2020/07/19 のログ
■ニコル > 「まぁ、そうなの?
お仕事中はお話をしてはいけない決まりでもあるの?」
人の世に慣れて居るとはいえ、森での暮らしから貴族邸の奥に暮らす身となったというだけで、世間知らずであることは否めず。
不思議そうに問い掛けながら、真顔で考える風に首を傾げる。
「でも、この道を行って戻るのはやっぱり大変ではなくて?
馬車が使えればいいんでしょうけど。
……あら。今日はお話をしていないと仰っていたのに、お上手ですこと」
お世辞等には流石に社交の場で慣れているから、くすりと笑って首を竦めるのに留め。
衣服への問い掛けには、思わず目を瞬いて一度視線を自分の服装へと投げる。
「笹百合が盛りの季節を迎えたと聞いたので。
夫がこの花を好きだったのよ。
…いいえ、私が好きな花だから、あの人も好きになったと言ってたわね。
だから今日は沢山花をお土産にしようと思って欲張ったら、少し帰るのが遅くなってしまって」
言いつつに、抱えた百合の花を其方へと傾けて見せ。
■アルファ > 「仕事中は1人だからね。話をする相手がいないよ。
それににこやかに聞いてくれる貴女がいるから楽しい。
自己紹介遅れたね。俺はアルファ。良ければお名前を教えてほしいな」
一日中歩き通しても足が軽いのは気が紛れるから、彼女とお話をしているから。
その言葉一つ一つに前を向きながらも夕陽に明々と染められる顔は微笑ましく頷く。
けれども夫という言葉にはつりと瞬いて顔を向ける。
「好きだった……?
お土産ってまさかお供えするという意味なの?」
彼女の胸に抱えられた白い花弁達に視線を注ぐ。
■ニコル > 「あら、そうなのね。
護衛って、てっきり綺麗なお姫様でも送る役目かと…。
そうよね、貴重とされる存在が必ずしも人間とは限らないものね。
いやだわ、私ったら。ものを知らなくて恥ずかしいわ」
片手で頬を押さえることで恥ずかしさを視覚的にも伝えて。
向けられた自己紹介に対し、そこで漸く気付いた風に、大きく一度目を瞬いた。
「ほんとね。名前も名乗らずにご同行頂いては失礼よね。
ニコル=ヴァリスと申します。よろしくね、アルファ」
軽く腰を落とす簡易的な一礼を向け。
その礼から直ったところで向けられた問い掛けに、またも、あら、と小さく声を上げた。
「夫はもう随分前に他界したのよ。
でも大往生…人生を全うしてのものだったのだから、あまり悲しみ続けてはいけないとはわかっているのだけれど。
習慣のようなものなのかしらね」
貴方は気にしてくれなくてもいい、とでも告げるかのように目を細める。
■アルファ > 「ニコルさんはどこかのご令嬢かな?
ギルドとか冒険者とかも知らない感じだし。
なんというか、気品があるよね。
ほら、挨拶するところなんて」
貴婦人めいた挨拶に戯けたように笑いながら胸に手を当てる慇懃じみた挨拶を返して。
そして続く言葉には少しだけ声を潜めていった。
「旦那さんが他界したのは随分前……若い頃から結婚してたのかな?
それとも俺と同じで長寿なのかな」
疑問もそこまで。悲しげに添えられる碧の目線に大きく首を振り。
「わかるよ。大切な人や場所がなくなったら悲しいから……。」
呟きながらゆっくりと彼女の手を握ろうとしてゆく。
逃げないなら無骨な手で温もりを与えるようにぎゅっとして。
■ニコル > 「いいえ。育ちは森の中だし、生まれはいいも悪いもないような感じね。
ただ、…嫁いだ相手が裕福な人、だったみたい。
だから苦労して勉強したのよ。きちんと奥様に見えるように」
楽し気に笑んで見せる姿は人妻というよりも悪戯な小娘めいて見えるやも知れず。
笑顔が朗らかなのはその苦労を昨日のことのように思い出せる所為。
まだくすくすと肩を震わせている間に、何やら深刻にも見える表情を向けられると、此方もつられたようにふと真顔となって。
「夫が他界したのはもう随分前だし…夫の人生にはずっと寄り添って生きて来たのよ。
だからそんな生き方の癖がまだ抜けないし、…そこから抜け出したくないんでしょうね」
自分のことを他人事めいていう口ぶりには悲壮感はない。
が、手を取られて、思わず目を瞬いた。
まじまじと其方を見遣り、見詰めた後に、軽く瞳だけを揺らす笑みを向け。
「ありがとう。優しいのね? でも大丈夫なのよ。
もう動かしようがない事実というのは、変わらないし色あせないから、強いの」
思い出は変わりようがない、と。淡々と告げてそっと手を握り返し、戯れる風に上下もして。
■アルファ > 「今のニコルさんがいるのは旦那様のおかげなんだね」
繋いだ手はそのまま並ぶ二人を繋ぐように揺れるだけ。
振りほどこうとすればすぐに離れるぐらいの力。
表情も目元は笑って下がっていても唇は紡がれがち。
「夫さんと幸せな時間を歩めていたんだ。
ある意味羨ましいな。そうやって失ったあとも満足でいられるようなのは。
本当に」
明るく努めてきた声が陰る。己のことも淡々と語る彼女に反して。
その顔に微かに憂いが滲んで睫毛が震えた。
「思い出は色褪せないよね。
でも今のニコルは寂しくないの。
ずっと夫のために添い続ける人生は」
ふと、彼女から手を揺らすのにこちらからも歩行に合わせて揺らし。
唇からやっと笑みめいた吐息が溢れた。
「あは、俺はこうしてたとえ一瞬でも手をつなげる相手がほしいな」
■ニコル > 「……そうねぇ。
でも時が経つのにつれて環境も変わっていくし。
今は家のことをしてくれている人たちが家族のようなものだし、毎日が波風なく過ぎていくのもいいものよ。
退屈、と、平和、は似ているけど違うものね」
揺れる手に、ニコニコと笑顔を返して見せ。
その表情が僅かに真顔に戻り、軽く首を傾げる。
「あなたが悲しんでくれなくてもいいのよ。
それとも、何か悲しいことでも思い出させてしまったかしら?
…寂しい……かと問われれば、もうあの人と会えないのは勿論寂しいけれど。
代わるものがない何かに出会えるって、素敵なものだわ。
だからあの人の居ない寂しさは他の何かでは埋められないし、それとは別に、貴方とお話出来て嬉しいと思っているわよ?」
言って、もう一度手を揺らした。ふふ、と可笑し気に肩を震わせて。
「いやぁねぇ。なんだかまるっきりおばあちゃんみたい」
■アルファ > 語られる言葉に耳を傾けながらため息にも似た息で唇が震える。
「ちょっと感情移入してたけれど。
ニコルと俺はちょっと違うね。
旦那さんがいなくてもココロの痛みが感じない。
旦那さんがいない一時も平和と感じる強い人だ」
そしてこちらに向く真顔に笑うようにも泣きそうにも表情を崩して。
「ううん。俺は人に優しくできるいいヤツじゃないよ。
ニコルが俺と同じ辛さを持ってるんじゃないかなって。
勝手に感情移入しただけの、情けないやつ。
俺はずっと自分の胸に空いた何かを埋め合わせようと探してる。
あわよくばニコルが、たった一晩でも俺の埋め合わせになってくれるかなって」
胸の内を呟いたのならば笑う彼女に恥ずかしそうに視線を反らし。
「おばあちゃんだなんて!そんな風には感じてないよ。
介護するため手を握ったんじゃない。
ニコルの温もりがほしくて握ったんだ」
そういうなり手を力なく落とし。
そして本音と戯れを半々に横にあるく彼女に抱きつこうとする。
――正確に言うと腕を伸ばして囲むだけの仕草だが。
■ニコル > 「いない、訳ではないから…」
どう伝えるべきか暫し考えてからそう伝える。
会えないし触れられないけれども、居る。
それは、ここに。
そう伝えるべく、視線だけで自分の胸元を示した。
片手を繋ぎ、片手で百合を抱えているのだから自然とそうするしかなかったが、胸元から視線を上げる際には自然と窺うような上目遣いとなり、それを意識しているかのように悪戯めいて笑んで見せた。
「―――あら。同情してくださっているのかと思ったのに。
口説いてらしたの? ヴァリス家の後家を?」
夜会のような場でならば、そう言えば呆気ないくらいに笑いが湧くし、それを機に冗談に紛らせて相手の手からすり抜けることも容易い。
が、思いがけず腕の中へと閉じ込められ、慌てて百合の花を庇った。
揺れる白い花弁から間近の距離の相手の表情を見上げる。
「酔っているの?
ほら、急がないと日が暮れてしまうわ?」
愈々影が濃くなった辺りの景色と沈みかけの夕日を目線だけで示し。
■アルファ > 「……っと、ごめん。」
夢中のあまり胸に抱いた白百合が体に触れるのに距離を話していく。
背筋に触れるまで伸びた手は肩におき。
その上目遣いに苦々しく笑みが溢れる。
「余裕だね。答えは聞いてないけれど。
多分俺より長命なんだろうな……
だから楽しかったんだろうけれど」
肩に添えた掌も拘束というには程遠い――
薄紅の瞳は揺れる白百合ではなく碧の彼女の双眸をまっすぐ見据えて。
「同情してないとは言えない。ニコルが寂しそうだと勝手に思い違いしただけ。
口説くにはあまりに時間は短いけれど。このまま離れるのは惜しかった。
家柄なんて関係ない。どんな身分も脱ぎされば男と女の違いしか無いから」
そう語る内に彼女が見る先には既に街が見える。
護衛はもう終わった。それでも凝っと見つめる薄紅は不意に瞼を閉ざして。
「ニコルと一夜を過ごしたい……俺の寂しさを埋めて欲しい」
そう呟くと共に唇を額に押し当てようとして――そして肩に置いた手を離していった。
■ニコル > 「いいえ? 気にしていないわ」
謝られたことに対して、くすりと小さく笑いながらに返し。
更に向けられた言葉に興味深げな眼差しを向けた後に、解かれた片手を口元に添えて考える風に視線を空へと彷徨わせる。
「なかなか面白いことを仰るのね。
命の長さを気にするくせに、家柄や立場を気にしないなんて。
あなたの中の天秤は、目盛りが何か所にもあるのかしら」
言葉の最後が紡がれるのと、額へと口付けが触れるのとはほぼ同時。
瞬きをした後に、吐息交じりに肩を竦める。
「これはあの人の好きな花、って言ったでしょう?
それなのに、『自分の寂しさのため』という理由で人妻を誘うの?
悪い人ねぇ?」
寧ろ可笑しそうに告げると、肩を小刻みに震わせる。
その笑みを残した侭に、先程同様に片手を引いてもらうべく其方に手を差し出した。
「今私の手にこの花が無ければ、また違うお返事をするかも知れないわよ。
試してご覧になったら?」
悪戯めいた声音と視線とを投げ、直ぐに素知らぬ顔に戻って都への道を急ぐ。
その後の遣り取りは互いのみが知るところなのだろう。
■アルファ > 「命が長いからこそ天秤の目盛りは身分や貧富によらないのさ。
きっと俺の一生を終えるのもマグメールの国が滅びるより後になるから。
そうなったらヴァリス家もなくなるでしょう?」
きまり悪そうに伏目に顔を反らしていたが。
ふと彼女から差し出す手が視界をよぎったのならばはつりと瞬いて。
「君の方こそおかしい人だよ。
こんなことしていてもまだ逃げずにいないなんて。
でもまぁ」
その指先は彼女の手を握る前に白百合の花弁を柔らかくなぞって。
「旦那さまの捧げる花の前では無粋だったね。
ごめんね。名前も知らない旦那さん」
そう寂しげに告げてから再び手を握り直し。
元通りの淡微笑を乗せた顔で彼女を街にまで連れて行く。
別れ際はその背が見えなくなるまで見送ったことで――
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からニコルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアルファさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にエレイさんが現れました。
■エレイ > 「──Zzzz……」
まだ日の高い時間帯。
街道脇の草原で、草に埋もれるようにして仰向けに寝そべっている金髪の男が一人。
両手を組んで枕にしながら、晴天の空の下でマヌケな寝顔を晒して絶賛爆睡中だった。
時々吹き抜けてさわさわと草を揺らす風に擽られたように、ムニャムニャと寝言めいた
声を漏らしたりしつつ。
なお男の寝るその近くでは、男が連れたものらしき、馬具を装備した平均的な印象の鹿毛の馬が一匹佇んでいる。
時折草を食んだり、ゆったりと歩いたりするものの男から大きく離れることなく一定の距離を保ち続けていて。
のんきに眠る男と合わせて、ごくごく平和な光景を形成していた。
とはいえ──男の姿が草に埋もれていることから、遠目から見れば馬が何故か単独で
佇んでいるようにしか見えないかもしれないが。
■エレイ > やがて日が傾き始めた頃に目を覚ました男は、大あくびをしつつ馬を呼び寄せ、鞍に跨りのんびりと何処かへ向かっていって──。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からエレイさんが去りました。