2019/01/05 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアルブムさんが現れました。
アルブム > 宵の口、王都に至る街道。陽は西の地平線に触れ、あと30分もせずに世界は闇と星空に包まれるだろう。
人影もまばらな街道を、ひとつの小さな人影が南西に向けて歩いている。

「……宿、ありませんね。今日も野宿ですね……仕方ないです」

しゃん、しゃん。彼の手には身の丈を超す巨大な杖。歩くたびに、杖の先端についた2つの鈴が清涼な音色を響かせる。
背には巨大なリュックサック。長旅の帰途であることを伺わせる。といっても半分は野営道具で占められているが。
実際長旅であった。国の北東の外れにある生まれ故郷まで年越しのために戻っていたのだから。

「……えっ、もっと計画的に旅をしろ、ですって? そうですよね、あははは……。
 でも、道中何があるかわかりませんから。ほら、今回の旅も途中いっぱい困ってる人いましたし。
 計画立てても仕方がないですよ。そうは思いませんか、《かみさま》?」

変声期前の甲高い声色で、まるで誰かに話しかけるように言葉を発する少年。
その言葉に応える者はいない。カァカァとやかましく鳴き立てるカラスが数羽いるのみ。

やがて、彼の眼前に大きな岩のそびえ立つ影が見えてくる。
平原の真ん中、街道のすぐ脇にも関わらずゴロリと転がる巨体は異様であり、一種のランドマークでもある。
そして野宿をするには一方から風を防げる好立地だ。幸い先客はいないように見える。
アルブムは、ふぅ、と安堵したようなため息を1つつくと、荷物を肩から外しつつ、その岩陰に寄っていく。

アルブム > 岩に立て掛けるようにリュックサックを下ろし、折りたたみ式のテントを取り出して組み立てる。
テントと言っても、中に1人2人が寝転がれば一杯になってしまうような細長いモノである。就寝中の風除け程度でしかない。
それをピトンで地面に固定すると、完全に陽が暮れないうちに周囲を探索し、小枝や枯れ草を集める。
暖の確保と獣避けを兼ねた焚き火の準備だ。この少年、野宿には慣れている様子。

「でもやっぱり、一人旅は寂しいですね。《かみさま》がいるとはいえ……」

集めた小枝を積み上げて、手を翳す。すると、その手に火打ち石も無いのに火花が放たれ、枯れ草に火が付く。
枝に火が移りパチパチと音を立て始めれば、ひととおりのキャンプ設営は完了だ。

「故郷のコーキ村も、去年より人は減っていましたし。若い人はほとんどいませんでしたし。
 ……本当にぼく、村を出てきてよかったのでしょうか? ねぇ、《かみさま》」

敷物に尻を下ろし、疲労の溜まった細脚を伸ばして揉みながら、アルブムは弱い語気で誰かにそう尋ねる。
その後しばし無言が続くが。

「……そうですか。《かみさま》がそういうのなら、きっとこれで良いのでしょう」

ひとつ呟いたのち、また無言に戻る。その口調にはどこか、諦めの気配も見える。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にミシェリさんが現れました。
アルブム > 大荷物を背負った長旅は、《かみさま》の加護を得たアルブムにも過酷な道程。
火に当てながら30分ほど丹念に己の脚を揉み解しても、いまだに疲労感は重く、まるで棒のように膝がこわばっている。
それでも、少しでも血行を良くしておけば、その分明日の歩みが楽になることを知っている。

「……ふぅ、お腹が空きました。《かみさま》、今晩のお食事、どうかぼくにお恵みください……」

ストレッチを終えたアルブムは、荷物を探り、木のボウルと匙を取り出す。
それを両手でそっと持ち、目を閉じて神妙な顔つきになり、しばし瞑想をすると……。
空のボウルの中に、音もなく『なにか』が溢れ出し、満ちていくではないか。これも《かみさま》の奇跡である。
ただ、その満たされたモノは『なにか』としか言えないシロモノである。あえて喩えるなら『糊』だろうか。
米を良く煮た上澄み液にかまどの灰をブチ込んで練り混ぜたような、半透明でくすんだ色のペースト。
湯気も立っていないので、冷え切っていることも伺える。
瞑想を終えてその『糊』を眼にすると、アルブムは薄い笑みを浮かべつつ、「ありがとうございます」と小声で呟く。
これが食事なのだろうか?

ミシェリ > かぼちゃの形をした馬車が、小石や砂利を蹴散らしながら、がらがらと音を立てて進む。少年が歩いてきたのと同じ方角から王都へと向かって。道端の大きな岩も、そこで焚かれる炎の明かりも、同じ道を辿っていれば当然目についた。……馬車の小窓から外を眺めていた女は、その光景に小首をかしげる。炎に照らされて野宿する姿は、まるで幼い子のように小さかったから。

馬車は徐々に走る頻度を緩めて、少年が寝床にしようとした岩の前でゆっくりと停止する。馬の足を止めるように手綱を引いたはずの御者は、不思議と姿は見当たらない。

「……どうかされましたか?」

小窓から顔を覗かせて、焚き火のそばの子に声をかけてみた。見れば旅の荷物もしっかりと持っているようだから、迷子だとかいう話ではないだろうけれど。食事のようなものを前にした相手の顔をじっと見て、その表情が何となく複雑なものに思えたから。

アルブム > よく整えられた大きな街道である。当然、馬車の通りも多い。だが……。

「………………!!?」

野営地のすぐ傍に停まった馬車は、なんとも不可思議な出で立ち。アルブムは空色の瞳を丸く見開き、しばし見入ってしまう。
かぼちゃめいた意匠のキャリッジはまるでおとぎ話の挿絵で見たそれのよう。
御者もいないのに自ら脚を止めた馬も。そして中から出てきた三角帽子の女性も、やはり不可思議な印象。

「……えっ? ど、どうって……その、今日はここで野宿して、明日王都に帰ろうと思ってたのですが」

声を掛けられてもしばしその異様に意識を奪われたままだったが、やがて我に返り、言葉を返す。

「あ、やっぱりその……子供の一人旅って、オトナからみると変に見えるんでしょうか。心配かけたならごめんなさい。
 でもぼくは大丈夫です、慣れてますんで。それよりお姉さんも野宿でしょうか?」

ボウルに湛えられた『なにか』には未だ口を付けず、ハキハキとした口調と無垢な笑顔で応える少年。

ミシェリ > あどけないという言葉がぴったりとはまるような子だ。元気のいい返答を聞いているうちに、その雰囲気につられて目を細くし、微笑んでしまう。……見るからに野宿の最中であるのは誰の目にも明らかだから、聞き方を間違えたかもしれない。いまだ手がつけられないままのボウルをちらりと見てから、小窓を閉じ、馬車の扉を開く。

「……それ、料理に失敗したのかと思って。何だか残念そうに見えたから」

座席に腰かけたまま軽く身を捻り、少年との視線をあわせる。器の中のものまでは視認できないから、もしかしたら美味しいものがちゃんと入っているのかもしれないけれど。

「……変…というより、少し危なくは思えますね。風が凌げても、夜は冷えるでしょう?
 いえ、私はこのまま王都まで向かうつもりでした。……ああ、そうだ。よろしければ乗っていきませんか?」

ようやく一桁の歳を脱したか、その前後くらいに見える容姿。寒さの対策もあるのかもしれないけれど、冬空の下で眠るのは堪えるだろうと思えてしまう。尋ねられたこちらの行動についても穏やかな口調で返して、思いついたように両手を合わせ、馬車へと誘いをかけてみる。

アルブム > 「あ、ああ。コレですか? いいえ、失敗とかじゃないです……そもそもぼく、料理とかしたことないですし。
 自分でご飯も作れないぼくには《かみさま》のお恵みも渋いんです……あ、でも栄養は満点なんですよ!」

心配させるような表情をしてただろうか? と言葉の裏で思わず自省してしまうアルブム。
もちろん、アルブムとしてはこんな糊みたいな食糧は好きとは言えない。意識せず、よくない顔をしていたかもしれない。
しかし飯抜きで飢えるよりは100倍マシである。《かみさま》にはやはり感謝しかない。

「たしかにこの辺の冬は寒いですね。故郷ほどじゃないですけど、毛布は離せません。獣もいるにはいますし。
 お姉さんは今夜中に王都なのですね。馬車の旅はいいですね……えっ? 乗せて貰えるんですか? で、でも……」

同乗を誘われると、地面に伸びていた細い脚がぴくりと震えながら折れ、とっさに立ち上がりそうな仕草を見せる。
しかし、遠慮か警戒かそれ以外か、少年は躊躇するようにしばし黙考に耽ってしまう。だが、やがて。

「……あ、大丈夫? そうですか、《かみさま》が言うのでしたら。ひとの親切は素直に請けるが吉ですよね。
 はいっ! お姉さんがよければ、ぜひ乗せて行ってください! すぐに荷物まとめますんで!」

何やら小声で呟いた後、今度はキンと響くほどに元気な声と笑顔で、魔女の申し出を受け入れる。
そして跳ねるように立ち上がると、手に持ったペーストを流し込むように頬張りつつ。
半ば慌て気味にテントを片付け、焚き火を消し、荷物と杖を抱えて馬車の方へ向かってくる。

「あ、ぼく、アルブムと言います。よろしくお願いします、お姉さん!」

ぺこり、と馬車の戸の前で深くうやうやしくお辞儀をするアルブム。
ポニーテールが夜風に揺らめき、サンダルウッドと若い汗の香気が入り混じって、馬車の中にまで漂ってくる。

ミシェリ > 「……かみさま?」

話を聞く限りでは土地から取れた食材を神の恵みだと言っているようには思えない。まるで食事そのものが、何もない場所から奇跡のように現れたのだと言いたげに聞こえる。……更には誰かの言葉を待つような様子まで見せられて、きょとんとまばたきをした。一人旅のようであるけれど、その《かみさま》とかいう存在が、どこかに隠れているのだろうか。気配を探るために緩めていた気を研ぎ澄ませようとして、集中は一瞬で切れた。最初は誘いに逡巡していた少年が快い返事を返してきたから細かな事は後回しに。

「はい。どうぞ。……ああ、一応食べるんですね、それ。
 ……食べ物を粗末にしないのは、とてもいい事です……アルブム。私はミシェリ、よろしくね」

発声や口調と同じくらい元気のいい動きで荷物を纏める様子を眺めて楽しみ、こちらへと歩み寄ってきたら乗り込むためのスペースを作る。この小さな体格では少し苦労するかもしれないと、手を差し出して乗車の助けをしつつ、香る汗にすんと鼻を鳴らした。

少年を迎え入れると、馬車の扉は閉ざされる。御者のいない馬車は、またごとごとと音を立てて走り始めた。王都へ向かうかぼちゃの形は、すぐに夜の闇に紛れて消えた事だろう……。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からミシェリさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアルブムさんが去りました。