2023/04/02 のログ
カジャ > 今夜のメグメール街道は宵闇に包まれている。
夜空には厚い雲が星も月も覆い隠し一切の光を許さない。
気まぐれに吹く風はその雲を追い払う程の勢いもなく、ただ街道の空気を冷やすのみである。

しとしとと降り注ぐのは小雨。
粒の小さな雨は街道の地面を濡らし、辺りの動物や虫たちは雨よけの為に早々に眠りにつく。

静寂、雨音、風が木々を揺らす音。
其処に加わる音は『ねちゃ』と『ぬちゃ』と重く粘り気を感じさせる水音、雨音とはハッきりと違う異音。

――それは街道を明かりもなく歩く小柄な人影の足音。

ひたり、ひたり、ねちゃ、ぬちゃ、足音ひとつ、追うように粘り気のあるその音がひとつ、闇に包まれた街道の雨音の中に混ざる。

(………?)

雨の中、闇に包まれた街道を歩きながら、此処は何処だ?何故こんなところに?と『疑問』を脳裏に浮かべながら、内なる何かが本能が促すがままに素足であることも気にせずに只管に目的も何もわからず進み、ぬかるむ街道に足跡を刻んでいく。

小さな足跡、其処に溜まるのは雨水ではなく黒い液体だが、それが何であるかを知っているが、それを気にするまで思考が及ばない、気にしたところで何かする事も無いだろうが、思考が霧かかる様で意思が其処まで及ばずに、頭の中では誰かが歩けと促し続ける――だから歩き続ける。

その小柄な人影はカジャと呼ばれる呪詛の塊である。
それが犠牲者であった者の未練に感化されてヒトの形をとったものである。
そして未練を果たすべく犠牲者を求める呪であった。

ぬくもりがほしい。
身体の空虚を埋めたい。
飢えを満たしたい。

亡者が如き呪詛の塊はメグメール街道を彷徨う。

カジャ > ――これは呪詛である。
妬みより出でて怨嗟により育まれ異形の姿で蠢くモノ。
なのに犠牲者の中でより強い怨嗟が呪詛を蝕んだ結果、今は触手の塊でも獣でもなく、ヒトの姿となっている。

フードに隠れた顔はまさしく犠牲者だったモノと酷似し、左目だけが異形だった時の名残なのか、眼と言うよりも落ち窪んだところに真っ赤な球体がはめ込まれている、そんな異形の片鱗残る顔立ちになっている。

ただその貌も外套のフード部分を深くかぶっているので傍目から確認し辛い上に今夜は星も月も潜んでいる闇の中では……、若しかしたらその貌は今だ誰かの親類縁者かもれしれないが、本人は理解の及ばない部分である。

ひたり、ねちゃ、ぬちゃり、ひたり。

足音を奏でる、足跡を刻む、黒色の粘液を足跡に残す。
そうして外套を着込んだ小柄な人影は街道を歩くのだ。
自分が何かもわからぬまま、どうして此処にいるのかも理解できぬまま、本能に突き動かされるがままに。

寒い
寂しい
欲しい
足りない

呪詛の塊は本能と共に喚く衝動を抱えて歩く。
歩く、歩く、歩く、只管に犠牲者を求めて歩く。

雨に濡れるのもかまわず、外套に染みる雨の重さも気に留めず。
小柄な人影は歩みを続ける。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からカジャさんが去りました。