2015/10/29 のログ
キスカ > 「そう言ってもらえると何より。首が取れちゃったら糊でくっつけてあげるよ!」

風のない街道につかの間の静けさが取りもどされる。
聴覚を研ぎ澄まし、白い闇の向こうに双剣士の存在を知覚しながら地を駆ける。

猫科の大型肉食獣に特有の瞬発力を遺憾なく発揮して、その身を白い疾風に変える。

落ち葉を踏みしめるかすかな靴音。
それは刺客が迫っていることを示す存在の証明。それがある地点から不意に途絶える。
全存在が限りなく希釈され、戦場から一方の剣士が消失して―――。

人智を絶する大跳躍。そして高高度からの急襲。
白刃が水晶の皮膚を切り裂き、ルビーの血潮が吹き出すその時まで殺気を断って。迫る。迫る―――!

ルーキ > 「お優しいな。ま、首が取れることなんて無いんだが」

刺客の気配は、落ち葉の足音から感じ取る。
それが途絶えれば、一旦瞳を伏せた。
殺気が断たれれば八方に意識を投じる。
跳躍し、高所より迫る刃。風を切る音をその耳が感じ取って―――

仰ぎ見た。剣を掲げ、兇刃を受け止める。
圧倒的な負荷に立ってはいられず尻餅をつく。強烈な火花が眼前で散る。
身体ごと地面に押し倒されながらも交える刃。

キスカ > 刃金が噛みあい、響きあって軋むような音を立てる。
胃の腑のあたりまで一刀両断斬り下していたはずの刃が紙一重の守りに阻まれた。

「えっ―――ええぇぇぇ!!?」

あと一歩、ほんのわずか斬り込むだけで血の海に沈められるのに。
生身には生身の矜持がある。人外の膂力をありったけつぎ込んで歯を食いしばる。
不意を打てなかっただけじゃない。
気付いてしまった。今はこれ以上先には進めない。

山刀の刃こぼれが亀裂に変わり、歪んでいく。毀れていく。
馬乗りになったまま、弾けて飛んだ刃先が頬をかすめて一条の朱色がにじんだ。
必殺技が破られたショックにすこし傷ついた顔をして、山刀をおさめてルーキの胸に手をついた。

「―――……はぁ………はぁ…ぅ……ルーキ、つかまえた!」
「今はこれでいい、かな…魔物っぽくなってもいないし。けど、いつか壊す。ぜったい壊す!」
「だからさ、壊れるまで何度でも遊んであげる―――君はまだ、ここにいるから」

手の届く場所にいることを確かめるように、生ける人形の頬に触れて、深い緑の髪を梳く。
メグメールの街道まではるばるやってきた用事を思い出すのは、それから間もなくのことだった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からキスカさんが去りました。
ルーキ > 今迄になく強く、刃が軋む音を立てる。
人外の膂力、今迄ならきっと押し負けていただろう。
しかし今は此方も人外だった。力は拮抗する。刃のみが磨り減っていく。

一条の朱色が、彼女の白い肌に走るのを見る。その瞳が緩く細められる。
合わせて刀を収めれば、あとは馬乗りになった彼女のするがまま。
抵抗はしない。

「……わたしはわたしだよ。何があろうと、どんな存在になろうと」
「―――…なら。いつか、いつの日か。キスカに壊される日を楽しみに待っておこう」

髪を梳き、頬を撫でる手に己の掌をそっと重ねる。
彼女がどのような理由で此処にやってきたかなど、今は知らぬまま―――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 街道」からルーキさんが去りました。