2021/05/01 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にフェリーチェ・メランドリさんが現れました。
フェリーチェ・メランドリ > 王都へと向かう街道を一台の幌馬車が走っていた。
乗合馬車として経営されているそれは、大きめのサイズに見合った丈夫な馬の二頭立てとなっており、箱馬車ほどでないにせよ少しばかり値が張る部類。
乗客の一人である異邦人の少女にとっては少しばかり贅沢で、けれど決して無駄な旅ではなかった。

この一人旅の目的は、できたばかりのコネを頼って湾港都市ダイラスから王都へ向かうこと。
到着さえすれば多少の融通も利くはずだから、長い長い街道歩きで疲れ果てるよりも有意義な"先行投資"と思っていいだろう。
それに膝に抱え込んだ荷物だって決して安物ではない。
替えの下着や櫛などはともかく、魔法の粘土で守るように包んだ宝飾品は落としたり盗まれたら大事だ。

「ふぅ……わぁ、中継はこの街で最後だから、王都はもうすぐですね」

乗客の入れ替わりと新たに積み込まれた荷物を尻目に、長旅で張り詰めていた緊張の糸が切れかかっている。
ダイラスからの道程を思えばもう間もなくの王都の威容を夢想しながら、必死にあくびを噛み殺す。
この先にはどんな出会いが待っているのだろうか。
凄い英雄を見かけるかも知れないし、気のおけない友達と会うかも知れないし、はたまた飢えたモンスターや盗賊だって可能性はある。

ただ今は……うとうとと船を漕いで、頭突きをかました乗客に怒られる未来が最も身近にありそうだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にヴィクトールさんが現れました。
ヴィクトール > 戦仕事を終え、普段なら馬に乗るなり何なりと足があるのだが、今日はそうも行かなかった。
戦いの最中に乗っていた馬が綺麗に眉間を撃ち抜かれて即死、同じ班の仲間達はゆっくりと帰れるのだが自分はそうも行かない。
げんなりとしながら中継地点で足を止めた馬車に乗り込めば、溜息を零したくもなる。
気怠けに腰を下ろしたところで、隣の乗客の姿に気づいた。
随分と小柄で可愛らしい姿を見下ろすのは、彼女と50cmは背丈の差がある男。
黒髪の下から覗く金色は獣じみた鋭さがあり、静かに一瞥すると肩に立てかけるように相棒たる大剣を下ろす。
そうして馬車が再び揺れ始めると、隣の姿が視野の橋でちらちらと揺れだした。
ゆっくりとそちらへと視線を傾ければ、眠り姫になりつつある様子をみやりつつ……軽く脇腹を肘で小突く。

「こんなところで寝てっと、身包み剥がれて売り飛ばされるぞ?」

冗談めかしながらクツクツと笑い、そんな注意を促す。
服装を除けば、体のパーツは全体的に淡く透き通る色合いをした姿。
それこそ奴隷市場に並んだらいい値段にされそうな見た目だというのに、無防備な様子は心配にもなる。
そんな注意を促した後、視線は周囲の客たちへ自然な流れで向けられていく。
そんなことを思っている輩はいないだろうなと、脅しかけるように口角を釣り上げながら。

フェリーチェ・メランドリ > 「あっ、ごめんなさ……いいえ、ありがとうございます」

カクンと落ちかけた頭が跳ね上がり、慌てた様子で謝りかけるもそれは何だか違う気がしてお礼に変える。
片方ずつ目をこすり、背もたれにするには心許ない馬車の壁に沿うように、座ったままでまっすぐ背伸び。
背筋がしっかり伸びた所で見上げれば、笑う様子に釣られてこちらも微笑み返す。

しかし、驚いたお陰で少し目は覚めたけれど、外を覗き見ればまだ到着まで時間がある様子で、浮かべた笑顔ほど楽しいことはなさそうだった。
退屈しのぎに注意を促してくれた相手の素性を推理するならば、その厳しさと威圧感から馬車の護衛っぽく見える。
休憩の邪魔になっているだろうかと、膝に抱えた荷物を意識してギュッと引き寄せてから、もう一度仰ぎ見て。

「お兄さんは護衛のお休み中ですか?横になられるのでしたら、スペースをあけますが……」

親切にしてくれた相手ということもあって、もう到着までなら狭い隅っこだって気にならない。
そう思って座っている位置を少しずらしてトントンと床を叩く。

ヴィクトール > 言葉を言い直しながらのお礼が帰ると、目をこすりながら姿勢を正す様子に悪人面にも笑みが浮かぶ。
微笑む少女の姿はとても幼く見えて、幼子のお使いのようにも見える。
周りの輩に一応の脅しを掛けるが、まだ王都までは遠い分に油断ならぬ状態はかわりない。
とはいえ、自分がこうして睨みを効かせていれば悪さもしないだろうと肩の力を抜いたところで、再び視野の端で影が動いた。
何をしてるやらと改めて彼女を見やれば、なぜ荷物を引き寄せる様子にはてと小首をかしげたくなるが、続く言葉に少々呆気に取られる。
大きく勘違いする様子にクツクツと押し殺した笑い声を零しつつ、戦人の大きな掌を伸ばす。

「ちげぇよ、俺ぁ面倒なお使いを押し付けられた傭兵だ。面倒くせぇ仕事だったから、お前が報告に来いって言われて一人こんなところにいるってわけだ」

冗談めかした説明をしつつも、伸ばした掌がふわふわのくせっ毛の頭を優しく撫でていく。
太い指と掌に残る剣を握り込んで固くなった皮膚の感触が、彼女の猫のような毛並みとは相反した固い感触を伝えるだろう。
それから位置をずらそうとする彼女の腰へと腕を回せば、そのままでいいというように軽く押さえ込む。
あまり力を入れると簡単に壊れてしまいそうだから、添えるだけといった触り方ではあるが。

フェリーチェ・メランドリ > 甘んじて頭を撫でられるに任せ、揺れる前髪越しの大きな手を上目遣いに見る。
これはまた随分と子供扱いされているとは思ったけれど、自国でも若い見習いくらいだからさもありなんと、力の差に抗わずに引っ張られてしまう頭を右に左にと揺らす。

「押し付けられたと……それを愚痴ではなく笑って言えるのでしたら、楽しいお仕事なのでしょうね」

お仕事の大変さを知っているよと、子供っぽさを払拭しようという狙いも込めての世間話。
もちろん言葉通りに楽しそうだという思いもあって声音が跳ねれば、お父さんに話しかけるような様子にも近いかもしれない。
ただ、安穏と家にいる子供よりは気遣いが出来るつもりで居て、遠慮したように身体をモジモジとずらして……。
そこでビクッと、腰に手が触れた瞬間に全身が強ばり、顔が俯く。

もとより貴人として過ごした期間の長い少女は農村育ちの子供より肌や肉は柔らかであるけれど、今はそれが引き絞るように固くなっている。
特にお尻回りの触れられている付近の筋肉が最初に痙攣し、軽く斜めに崩した足もピッタリ閉じて引き締める。
そして、細く控えめに息を吐き、少し間を開けてから努めて貼り付けた笑みを浮かべた顔で、どこか遠慮がちに視線を相手に戻す。

「お疲れでないなら、ココに居させて、貰います」