2023/04/21 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジェニーさんが現れました。
ジェニー >  
月の見えない深更の夜。
こんな時間に街道をひとり辿るなど、余程命知らずの旅人ばかりか。
黒いローブの上から同系色のマントを羽織り、古びた合切袋を斜めがけに、
俯き加減に街道を進む己はと言えば――――取り敢えず、今は。
とある事情で駄目にされてしまった薬を、早急にもう一度作らなければ、
そのためには出来る限り早く、薬草を仕入れて来なければ。
――――そんなことしか考えておらず、一人歩きにも恐怖は無い。
むしろ、下手な同行者を募るより、この方が絶対怖くないはずだし――――それにしても。

「まったく、言葉の通じない連中にも困ったものだ。
 女性には優しく接しろと、ママに教わらなかったのかな」

ぶつぶつ。
唇を尖らせてぼやいては、肩を揺らして溜息を吐く。
人間の姿をしていても、言葉が通じないのなら魔物と変わらないではないか、などと。
打たれた痛みなどとうに癒えたが、それでも、怒りが収まるものでもなく。
怒った勢いのままに王都を飛び出し、――――今に至る、のだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にunkownさんが現れました。
unkown > 月の見えない夜だった。
月明りも星の瞬きもない深い夜の闇に包まれたメグメール街道は魔獣にとって闊歩しやすい状況であった。
巨体を夜の闇に隠しながら狩りをするのにも当然好条件であったが、この時間帯は獲物の気配はなく、今夜も当然何も得られずに彷徨う事になる筈……だった。

魔獣の鼻孔に芳しく届いたのは他の魔物でもない、ましてや獣などでもない大変『そそる』香り。
魔獣の耳に届いたのは鳥の鳴き声などよりも、魔獣の聴覚に心地よく響くニンゲンの声。
好奇心と空腹と――湧き上がる当然の衝動、それに身を委ねて本能が赴くままに街道脇の森を走り出す。

エンカウントは以外に直ぐに。
長く伸びる髪に酷似している触手の合間からのぞく真っ赤な眼に黒色のマントを羽織る旅人の姿が見えた。
それをみて感じたのは『美味そう』と、雄か雌か年老いているか若いかは判別できないが、本能と嗅覚そして聴覚が美味しそうな雌だと、判断する。

だから――魔獣は襲う事にした。
数年ぶり?数ヶ月ぶり?あの真っ白な世界から出て始めての『オイシソウ』なニンゲン。
街道の脇の森から茂みから、ザサササッと喧しい音と葉っぱや木の枝を撒き散らしながらそのニンゲンの正面に飛び出すと魔獣は鳴く。

「グロロロロロッ!!!」

咆哮には遠いが、腹の底より溢れ喉を突き、空気を震わせながら鳴いて、ニンゲンに『オイシソウ』と訴える。
正面より長い体毛状の触手の合間よりのぞく赤い眼を向け、その眼をニタと半月の形に歪めてグツグツと喉を鳴らす。

狩るつもりだと誰が見えても感じれるほどに魔獣は昂ぶり、ニンゲンと相対する。

ジェニー >  
己にとって夜の闇は、それ単体では『こわいもの』のうちに入らない。
夜が暗いのは当たり前だし、昼間だって襲って来るものは居るし、
けれどもそれはそれとして――――――

風もないのに突然、茂みがざわめく音がした。
その音が己の行く先、斜め前方あたりから聞こえるものだと気づいて、
反射的に歩みを止め、そちらを振り仰いだとき。

「―――――――――― え、」

『それ』はもう、己の正面前方に居た。
闇よりもなお、黒々とした巨躯で行く手を塞ぎ、紅い一対の眼でこちらを見据えて、
あっけにとられたように目を瞠り、棒立ちになった己の前で。

「っ、―――――――~~~…!!」

ニンゲンの喉から発せられる音ではない。
思わず顔を顰め、両手で耳を押さえた、その『声』の意味するところはわからない。
わからないけれども、――――当然、この邂逅が平和裏に収束するとは思えなかった。
相手の目的がなんであれ、体格差も、膂力の差も歴然としているのだから、

それ以上、考えるよりも早く脚が動いた。
ざしゅ、と踵を返し、背を向けて逃れようと走り出す、けれども。
果たしてこの『相手』は、獲物の逃亡を許してくれるだろうか。

unkown > ぐにゃりと半月状に歪め細める赤い眼で相対したニンゲンを視線で舐るように真っ直ぐに見つめ、その脳裏では妄想に似た思考を巡らせる。

視線の先のニンゲンは本当にオイシイのか、その華奢に見える身体に圧したら心地よい声で泣き叫ぶか、もしくは、あるいは、こうしたら、どうしたら、と久しぶりとも言っても過言ではない『オイシソウ』なニンゲンを前に一瞬だけ動作が鈍る。

魔獣が我に返るのは、赤い眼に映るニンゲンが唐突に踵を返し走り出してから数秒のこと。

心地よい妄想を邪魔され、それ以上に己の前から逃げるという選択肢を取った事に興奮し、グバァっと両顎を広げ大きく口をあけると――…吼えた。

「ガァァァ!!!!!」

夜風を吹き飛ばし草木を揺らし空気を震わせる程の声量。
怒りに似た身に溢れんばかりの興奮を込めた咆哮を放った後に、鈍重とも見える身体を揺らしながら、駆けだす。

ニンゲンの……獲物の逃亡は――許さない。
だが同時に逃げがして追って遊ぶのも楽しそうだとも。

しかし此処でニンゲンを逃がしたら次はいつ喰えるかわからない。
その必死さと同じくらいに逃げる獲物を追いかけるという狩猟本能が更に魔獣を昂ぶらせ、魔獣は空を裂くように大地を蹴り、重たい足音を大地に響かせて、腕を伸ばす。

距離を瞬く間に詰めて、鈍重な外見とはかけはなれた俊敏な動作を見せて、その伸ばした腕でその先の大きな掌で、獲物であるニンゲンのまとう黒色のマントを握り掴むと、思い切り力を込めて、これ以上走れぬように持ち上げようとする。

猫背の状態からのそりと背筋を伸ばし、巨体を真っ直ぐに伸ばしてニンゲンを吊り上げれば、早々逃げれないと魔獣は考えたのだ。

ジェニー >  
相手の考えていることなど、もちろん、分かるはずがない。
というより、悠長に考えてみる暇が、そもそもなかった。

鼓膜を揺さぶる咆哮に首を竦ませ、ぶるりと身震いしながらも、
立ち止まれば『終わり』だと、それだけははっきりしているから、
小柄な体躯に見合う細く短い脚で地を蹴り、前だけを見つめて。
地響きのような重い足音が、背後に迫るのを聞きながら―――――、

「ぅ、 わ、 ―――――――――…!!」

突然、もの凄い力でマントの首許を引っ張られた。
とっさに両手で喉のあたり、襟元を掴んで庇おうとするも、
容赦無く首は締まり、華奢な体は軽々と吊るし上げられてしまう。
じたばたと脚をバタつかせても、必死に身を捻って逃れようとしても、
――――――喉が詰まる、息が、出来なくなる。
苦しくて、苦しくて、仰のいた瞳に涙が滲んできた。

「く、は、ッうぅ、ぅ――――――…!
 はな、し、……… るし、いき、出来な、―――――――…」

もがく、抗う、声を絞り出す。
けれど吊るし上げられたままであれば、力尽き、意識を手放すのも、きっと時間の問題だろう。