2018/08/25 のログ
レナーテ > 最近は馬車を狙う賊も減り、そうそう襲撃はないだろうと思いつつある頃合いだった。
丁度乗り合わせた自身も、直ぐに応戦したものの、捨て身で車輪に丸太を突き立てに来るとは思いもせず。
馬車以外の被害がなかったことは嬉しいが、こんなところで足止めとは運が無いと、げんなりとした表情で小さくため息を零す。

(「書類仕事もありますし、王都に戻ったら……最近ちゃんとお会い出来てないですし、時間も取らないと」)

等などと、色々と物思いに耽りながら枝を投げ入れていると、警戒も緩んでしまったのだろう。
背後から掛かる声にビクッと身体が跳ね上がり、スカートの中から猫しっぽがピンと伸び切り、毛を逆立たてた。
慌てながらそちらへと振り返ると、揺れる炎に照らされ、野営するには可愛らしい戦闘衣もよく見えるだろう。
装備を納めたケープに白いブラウス、腹部をキュッと引き締めて覆うコルセットスカートの下からは飾りレースも覗ける。
そんな格好で腹部の斜めがけのホルスターに手を伸ばしたものの、そこに居たのは妙な姿だった。
日焼けしたような肌に妖精を思わせる耳に、歪んだ鉤鼻。
毛髪のない頭部に、自分よりも小さな身体ながら格好も奥地に住まう民族のようにシンプル。
ぱちぱちと何度か瞬いた後、あっけにとられてその姿をまじまじと見つめていたが、ゆっくりとホルスターから手をおろした。

「……失礼しました。野盗ですね…無茶苦茶な襲撃で、見ての通り車輪と車軸を壊されたので、修理の人がくるまで見張り番をしているところです」

謝罪とともにゆっくりと頭を下げると、足止めの理由を語る。
そして、視線を向けた先は件の馬車であり、固い木材で作られたシャフトが斜めにへし折れ、丸太を突撃させられた車輪は軸が割れて、無残にボロボロになった繊維を晒す。
敵意があるなら、すでに襲っていただろうと思えば、人間以外というのもあって少し気が緩む。
穏やかな微笑みで彼を迎え入れると、どうぞ焚き火の傍を掌で指し示して勧める。

「そちらは……王都へ向かうところでしょうか?」

この先といえば、王都以外に大きな場所には通じていない筈。
行く先を問いかけながら、自身も焚き火の前へ座り直すと、傍らに置いていた魔法銃を手に取る。
魔法石で照準をレンズに浮かび上がらせる照準器や、蔦模様を思わせるエングレイブ、フリントロック式とは異なる複雑さと魔力の気配。
武器に通ずるものなら、普通の代物ではないことは伝わるだろうか。
その銃を手に取ると、渋い顔を浮かべたままコッキングレバーを何度か引いて、金属の擦れる音を響かせる。
開いた排莢口には魔石で出来た弾丸が挟まっており、動作不良を起こしたのを治そうとしていた。

ガラッゾ > 「夜盗で野盗ッテ奴カ、ツイテねェなァ……。」

ヤトウだから夜盗と野盗をかけたウィットに富んだ軽い冗句と言う奴なのだが、コレに関しちゃ別に反応を求めていないので、自分で言っておきながら軽く咳払いをコホンと零して流した後に野営の仕度をする人影を改めて品定めしようか。

赤と橙と良く燃える焚火の炎に浮かぶ姿は野営するにはどうにもこうにも不釣合いに見えて、数秒前の苦笑いが醜悪な相貌に張り付いて取れないが、食えるか否かと考えれば美味そうである、非常に美味そうである。

ケープを剥いで、ブラウスを引き千切り、コルセットを脱がして半裸に引ん剥いて遊べば何今夜一晩……いや美味くすりゃ当分金で女を買うよりも楽しめそうだとまじまじと見つめ返し、取り出したばかりの「姿隠しの布」を肩からかける革の鞄の中に押し込むと、もう少し視線の品定めを楽しむ前に癖かついっと相手の視線を追う。

その先にあったのは想像通りにぶっ壊れた馬車。

ああ、こりゃ酷い、と小さく呟いた後に確かに王都に向う方向にはコイツと同じ馬車が倒れていたのだから、見ずとも想像に容易く、結果は想像通りで笑い話にもなりゃしない。

で、視線を見ても面白くない壊れかけた馬車から人影……しゃぶりつきたくなる程に愛らしいお嬢さんの方に向けるとなんだ無防備にもコチラをお誘いしてくるらしく、指し示された掌の方へと足を進めながら、肩にかけた革鞄を下ろした。

「車輪ト軸カ、材料アリャ作レルがオレの仕事じゃネェな……集落ニ行きゃ誰かシラ……と、悪イ悪い、質問に答えネェと。そうだアンタの言うとおりコレから王都に小遣い稼ギニ行くトコロでな?アンタはこれから……は見張り番カ。」

この頃部屋に篭って作品作りに没頭していた所為か他者と話すのについ矢継ぎ早になりつつ、多少唾飛ばしながら答えると、焚火の火の前に座りなおした女の傍らに立ち、座ろうと思ったが、何だ面白いものを手にした挙句に面白い表情をしてるではないか……そんなの好奇心が擽られないわけがない。

「……そウダな集落に行かナキャ馬車のパーツは何とモ為らンガ、ソイツの修理クライは手持チノ道具で、何とカ為りソウナンダが……。」

言葉は此処でぶつりと一度切る。
で、意味ありげに寄越せといわんばかりに細く見えるが鍛冶を生業としているモノ特有の鍛えられた腕とその先にあるボロボロの手を掌を差し出して、見せてみろという仕草を。

アレは間違いなく特殊な武器だろう。
構造がわかれば何とか……と言うよりも、修理を理由に契約でも結ばせて、美味しく頂こうと言う算段で、つい苦い笑みから品の無いにやけた笑みを浮べてしまっている。

レナーテ > えぇ と頷きながら答えるものの、軽い冗談には薄っすらとほほ笑みを浮かべていた。
魔物の類とは顔を合わせたことはあるも、彼等が発す問答無用の悪意というものが、彼から感じられない事が軽快のレベルを下げたのだろう。
とはいえど、肌を滑るような視線に気づくと、一瞬そちらへ見やるが、既に彼の視線は馬車の方。
ブラウスの中で形良く収まった小振りの胸元や、絞られた腰回りを眺めていたと分からぬまま、此方も馬車へ視線を移した。
酷いという言葉に全くですと、がっくりと肩を落としながら呟くも、不幸はそれだけではなかった。

「いえ……そうなんですね、何か作品を売りにいかれるんですか?」

王都まで小遣い稼ぎと言われれば、鍛冶屋と見抜いた返答を紡いでいく。
馬車の修理方法の可否を答えた知識、そして一方的にずらずらっと喋ってしまう特徴。
鍛冶場に籠もって作品を黙々と作る男達と、良く似た特徴だった。
唾を飛ばしながらの言葉も、何故かくすっと楽しげに微笑みながら見つめていたのも、科学者な師を別に持つ自身からすると、少し親近感を覚えたからで。

「えぇ、明日の朝にはパーツを持ってきて、修理を行うことになってますから……ぇ、いいんですか…?」

頷きながら答えていくと、話を切り替えて提案された言葉に、金色の瞳をまんまるにしていく。
差し出された手は、金槌によって擦れた職人の掌。
腕は重たい道具を振るう、引き締まった造り手の腕。
それが物語る練達さに促されるがまま、おずおずと小銃を彼へ差し出した。
間近で見れば分かることだが、最新式の火薬銃の様な連発機構を備えつつも、動作を魔力で行い、自身には動力源を持たぬ歪な武器である。
それでも、鍛冶屋としてみれば単純なところもあり、弾丸が挟まってしまった部分は、小さな金具がひしゃげて、隙間に食い込んで動かなくなっている。
丁度弩に使うような、動作パーツを思わせるだろう。

「至近距離で防御に使った時、排莢部分に思いっきり刀身がぶつかってしまって……動かせなくなってまして」

どうだろうかと彼の様子を見やりながら、その企みに気づく様子はない。
品のない笑みも、先程から見える仕草から人付き合いの無さ故だろうと、深く疑うこともしなかった。

ガラッゾ > 掌に乗るのはずっしりとした重さか、それとも羽の如く軽いか、まあどちらでもいいし、どうでもいい事だ。

まずは「それ」受け取った魔法銃を濁り澱んだ岩色の眼の前に持ち上げると、どうやって無理難題を吹っ掛けて、何処か箱入り……では無いだろうが警戒心の薄い少女を縛り付けてやろうか、と試行錯誤をしつつも、まあ根っからの鍛冶屋であり創り手、見た事がないモノにも意識を向けた。

「アーコリャ直せナイ事はナイが簡単ニハ直らンナ。分解シテ、詰りヲ取り除イテ……此処でヤルにゃ手元ハ暗いシ……アア?ナイフが数本、後装飾品が何点カと、細かいヤツが幾ツカ……。」

質問にも答える。
預かった魔法銃の不良箇所の確認もする。
後は暫くぶりの女を逃がさない様にする方法も考えなきゃならないのが辛いところ。

口元をくくと更に吊り上げて、持ち上げた唇の隙間から歯ではなく牙を覗かせながら笑ってみせる、何だろうか未知のものに対してつい笑ってしまった。

火薬は扱わないわけではない。
が火薬と魔力を融合させるようなモノを扱ったことはない、それが好奇心を擽ってくる、だが同時に女を犯したい衝動がまた久々に心地良く……最後に預かったときと同じように手を差し出し、掌に乗せた女の魔法銃を差し出した。

「ソリャ防御に耐エル機構にナってネェからな……何ならバックラーデモ身につけたらドウダ?ソレトだコイツハ結論とシテハ直せル、が此処ジャ無理だ。ツールが足りナイ、明かリガ足りナイ、後は……オマエさんオレに報酬は払えるノカイ?」

好奇心を満たすに悩んでいた創作意欲を湧かせるのに十分な代物を弄れるのだ無料でも構わないところだが、無料にするには戦闘衣に身を包んだ視線の先の少女は綺麗過ぎてしまった。

金よりも何よりも犯したい、犯して泣かせて喚かせて、そのコルセットに包まれた腹を膨らませて、産ませて、また犯したい、どす黒い欲望が好奇心を飲み込んで情欲の炎を内に燃え上がらせてしまった。

さあ、さあ、と魔法銃を女の方に差し出して、どうすると言わんばかりに女の金色の瞳を汚して涙で満たしたくなる眼を覗きこみ、笑って笑って嗤う……其処には悪意よりも怖気たたせる欲望に満ちたギラギラと鈍く眼を輝かせるのだった。

ああ、我慢できネェ、頭を使うよりも何よりも犯したい、犯したくて仕方ない、もうそれは言葉にしなくても腰にまいた革の腰巻を卑猥に押し上げるナニかが既に準備完了で、じんわりと先走りの汁すらも。

レナーテ > 銃にしては軽い、武具としてはそこそこに重たいといった曖昧なライン。
それがいびつさを際立たせるというところか。
銃を渡すと、眼前に運んでまじまじと見つめる様子をみやっていると、見立ての言葉に少しばかり表情が曇っていく。

「それは……困ります、それに明かりはどうにも…」

他の組合員の魔法銃と違い、特注品に近いもの故に、共通した整備ラインを組合が持っていない。
元々のモデルとなった小銃を作った人は既に亡く、引き継いでのフル整備が行える人も、海を渡ったティルヒアに一人。
簡単なメンテナンスや整備は教え込まれたが、重症と聞けば、鍛冶屋の言葉をすんなりと飲み込んでしまった。
どうしようと俯く中、彼の歪んだ笑みを見る余裕すらない。
やっと顔を上げた時も、差し出された小銃を力なく受け取った瞬間になる程だ。

「ぐっ……ふ、普段はちゃんと避けれますっ。でも、投げされて、不意打ちだったので仕方なく……報酬、ですか? それなりには…お支払いできると、思いますけど……」

まっとうなツッコミに、ぐぬぬといった表情になりながらも、未熟さに頬を赤らめて、言葉をまくしたてる。
ともかく彼の見立てでは、直ぐに修理ができないとなれば、ティルヒアに送る他ないわけだが…この地で直せるならその方がいい。
提案にこくりと頷きながらも、おずおずと報酬の額を問いつつ、彼を見やるが…言葉が途切れてしまう。
先程までと違う、どす黒い気配。
詰め寄るような視線と、迫る土の匂いに気圧されて、身体が少し後ろへと流れた。
彼の笑みに、落ち着きなく視線を逸らす中、僅かに感じる性の匂いに鼻をスンと小さく鳴らす。
そして、さまよった視線の先、彼の腰布に浮かぶ染みと膨らみに気づくと、更に後ろへと下がるように腰を引きずった。
ギラつく瞳もすべて、いつの間にか獣に変わっていた彼の不意打ちじみた変化に、心が乱れて言葉が浮かばず唇がはくはくと蠢くばかり。

ガラッゾ > 乾く、渇く、カワク、綺麗なそれを愛らしいそれを壊して砕いて飲み込みたい、今すぐにでも是からも永遠と……。

本来はこうなのだ。
所詮は妖精から堕ちた魔物に近しい亜人であるから、理性を持って言葉を交わして、口説き落とそうか罠に嵌めようか等、有り得ないのだ。

それを理性として引き止めていたのは本来の性質である「対価を求め」「対価に応じたモノを創る」と言う存在意義に近しいモノであり、それも今は危く脆い本能と理性を繋ぐ糸へと。

「何故ニゲル?イイゾ、払エルなラ、ガラッゾの名にかけて、新品同様に直しテヤルヨ。だからオマエは誓えばイイ、名前を名乗ッテ、修理ノ対価ヲ必ずガラッゾに払ウと。」

簡単なこと、しかしてそれは呪いの言葉でもある。
名前を名乗り、対価を支払うと言う言葉を紡げば邪な亜人との契約は成立してしまう、紙も何も必要ない、ただその愛らしい唇で歌えばいいのだと、「わざと」問いに対して額を並べず言葉を低く濁った声色で吐き散らす。

女が下がれば最初の一歩だけ前に踏み出した。
表情は消えぬ歪んだ醜悪で貪欲で今にも獲物に喰らい付きそうな獣を思わせる唇の両隅を大きく持ち上げたそんな笑み。

そして右手は自らの肩にかけた革鞄から魔獣の皮をなめして創り上げた鈴付きのチョーカーを引きずり出すと、意味ありげに魔法銃を返す時と全く同じように差出し「……ツケロ。」と一言だけ渡す動作に付け加えた。

――…選択肢は与えた。
最後にして最大の選択肢。

堕ちるか否か、もし逃げるならこれ以上下がるなら背後から襲い掛かろう、もし宣言してチョーカーを身につけるなら、骨の髄までしゃぶりつくそう、さあ、さあ……。

その答えを待つと同時に相手に深く考えさせないようにぎらぎらの鈍く輝く眼で笑み浮べながらも瞳だけはジッと睨みつけるように真っ直ぐに女の金色の瞳を覗きこみ、そしてドサッと肩からかけている革の鞄を落として、更に音を立てることで追い詰めようとした。

レナーテ > 彼という性質は全くわからないものの、矛盾が沢山生じていく。
本当に獣の様に、自分を犯したいと願うなら……得物が壊れていると知った時点で襲いかかったはず。
けれど、彼は武器を見て、こうして対価を求めてきた。
それが金銭ではなく、身体を求めているのは迫るような視線と体の変化が物語る。
ただ暴力を振るう相手なら、敵と切り捨てて、腹部の銃を引き抜くことも出来た。
けれど、彼の手に刻まれた技の名残は確かで、悪だと断じきれない。
戸惑いに鼓動が高鳴り、金色の瞳孔が震える。
後ろに手をついて、瞳を見開いて硬直する姿は、彼の思う通りか弱い少女で獲物だろう。
だが、続く言葉に少しずつ混乱が解けていく。
手に刻まれた技術の理由、そして言葉で求めてくる意味も。
俯いていく中、差し出されたチョーカーが掌にこぼれ落ち、ちりんと鈴の音を響かせる。
それは……陥落したかのように、甘美に鼓膜をくすぐったかも知れない。
伏せていた顔がゆっくりと上がっていき、彼の瞳を改めて見やる。
浮かぶのは、怒りや恐怖ではなく、決意を決めた意志の強い瞳。

「どっちも嫌です。全部納得がいきません」

拒否、その言葉と共に彼が飛びかかることも危惧して、直ぐに反対の手を彼へ差し向け、人差し指で彼を指し示す。
その後、身体を起こして彼と向き直ると、女の子座りに正しながら、彼の前に先程の小銃を置いていく。

「新品にするなら、作ってくれた人に送り直せば出来ます。するなら……それ以上のものに、限界まで手を入れてください。ガラッゾさんなら……出来そうですし」

新品以上、それ以上に強く、そして手に馴染んで自身の力を十二分に発揮できる魔法銃を求める。
師匠ほどの才もなく、師のライバルほどにセンスもなく、小技の駆使で、力の立場を保ってきた部分があった。
それを脱却する足がかりを彼に求めながら、じっとその瞳を見つめ返す。
そして、こちらもフェアであるべきと思えば、少しだけ陰りの籠もる笑みを浮かべながら、自身の胸元に手のひらを重ねる。

「欲している対価、お金ではなくて身体ですよね? 私は…数年前まで、幽閉されて性奴隷にされていました。だから、望んだ通りにの身体かはわかりません。待ってくれてる人もいます、でも、約束したら……その分に尽くしたいと思います。それでも……約束したいですか?」

新品以上を求める割に、身体は清くはなく、一人の体ではない。
それでも、彼が仕事をするに値する価値はあるだろうか?
彼が乱暴ではなく、対価として技を差し出すなら、それに身体で応えることを穢れとも恥とも言わない。
丸メガネの向こうから、金色が真面目な表情でじっと彼を見つめ返し、取引を掛け直して取り直そうとする。

ガラッゾ > 笑った。

嗤ったのではない、笑ったのだ。

玩具を手にした子供の如く、初めて武器を手にした新兵の様に、浮べていた醜悪で下賎な笑みが消えて仕舞うほどに口元を吊り上げたのではなく弛めて――…声をあげて笑った。

「くっ、グッグッググググ………面白イ。オマエは面白イゾ。恐怖に怯エ答えヲ違えるデも無く、逃ゲテ無防備な背を晒ス事もセズ、交渉ヲスルのか、オマエは!オマエは!オマエは!!」

獲物を追い詰めるような前のめりの姿勢を止め、笑っても笑っても笑い足りずに腹を抱えて時に身体を大きく仰け反らせて笑い続ける、コチラに向き直り足を緩くした座り方に座りなおした交渉相手の女が此方に問うまで、風が震えるほどに何度も…何度も……笑い続け、濁り澱んだ声をあげて叫び、先程までよりも多くの唾液を撒き散らして……やっと交渉相手の方を向き、正面から金色の瞳を覗き返した。

其処に見せるのは欲望の輝きではなく、もっと面白いものを手にした悦びの色、依頼者に向けるべくのまっすぐとした歪みのない眼差し、それを注ぎ、笑うのを止めて答えよう。

「イイゾ、約束シテヤル。地獄ヲ見せル代ワリに、オマエの魔法銃を今よりも倍、イイヤ、数倍良いモノに生まれ変ワラセテやル。だカら、オマエは今カラ、オレの性処理道具ダ。待っている者など知ラヌ、その身が何でアロウと関係ナイ。オレが笑エト言えばワラエ、犬とマグワエと言エバ尻をフレ……サア、モウ一度聞く、約束ヲ交わソウ。ソノ覚悟ガアレばソレつけテ、誓エ、ナを名乗り、対価を払ウト、誓い、コイツに口付けロ!」

言葉を吐き終えると腰布を自らの手で剥がし、先程より疼いて堪らぬ肉棒を月下に曝け出す。

汗とすえた香りを匂わせる夜空に向けて雄々しく反り返る肉棒を、使い込んでどす黒く変色し、体躯に見合わぬ大きさまで腫上がり怒張し、亀頭から溜め込んだ分の先走りを涎の如く地面に滴らせるそれを女の眼前に突きつける。

狂わせたいほどに気に入った女を犯せる悦び、同じだけ感じる鍛冶師としての能力を存分に振るえる悦び、それが何時も以上に欲望の権化を張らせ、幾筋も血管を浮き立たせていた。


そしてガラッゾは待つ。
女の唇が震える瞬間を約束が契約が結ばれる刹那を。

その醜悪なる亜人に愛らしく麗しい少女が誓う姿を見ているのは焚火の炎と夜空の星達だけなのに、まるで見計らったように偶然にも雲が流れ広がって星を隠し、吹き抜ける生ぬるい風は炎を揺らめかせて、その星と炎すらもその刹那を見ること叶わずに。

レナーテ > 「……多分、私の一番強いものって…度胸とか、そういうものですから」

狩人だった彼が一転して、腹を抱えて笑いこける姿に、眉をひそめて笑いながら、軽く頬を掻く。
こうして彼と向き合って、改めて気づいたのは自分の一番強いものだった。
怖いと思っても落ち着く事、自身を投じれる狂気混じりの覚悟。
唾液を撒き散らして笑う姿も、まるで鍛冶の精霊と獣が混じり合って生まれたかの様で、少しおかしく見える。
釣られるようにクスクスと笑っていると、彼の瞳は造り手の熱意と欲を交えたものに変わっていく。
矢継ぎに激しく紡ぐ言葉に、声を割り込ませる事なく聞き入った。
晒される肉棒は、牝を貫き続けて淫水に磨かれた剣であり、身体よりも大ぶりのそれは、濃厚な雄の香りを先端から溢れさせていく。
普段ならこんな醜穢な存在など、悪寒しか覚えないが、彼の滾りが等価交換の先にあるなら、蔑む事もない。

「その人から私を取り上げたら……喋らない人形ですよ? だから、終わったら帰りますし……必要ならまた身体を差し出して求めます。それでいいなら……レナーテ・ヘヒトは、貴方に誓います」

物言わぬ人形より、快楽に踊り、従順に転がされる牝猫の方が彼も楽しかろうと言うように、条件を挟み込むだけの度胸も備わっていく。
自分の武器をすべて使って…自分だけの強さを得る。
そのためにと彼の差し出したチョーカーを首に嵌めていき、ちりんと飼い猫の様に鈴を鳴らした。
そして、ゆっくりと身体を前へ倒していき、前かがみになっていくと、口元に掛かる髪をすっと指で掻き分けながら肉棒に唇を寄せる。
優しくキスを重ねるようにして先端に吸い付くと、僅かなリップノイズを響かせながら、溢れる汁を吸い上げていった。

ガラッゾ > 「ググッグッ……なら、ソノ腹が膨れ上ガラナイ、事を祈るンだナれなーて。」

己の作った渾身の一振りと同じだけ、堕ちず狂わずされどその身を捧げる新しい玩具を気に入り、この場に及んで尚も条件を加えてくるレナーテ・ヘヒトと名を名乗ったその玩具が差し出す条件を飲み込んで、拒絶も否定もせずに「許す」、だから縦に大きく頷くと、直ぐに二度目頷いて首にシンプルな革のチョーカーを嵌める姿に満足げな表情を浮べる。

キュ、と魔獣革のチョーカーは女の首をほんの僅か絞めて、首筋と言う皮膚の薄い其処にヒタと密着して吸い付くような感触を着用者に与えるだろう、が金属の留め金があるだけで一人でも簡単に外せるようになっている。

本命はその魔獣革のチョーカーの中心に下がる銀色のベルである、是には細かに幾重にも紋様が刻まれていて、今は眠っているが、魔力を通せば……結果は効果は着用者が別の機会に十分味わう事になるだろう。

「……ヨシヨシジャあ、バックラーくライ、プレゼントしてヤロウな。無論一級品ヲダ、オーダーメイドのいいヤツをダ、ダカラ一先ず、ツイテコイ。馬車?知ルカ、ソレとも後日逢瀬のゴトク待ち合わセルカ?」

今度は軽く笑って牙を剥き出しに濁った声色で聊か弾んだ音で言葉をを紡ぎ上げると、薄茶色とこげ茶の混じる有り触れながらも女に良く似合う色合いの髪を掻き分ける仕草に鼻息を荒くし、その後に訪れた柔らかな唇の感触と吸いつかれる感覚に、思わず無理やりにでもその口内に一杯に咥え込ませたいと衝動に両手がピクっと動くが、さすがに返答を聞かねばと堪える。

しかし堪えられないのは性欲の権化、目の前の女を孕ませたくて仕方のない欲望の化身、先走った汁が吸われる感触は心地良いとしか言いようが無く、その醜悪な相貌に負けぬくらいに臭悪な濃厚な香りで愛らしい女の口内を汚し、吸い上げられた分それが溜まっている事を予感させるだけの汁を垂らして、されるがままに吸い付くのを許すのだった。


さて、空に輝いていた月も薄雲に隠れて眠る良い時間である。
女の返答次第では熱を持て余す事を久々に楽しみながら、この場から立ち去ろう。

集落までついて来ると言うのなら身支度を整えて、後姿を見失わない程度に加減して、来たばかりの道を戻ろうか。

レナーテ > 「……」

彼の元に帰れるとは言ったが、自らの身を按じる言葉は重ねなかった。
そのリスクは彼の言う通り、孕む事もそうだが、今ある身体が一層穢れてしまう可能性。
煮えたぎった獣欲の前に奥歯を噛み締めて、嫌だと怖いと叫ぶ少女らしい声を押し殺していく。
首にかかるチョーカーは、飾りというには禍々しい首輪を思い起こし、ぞわりと体中が悪寒に震えそうになるのを必死に堪えた。
前かがみになって、唇を重ねる仕草も全て彼の欲を誘うためのもの。
金色の瞳をゆっくりと細めていき、閉ざしながらに先端へと吸い付いていく。
視野を閉ざし、無防備に唇を開いていきながらも、揺れる髪からはシトラスの甘酸っぱい香りが零れ落ちる。
指の合間からさらりと溢れる色の混じった茶色の髪も、戦う女にしては綺麗に手入れが施され、彼の身体に掛かるなら、心地よい肌触りを伝えるだろう。
僅かに開かれた唇が亀頭を少しずつ飲み込んでいき、鈴口の割れ目を口内へ包んだところで、少しだけ舌先をそこへ這わせながら唇を離していく。
舌の上をたっぷりと伝い落ちる先走りの濃さ、量に身体が小さく震える。
興奮なのか、恐怖なのかわからないほど、今は両方が入り混じっていく。
ゆっくりと、緩慢な動きで離れていけば、つぅっと銀糸が伝い落ち、緩やかに開く瞳は熱を帯びて、彼を見上げる表情に恥の朱色を重ねながら金色を逸らす。

「……それなら、元にするのを持ってるので是非…。行きます、ほんの少しだけ待ってください」

ついていく事を選べば、鞄から小さな信号拳銃を取り出し、中折する銃身の後端部から、弾を押し込んで銃身を戻す。
空に向けて引き金を引くと、赤い閃光が空高く飛び上がり、緩やかに光は対空しながら漂う。
脳裏に繋がる相棒たる鳥に後を任せる言伝をすれば、彼に導かれるがまま、集落へと向かうだろう。

ガラッゾ > 何とも表現し難い柑橘を想像させる美味そうな香りと擽ったくも白濁塗れにして汚したくなる髪をまだ堪能していたいが、今宵は堪え、鈴口すら舌を這わせて丁寧に処理する性奴隷の時の技術だろうか、一方的に蹂躙するだけでは楽しみきれない玩具に、その美しい玩具が卑猥な汁の名残となる銀糸を伝わせるコントラストに鼻息を一層荒くし、我慢だとそそくさと腰布を巻き、肩に革のカバンをかけて支度を整える。

その最中に打ちあがった赤い閃光にまた一つ興味を惹かれはするが、何はともあれ歩き出そう、面倒ごとに巻き込まれて、折角の玩具が台無しに成る前に、後は……思い浮かんだ構想が消えてしまわぬように……。

待つ、事だけは出来よう。
女が仕度を整え終えるのを素直に待てば、後をついてくるならば王都に向かう筈だった足を集落の方へ、兄弟がいる廃村だった其処に向けて進めていくのだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からガラッゾさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からレナーテさんが去りました。