2017/05/02 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にカインさんが現れました。
■カイン > 夜の帳が落ち始める時間帯。すっかり道行く人々の失せた街道の傍らで、野営の準備を始めている人影があった。
まだ薄暗いといった明度の空ではあるがこの時期の空の足は早い。後半刻もすれば、周囲が暗くなってしまうことは想像に難くない。
「春は恵みの季節と言えば聞こえはいいが、野盗にとっても書き入れ時ってのが皮肉だな」
香辛料や野菜を始めとした初物の数々。あるいはそれらが売れることによって生み出さる経済効果を狙っての、
富裕層向け贅沢品。生活必需品から嗜好品まで物流の活発化するこの時期は商人の行き来も増える。
となれば、その荷を狙う不埒者が増えるのも必然だった。そんな不埒者の掃討の仕事を片付けた後、
結局夜通し歩かねばならぬと気づいたのがつい先頃。
それならばと手際よく集めた大ぶりの石を積み上げ竈を作り、詰めた燃料に火をつければ程なく周囲を薄ぼんやりと照らし出す。
■カイン > 「馬の一頭でも買うかね。買おうと思えば買えるだろうが――世話がな」
自分が常日頃酒と食事と女に注ぎ込んでいる金銭を頭のなかで換算してみれば、
それを半分程度に抑えれば大した事のない馬ならば一頭買うくらいは訳がない。
随分と贅沢な暮らしをしているものだと呆れた様子の息を吐きながらも本音は最後に漏れた一語。
乗馬が苦手なわけではないがどうも馬に限らず、動物と心を通わす才能が男には欠如しているようだった。
「馬に常に怯えられながら走らせるってのもまた乗り心地が悪くてゾッとしない。
先に馬が潰れる未来が見えるのが困りモノ、か」
近くの小川から汲んできた水で満たした鍋を火にかけながら肩をすくめる。
干し肉を鍋の中にナイフで切り落としがてら何種かの香辛料と本日の仕事の報酬のついでとして貰った
青野菜を千切り鍋に放り込めば、程なく漂い始める食欲を誘う匂い。
ふと空へ視線を向ければすっかりと暗くなり煌々と月が輝き始めていた。
おかげで男の野営地の周りだけ暗闇の中にポッカリと浮かび上がる幽鬼の巣か何かのようだ。
■カイン > 匙で鍋の中身をかき回し、時折味を確認しながら塩や干し肉を入れて味を整えていく。
手慣れた様子はその行為を幾度も幾度も繰り返してきたということを如実に示すようだ。
その合間に手元に広げた地図を竈の火に透かすように確認しながら勘定を始め。
「大戦でもあれば稼ぎどきなんだが。暫く前に戦をやってたそうだがまたやらんかな。
タナール砦にでも行ってみるのも悪くないが――顔見知りと出くわしたらその時はその時か」
現在はどちらかと言えば人に与してはいるが、別段どちらにも勢力として極端な思い入れはない。
例え敵味方に分かれて相争う事になったとしても、魔族同士のその手の諍いも珍しくはないと思い至り苦笑いが口に浮かぶ。
「どちらかと言うと人間の考え方だな、人間以上に陰謀が大好きなやつも多いが。
随分染まった、いや馴染んだ物だな。最初は竈作りすらロクにできなかったというのに。
飯の作り方ばかり美味くなるのは考えものだな、っと。いい塩梅だ」
口では文句を言いながらも本気で悪いと思っている風でもなく聞かせる者もないのに冗談ぽく漏らし、
鍋の中の味に満足そうにゆるく頷く。とはいえ出来に満足しながらもこの家業の先達が慣れれば慣れるだけ
独り言が多くなる、と大昔冗談半分に言っていた理由が何となく分かった気がして少しだけ肩を落とす。
「やれやれ。一人旅が基本ってのは中々難儀な稼業だな」
■カイン > 「文句を言った所で始まらんな。それでも腹は減るんだ」
闇の帳がいよいよ深くなってきたのを確認して、片手を振るえば灯りが灯る。
ちょうど良い塩梅に料理が仕上がったのを確認してから椀に鍋の中身をよそい、
地図を荷物の中に放り込んで遅めの食事を取り始める。
暫し焚き木の灯りの元に、静かな時間を過ごしていくことになるのだった。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からカインさんが去りました。