2016/12/05 のログ
ヴィクトール > 彼等が警戒して武器を構えたのを見ても、まぁそうだろうと思いながら、こちらまで身構えることもない。
御者が証文を確かめれば、危うい雰囲気が去り、張り詰めた空気が解けて、笑みを浮かべるもののニヤッとした笑いになってしまう。

「違ぇよ、アンタらじゃ数が足りねぇってことだったんだよ。その荷物奪ってやるって来るんなら足りるけどよ、荷物を潰して、アンタら皆殺しにしろってなりゃ、戦力を散らされちまうだろ」

荷物を奪うだけなら足りたかもしれない、しかし、賊達の司令は荷物を届かせない事が第一だ。
最初に荷物を破壊することを選べば、荷物を守ることと、襲いかかる賊への対応で戦力は散る。
おまけに待ち伏せからの奇襲、先手も奪われてからでは対応するにも大変だろう。

「まぁ、後は敵なんぞこねぇだろうけどな。そうカリカリすんなよ――……って、なんだ、久しぶりだな?」

暗がりの中、声がした方へと近づきながら苦笑いを浮かべると…懐かしい顔に目を丸くする。
覚えてるか?と言いたげに笑いながら、彼女の側へと近づくだろう。

ヴィヴィ > 護衛の冒険者たちは、男の返答を聞けば皆一様に納得したように唸り、その後口々に傭兵たちへと感謝を述べた。

「……そうか。そういうことなら理解できる」

背筋伸ばして堅苦しく、すまなかったと一言告げて。
続いた言葉にきょとんと目を丸くした後、近づいてきた男の顔を見て取った。
それは懐かしい、かつて邂逅果たしたことのある相手で。
色々なことを思い出した瞬間、ぱっと頬を赤らめて視線を逸らした。
その表情は、つい先程までの冷たい印象のものではなく、少女のような初々しいもの。

「……あ、ぁ……久しぶり、だ。ヴィクトール……」

しっかりと記憶に残っていた名を呼び、視線合わせないままこくりと頷く。
御者が傭兵と冒険者とに出発の声をかける。
街路樹の並ぶ通りを抜けて、しばらくすれば今夜の道程は終わりの予定だ。

ヴィクトール > 「ははっ、礼は受取人の方に言っといてくれよ、俺等は言われたとおりやっただけだ」

感謝の言葉に、にかっと笑いながら気にするなと言いたげに語る。
その中でも堅苦しい言葉が一つ気になれば、やはり見つけた相手は思った通りの相手だ。
同じく、馬屋で勢い任せにやっちまったなと思い出すと、恥じらう様子に喉の奥で押し殺したような、あくどい笑い声が溢れてしまう。

「おうよ、ヴィヴィも無事なようで良かったぜ。こんな可愛い女に死なれちゃ、夢見が悪くなっちまう」

歩き出す彼等と一緒に、この男も付いて行く。
部下は察しが良いらしく、前方で斥候しながら進むと前に向かう。
既に敵などいないのは知っているくせにと思いながらも、彼女の隣を歩く。

「あれからどうするか決めたか?」

一度誘った時は、生きて自分の道を決めると聞いていた。
こうしているというのは、傭兵か冒険者でもして生計を立てるのが彼女の選んだ答えなのだろうか?
そう思いつつ問いかけながら、彼女へ視線を向ける

ヴィヴィ > あくどい笑い声が聞こえれば、耳まで赤く色づけてしまう。
馬車が進み出し、冒険者と傭兵とが並んで歩き出す。
数歩、出遅れた形で己と男が馬車の後方を歩くこととなった。

「かわっ……そういうことを、言うな」

思わず男の顔を見上げ、気恥ずかしげに視線を斜め下へと落とす。
相変わらず、そういった言葉への耐性はついていない。

「…………未だ、決まらない」

問いに、素直に言葉が零れた。
生きることだけは決意できたけれど、その道は見つけきれていなかった。
月影もない宵闇の中、馬車や先導する冒険者の手に掲げられた灯りだけがぼんやりと揺れる。
淡い光と同じように、己の心もぼんやりと揺れている。
視線を感じれば、ちらりと伺うように、どこか縋るようにも、碧が男を映した。

ヴィクトール > 馬車の後ろを少し遅れて歩くこととなるも、こうして二人っきりで話すにはちょうどいいだろう。
可愛がる言葉にも、変わらぬ不慣れさに楽しげに微笑みながら、銀の髪を撫でようと掌を伸ばす。

「今だって可愛いぜ? 顔真っ赤だしよ、耳まで」

そんなじゃれ合いをしながら歩きつつ、こちらから切り出した問いには、曖昧な答えが待っていた。
感じる視線、碧眼を見つめ返しながら今度は無遠慮に肩を抱き寄せようと手を動かす。

「ならウチの組合来いって、ティルヒアから連れてきた奴も多いしよ? 王都と違って腐ってねぇ、健全な集落もあるしよ」

王都は何処もかしこも腐った権力者が弱者を踏みにじる。
こうして運んでいる荷物すら、何か良からぬものではないかと疑えるほどに。
暗闇の中、金色の瞳は何一つ迷うことなく彼女を見つめて告げる。
縋るなら引っ張ってやると、明るく笑いながらも力強く。

ヴィヴィ > 伸びてきた手にぴくりと肩が跳ねるも、拒絶はない。
触れた掌に銀の髪は変わらず、さらさらと滑らかな感触を伝える。

「そんなこと、ない……」

そう言いながらも、耳まで熱いことを自覚して恥じらい、片手で覆い隠してしまう。
そんなことをしていたから、肩を抱き寄せる動きに反応が遅れて、されるまま。
とん、と男の身体に凭れるような形となる。

「……迷惑じゃ、ないだろうか?」

行ってもいいのか、と不安げな上目遣いで窺う。
王都の居心地は悪くはなかったが、決して良くもなかった。
暗闇の中でも力強く輝いて見える金の瞳に、碧い瞳は揺れながら、見つめ返す。
あの時は、未だ頑なだった。
けれどあれから、色々な場所を見て、独力で居場所を見つけることの困難さを知った。
そして、迷っていた。あの時離した手を、何度も思い返していた。

ヴィクトール > 指の間を滑り落ちるように流れる銀糸、心地よい感触も、女扱いされることの不慣れさも、相変わらずで目を細める。

「くっくっく、そう言われるとよぉ、余計食いたくなっちまう」

肩を抱き寄せ、密着する身体。
距離が縮まれば、掌で塞がれた耳元へ唇を寄せて、ゆっくりと囁きかける。
低い音が肌ではなく、鼓膜を直接揺さぶるように、意地悪なじゃれあいは終わらない。

「んなわけねぇだろ? 何でそうなるんだよ」

不安そうな上目遣いに、わからんと言いたげに首を傾げた。
昔に比べれば、まるで捨て猫のように弱々しくみえてしまう。
瞳に浮かぶ意志の力は弱く、揺れ動いているのがよく分かる。
何故迷惑と思うのか、それを確かめるより先に少しだけ肩を引き寄せる力が強まって、一層密着させてしまう。

「俺は思ってること変わらねぇぞ? こっちにこいよ、ヴィヴィ」

金色の瞳が、笑みを浮かべながらも力強い意志で強請る。
国が消えかかった頃と同じだ、彼女を攫おうとした時のように彼女を求める。

ヴィヴィ > 低い声が意地悪に囁けば、ぞくりと背筋を震わせる。
たったそれだけで、かつての夜を思い出してしまったのだ。
手の甲にかかる吐息にも感じてしまい、ぎゅっと指先に力が篭る。

「だって……自分は、私は、まだ弱いままだ」

今だって、と揺れる主語にも現れる弱さを吐露する。
足場すら定まらない今の己は、捨て猫同然だ。
一層肩を抱く力が強まって、鼓動が早くなるのが聞こえてしまいそうで不安になる。

「ヴィクトール……」

行きたい、けれど決めきれない。
そんな迷いを顕著にした瞳がゆらゆらと揺れて、僅かに潤んだ。
まるで、強引な手を望むかのように。

ヴィクトール > 密着した身体から伝わる小さな振動、指先が力で緩く丸まっていくのが見えると、心を擽られ、欲が心の中で渦巻いていく。
同時に少しだけ違う欲望も、胸の中に沸き立っていた。

「……」

弱々しい声に、濡れた瞳。
それに何故か数日前の夜が重なっていく。
あの女のように、ついていく相手を失えば彼女も壊れてしまうような、そんな錯覚。
ゆっくりと息を吐くと、他の人影も気にせず、肩を引き寄せてこちらを向かせるだろう。

「我儘いうぞ、四の五の言わず俺のとこに来い。俺はヴィヴィが壊れるのを見たくねぇ」

強引な命令と共に、顎へと手をかけると、そのまま唇を奪おうとする。
拐うと決めた夜と同じように、強引に彼女を奪いに掛かる。
届くなら、立ち止まったまま重ねるだけのキスを数秒ほど。
馬車が少し遠ざかっても気にせずに、今は何よりも彼女を求める。

ヴィヴィ > 男の心中に、過去に、何があったのかは知らない。
けれど、きっとその錯覚は、不安はあながち外れてもいないのだろう。

「えっ、ぁ……ヴィク、」

最後方を歩く二人に気を使って、誰も声をかけてはこなかった。
立ち止まり、強引に向かい合わされた。
驚いて問いかけようと見上げた瞬間、顎に手がかかった。
呼びかけた途中で塞がれた唇。
馬車が少し遠ざかっていく。街路樹のあたりを抜けるところだった。

「んっ、ん……」

瞼を閉ざして、重ねるだけのキスを受け入れてしまいながら。
槍を握っていた片手が緩み、からんと地に落ちる音が響く。

ヴィクトール > 遠ざかっていく馬車、先陣を切る部下がいるから大丈夫だろう。
万が一、第二陣が襲いかかるとしても、そこらの賊程度で殺られる腕前ではない。
静寂が周囲に立ち込める中、唇を重ねてその体をぎゅっと抱きしめた。
背中に回した片手を彼女の後頭部に添えて、何度も何度も重ね合わせながら、貪るような激しいキスに変わっていく。

「……いっその事、槍置いて、女になるのもいいんじゃねぇか? 真っ当な仕事も、俺達のところにはあるしよ」

店を始めてもいいし、宿屋の看板娘になるのも悪くないだろう。
掌から零れ落ちた槍に構うことなく囁くと、首筋に唇を寄せて舌を這わせる。
血管の通る刺激に弱いラインをなぞれば、そこに吸い付いて淡く甘噛みしてしまう。
そこに赤い鬱血の跡を残していく、夜闇に見失わないようにと目印を着けていくかのように。

ヴィヴィ > やがて馬車が遠ざかっていく。護衛は増えた、心配はないだろう。
どこか冷静にそんなことを考える一方で、頭は混乱していた。
どうして突然口吻されたのか。男がなぜ己を強く抱きしめるのか。
わからないまま、口づけが深くなっていく。

「ん、んんっ、ふ……ぅ」

己を貪るような男の激しさに、翻弄されて、膝が崩れて身を委ねてしまう。
槍を失った手が、男の背に縋る。
きつく重ねられた睫毛が震え、雫が薄ら滲む。

「……できる、かな」

内面は変わらず、脆い少女のようで。
不安げにそう呟いた。
首筋に這う舌にぞくぞくと身体が震える。
あ、と声が漏れ、赤い印を付けられた瞬間びくりと肩が跳ねた。
両手で、男の背中を抱きしめる。

ヴィクトール > 地面に転がる槍よりも、自分の背中を求めて掌が動いていく。
あの夜との違いを感じさせられる、槍と鎧を剥いで、女にした時の彼女は不安そうだったが…今は縋るようだ。
庇護欲という言葉を知っていたが、ここまで擽られたのはそう多くはない。

「真面目なヴィヴィなら大丈夫だろうよ……俺としちゃあ、俺の隣で仕事してほしいけどよ。 あいつらみてぇな荒くれ者ばかりで、困らせるかもしれねぇが」

苦笑いを浮かべながら、そんな願望も囁く。
心の中に渦巻くむず痒いような感覚、それを足りない頭なりに纏めていくと、少女のように弱々しい彼女の背中をなでながら耳元に囁きかける。

「今のヴィヴィを見てると…どっかで食い物にされて壊されちまいそうで怖いんだよ。迷ってぶっ壊されるぐらいなら、俺のもとに置きてぇ」

だから我儘なのだろう。
壊されるのを見たくないから、彼女をそばに置く。
そう、本心を囁きかければ軽く唇を重ねてから、額を重ねる。

「俺のために来い、いいな?」

ヴィヴィ > 膝が崩れて、男の腕の支えがなければ座り込んでしまいそうだ。
背中に回した両手が強く男の服を掴む。
瞼を開いた弾みで、泣きぼくろの上を涙が伝った。
それは不安ではあったけれど、悲しみではなく。むしろ喜びに近いもの。
大きな掌に背中を撫でられ、耳元に優しい囁きが注がれる。

無言で、瞳が一度瞬いた。
額を当てて、小さく首肯する。

「……連れて、いって。一緒に」

ヴィクトール > 崩れないように身体を抱きしめて支えていく。
少し甘く触れ合っただけで脱力するほど、彼女の心はこの1年近くで張り詰めていたのかもしれない。
ティルヒアが無くなり、彼女が居たティルヒアは今は形だけが残る。
昔のような強がりもなくなった姿は、手放すのを恐れるほどに。

「…いいぜ、連れて行ってやる。その代わり…お願いがあるんだけどよ?」

そういうと、足で器用に槍を弾いて掬い上げ、宙に跳ね上げた。
ぱしっと片手でキャッチすると、大剣の鞘についた筒状のホルダーにそれを収めてしまう。
本来は傘やら長柄の物をしまうものだが、槍でも入らないこともない。
それから、少し屈んで膝裏に腕を通すと、軽々と横抱きにして馬車のあとを急ぎ足に追いかける。

「ここまで頑張ったんだからよ、貰うもんは貰わねぇとな? んで、お願いってのは……ちゃんと、私って言い続けろってことだ。もう耐えなくていいんだからな、一年ぐらいか、よく耐えたな、ヴィヴィ」

もう一人で抱える必要はないのだと囁きかければ、街道樹の通りを抜けて、馬車の一行が視野に収まる距離まで近づいた。
そこからは見失わない程度の速度で歩きつつ、もう一つお願いを耳元に囁く。

「あと、そんな目で見られ続けると…食いたくなるんだけどよ?」

女として縋る姿に、庇護欲とともに男としての欲望も煽られる。
食わせろとまで言わないのは、彼女からお許しの言葉を聞きたいという淡い欲望もあってのことだ。

ヴィヴィ > 張り詰めていた心と身体を、今や完全に男に委ねてしまっている。
足で器用に槍をはね上げて片手で受け止め、男の背中に収納してしまうのを視界の端に見て感心し。
軽々と己を抱き上げ駆け出すのに、慌てて首にしがみつく。

「お願い……? あ、う……わか、った」

よく耐えた、と囁かれれば幼い子供のようにこくりと頷き。
耳元に囁かれた、もうひとつのお願い、に顔を隠すこともできず紅潮させた。

「ぅ、ん……その、わ、私……も」

拙い言葉で、あの夜のように抱かれることを望んだ。
男と同じ気持ちだ、と、伝えようと必死に言葉を紡いで。
濡れた瞳で熱く見つめ。

ヴィクトール > 慌ててしがみつく様子に、楽しげに笑いながらも馬車を追いかける。
丁度王都へつながる城門がみえかけている頃だ、後は馬車の発着場で手続きを済ませれば、この仕事も終わるはずだろう。
囁いた言葉に、見せる仕草と言葉は、何処と無く子供っぽくて愛らしい。
にやけた顔が収まらず、顔を近づけて額に頬に、唇にとキスを浴びせるほど。

「じゃあ…遠慮なく頂くぜ、目一杯可愛がってやるよ」

彼女の不慣れな言葉遣いも、こそばゆい感じに心地よい。
今すぐにでも、何処かに連れ込んで食らいつきたくなるほどの欲望をぐっと答えつつ、耳元に可愛いぜと甘い言葉を囁いた。
仕事も終われば、部下達には後は好きにしていいと言い残し、彼女を連れて何処かへと消えていく。
一年越しに叶った、甘ったるい誘拐はまだ終わる様子もない。

ヴィヴィ > 顔に降り注ぐキスに困ったように微笑浮かべ、されるまま。
甘い言葉に耳朶を震わせ、首に回した手で後ろ髪を軽く引っ張った。

「……ばか」

幼げな罵倒の言葉を投げながらも口調は甘く、愛らしく。
場所をかろうじて弁えた様子に安堵しつつ馬車と共に王都へ入り。
彼に抱かれたまま何処かへ。
長い時間を置いた誘惑は甘ったるく、己の心を溶かすようで。
まだまだこの時間は終わらずに――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からヴィヴィさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からヴィクトールさんが去りました。