2021/06/13 のログ
ミシェル > 「僕はないない。死んでちゃ可愛らしいお嬢さんの声も聞けないじゃないか。
するにしても何とかして蘇らせてからするよ僕は」

死者の蘇生は数多の魔術師が目標とするものの未だに安定して成功したことは無いのだが、
目の前の宮廷魔術師は自信満々でそう言った。

「可愛い君の頼みならいくらでも聞くとも。
よし、掴まったかい?じゃあ出発するよ?」

後ろを向いてティアフェルにウインクし、ミシェルは前に向きなおる。
そして、ぐっと箒を握りこむ。

箒は、ぐん、と急加速した。馬より速いほどに。

「柄が掴みづらいなら僕の体にでもしがみついていてくれ!
そっちのほうが僕も嬉しいからね!はは!」

びゅんびゅんと流れる森の風景。風。
時折道に飛び出てる枝を上下左右に上手く避けながら、箒は突っ走る。

「案ずることは無いよ!僕は何年も乗ってるからね!
この道だって何度も通ったんだ!」

ミシェルは笑いながらさらに箒を握りこみ、加速した。

ティアフェル > 「なんとかして蘇らせてってのが、また、それも特殊だよね……」

 なんだか魔術師と云うか若干マッドサイエンティストの様相も呈している彼女に、何とも云えないような顔で空笑いした。

「やーやー、かわいいなんてそんな。こういう顔に産んでくれた母に感謝するわ。そういうあなたも充分美人ですよ。
 オッケィ、墜ちたら自己責任で回復するからカッ飛ばしちゃってー!」

 そして加速を始める魔術師の箒に乗って、全身に風を受けて普段経験することのない浮遊感に、「きゃーっ」とはしゃいだ歓声を上げ。

「うぃうぃ、じゃあこう、かなっ?」

 彼女の胴の辺りにつかまればいいのか、とその言葉に素直にその細腰に腕を回してしがみ付き、景色が映り替わり、夕映えの森を風のように奔ってく感覚に、アトラクションを体験しているかのようにきゃーきゃー声を立てて。

「ひゃああぁっ、は、早、早、ぃ……ぃ、う、え、いたっ……」

 慣れない速度に安易に声を上げてしまっていたら舌を噛んでしまって若干涙目で口を閉じて、風で目が乾く、としきりに瞬きをしていた。

ミシェル > 「何を言うかいティアフェル君?死の克服は人類の夢じゃないか!」

宮廷魔術師はキラキラとした目で理想を語った。
紳士然とした態度で隠されているが、彼女は自分の専門分野に関しては若干どころではなくマッドである。
この乱れ切った国に雇われているような魔術師は、大体そういうものだ。

「すまないね!速すぎたかい?
でもまた犬に遭うかもしれないから、突っ走ってたほうが安心だろう!?」

この速度では道に何かいたとしてもそれが何かわかる前に通り過ぎてしまうだろう。
ティアフェルを思いやってるのか、それとも単に速いのが好きなのか、
ミシェルはノリノリで箒を飛ばす。

「おっと、次は分かれ道だ!宿場は右だったかな?」

枝分かれしている道、真ん中には一本の大木。
箒はまるで減速することなく、その木のスレスレで道を曲がった。

「そろそろ町だけどこの辺りは最近山賊が出るらしい!
まぁどうせ追いつけないだろうけどね!」

箒はさらにさらに加速する。道から見ている者がいても二人の姿は色付きの風にしか見えないだろう。
それにもかかわらず、飛び出る枝も、曲がりくねった道も、絶妙な操縦でミシェルは乗り切った。

ティアフェル > 「死ななくなったら世代交代が起こらず、性質が単一化するため、強い病理が蔓延した場合種が全滅する」

 水を差す気はないが、キラキラした目で語るもので試しに生物学的見地(?)でそんな壮大な浪漫に突っ込みをいれてみた。
 別問題、とされてしまうか否かちょっと興味があって。

「っふっく……んんっ……」

 返事をしたいのはやまやまだが、速度に慣れていないと彼女のように舌を噛まず流ちょうに話すことができず、取り敢えず声を出す代わりにこくこくと肯いて見せ。

「ん、んんー」

 右、右、と声を出す代わりにつかまっている片手だけを外して向かって右手を指差して。

「ぅ、……」

 ちょっと酔って来た。三半規管は強い方だが何分初体験のフライング箒乗車で身体が驚いてしまったらしい。小さく唸って蒼い顔をし始めたところで、高速で移動する箒はもう、目的地の宿場町上空へ差し掛かっていた、薄目を開けて確認すると、くい、くい、とその袖を引いて片手で下を差し、降りて、降りてーと訴えた。

ミシェル > 「何を言っているんだいティアフェル君、いかなる病気でも死なない、仮に死んでも生き返らせるのは前提条件だろう?」

そう、目指すは死の完全克服、繁殖しなくても絶滅しない完全生命体。
そんなものが人間と呼べるのかはともかく、目指すなら欲張りにそこだろう。

「おおっと、着いたか。ストップストップ」

箒は急停止し、静かに下降した。
道行く人々がちらりと見たが、さほど珍しい風景でも無いのか、またすぐ興味なさげに目を逸らす。
ミシェルは箒から降りて、服をぽんぽんと払っていた。巻き上げた葉っぱやらが所々に付いている。

「や、お疲れ。到着しましたよお嬢さん、気分はどうだい?」

ティアフェルのほうに向きなおり、にこりと笑う。

ティアフェル > 「それって本当に生きてるっていうのかな」

 真顔。
 次は試しに哲学(?)的角度のツッコミを入れてみる。
 なぜいちいち突っ込んでいるのか自分でもよく分からないが、返答が面白いからかもしれない。

「きゃ、う!? 
 っふ、っは、っはあっ……! や、あぁぁ……うん、なんだか、まだ、身体が浮いているみたい……」

 急停止にがくんと身体が揺れまた舌を噛んでしまったが、ちょっとひりひりする舌を少し出して夕風に当てて冷やしつつ、無意識に乱れていた息を整えて、箒から降りると若干足元がふらつきつつ微苦笑して。

「っふう……ちょっと怖かったけど、面白かったよ。ありがとー。もう到着だー。
 また機会があったら乗せてねー。あ、今度はもうちょっと速度はゆっくりでいいかな?」

 とアホ毛を揺らしながら笑うと、夕刻を過ぎ宿を求める人々で賑わう小さな町の片隅に立って、こちらも早く宿泊場所を決めなければと焦り始め。

「あ、今回もお世話になってありがとうね。わたし、宿を探しに行かなくっちゃ」

 少し慌ただしくなってしまったが、相手がここで宿をとる訳ではないのならここでお別れか。そうでなくとも、貴族の彼女と一緒に宿を探すというのは考えづらかったのでどっちにしろ今日はお別れかもな、とぼんやり考え。ともかく宿を早めに探しに行こうと――。

ミシェル > 「己が己のままいられるなら、生きているか死んでいるか何て些細なことじゃないか。
厄介な特性が無ければ吸血鬼なんかになってもいいんだが、太陽光で死ぬんじゃ不死身とは言えないな」

蘇る死者とて、完全に不死身とは言えない。準備をすれば殺すことは可能なのだから。

「乗りたいならいつでも乗せるけど、どうせなら箒の乗り方、習わないかい?
魔力さえあればすぐ憶えられる。乗馬みたいなものだよ。あと箒が買えれば」

空飛ぶ箒は勿論ただの箒ではなく、それより少しばかり値が張る。
速度が出たり乗り心地が良い物ほど当然高価だ。

「宿を探すのかい?僕も探さなきゃと思っているんだ。
ここは予定地じゃないんだが…もう予定地に向かうにも遅いからね。
一泊してから出ようかと思ってる」

空を見上げれば、もう太陽は落ちそうで。
ミシェルはため息をつきながら肩を竦めた。

「ま、何だ。どうせなら一緒に泊まるかい?
宿代も折半できるだろう?」

貴族とはいえ、ミシェルの今の持ち物は冒険者のそれだ。
一緒に過ごしたところで特に怪訝な目で見られることも無いだろう。

ティアフェル >  生死に関してだとか、箒の乗り方だとか(これはパスしたが)色々な話をしながら、宿を一緒に探すことになった。
 確かに宿代を折半できるのは助かるが、それにしても庶民の泊るような宿で構わないのだろうかと懸念はあったが。
 貴族レベルにはこちらは合わせられないので極中流の宿でいいか確認してその日は宿場町での一泊となっただろう――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からミシェルさんが去りました。