2017/05/01 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」にシトリさんが現れました。
■シトリ > 軽装でも歩けば汗ばむ、朗らかな陽気の昼下がり。
街道からそう離れていない場所に1本だけ立った常緑樹。その根元に背を預け、褐色の少年が座り込んでいた。
「……っあー、チクショーッ! どうしてこんなとこに罠があるんだよー……」
緑の葉を縫って降り注ぐ木漏れ日。少年は空色の瞳で宙を見つめ、性徴に乏しい声でひとり毒づく。
露出の高い、およそ旅に向いてるとは言えない装い。短い袖の先から伸びる赤褐色の腕は、日焼けではない、地肌の色だ。
……その右腕の先、手首があるべきところが、ない。すっぱりと切断されている。
そこに本来あるべき右手は、かわりに彼の左手に握られている。手持ち無沙汰なのか、動かぬ右手指に左手の指を絡めてコチョコチョと弄んでいる。
切断面には血もにじまず、それどころか均一な褐色の表皮に覆われているように見える。
まるで切断から処置を受けて久しいかのように、あるいは……この少年の身体がゼリーで出来ていればこうもなっただろうか。
「オレだったからこうやってすぐ抜けられたけどよー、フツーの人間が引っかかったらどうするんだよぉ……死ぬよなぁ?」
少年が忌々しく見上げる先に、細い鋼線でできた小さな輪が光る。
獣や鳥を捕らえるためのくくり罠であろう。シトリはつい先程、これにひっかかってしまったのだ。
■シトリ > 王都の冒険者の宿で得たとある情報をもとに、街道周辺を彷徨いていたシトリ。
ふいに尿意を感じ、用を足すために街道を離れる。手頃な木陰へと近づいたところ、その根元に気になる細工の跡が。
……次の瞬間、シトリの右手首は細く強靭なワイヤーに締め上げられ、枝の反発力でぐいと持ち上げられたのだ。
不用意に罠の仕掛けに触れてしまったのだ。素人ならともかく、冒険者を自称する者であればまず犯さない過ちであっただろう。
あわてふためき、身をよじりながら左手でなんとかシミターを抜いてワイヤーを斬りつけるシトリ。
しかし安物のシミターでは鋼線は切れず、むしろ衝撃によって手首にワイヤーがより深く食い込む始末。
ことここに至ってようやく、罠の締め上げに任せて手首を放棄するほうが早いことに気づき、現状に至るわけだ。
「……ううう……少し……濡らしちゃったじゃん……少しだけど……」
土埃に汚れる太腿をもじもじとすり合わせながら、傍らに視線を落とすシトリ。
すぐ傍にはワイヤーを何度も切りつけて刃こぼれが増えた愛刀が転がる。
さらにその向こうには、何らかの小動物の白骨死体がその身を横たえていた。シトリはこの辺の獣相に詳しくないので正体はわからないが。
あちこちに肉片が残っているのを見るに、随分前に罠にかかったまま放置され、鳥や他の獣に処理された成れの果てであると予想できる。
「ひっどいなぁ。狩人なら罠のチェックぐらいちゃんとやってよ……」
何度目かもわからない愚痴をこぼしながら、シトリは鞄に括り付けた水袋を手に取る。
苦心しながら蓋をあけ、唇を濡らす程度に内容物を口へ注ぎ、嚥下する。
尿意は依然として下腹部を苛んでいるが、それでも水分は補給しなければならない。そうしなければ手首は長いこと千切れたままになる。
■シトリ > 「……ああ、染み渡るぅ……」
数口、水を飲むとまた片手で蓋を締め、腰の傍に水袋を置く。
数刻前に小川で汲んだ水は、故郷のオアシスの水と比べれば明らかに汚れていたが、『今の体』ではこれが妙に美味に感じられる。
ほう、と軽いため息を吐きながら目を細めると、手首の切断面がほのかに蠢く。
他の肌と同じように褐色の皮膚で覆われていたそこが、同じ色を保ちつつも透明な粘体めいた様相へと変化していく。
切り離されていた手首をそこに添える。さすがに瞬時にはくっつかないが、10分も待てば元通りになっているはずだ。
「……はぁー。この身体は便利っちゃ便利だけどよー……これからどうすっかなぁ」
ため息ついでに深呼吸。尿意に苛まれていなければ、このまま昼寝としゃれこんでしまいそうな陽気だ。
しかし手首がくっつくまでは、眠るわけにも、用を足すわけにもいかない。
■シトリ > かくして、10分後。
くくり罠のワイヤーによって無残にちぎり飛ばされていたはずのシトリの右手。その指がぴくりと動く。
手首に添えていたもう片方の手をどかして見れば、切断面はほぼ完全に接合を果たしていた。
わずかに跡が残っているが、それは傷跡というよりは凹みというべきもので、それもすぐに治るであろう。
「ふぅ、治った治ったっと。よっこいせ……」
すべての指が元通りに動くことを確認すると、シトリは疲労の残る脚に力を入れ、ゆっくりと立ち上がる。
土を払い、背伸びをしながら、シトリは空色の瞳をきょろきょろと左右に振り、辺りを見回す。
直ぐ側を走る街道に人通りはまばらで、ちょうど今は近くに人影はない。
「……よしっと、今のうちに……うー……漏れる」
シトリは街道から見えにくいよう木の陰に隠れ、ベルトを解き、ズボンを下ろす。
慣れた手つきで、股間に生えた男の子の証を取り出す。初夏の陽気に晒され、生ぬるい風が皮被りの先端をくすぐるが、その心地よさを堪能する暇はない。
右手でノズルを軽くつまんで木の根元に向け、軽く膝をかがめた姿勢になると……しとしと、しょろろろ、と木陰から水音が響き始める。
「………ん、ぁ……ふうううぅぅぅ……♪」
膀胱が解放されていく感覚に、思わず甲高い鳴き声を上げてしまう。
先程シトリの切断されていた手首を覆っていたのは褐色の体液だったが、いま地に降り注いでいる液体は、ごく普通のソレだ。
■シトリ > 30秒近く水音を奏で続けても、未だその勢いは止まない。
ぶるり、ぶるりと快感に背筋を震わせながら、シトリは薄く目を閉じ、思いを馳せる。
……ここは故郷とは似ても似つかない地域。過酷な熱さはなく、緑がそこかしこに見られ、雨も降る。
人々が《まれびとの国》と呼ぶこの地域に、どういうわけかたどり着いてしまったシトリ。
都には人間が溢れ、仕事に溢れ、そしてすべてが金で回っている。
屋根を得、綺麗な衣服を得、食べ物を得るためには、金を得るしかなかった。故郷では噂程度にしか存在を知らなかった、金。
実のところ、今のシトリは金を得るための「仕事」の最中である。
そして、自らの身体。千切れてもしばらくしたら元通りになった、己の手首を見下ろす。
「……ウンディーネ……」
ウンディーネ。水の精霊。集落の長老が常々語っていた、《オアシスを守る存在》の名。
その瞬間を記憶しているわけではないが、シトリには実感があった。
オアシスで溺れかけた自分を、ウンディーネは助けてくれたのだ。その代償にウンディーネは己と同化した。精霊の性質とともに。
「………う、ん………っ、ふ……」
ぞくり、とまた一つ背筋が大きく戦慄く。
切りつけられても千切れ飛んでも苦痛らしい苦痛を感じず、元通りに治るようになった己の身体。
そして1分近く経ってもまだ止まらない放尿。これもウンディーネの存在が人体に融け込んだ結果なのだ。
絶望なんかしてはいない。喜んでもいない。ただ、困惑だけがいつまでもくすぶり続けている。
異国の地で独り身になってしまった己の境遇とともに、「このままではいけない」と考えずにはいられない強迫感。
■シトリ > 大人の親指ほどの大きさのおちんちん。
褐色の包皮で包まれた先端から淡黄色の温水を勢い良く迸らせつつ、皮の中から時折顔を覗かせる粘膜は鮮やかな桜色。
放尿の解放感に度々シトリの身体は震え、それにやや遅れて、太腿の間に垂れ下がる陰嚢もぷるりと揺れる。
未だ汚れを知らぬ未熟な性器だ。
やがて、その迸りもようやく勢いを衰えさせ、そして止まった。
ぽたぽたと垂れる雫を勢い良く振って周囲に撒き散らし、そそくさとブリーフの中にしまい込む。
常緑樹の周囲はおびただしい量の温水に浸され、湯気を放っているが、不思議とアンモニア臭さは薄い。
「はふー……ああ、ようやく出し切ったぁ。フフッ、オレの養分を吸って逞しく育ってくれよな、名も知らぬ木さん♪」
ベルトを締めながら、朗らかな声で目の前の大木へと語りかけるシトリ。
故郷では用を足すのはナツメヤシの木の傍と決まっていたが、この木も同様におしっこを養分にしてくれるのだろうか。
それとも……人間のようで人間でなくなったシトリの排泄物は、植物たちには受け入れられないかもしれない。
学のないシトリにはわからなかった。とりあえず枯れないことを祈るほかにはなかった。
「……さってと、出し切ったらいよいよ眠くなってきたけど。ここで昼寝するってわけにもいかないよなー……」
今しがた出し切った水分は徐々に木の周囲に拡がり、根を覆いつつある。
地面に置いたままのシミターが汚れる前にそれを拾い上げ、泥を払って鞘に収める。
そして汚物から目を背けるように顔を上げ、再び周囲をキョロキョロと見渡す。
「しょうがねー、別の木陰を探すかー。まだ探しモノの最中だけど、昼寝も大事だもんねー」
視界に他にいい感じの木々が見当たらないことに唇を尖らせつつ、シトリは歩き始めた。
野原の中を、街道から離れるように。
■シトリ > 冒険者の集う酒場でなけなしの身銭を切って仕入れた、不鮮明な情報。
王都付近で盗賊の真似事をしていた連中が(そいつらはすでに瓦解してるらしいが)メグメールのあちこちに隠した財産。
その1つが、この辺の野原に巧妙に隠されているらしい。
うまいこと探し出せれば、しばらくは衣食住には困らないであろう……たぶん。
「………ふわあぁぁ……あ……。チクショウ、この辺の太陽は優しすぎるぜ……」
……しかし、いまのシトリには昼寝場所を探すことのほうが大事な命題であった。
さて、この先どうなるか。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からシトリさんが去りました。