごすことはできるよ」
鼻先でキスをするように、マズルの先をティネの口元へ寄せる。
「……ぼくはこころの強いひとよりも、きみみたいに、こわい思いをしているひとといっしょに居たいな。
ぼくはじぶんの仲間が居ないことにはもうなれっこだけれど、
時どきどうしてか、胸のおくがとてもギュッとしてさみしくなるんだ……」
■ティネ > 両の手に包まれたあたたかな空間に、
きつく瞑られていたティネのまぶたから力が抜ける。
その安らぎとは対照に、普段心の奥底で麻痺している何かが
このときだけ明瞭となっているのがわかった。
ティネは、自分が人間であることを久方ぶりに、思い出せていた。
伸ばされたマズルの先に、唇の先でこつんと触れ返す。
これをキスと呼んでしまうのはいかにも不格好だ。
「そうだね。
……ボクたちはひとりではないよ。
エールーカは、それを覚えていて……
たとえボクが忘れてしまったとしても」
エールーカの顔に抱きつくように、身を預ける。
彼が許すなら、今少しの間はそうしているだろう。
■エールーカ > ティネの胸へ顔を埋めるように鼻先を寄せたまま、その小さな身体を暖かな空気で支える。
「小っちゃなティネ、君のあたまに『こわい』は大きすぎるんだね。
きみの代わりに、ぼくがきみのぶんまで覚えていたいことを覚えていてあげる。
きみはぼくを忘れてもいいけれど、ぼくの顔をみたら何か、すこしでも思いだしてくれるとうれしいな。
きみには、このぼくが居るってことをさ」
川の水で潮を洗い流されたエールーカから立ち上るのは、蜜にも似た甘い香りだ。
魚の姿をしているというのに、それはまるで植物のようでもあった。
「ねえティネ、もしさみしくて堪らなくなったら、ぼくのなかへ逃げておいで。
『ぼくのなか』は、こんな手よりもっとずっと、とってもあったかいよ……」
ね、と微笑みかける。
「人間は、あたたかくてやわらかなものに包まれるのが、いちばんきもちいいんでしょう」
■ティネ > 漂う甘い香りに意識がくらみそうになる。
再び曖昧となっていく気分の隙間を縫うようにして、人魚の言葉が入り込む。
「『きみのなか』……?」
その言葉に秘められた、この人魚の印象とは不釣り合いな淫猥さに目を見開く。
目の前の彼はやはり魔物で、自分はその罠に絡め取られた羽虫――そんな想念が走る。
しかし驚愕と緊張は一瞬のことで、柔らかい微笑みが映ればそれはかき消された。
エールーカの表情に邪気を感じ取ることはできなかったし――
「……うん、その時はおねがいね」
小さく頷く。
――彼になら食べられてしまってもいい、と思ってしまっていたから。
……きっとそれが駄目なんだろう。前に怒られた。
それはわかっていても、その甘美な衝動を嘘にすることはできなかった。
■エールーカ > 了承の言葉に、晴れやかに笑う。
その顔にはやはり、悪意と読める影は少しも見受けられなかった。
「……うれしい。きみとひとつになれたら、ぼくはきっとしあわせだから」
小首を傾げる。
ぱくりと口を開く。サメのような、小さな牙が並んだ口。
「ねえ。そうしたら、キスさせて。
きみったら、とってもかわいいんだもの……」
互いに、大きさの異なる口ならば。
艶めいて柔らかな唇で、ティネの小さな胴体を食もうとする。
相手を傷付けぬための、獣が甘く噛むように。
■ティネ > 「……ん、いいよ」
洞穴のように開いた口の中に、ためらいなく、身体の上半分を差し出す。
ぎざぎざに波打つ、ティネを簡単にすり潰せてしまいそうな牙も、
いまのティネには恐ろしげには映らない。
むしろ愛らしく思えて、くすりと微笑む。
「あ……」
可愛いと自分を呼ぶ声と、唇の柔らかな感触が、
さざなみのようにティネの深奥を静かに揺らす。
まるで味見をされているように感じる。
自分も唇に口をつけ返し、ちろりと舌を出して舐める。
■エールーカ > エールーカの唇は人間と同じ柔らかさをしていながら、舌は魚のそれのように硬く骨っぽい。
軟骨と紛う舌先が、口腔でぴくりと小さく立ち上がった。ティネの小さな胸の上を、舌先で淫具のように掠めてゆく。
ティネが返した口づけに、唇を離して微笑む。
じゃれ合うことを楽しむような明るさで。
「……ティネのおくち、小っちゃいけれどりっぱな女のこだね。
ちゃんとやわらかいのがわかった」
くすくすと笑いながら、ティネの足先へ舌を伸ばす。
舌骨を持つその表面が、ティネの内股を足先から付け根に向かってゆっくりと舐め上げた。
■ティネ > 「……ん、ぅ」
胸を舌で撫でられて、控えめな喘ぎ声を上げる。
先端がぴんと立った。
「なんか、そういうふうに言われると照れるなぁ……」
エールーカの些細な言葉に、生娘のように顔を赤くする。
舌先が足へと伸びれば、さらに抑えられた、しかしそれと簡単にわかる嬌声が漏れる。
よがっている様を彼に見られるのは、妙に恥ずかしいものがあった。
舐められたことは数あれど、それらとは異なる感覚に、全身があわだち、小さく痙攣する。
なすがままに舐られ、下肢の中央にあるものが、期待するようにひくりと動いた。
■エールーカ > 「みんなはティネのこと、かわいいと言ってはくれないの。
ぼくはあたり前だとおもったことしか言わないよ」
はふ、と零した息が、徐々に熱を帯びる。
「夏だったなら、水のなかできみときもちよくなれたのに。
冬の水にきみをひたす訳にはいかないな。
ああ……ティネ、きみをいっぺんにたべてしまいたい」
水に浸かった魚の下肢が、水中でふるりと小さく震えた。
下腹部から透明な、粘りのある体液の滴を垂らして、そのまま水中に溶け込んでゆくのが見える。
エールーカから漂う甘く淫らな香りが、薄らと強まる。
やがて、舌先がティネの服の内側へ忍び入る。
人の指よりも細く、人の舌よりも硬さのある、異形の舌。
その緩く尖った先端が、ちろちろとティネの秘部を擽った。
■ティネ > 「……いや、言われないわけじゃ、ないけど……」
このタラシめ、と口の中だけで呟く。
かわいい、という形容の言葉は人によってそれぞれ秘める感情が違ってて、
エールーカから与えられたものも、新鮮に感じられた。
「ん……ぁ……」
濃くなった淫靡な香りが、ティネの脳髄を灼いていく。
エールーカの舌先が自身の敏感な秘所へとあてがわれれば、
一際甲高く声を上げてのけぞる。
「……、たべてもいいよ……
エールーカにたべてもらえるなら、寂しくないから」
甘い刺激に身を震わせて、切なげな眼差しを人魚へと送る。
■エールーカ > 「よかった。女のこは『おひめさま』になるのがうれしいというけれど……
人魚のぼくには、してあげられないから」
表情に色を含みはじめたティネの声に、ああ、とうっとりとした声を漏らす。
「ねえ、ねえ、それじゃあ、少しだけ……
すぐに帰してあげるから、きみのこと」
たべるね、という声を最後に、その大きな口がいよいよ広がった。
両の手のひらでティネの身体を掬い取り、その口の中へするりと滑り込ませる。
ティネが逃げなければ、そのまま丸呑みにしてしまおうと。
わずかに赤みを帯びた白っぽいの喉は、人と同じ形をしてうねうねと蠢いている。
ティネの身体を柔らかく揉みくちゃにしながら奥へ流し込む肉の通路の先で――
ティネが落とされるのは、蜜壺だ。
酸が肌を灼くでもなく、ただ温かな熱と体液の滑る感触だけがある。
嗅覚が感じ取る香りのすべてが、媚薬となってティネを煽ってゆくだろう。
光の差さない闇の中で、エールーカの心音と、体液が身体を巡る音だけが聴こえる。
とぷり、とぷん、と波打つ、粘り気のある透明な蜜の海だった。
■ティネ > 「…………あっ」
あっけなくそれは叶う。
間の抜けた声を残し、ひょいとティネの小さな身体が持ち上げられ、
口の中へと運び込まれ、そうして、口の中からも消えてしまう。
「……ふ、ぁ……!」
柔らかな肉壁に揉まれ、くぐもった喘ぎ声をエールーカの体内に響かせる。
そうしてやがて重たい水の通う肉の井戸の中へと落とされる。
(ああ――)
速やかに済んだ一連の行為の意味を、
ぼんやりと、遅れて理解する。
(食べられちゃった)
ならばたどり着いたのは胃袋か。
けれどティネの想像したような苦しみは訪れない。
かわりに鼻孔を擽るのは、外で嗅いだような甘い香り。
けれどそれとは比にならない濃密さ。
「……なに、これっ……」
息が荒くなる。呼吸する度にそれを取り入れ、身悶えする。
狭苦しいここでは満足に身を動かすことも叶わない。
「――ひぃ、――ぁっ、とけ、ちゃうっ……、
とけちゃうよぉ……ッ!」
生暖かい肉の壁に必死に身体を押し付け、裡で燃え上がる熱を慰めようとする。
出口のない闇の中、ずっとここに取り残されてしまえばほんとうに肉も心も
溶けてしまうのではないかという焦燥と、
心音と肉の温度のもたらす奇妙な安心感がティネを挟み、混乱させる。
「エールーカぁっ……いるの? 返事してっ……
ここ、どこ、なのぉっ……」
か弱い声が、蜜壺のなかに響く。
返事してほしい。安心させてほしい。ひとりではないと教えてほしい。
■エールーカ > うふ、というエールーカの吐息が、暗闇の中に反響する。
「ティネ」
ティネを呼ぶ声。
「ぼくのおなかのなかだよ」
肉の壁がゆっくりと波打つように動いて、ティネの身体を支える。
エールーカが、自らの腹を手で押したのだ。
「だいじょうぶ。きみをとかしたりはしないよ」
幾重にも響き渡る声が、濃密な香りと相俟ってティネを侵す。
「ぼくのおなか……ここにティネ、きみがいるのがわかるよ。
ああ、ああ、ぼくがそうしてきみを、『ふつうの』女のこに産みなおしてあげられたなら、どんなにいいか……」
エールーカが、自らの身体を抱き締める。
ティネを包む肉が、ゆっくりと狭まってゆく。
壁の表面を覆うひだや皺が、ティネの肌を触手のようにぬるぬると舐める。
「ぼくを感じてほしいんだ、ティネ。
いまきみは、たったひとりぼくだけのものだ」
■ティネ > 「おなか、の……」
息を継ぐ。
すぐ近くから、しかしあまりにも遠くから返ってくる――
まるで部屋全体から発せられたエールーカの声に、半狂乱だったティネの様子はぴたりと鎮まった。
いまだ媚香のもたらす甘い疼きがティネを内側からじりじりと灼いてはいたけれど、
いまはもう、安心感しかない。
まるでここは、ティネのためにしつらえられた、専用の安息の場所だ。
この井戸を構成するすべての要素が、エールーカでできているのだから。
そう考えると、肉のひだのひとつひとつが、自分を湿らせる蜜が、
ひどく愛おしく感じられてくる。
「そっか……いま、ボク、エールーカの
あかちゃんになってるんだ」
ふいに、そう理解する。
この懐かしさのある安堵は、そうとしか言えなかった。
やがて、肉の部屋がゆっくりと狭くなっていく。
押し潰されるのか、と一瞬考えたが、そうはならず。
ティネを愛撫するように、柔軟に締め付ける。
「あ、ひ、あ、んんっ、んっ、あああああっ、ふぁああああっ――!」
襞や皺が肌を這うごとに、ティネの脊髄が痺れる。
手脚を無茶苦茶に伸ばすが、柔らかい肉壁にぬるりとぶつかって、新たな快楽が加わるだけ。
いよいよもって憚らずに嬌声を上げ始めるが、
腹中に閉じ込められた小さなティネのそれがどれだけ漏れ伝わっているか、それはわからない。
それもだんだん弱まってくる。
絶え間なく与えられる快感に、叫ぶ体力のほうが持たなくなってきたのだ。
「うん、かんじるっ……
エールーカ、ボクのことも、かんじてっ。
いま、ボクのことがわかるのは、きみだけ、だから……」
官能にすべてを塗りつぶされ、酸欠になりかけながらも、
懸命に言葉を継いで、ぐいぐい、と締め付ける肉を体全体で押し返す。
そこにいるのを、より感じ取ってくれればいいと思って。
■エールーカ > ちゃぷん、と壁の向こうから響いてくるのは、エールーカが身を浸している川の水音だった。
「そうだよ……ティネ。ぼくが海から産まれたように、きみもぼくのなかから産まれる」
媚薬の体液によって、些細な接触さえ愛撫のようにティネを刺激する。
間もなくして、蜜壺の奥底から細い触手がしゅるりと伸びてくる。
二本、三本。人にとってはほんの毛糸ほどの触手が、ティネの細腕に絡みついた。
また別の一本の触手が、蜜の中に浸かったティネの下肢へ伸びてゆく。
その先端は意思を以て陰核に吸い付き、孔の中へ分け入らんとする。
「……ぼくのこども、きみのきょうだいだよ」
腹の奥底から、水を掻く音がする。
エールーカの手が、自らの陰部を慰めているのだ。
「いまはぼくの代わり。
きみほどに小っちゃなぼくが、きみとひとつになると思って」
『こども』と呼ばれた触手の根が、どこに隠れているのかは判然としない。
ティネにとっては同じ小人の男根に等しい肉の茎が、ティネの小さな身体へ出入りを繰り返すばかり。
動くごと、エールーカの体液をもティネの中へ流し込んでゆく。
「あ、ティネ、きみがうごいているのがわかる、きみがぼくでいっぱいになっているのがわかる、
きみはいま人間とおなじほどに大っきくなって、ぼくの身体をいっぱいにしてるんだ……」
エールーカの甘く鳴く声が、途切れがちに聞こえてくる。
「う、んう……あ、ティネ、ティネっ……、…………――!」
繰り返し名を呼んだのち――ひときわ大きな悲鳴を一音、あ、と短く上げる。
エールーカが達すると同時、弾力のある壁がぼこりと大きく蠢動した。
■ティネ > 「これ、が、エールーカ、の……」
暴れさせていた腕が絡め取られ拘束される。
極小のものどもを下肢に感じた。それが吸い付き入り込むと、
またそれがティネに新鮮な快楽をもたらす。
「――ふ、ぅ!」
その間も、エールーカの声が響く。
閉じ込められながら、内側からも責められる。
陰茎じみて出入りするそれが、エールーカのかわり、という。
そう言われてみると愛おしく感じられ、――いじめたくなって、
きゅうと股を締め付けて、それをとらえる。
「エールーカっ……!」
エールーカの、自分を呼ぶ声が、自分の名を呼ぶ声が、
肉の部屋を満たしていく。
ティネもそれにこたえるように、声を張り上げる。
たがいがたがいを咥え込んで、呼び声も重なって。
ふたりの感覚が徐々に重なっていくような、そんな気がした。
ああ、これが、ひとつになる、そういうことなのか。
「エールーカ、エールー、カっ……、……、……ぁ!」
蠕動。
それに一拍遅れて、ティネも絶頂に導かれる。
けれど体勢など変えられず――いまだ肉の海でもみくちゃにされていることに、かわりはない。
■エールーカ > ――その交わりがいったいどれほどの時間であったか、定かではない。
壁が、絶頂に達したティネを抱く。蜜の体液が、羊水のように優しくその身体を包み込む。
収縮した肉にすっぽりと呑まれる感覚があって――
「…………、けぽ……」
やがてティネひとりの身体が、すとんと草の上に吐き戻される。
ティネの前には、口の端から滴を垂らしたエールーカが、熱に浮かされた顔で佇んでいた。
「ティネ……」
その意識の有無に関わらず、鼻先でふたたび不格好なキスを落とす。
川の水面には、エールーカが流した精液の白い筋が流れに乗って溶け消えてゆくところだった。
「おやすみ、ティネ。……ぼくのこと、おぼえていてね。
ありがとう。すきだよ……」
名残惜しそうに、音もなく岸からすいと離れる。
蜜の残り香とその熱だけを残して、川の向こうへ姿を消す……。
ご案内:「メグメール自然地帯/王都付近の川」からエールーカさんが去りました。
ご案内:「メグメール自然地帯/王都付近の川」からティネさんが去りました。