2017/10/11 のログ
クトゥワール > 「ああ……。」

納得した。魔物はともかく、嵐には覚えがあったゆえ。
立てた膝ごとステッキを抱える形で座り込む。

「しかし先程、有り触れた日常と言っていたな。この場所にはよく来るのかね。」
「確かに見晴らしの良いいい場所だが…。」

実際問題、己は怪しい者ではある。こんなところでいつも彼女は寝こけているのだろうか。
魔物が出ないにしても街道沿いなら人は通るだろう。このご時世、よく無事だったものだ。
見上げる男の眉が、僅かに持ち上がった。余程にこの場所が好きなのか。他の理由は特に思い当たりもしないが。

アーシェ > 「ここは.....そうですね、思い出が沢山詰まっているんです
だからお天気が良いとつい....」

苦笑交じりに、本当はいけないんですけどね、と付け足し椅子の背もたれに寄りかかる。

「ここからは街道も都市も遠くに見えるから....あの人が帰って来るのが....ここに居ればわかると思って」

そう告げると先ほどまで明るく微笑んでいた表情とは変わり、悲しそうな暗い色に染まる。
これ以上言ってはいけない.....そう思えば思う程、胸にこみ上げてくる感情を抑える事は出来ない。

クトゥワール > 「――……。」

小さな頷きを幾つか。彼女の言葉に察することは出来た。
思い出の場所。とはいえそれは明るく輝くものばかりでもないらしい。
或いは明るく輝くものだからこそ辛いという事もあろう。

「成る程。ここで誰かを、待っている。」
「ならば、今は口を噤まない方が良い――ほら、見たまえ。君の顔だ。」

彼女は何かを堪えようとしているようだった――良く判る。
どういう訳かは知らないが、己はこういったタイプの人間を良く知っているような気がした。
己の腕の中にあるステッキを掲げる――丸型の持ち手は鏡のように景色を反射し、彼女の今の表情を映し出すだろう。

「見えるか。今の君の顔だ――ひどい顔をしている。そんな顔でその誰かを出迎えるつもりかね。」
「僅かでも楽になれるなら、吐き出したまえ。今ここでなら、他には誰もいないのだから。」

男の瞳は声同様に落ち着いたもので、見上げる先。女の様子を見守っている。

アーシェ > 「っ....ふふっ本当に....酷い顔、こんなんじゃ笑われてしまいます」

一瞬差し出されたステッキの先に驚くも、そこに映る己の曇った顔を見るや涙混じりに笑い。

「お優しいんですね...ここ数年、誰かの優しさに触れた事が無くて....でも甘えてしまう訳にもいかないでしょう...?」

困った様に微笑み、ぽつりぽつりと語り始める【今】抱えている思いを。

「もし-.....このまま甘えてしまえば、また一人になった時に...その重さに耐えきれなくなってしまうから.....」

お気持ちだけ、と言うと先ほどと変わらぬ明るい微笑みを隣に座る男へ向ける。

クトゥワール > 「全く、せっかく被写体の練習をしていたのだろうに。これでは台無しになる。」

先程の話を蒸し返しては、彼女の行状を練習などと言い立てて。
男の底意地の悪さが垣間見えようか。

「そうかね。君のような人間ほど、吐き出せる時には吐き出した方が良い物だが――……ああ。」
「ああ、良い事を思いついた。そうだ、そうだ。一人が辛いのなら。」

ステッキを引っ込め、代わりに降りてきた閃き。
樹に背を預けるのを止め、座りながら彼女へ向き直り、見上げる。

「一人が辛いのなら――ではこうしよう。もし君がこれから一人になり、どうしても辛くなった時、一度だけ私の名を呼ぶ。」
「その時に私が現れたなら、素直に心の重さを吐き出す。現れなかったなら、そうだな――……次に会う時に私を罵っても良い。」

冗談のように付け加えた末尾は、勿論冗談で。笑み混じりに続ける。

「だけでは足りんな。君の知りたい事を何でも教えよう。何でも……どんな事でも、誰の事でも。」

誰の事でも。その意味は通じるだろう。
不安に思うならば知りたい事は色々とある筈。そんな物は、彼女の内面を覗き見なくとも判る。
どうかな、と。首を傾げて、伸るか反るかと。反応を伺う。

アーシェ > 「ひ.....被写体だなんてっ....そんなっ」

放たれた言葉に再び頬を赤く染め俯いてしまう、いつぞやも言われた事だった。
隠し事が出来ない、直ぐ顔に出てしまう、そんな自分が時折嫌になる。

不意に男から差し出された提案に小さく小首を傾げるも、その言葉を理解するや小さく呟く。

「あなたの名前を...呼ぶ..?でも近くに居なければ聞こえないでしょう....?」

不思議な事を言う人だ、と内心思いながら最後に言われた言葉に戸惑いを露わにする。

「なんでも....どんな事でも....誰の...事でも...?」
そう繰り返し言うと真っ先に思い浮かべるは愛しい夫の顔だった。
思い浮かべれな様々な感情があふれ出る

どうしよう
今一番触れて欲しくない所に触れられた気分だった。

返答を返す訳でも無く混乱する思考を巡らせながら押し黙って俯いてしまう。

クトゥワール > 彼女の反応はごく当たり前のものだ。側に居ない者の名を呼んで何になるというのか?
至極当然の疑問をぶつけられ、男の喉は期待通りとばかりに低い笑音を撃つ。

「その通りだ。私にとって分の悪い賭けだな――ああ、悩ませてしまったか。」
「つまりこの賭けに勝てるつもりでいるわけだな? 君は意外と自信家だな。」

分の悪い事を認めながらも男は落ち着いている。
あまつさえその舌は何ら変わらず、本気か皮肉かも判らない言葉を綴り続け。

「まあ、何を知りたいか。答えはすぐに出す必要はない――ひとつ気分を変えるとしよう。手品を披露して見ようと思うが、どうかね。」

アーシェ > 「そんな...自信家だなんて....寧ろその逆です....」

俯きながら未だ止まる事の無い不の思考を断ち切る事が出来ないでいる。

「そう....ですね....もし、その時が来るのであれば....それまでに答えを出す事にします」

淋しそうな微笑みを向けながら手品と言われきょとんとしてしまう。

「手品...ですか?そうですね、是非見たいです」

まるで少女の様とまではいかないが、エメラルドの瞳を輝かせながら相手に向き直る。

クトゥワール > 「結構。」

一先ず彼女の混乱は落ち着いたようだ。
何はともあれ悩ましげな様子が無くなったのを見届ければ、懐から一枚の円鏡を取り出して見せる。

「取り出したるは何の変哲も無い一枚の鏡。」

お決まりの口上と共に、指で摘んで掲げてみせる。
手のひらに収まる程度で、フレームに収まってすらいない。楕円板とも言えるようなただそれだけの鏡。
掌に載せ、鏡面を上に向けたまま彼女の前に差し出す。意味のない動作だが、折角の手品だ。観客の興味を惹かなくては味気ないというもの。
差し出したそれをもう片方の掌で挟み、包み込む――
次に鏡が彼女の目に晒された時、ただの丸板だったそれは花を模した物へと姿を変えていた。

「差し上げよう。気晴らしにはなったかな。」

そして姿を変えたそれを彼女に差し出し進呈しよう。
己が持っていても仕方ないものでもあり、彼女が持っているべきものでもあるからだ――様々な意味で。

アーシェ > 「まぁ.....!」

目の前で楕円鏡が花の形へと姿を変えるのを目の当たりに驚きの声しか上げれないまま差し出された花鏡に手を伸ばし慈しむ様な表情を浮かべる。

「まぁ...なんて綺麗....こんな素敵な物を頂いてしまっても宜しいのでしょうか....」

嬉しいのであろう、夫にしか見せた事の無いような綻んだ優しい笑みを浮かべ花鏡を光に当てたり少し放して眺めてみたりする。

「有難うございます、今日出会ったばかりの人に....こんなに親切にして頂けるなんて」

はにかむ様な笑顔を相手に向けながら、先ほどまで沈んでいた心とは変わり弾む思いがあふれていく。

クトゥワール > 「良いとも。まあ、鏡としてはあまり使えないと思うがね。」

花を模した分、先程までの平坦さは失われている。
眺めて楽しむには使えても、いわゆる鏡としての機能は低い。
まあ、己としてはどちらでも構わないのだが、少なくとも手品の手応えとしては申し分ないと言えた。彼女の反応に、満足感すらある。
その満足を表すように頷きながら、立ち上がる。

「さて、終わりとしては良い頃合いか。私はそろそろ行くとしよう。」
「君はどうする。まだここにいるかね。」

立ち上がれば、彼女を見下ろす形になる。
帽子を被り直し、鍔に陰されながらも紅眼は彼女の姿を映す。もし立ち上がるなら、手を貸そうとするだろう。

アーシェ > 「こうして見ている事が出来るだけでも、私は嬉しいのです」

微笑みながら立ち上がった相手を見上げ

「そうですね...一度家に戻ろうと思います、もし宜しければ何かお礼をさせて頂ければと思うのですが....生憎見合う金銭は持ち合わせていないので...どうしましょう」

両の手で花を包んだまま、再び困惑した表情を浮かべてしまう。

「宜しければ.....もし...宜しければなのですが、この御花のお礼に御夕飯でも召し上がっていかれますか?」

ふと名案とばかりに思い立った言葉を相手に投げかけるも、未だ不安の色は隠せない様だ。

クトゥワール > 相手の様子を眺めていると、金銭、などと言う。
彼女なりに礼がしたいのだろうが、余りにも思いがけない言葉に笑いが込み上げてきた。
ただの笑いではない。爆笑だ。

「く、ふ、はは、ぶふっ、はっはっはっは!!」
「金、金…だと。はは、ふははっ、ここ、ここまで格好をつけておいて、金など取るか。そんな事をしてみろ。台無しにも程がある。」

お陰で、続く言葉には暫く言葉を返せないほど。暫くの間笑いに笑う。
笑い倒した末に、漸く長い息を吐けた。

「はぁ……何だ、すっかり疲れてしまったな。夕飯、と言ってくれたのか。」
「私にとっては望外だが、良いのかね。」

思いがけず巨大な疲労感に襲われた今、夕飯もそうだが人心地つける場所というのは魅力的だ。
彼女が良いようなら、その申し出を有難く受け入れよう。

アーシェ > 「なっ...そんなに...笑わなくても....っ」

金銭、それはどの時代でもあっても困らないものとされている
それは彼女なりの誠意でもあり、身を安全に守るための手段だと思っていた、それをこうも盛大に笑われてしまうと悔しさよりも恥ずかしさが勝り涙を浮かべ俯いてしまう。

「...その...変な事を言って.....ごめん...なさいっ...私そんなつもりじゃなくて....」

泣いては駄目だと心で強く言いながらも溢れてくる物は止めようが無い
キラキラと光りを乱反射する花を膝の上にそっと置くと目尻を擦る。

「是非、あなたが良ければ召し上がって行ってくださると....嬉しいのですが...」

鼻をすんと鳴らしながら、こくりと頷く。

─あぁ、どうして私はこんなにも弱いのだろう─
恥ずかしさで泣くだなんて....まるで子供みたいね...

そう胸の奥で呟きながら溢れる涙が頬を伝わぬよう拭う。

クトゥワール > 「いやすまない、すまない。君の誠意だという事は判っているんだが。」

笑い過ぎたか、今度は彼女の涙を誘ってしまったようだ。やや慌てる。
幾分慌てているが、口元はまだ笑っている。

「変という訳ではないが――………まあ、野暮ではあったな。だが、君が生真面目な性格だという事は良く判った。」

フォローすべきか否か。思案するには長めの間を要した。だが敢えて率直に指摘する。
また泣かれるかもしれないが、悪気のない事はきっと彼女も理解してくれているだろう――夕飯の誘い自体は無かった事にされていないから。

「では、案内して貰って構わないかね。エスコートされるというのもしまらないが、道を知らないのでね。」

改めて手を差し出し、立ち上がるのに手を貸そう。
彼女が応じたのなら、準備した後歩き出すだろう。

アーシェ > 「そんな....私こそごめんなさい....こんな子供みたいに泣いてしまって」

涙を拭いながら大きく数回、深呼吸をする。
そしてやっと収まった気持ちで相手を見上げると小さく微笑む。

「こんな場所で、女一人だと何かと物騒な事もあるんです...村長さんからも何かあれば使いなさいと言われていたので....」

申し訳なさそうに呟くと差し出された手にそっと指先を重ねる。
膝の上に置いた花を空いた手で大事に抱えながら立ち上がると家があるべき方角に視線を向ける。

「この草原を少し歩いた先に私の家があります、そう遠くは無いので日が暮れる前には着くと思います」

クトゥワール > 「ああ、やはり……そうか。」

物騒な事も、それはあるだろう。漠然と感じていた事だが、村長氏の言葉が客観的な裏付けをくれた。
――それは風も気持ち良い日ではあるとはいえ、良く眠っていられたものだ。
全く今更な感想を抱くが、今度は口にしないでおいた。得心げな頷きとコメントに留めておく。

「君は草や花とともに育って来たのだろうな。」

つくづく純でもあり、天然でもある彼女をそう評して――皮肉っぽくなってしまうのは性分であり、悪意があるわけでもなし。
彼女の気質であれば言葉の裏を悟られることもないだろう。
ともあれ、彼女の案内を受けて歩き出し。やがてその姿は木立から見えなくなったのだろう。

アーシェ > 「夫が側に居てくれた時は...良かったのですが....今は不在でして....」

ぽつりと呟きながら草原を進む、丘を下りかけた所から見える家が彼女が住まう家だ。

「ふふっどうしてそう思われるんですか?確かに私はこの村の出身です
草木や花を育てるのも見るのも好きなんです」

少し照れた様に微笑みながら大事そうに抱える花に視線を落とす
オレンジ色の夕日に照らされた花は先ほどとは違った表情を見せてくれた。
それだけで彼女の心は救われるのだろう。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からクトゥワールさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアーシェさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にアーシェさんが現れました。
アーシェ > 丁度陽が傾きかけた頃、彼女は歩きなれた草原に独り佇み街道を眺めていた。

「もう直ぐ夜が来る....そろそろ戻らなきゃ」

誰に言う訳でも無く、ただ呟くと自宅がある方角へ歩みを進める。
そんな時だった、草原の中から一羽の野兎が飛び出してきたのだ。
魔物と勘違いし驚いた拍子に尻もちをつく。

「っ......びっくりした.....兎さんだったのね....」

ほっと胸を撫で下ろした時、右足に違和感を感じた、足を痛めたのだ。

「どうしよう...近くに馬も居ないし....」

深いため息を漏らすとぼんやりと空を仰ぐ事しか今は出来ないのか、そう思うと虚しさがこみ上げて来るのが分かった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からアーシェさんが去りました。