2019/04/14 のログ
アルブム > 「だ、大丈夫です。ご一緒だなんてそんなこと……ご迷惑ですし。
 ぼくだって一応は自立した人間です、うん、一応。お気遣いなくです!」

シスターの配慮を、アルブムはやんわりと断る。苦笑いしつつ、頭を掻きつつ。
ほんとは好意に甘えたいところを無理して大人ぶって遠慮しているようにも見えたり見えなかったり?

「……ああ、なるほど。信心を広めるための衣装なのですね。納得です。
 おねえさんが汗びっしょりになって働いてるとこ見れば、教会に行って他の仕事も見てみたいって気分になります。
 ぼくはなりました! だから……あ、ええと」

服装についての理由を聞くと、しばしなにか考えたのち、得心したような言葉を吐く。
……素直に字面を受け取るなら『売名行為』そのままだけれど、そうまっすぐ言うのは憚られて。
他方で、信仰を進める者にとっては売名行為も立派な布教行為なわけで。
自分もいずれはそういうことを意識しなければならないことを考えれば、とても揶揄はできない。

「……そういえば、おねえさんはどの神様の神職さんなのでしょうか?
 ええと、この国の国教がノーシス主教なのは知ってますが、王都にはそれ以外の教会もありますし。
 ……不勉強ですみません」

語らうのに、いつまでも座りっぱなしでも失礼だ。
やや重々しい所作で立ち上がり、時々屈伸をはさみつつもマルレーンの側に立って話を続ける。

「あ、ぼくはアルブムって言います。神職……《かみさま》のお遣いの見習いです。
 《かみさま》……うん、たぶんヤルダバオート様とは別の神様だと思いますけど。
 まだぼく、《かみさま》の正体すらよくわかってませんが……」

自分も、シスターに近い存在であることを打ち明ける。

シスター・マルレーン > 「自立というのは、疲れた時に疲れたと言える。そして、自分でやらなければいけない時に自分でやる。そういった覚悟があってのこと。
 それに、もうすぐ終わりますから、どうせ一緒になりますって。
 ほら、ムキムキのお兄さんの代わりにやってるくらいですから、荷物を持つくらい簡単ですからね。」

最後の一行だけは遠い目をした。
ムキムキのお兄さん、私は今貴方と比べられています。なんでだろう熱いものが目にこみ上げてきそう。

「ふふ、ありがとうございます。
 こうして働いて、少しでも「教会ってがんばってるんだ」って思ってもらえれば。
 そのためにやっているようなものです。

 ああ……そうですね、国教の方で合っていますよ。
 私が勤めている教会は遠方ですが。
 不勉強って意味なら、私もよっぽど。
 冒険者兼シスターなんです。 ですから、生き残る方法ばかり勉強してしまって。」

不勉強も笑い飛ばして、んーー、っと伸び。
疲れたけれど、それを表情に出さずに、ふむ? と相手の言葉に耳を傾ける。

「……なるほど。神の声を聴くわけですね。 それは誰にでもできることではありません。
 成長して、立派にその声を届けられるようになるとよいですね。」

特に宗派が違えど、気にする様子は見せない。

アルブム > 「覚悟……ですか……」

シスターの言う『自立』の定義が、アルブムの心にちくりと刺さり、束の間物憂げな表情を纏う。
自分はどうだろう? 疲れたときに休むにも、なにか物事に挑むにも、すべて《かみさま》の言いなりだ。
自分はそれで良しとして動いてるけど、シスターから見ればその姿は子供そのものなのだろうか?

「……は、はい。それじゃお言葉に甘えて、ご一緒させてもらいます。
 あ、でもさすがに荷物を持たせるわけにはいきません! ぼくの荷物はぼくの荷物ですから!
 いやその、盗まれるのが怖いとかじゃなく、これも修行の一環なのでっ!」

そして結局、シスターの好意を甘んじて受けることにした。
これもまた、脳内で《かみさま》がそうせよと命じたから。
この声に異議を唱えるという考え自体がアルブムには浮かばないのだ。

「……ん、はい。そうですね。シスターの言う通り、ぼくは《かみさま》の声が聞こえます。
 いまも聞こえてます。頭の悪いぼくに代わって、知恵を授けてくださります。
 それだけじゃなくて、悪い獣から守ったり、食べ物を作ってくれたり、奇跡も起こしてくれます」

自分の《かみさま》について評価してくれるシスターの言葉に、アルブムはやや重々しい口調で答える。
ちょっぴり複雑な心境なのは、やっぱり自分が《かみさま》に頼りすぎなのを自覚したから。

「シスターの言う通り、稀有な能力だと思います。
 生まれたときからそうだったんで、故郷でもすごくもてはやされました。
 だから、そんな《かみさま》の恩恵と好意を無駄にはできなくて。まだまだ修行中です。
 ……でも、シスター」

伸びをするシスターを、サファイアのように青い瞳で見上げる。
修道服に滲む腋の汗ジミがすごい……ちょっぴり恥ずかしくなって目を反らしつつも。

「《かみさま》のいいなりばかりでは、ぼく、自立した大人になれないのでしょうか?」

シスター・マルレーン > 「ふふ、よろしい。 まあ私は工具とかありますからね。
 アレ重かったんですよね。」

大木槌に金槌を思い出して、肩を落とす。はーっと溜息。
ムキムキのお兄さ(以下略)

「………なるほど。」

相手の今まで歩んできたその道程を思い、顎を撫で、何かを考える。
それほど見識が広い方ではないが、それでも、ここまで動的に、常に声で指し示す神は聞いたことが無い。
そんな事例も、ほとんどないのではないか。
どうやら、自分の知っている事例とはどれとも似ていないようだ、と考えて。

「………そうですね。 私が考えるに、ですが。」

汗の染みはすっかり大変なことになっている。
自分では考えない様にしながら、少しだけ間。言葉をゆっくりと選んで。

「……神の言葉は大切な物。 それを言いなりととらえる必要はありません。
 ただ、それを他の人に広げ、伝えていくためには、自分の成長が大切です。

 言葉が足りなければ、自分の聞こえている声が正しく伝わらないでしょう。
 そして、それに伴った行動が無ければ、人は信用も信頼もしてくれないでしょう。

 ですから、頼りながらでよいから、自分を磨くことです。
 そういう意識を常に持つことです。
 貴方が「かみさま」がきっと何か言ってくれるから、と思ってしまった時には、この言葉を思い出してください。」

微笑みながら、少し膝を折って。目線を合わせながら言葉を紡ぐ。
その上で、に、っと歯を見せて笑った。

アルブム > 「自分の成長……言葉……」

シスターがゆっくりと語る言葉に、アルブムは口を一文字に結んで聞き入る。
シスターには聞こえていないモノではあるが、この間はアルブムの脳内に響く《かみさま》の声も束の間止んでいた。

そう。いま聞こえている《かみさま》の声は、あくまでアルブムにしか届かないもの。
ゆくゆくは、アルブムはそんな声を自分以外に向けて発する『拡声器』の役割を担うのだ。
しかしながら、ただ《かみさま》の言葉をオウム返しに発する機械であってはならない。
もしそうしようとしたとしても、自分に知恵がなければ、きっと捻じ曲がった形で発せられることになる。
《かみさま》を理解し、言葉や教えを噛み砕き、流布しやすいかたちを帯びさせて伝える。
それこそが神使の役割なのだろう。そしてこのシスターは…。

「……思い出しました。《かみさま》もかつて、そのような事を言ってました。
 でも、シスターに諭されるまで、その真の意味を理解してなかったのです。噛み砕けてなかったのです。
 ……ああ。こんなことだから、シスターに自立してないと言われ、《かみさま》にも叱られるのですね」

自分に目線を合わせてくれたシスターの顔をじっと見つめると……徐々に声が震えていく。
眉間にシワが寄り、目が細まる。いまにも泣きそうな表情。だが、涙が溢れる寸前でなんとか食い止まる。

「シスターはそれができているから、会ったばかりのぼくをここまで導いてくれたんですね。
 そして今もこうして奉仕活動をして自分を磨いていらっしゃる。
 ……ああ。ぼくもシスターのようになりたいですっ!」

未だ苦々しい表情を残しながらも、精一杯の笑顔と明るい声を作り、憧れを言葉にする。
そして、ちょっぴり口を結び、何かしら考える仕草をすると。

「……じゃあ、じゃあ! ぼく、自分の考えで人のためになることしますっ!
 シスターさん、汗びっしょりでわき……いや、服が湿って辛そうです。ぼくが乾かしてあげます!
 《かみさま》の奇跡ならきっとできます!」

若干言葉を噛みながらも、そんな奉仕行動を宣言する。

シスター・マルレーン > 「いやー……。」

してないって言ったかな、なんて頬をかくけど。まあ、少年らしいなとは思ってたしなめたから、そう捉えたのだろう。うん。

「なーに、人生においては先輩ですからね。
 どーん、と頼ればいいんです!」

そろそろムキムキのお兄さんのショックから立ち直った。
大きめの胸をぱーん、と叩いてえへんと胸を張る。

「できて……できているかナー。 まあ、がんばりたいとは常に思っているのは事実です。
 …………」

奉仕活動をして自分を磨く、という言葉には少しだけ硬直する。
依頼だし。 ぼやいてたし。 心はすっかり汚れてしまった。
ソウデスネ、と少しだけ視線をそらして口にする。まぶしい目線が痛い。

「…………え? いや、大丈夫大丈夫。
 私は大丈夫ですって。」

流石に不意打ちだったのか、顔をか、っと赤くして自分の服を。特に汗をかいている部分を隠すように手で覆って、一歩二歩下がる。

アルブム > 『自立』云々について揶揄されたので、それがアルブムには否定のニュアンスに聞こえてしまったようだ。
よい薬になったことは確かである。

「そうですっ、シスターは人間としても神の使徒としても大先輩です!
 お会いできて光栄に思います!
 そしてシスターがまだまだ頑張ってるって言うなら、ぼくはそれ以上に頑張ります!」

すっかりその有り様と威厳に惚れてしまった様子のアルブム。
多少おどけた振舞いをみせても、真ん丸に見開かれた青の瞳はシスターの姿に釘付けだ。

しかし、そんなシスターの唯一の汚点?である汗まみれの衣装。
それを正すという奉仕の申し出をやんわり断られれば、再びアルブムの顔に翳りが差す。

「………あ、ご、ごめんなさい。ぼく、そういうコトすれば喜んでもらえると思っちゃって。
 大丈夫なら、大丈夫ならいいんです……。はい……別のこと、考えます。
 ……あ、それに。《かみさま》が言うには、実際に手をそこに触れないと奇跡を以ても乾かせない、とのことで。
 うん……神職の、未婚の女性に気軽に触れるようなマネ……失礼ですよね……」

本気でシスターのことを思っていたようで、しゅんとしてしまう。
まだまだ自分で考えて行動を起こすには未熟なようだ。

シスター・マルレーン > 「それならよかった。
 努力には果てがありません。 ですから、少し疲れてしまうこともあるかもしれませんけどね。
 頑張り過ぎない程度に。身体が疲れ切ってしまわぬ程度に。」

まっすぐに見つめられれば恥ずかしい。
てめえこのやろ、と思いながら怒りに任せて木槌を振り回していた姿を見られていなくてよかった。

「ま、待って待って。わかった、わかったから。
 ちょっと乾かしてもらえるならそれは助かるのですけれど。

 何より、私はまだあなたのそれを見たことが無いのだもの。
 最初はどんな人も、少しは戸惑い、不安がるものでしょう?」

まあまあ、まあまあ、と、しゅんと落ち込む少年をなだめつつ。
……うーん、仕方ない、とため息をついて。

「……はいはい、じゃ、お願いしましょうか。どうすればいいのかしら。
 このまま黙って座っていればいいのかしらね?」

苦笑交じりに相手の申し出を受け入れて、目の前にちょん、と座って見せる。
どうぞ、と大人しく、相手の行動を待つ。
まあ、ついでだ。 どんな奇跡が起こせるのか見ておくのも悪くない。

アルブム > 「……いいのですか? ありがとうございます!
 決してシスターに不快な思いはさせませんから!」

申し出に相手が折れてくれれば、アルブムの表情の翳りはコロリと消える。
問答で折ったつもりもなく、ただシスターに無用な気を使わせてしまっただけなのだが、アルブムに悪びれる様子はない。
いや平常時なら少しは気に病むのだろうけど、今はちょっぴりテンションの振れ幅が広がってるようだ。
感情に流されやすいのも若さ、いや幼さゆえか。

「しゃがんでくれればそれで大丈夫です。……というわけで《かみさま》。
 シスターのお召し物を清めるための《奇跡》、このぼくの掌にお遣わしください……」

アルブムはわずか目を伏せ、蒼天を仰ぎ、奇跡を乞う言葉を紡ぐ。
すると、もともと白いアルブムの両手が、ぼんやりと白い燐光を帯び始めた。

「で、では失礼します、シスター。すぐ終わります。いつも自分の服にしてることなので……」

やっぱりそれでも、婦女子にみだりに触れるのは少しは気後れする。
いまこの時になって若干の躊躇を見せるも、もうここまでくれば引くわけにもいかぬ。
シスターの帰途が爽やかになることを祈って、正面からそっと彼女の腋に手を差し込んだ。

奇跡とはいつでもささやかなものである。《かみさま》のそれは、滅多に派手さをみせない。
ただまっすぐに差し込まれただけのアルブムの手は、微動だにすることなく、敏感な部位をくすぐる動きもない。
白い光が静かに布地に作用して、染み込んだ汗を急速に蒸散させていく。
全く掻痒感がないわけでもなかろうが、きっと平常心でいられる程度の異物感だろう。

……ただ、アルブムにとってはそうでもなく。

「………暖かい……しっとり……」

手に触れる女体の暖かさと柔らかさ、そして淫靡なほどのしっとり感に、つい言葉が漏れてしまう。
それをきっかけとして、蒸散する汗に含まれるフェロモンさえも感じ取ってしまって。
不可抗力的に『スイッチ』が入ってしまう。
色白のアルブムの頬があっという間に赤く染まり、吐息が荒くなる。こめかみに汗のしずくが伝う。

「…………………………」

《かみさま》の奇跡は力強い。他人のために使うならなおさら。
あっという間に、数時間分の労働で湿りきったシスター服は下ろしたてのごとく乾いてしまう。
……しかし、ぼーっとした様子のアルブムは、手を離さない。

シスター・マルレーン > 「…………」

自分も似たようなことはできる。自分の場合はただただ、手にあるものを強化するだけのオーラだが。
……ただ、それがするりと腕の間に入り込めば、ちょっとこう、恥ずかしいのもあるわけで。
ついつい、無言になってしまう。

「………ふぅん?」

なるほど。確かにするすると乾いていき、じめっとした感覚は無くなっていく。
こういったことはあまり得意ではない彼女からすれば、なるほどこれは確かに、と舌を巻く。
何も感じさせぬまま、願った物事のみをするりと叶える御業は確かな物。

「………その。」

とはいえ、すっかり乾いてしまってからも、少年の姿は動かない。
集中しているのかしら、なんてぼんやり考えつつ………。

「……そろそろ、乾いたんじゃないかしら?」

なんて、声をかけてみる。 大丈夫? なんて心配はしつつ。
奇跡というものは、身体に負担をかけることも多い。
彼女自身の能力も、己の身体に負荷がかかることは実証済みだ。

アルブム > 《奇跡》は素晴らしい。だが実際のところ、できることは高位の魔術師が行使できる秘術と大差ない。
魔力や生命力など、一切のリソース消費を伴わないのは稀有な特徴ではあるが。
そして実のところ、『服を乾かす』奇跡の行使には手を介する必要すらないのだ。
ではどうしてわざわざ乙女の腋を触れさせたかというと……《かみさま》の単なる気まぐれだ。
まぁそんな事情は、アルブムもシスターもきっと知る由はなく。

「…………………? あ、ああっ、はい、はいっ! すみませんっ!」

いくつかシスターが問いかけをしても、呆然としたままのアルブム。
乾いたんじゃないかしら?という言葉をうけてようやく我に帰ったようで、慌てて手を離す。
そしてシスターの衣服をじっと確認する。もはや湿り気は見受けられない。
自分の掌も眺めて確認する。冬の風に晒したかのように、からからに乾いている。
指についた香りを嗅ごうと……してしまいそうになり、すんでのところで堪える。少しだけ挙動を見せてしまったが。

「……う、うまくいきました! シスターさんもこれで今日ののこりを快適に過ごせると思いますっ!
 せっかく心地のいい春の日なんですから、さわやかな服で歩きたいですもんね! あは、あははは……」

くせっ毛気味の金髪をぐしゃぐしゃと掻きながら、アルブムは震え混じりの声でぎこちなく笑う。
しかしその頬は未だ赤く染まったままであり、頬や首筋を伝う汗もとめどない。
今度はこっちが汗でぐっしょりである。サンダルウッドの香水めいた芳香が、アルブムの全身から放たれる。

「……その、ごめんなさい。不用意に長く触り続けちゃいました。
 い、いえ。決してシスターを辱める意図はなく、つい、その、ぼーっとしちゃって……」

そんな自分をたしなめる様に、今度は一転、沈んだ面持ちと口調でつぶやくように謝罪する。

シスター・マルレーン > 「……あ、あはは、ありがとうね。
 おかげでのんびりと帰れそう。」

ん、と微笑みながら立ち上がれば、ぽんぽんと膝を払う。
相手の状況を見て、こっちも不用意にOKを出したかな、と反省をしつつ。

「はいはい、終わり終わり。
 いいのよ、奇跡っていうのは行使すればどこかに無理が来るものだから。
 私も似たような…………やれることは少ないけれど。
 似たようなことができるから、分かるわ?」

なんて、指先に光を灯して、ぱちん、とウィンク。
このオーラは……割と人を傷つけるためにある力なわけで、そこは複雑な気持ちにもなるが、それはそれ。
安心させるように微笑んで見せて。

「あはは、ぼーっとしちゃうこともあるでしょう。
 もう大丈夫、かしら?」

首を傾げて、もう一度膝を折って見つめてみる。

アルブム > 「いえ、その、無理をしたわけではなく……」

言葉が濁る。

「……は、はい。ぼくは大丈夫です」

言葉がさらに濁る。

無理をしてないわけじゃない。大丈夫なわけでもない。でもそれはシスターが心配しているようなコトではない。
単にちょっぴり『興奮』してしまっただけなのだ。
男性が女性に近寄って触れてしまったのだからこうもなろう。アルブムは神徒見習いである以前に男子なのだ。

そして当然、そんな『興奮』をまっすぐにこの女性にぶつけるわけにはいかない。
相手は神職であり、乙女である。憧れるべき対象で、尊敬すべき人物で、穢すなどもってのほか。
《かみさま》はそういうふしだらな振る舞いをもっとも嫌うのだ。
だから、ごまかす。気丈に振る舞ってみせる。
……しかしそれはシスターに向かって嘘をつくことでもあり、それはそれで後ろめたい。
八方塞がりである。めげそうだ。自分が嫌になる。やはりまだ、自分は大人じゃないのだ。

「…………………………」

ぎゅ、っと自分のローブの裾を切なく握りしめる。
その下では、雄の証がむくりと鎌首をもたげていた……徐々に収まりつつあるが。
それを美しい女性から隠すように、無意識に手が動いてしまう。
こんなコトしている場合じゃないのに。
あまり心配をかけさせちゃいけないのに、続く言葉がまとまらず、俯いて黙りこくってしまう。

シスター・マルレーン > ……………。

「よし、とりあえずそろそろ歩き出しましょうか。
 日が落ちてしまったら困ってしまうものね。」

視線をそらし、ローブを握り締め。
そんな様子の少年を見れば、まあ、思い当たらぬ節が無いわけでもない。
彼女はわりかし純粋一直線のシスターとはまた違うのだ。

だからこそ、その心情を慮ることも、まあ、できる。
彼女の選択は、「気が付かないフリ」だった。
これ以上「どうしたの」とは聞かない。荷物が多いからねー、なんてしゃべりながら背中を向けて、大木槌と金槌を拾い上げて。

「で、町のどこに向かっているのだっけ? 当てがあるのか、宿を探しているのか、どっちかしら。」

こういう時は、二者択一の問を投げる。
相手が答えやすいように配慮はしつつ、荷物をよいせ、と背負いながら。
目線を向けない間に相手が落ち着いてくれることを願いつつ、ちら、と振り向いて。

アルブム > 「……は、はいっ! そうですね、仕事が終わったのなら行きましょうっ!
 暗くなったら危険です!」

性の懊悩はあえて無視する、そして別の目的に視線を向けさせる。
この対処はアルブムには効果てきめんだった。顔にはコロッと笑顔が戻り、声にも快活さが復活する。

「目的? えっとその……これは修行の旅なんで、とくにアテはありませんでした。
 それで、《かみさま》が言うには、今回の旅の意義はほぼ果たされた……とか。
 ……そうですね、シスターに会えたのですから! だから今日は、シスターに同道しますっ!」

機敏な動きで、柵に立てかけていた荷物と杖を拾い、装備しなおす。
大きな鈴がついた木の杖を握り、力強く掲げる。ガラン、とけたたましい金属音が鳴る。

「…ですから、シスター。
 道すがら、シスターの話を聞かせてください。シスターの神様のこと、普段のお仕事のこと。
 ぼく、シスターをよく知って、見習いたいんです!」

さっきまでのしょぼくれた様子はどこへやら。疲労も吹っ飛んでしまったようで。
王都に戻るにせよ近隣の街に向かうにせよ、馴れ馴れしくついてくるだろう。

シスター・マルレーン > ほ、と安堵をしながらも、相手の言葉にうーん、と唸る。
さてはて、私を見習っていいものかどうか。

………とりあえず、私生活は見せられないなとため息をつく。
大体ベッドの上でごろんごろんしているのだから。

「………そうね、では、教会にまで向かいましょう。
 そこでは、かみさまの話はしないように。
 私が今回の仕事を報告しますから、その間。

 そして、近くの宿にまで案内しますから、そこを取るとよいでしょう。

 ………この国もいろいろな人がいます。 違う宗派の教会には寝泊まりしない方がよいでしょうしね。」

なんて、優しく諭す。
隣に並んで歩きながら、話題をきっちり選んで話すことにしよう。

……大工の話……いやダメだ。開墾の話……これも違う。
陶器を作る話……も違う。
マトモなシスターの仕事何をしたかしらん。


「……これは私が壊れた教会を直した時の話ですが……」

ギリギリシスターらしいエピソードを拾って、語る。
帰り道の暇つぶしにはなるだろう。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアルブムさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からシスター・マルレーンさんが去りました。