南海に棲息していた水妖。体長約280cm。 海流の変化により王都近海に姿を現した。 エールーカ以外に同種の存在は確認されていない。
気性は穏やか。非常に大らかで慈悲深い。 不可思議な音階の歌声に魔力を秘めており、船乗りや通りがかった人間を魅了する。 かつて船を難破させる魔物と伝えられた経験があり、以来歌うことを長く憚っている。
腰から上は、ヒトの少年から青年ほどの姿に見える。 無毛の肌は白磁に似てつるりと白く、下肢は長くしなやかな魚の形。 手は水掻きで繋がれた四本指。身体の各部に生やした薄絹のような鰭。 下肢の鱗は一枚一枚が堅牢な真珠層からなり、光に当たると虹色の煌めきを返す。
顔つきは人間に似ているが、鼻がなく、丸みを帯びたマズルを持つ。眼球は透き通った真紅。 口腔に硬く尖った牙を隙間なく生やし、主に魚やヒトを含む陸上生物の肉を食べる。 髪の代わりに薄く透明な鰭を複数枚生やし、頭部を覆っている。 水中では首筋の腮で呼吸するが、海面から出ると腮を閉じ、口腔から呼吸と発声を行う。ある程度人語を解し、会話も可能。
下腹部に総排出腔を持ち、いかなる生物の精気や魔力をも取り込んで受精する。 水妖の眷属として異形の魚人を産むが、その大半が短命ですぐに息絶えてしまう。 また、総排出腔の上部に触手に似た交尾器をも持ち、長く伸ばした先端から無色透明の体液を分泌する。 本来は繁殖に用いる精液であるが、異種との交尾においては単なる媚薬としてのみ作用する。
肉や体液には、蜜に似た甘味と催淫作用があり、特にその肉には治癒効果がある。 エールーカの肉を一口食せば肉体のあらゆる傷が言え、心臓まで食べ尽くせばあなたは不老不死を得るだろう。 但しエールーカの心臓は異常な再生力を持っており、食い破られる前にたちまち傷を塞いでしまう。 その存在は聖性にも等しく、あなたが魔性を宿すならばあるいは毒ともなりうる。
あなたが知る人魚にまつわる伝承のうち、いくつかはこのエールーカを指している可能性がある。
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ヴァイル・グロット:正義のみかたは孤独 |
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