2018/11/11 のログ
■ゴブリンリベンジャー > 苦痛と屈辱。
醜悪な相貌を歪めるほどのそれがほんの僅かであるが緩んだ。
スンッ
と鼻腔を芳しく擽る香り、忘れもしない「あの花」の香り。
うす曇の中でしか採取できぬ、ゴブリン族に伝わる傷薬を作り出すための材料であるあの香り、忘れよう筈も無い。
腐り濁る眼を細めたのは月明かりの眩さ故にではなく、欲していたものを漸く見つけたからだ。
口元も不遇を妬むモノではなく、両隅を持ち上げて愉悦に嗤う深く歪んだ笑みへと変わり、人よりも優秀な嗅覚で匂いの元を探るべくスンスンと何度も鼻腔を揺らすと、悩む事も無く大樹に体重を預けるのを止めて、匂いの元へと向う。
――…必要は無かった。
街道の両脇に生えた草木の隙間から見えた匂いの元。
何と幸運なのか邪なる神に感謝してもし尽くしても足りぬ幸運は日ごろの行いか願いが届いたか、のんびりとした歩みで傍を通る警戒心の薄い獲物を視界に捉えると、ローブを着込み、フードを被った姿そのままに、音も無く茂みを飛び出すと、その通りかかった女の背後から不意打ちを狙う。
刃物は抜かない。
行うのは体当たり、その腰の辺りに全体重をぶつけることで街道の地面に引き摺り倒し、其処から刃物を抜こうと考えた。
何故なら殺す必要は無い。
バラバラに引き千切る必要もない。
狙うのは生きたまま肉袋として捉える事のみ。
■アリゼ > 運悪く風音が強くなったばかりに、背後からぶつかる何者かにアリゼは直前まで気づけなかった。
明らかに悪意が込められたその突進に、思わず前に倒れ込んでバランスを崩す。
だが、経験を積んだ冒険者であるアリゼはすかさず横に転がって体勢を立て直し、
静かな夜に奇襲を仕掛けてきた無粋な乱入者の姿をその目で見る。
「……ゴブリンか。群れを一つ潰したばかりだと聞いていたが……生き残りのようだな」
篭手から生え出た剣の柄を掴み、タトゥーに取り込まれた大剣を引きずり出す。
ゴブリンにしては珍しく服を着ているが、相対しているにも関わらず妙に気配が感じられない。
遺跡で見つかるようなマジックアイテムの類だろうと判断して、決して視界から逃さぬよう目の前の小鬼に集中する。
黒塗りの大剣を両手に持ち、フードに隠れたその表情を窺うこともなく正面から突進していく。
「小鬼風情が!服を着た程度で人間と同格になったつもりかっ!」
重装鎧に身を包み、大剣を真上から速度を乗せて振り下ろす。
それはゴブリンどころかオークやミノタウロスでも致命傷となりかねない、必殺の一撃。
■ゴブリンリベンジャー > 最初の不意打ちは良かった。
相手は体勢を崩し、バランスを失い、崩れ落ちたか?に思えたが都合よく物事が進んだのは其処までだった様で、横に転がり体勢を整える女に対してそれ以上に追撃は出来ず、ギりと奥歯を噛み締めて苛立ちを露にしながら、出来ない追撃をして弱みを晒す愚行はせずに僅か後ろへと下がる事で距離をあけようと、しかし、それも良くなかった。
「……………ギッ!」
距離をあけた結果として間合いは相手が振り上げる大剣の間合いになってしまった。
相手を見上げなくても相手の手を見なくても理解する。
その手に握られた凶器は一撃必殺の威力を持ち、次なる行動はその一撃必殺を加速させ更なる殺傷力を持つ一撃であると。
なら、出来ることは何か。
考えることが出来る時間は無く、少しでも思考を弛めれば次に見えるのは走馬灯となるだろう、明らかに勝てる相手ではないことを知るのに時間は掛からず、縦一文字に切り裂かれるという現実が迫るのを肌で感じる前に……動く。
相手の重たい一撃をかわすべく、女冒険者?がした様に横に跳ねてから砂埃に泥にまみれるにも構わず横に転がる事でその一撃に己の身ではなく、空気を断たせ、地面を抉らせようと狙い、ほぼ同時に腰に携えた復讐の刃を引き抜くのではなく、柄の先端を相手の肌の露出が多い筈である相手の額に向けて、強く握ることでその先端より鋭い毒針を飛ばす。
都合どおり相手の額を貫く事など出来る威力ではない。
よけられてしまうかもしれない、だが傷一つつけば、其処から毒を送り込み、四肢の力を弛緩させるくらいは出来るだろうと。
そこまで届けば互角程度にはなろう
上手くいけば無力化は出来る、何にせよ効かなければ復讐も何も無く終わるだけだ。
■アリゼ > どうやら見た目と同じく、ただのゴブリンではないようだった。
妙な効果を持つボロ布のようなローブが汚れることもいとわず、
横に吹っ飛ぶように転がって小鬼はアリゼの一撃を回避する。
「ちぃっ!だが逃がしはせん!」
地面に刺さった先端を引き抜き、再び大剣を振り上げたその時だ。
小鬼のローブの中から何かが、アリゼの額目がけて風切音と共に射出される。
兜を形成しておらず、むき出しの額に突き刺さったそれに気づくのは身体から力が抜け始めた頃だった。
血が垂れるのにも構わず強引にそれを引き抜いて、震える四肢に力を込めてなおも体勢を崩さない。
「麻痺毒の類か、だが額を狙ったのが間違いだったな。
私は……その程度では倒れん!」
悪知恵が働くとはいえ、体力と魔力はこちらの方が上だ。
確実に息の根を止めるために、大剣を長槍に形成し直す。
先程よりは勢いが衰えたものの、やはり当たれば致命傷となりうる突きを小鬼目がけて放つ。
だがそれは、穂先と脚に一瞬、されどわずかな震えが生じたことで致命傷からかすり傷へと格が下がっていく。
明らかに不味いと分かる一撃だったが、アリゼは避けられればそのまま薙ぎ払いへと移行する構えだ。
■ゴブリンリベンジャー > 復讐の為に木の根を食み泥水を啜って生き延びてきた汚れるのは今更の事、ヒトではない、汚れることで受ける病魔など無縁である為に避ける為に泥まみれになるのに何のためらいがあろうか。
「ギ、ギギ……………………。」
逃げるか、否か。
被ったフードの奥で眼を細めたまま、眉間に深く皺を刻み直し、生死をかけた緊迫感に乾く唇を己の唇で舐めて濡らすが、それを終えて一息つく程の時間はくれないようだ。
視界に移る女の姿は改めて月光の下に眺めれば挑んで良い相手ではなかった。
あの夜を思いださせる燃えるような赤い髪、それだけで射抜かれそうになる金色の瞳、全身に纏う黒色の全身鎧、波の冒険者ではないし、手持ちの武器はその防壁を打ち砕けるほどの威力に届かないし、一番相手にしてはいけない者だと再認識しただけで現状を打破出きる方法も浮かばずだ。
下がれば地獄、進めば極楽。
毒がまわり始めているのに互角にも持ち込めぬ相手に対してやれる事は数少なく、浮かぶ作戦もなければ、手は一つ。
武器が変化するのも想定外、何もかもが想定外の今、小柄な身体を生かして相手の懐に飛び込む為に街道の地面を踏みしめて蹴り、駆け出すと相手の槍の切っ先を紙一重でかわすべく身体を翻し、己の身の代わりに切り札の一つであったローブを貫かせ、その刃に魔力の掛かった布を巻きつかせることで少しでも弱体化を狙い、同時に薙ぎ払い想定もせずに相手に飛び掛ると、鞘を収めたままの復讐の刃を振り上げて相手の首筋に柄を打ち付けると同時にギミックを発動させて、首筋の血管に直接弛緩作用のある毒をたたき込む事で、完全に女冒険者の体から力を奪おうとした。
だが想定していない一撃が為されればそれも達成できず、大樹にたたきつけられるかもしれない、しかし其処まで考えることを許してもらえる相手でもないし、余裕も無く、毒を持って制圧するしか出来ない。
■アリゼ > ゴブリンという魔物は弱い。
故に群れて、洞窟やほら穴にこっそりと隠れ住む。
にも関わらず、知恵も勇気もなくただ騒いで暴れるのみ。
目の前の子供程度の身長しかない小鬼も、その生き残りに過ぎないと考えていた。
「か、あっ……ふっ……ひっ……」
貫いた手ごたえはローブのそれ。突き通すために身を乗り出したことで
小鬼が懐に飛び込むことを防げず、鎧でも守り切れない首筋へと短刀の柄が叩きつけられる。
鈍い痛みと共にやってくるのは、身体から力が抜け、呂律が回らなくなってくる感覚。
口を半開きにして涎を垂らし、重装鎧に包まれた身体を折り曲げてアリゼは地面へと崩れ落ちていく。
長槍は主の手から零れて、地面へと落ちる寸前に鎧へと戻っていく。
後に残るのはローブを脱ぎ捨て、月明りに照らされる手負いの小鬼と、
弛緩毒を首筋に打ち込まれ、無様にのたうち回る一人の女だけだった。
既に夜は遅く、他に通りすがる者も、衛兵の巡回もない。
花を詰めた革袋も腰に縛りつけたままで、小鬼にとっては思わぬ収穫となるだろう。
■ゴブリンリベンジャー > 紙一重
二重に打ち込んだ毒のお陰で想定通りの効果を毒が発揮した事はローブを失い月下に曝け出した濁った眼に映る冒険者の女の姿を一目見ればわかる。
口は半開き、唾液を垂らした醜くもそそる姿を堪能すべく少しの間眺めた後に再び腰に復讐の刃を結び直すと、流石に街道で解体ショーなどして誰ぞかに見られて救出劇なんてされも面白くないと、街道の近くで見かけた洞窟に獲物に運ぶ事にし、抱えるだけの背丈も無いので女の利き腕と思われる方の手首を掴むとそのまま街道の脇道に女の身体を引き摺りながらその洞窟に向けて歩いていく。
その場に残ったのは微かな鉄錆の香りと争った際に残った足跡と何かか、それも直ぐに夜風に吹かれ土が被り消えてしまうことになるだろう……。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からゴブリンリベンジャーさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアリゼさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にジードさんが現れました。
■ジード > まれびとの道と呼ばれる街道に差し掛かって少しの場所。
如何にも怪しげな風体の旅人が大きなカバンを片手に街道を歩いていた。
時折カラン、と硬質な物が触れあうような音が手にしたカバンから誰もいない街道に響いていく。
「参った。思った以上に時間がかかる。
いい素材は手に入ったけど俺の体力と足じゃ割に合わないかもな」
ゾスの村から山賊街道へ、山中へ分け入っての薬の材料探しの帰り道。
出たのはかなり早い時間で実際に探していた時間も大したものではない。
だが旅慣れてるとは言い難い身の上には思った以上にキツい行程だった。
音を響かせることを気にした様子もなくまだ見えぬ王都の方を見る。
■ジード > 「馬や馬車でもあるなら違うか。いや、しかしそんな頻繁に使う訳でもないのにな」
買う財力がないわけではないがロクに走らせない馬を抱えるのも問題だ。
あまり走ることのない馬は病気になるなどという話も聞いたこともある。
元々薬のこと以外に頓着が薄い方なので面倒見切れる気もしない。
遠くに続く街道の先に目線をやって落胆したように肩を落としながらも
気を取り直す様にカバンを握り直して気合を入れて歩き始める。とはいえあまり長くは続かないが。
■ジード > 「――よし。今日の夜までにはせめて帰り着かないとだな。
食事がまともなもの取れないのが一番精神的に応える」
今のままだと保存食で確定である。
それだけは御免こうむると自分を鼓舞すると、
やはりあまり気乗りしない様子ではあったが街道を歩いていくのだった。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からジードさんが去りました。