2019/09/26 のログ
ご案内:「夢幻窟」にリリアンさんが現れました。
■リリアン > 己の立場というものを理解していない者、というのは、存外多いものかも知れない。
自らの足許が、どれほど脆く崩れやすいか―――ほんの一歩踏み間違えるだけで、
どこまで堕ちて行ってしまうものか。
今、薬の力で深い眠りに就いている少女も、また、己の立場を理解していない者の一人である。
その身を此処へ運び込んだのは、少女が信頼する人物の一人。
金を貰ったのか、それとも少女に何か、含むところがあったのか。
兎に角も、少女は白いネグリジェ一枚の無防備な肢体を寝台に深く預け、
四肢を拘束する金属の枷も知らず、その夢を操作しようとしている力の存在も知らず、
――――――夢のかいなに、落ちようとしていた。
夢のなかの己は、王女ではない。
白い猫耳と、細く長い猫の尾を持ち、ミレーの特徴を隠す術も無い、
ただの脆弱な生き物である。
四方八方から、己を蔑み、嘲る視線。聞いたことも無い卑猥な言葉。
白い耳を伏せ、長い尾を身体に巻きつけて蹲り、怯え切った眼差しで周囲を見回す己に、
差し伸べられるのは救いの手か、それとも。
ご案内:「夢幻窟」にヴァイスさんが現れました。
■ヴァイス > 夢幻窟
それは有名な娯楽施設である。
本来娼館側に遊びに来ていたヴァイスは、迷った挙句「夢幻」領域に踏み込んでしまっていた。
夢と現の狭間。そんなところを歩いていると、一人の少女が周りから責められているのを見かける。
あれはいったい何なのだろう。現実ならすぐに助けなければならない状況だが、ここは夢のはず。彼女の望む状況なのだろうか。
ひとまずいまいち目覚めも悪いので、そのミレーの少女に手を差し伸べる。手に取らずになぶられるなら、そういう趣味もまあいるのだろう。手を取るならば、まあ、そのかわいい少女の王子様を演じるのも悪くない。
第三者がいたらお前みたいなごつい王子様がいるわけないと突っ込まれるようなことを考えながら、少女に手を差し伸べる。
■リリアン > 此処は城ではなく、己は王女ではない。
己はそうと気づいていないけれど、今、この領域において、
他人の目に映る己は、あわれなミレーの少女に過ぎなかった。
今にも、誰かが震える身体に手をかけるかも知れない。
己の想像などとても及ばない悪辣な意図を露わに、
誰かが己を―――――
そのとき。
こちらへ向けて伸ばされたひとつの手があった。
涙目で振り仰いだ先に居たのは、見知らぬ男性である。
ほんの少しだけ、躊躇った。
だって知らない男の人だから、信じて良いのか分からなかったから。
けれど次の瞬間、焦れたように別の手が伸びてきたから、
反射的に己は、最初に伸ばされた掌へ飛びついた。
しゅる、と地を這う長い尾、ぴったりと伏せられた猫の耳。
きつく目を瞑り、差し伸べられた手に両手で縋りついて。
其処でようやく、震える声を絞り出す。
「た、すけて……助けて、お願い、
此処、は、嫌……怖い、助け、て……!」
■ヴァイス > 「了解しました。お姫様」
笑顔で(若干お姫様には怖いかもしれないが)手を取ったリリアンを抱き上げ、そのままお姫様抱っこで抱える。
ミレー族の少女だ。ヴァイス自身は、ミレー族への差別意識はない、というか猫好きが高じすぎてミレー族には若干失礼かもしれないが好意を抱いていた。
腕の中で震える少女を抱えて、その悪辣な幻影を蹴散らし、その場から離れる。
ポンポン、と背中をやさしくなでながら、落ち着ける場所を探す。幸い、その夢幻の中に浮かび上がるベッドや椅子があり、ひとまず少女をベッドに降ろし、椅子に腰かける。
■リリアン > お姫様、と呼ばれて、少しだけたじろいだ。
抱き上げられた腕の中から、おずおずと相手の顔を窺い見る。
見知らぬ相手だが、相手はこちらを知っているのだろうか、と。
――――どう見ても、知っている顔ではない。
己を救い出してくれる相手を、恐ろしい、とは思わなかったけれど。
――――――罵声が、怒号が、遠くなる。
そっと周囲を窺い見れば、どうやら危機は脱したらしい。
相変わらず、此処が何処なのかは分からないけれど、
其処に存在するのは、もう、己と相手だけのよう。
降ろされたベッドは柔らかくて、無意識に尻尾がぱたんと揺れる。
ふる、と尖った白い耳を蠢かせながら、向かいに腰かけた相手を見遣り。
「ぁ、……あの……、
え、と、……ありがとう、ござい、ました……」
何はともあれ、お礼だけは言わなくては。
か細い声で、まずは其れだけ口にした。其れから、
「あの、……貴方は、どなた、ですか……?
わ……私を、ご存じ、なのでしょうか……?」
■ヴァイス > 「あー、自己紹介まだだったな、俺はヴァイス。冒険者だ。お姫様とは、たぶん初対面だな」
椅子に座りながら、のどが渇いたな、と思うと手元に紅茶が出てくる。どういう仕組みかわからないが面白いものだ。
「まあ、お姫様がかわいくてな。思わず助けただけさ」
そういいながらリリアンの頭をやさしくなでる。そのふわふわっぷりに思わず表情が崩れるだろう。
「ここは夢幻窟っていう娯楽施設だ。夢を見せてくれるっていう有名なところなんだがな。お姫様は誰かにはめられたかな」
どう考えてもさっきの状況は、少女が望んだものではない。とすると、誰か悪趣味な奴にはめられたか。
ならば仕方ない。助けてここから脱出するか。そんなことを考えていた。
■リリアン > 「………ヴァイス、さま。
ぼう、……冒険者、を、なさっているのですか」
職業を聞いた途端、ぴん、と猫耳が跳ねた。
興味深げに双眸を瞬かせながら、緩く首を傾がせて。
「しょ、たいめん……そうですか、てっきり、
何処かでお会いしているのかと……思ったのですが、
――――― ふ、ぁ……ん、くすぐっ、たい、です……っ」
大きくて暖かい掌に撫でられて、思わず甘ったるい声が零れてしまった。
甘やかされるのは好きだし、優しく撫でられるのも好きだ。
蒼褪めていた頬にも、ほんのり赤みがさす。
「夢幻、窟……知りません、私、……お部屋で、眠っていた筈、で、」
一度は緩んだ表情が、此の事態が誰かの悪意によるものだと気づかされて、
僅かに翳りを帯びる。
けれども、―――――そう、大切なことがあった。
俯き加減になっていた眼差しを、真っ直ぐ相手に向けて。
「名乗りもせずに、失礼、しました。
私は、リリアン……リリアン・シルヴェニア……、」
其処で口籠ったのは、己が耳と尻尾を露出させた姿であると気づいた所為。
どうしよう、名乗らないのは失礼だけれど、でも――――
「……普段は、お城に住んでいる者です。
どうぞ、リリアン、と、お呼びください」
―――――結局、家名は口に出来なかった。
■ヴァイス > 「リリアンだな。よろしく頼む」
お姫様、っていうのはただ単にヴァイスがノリで読んでいるだけだ
所作の良さ、見た目の品の良さから言って、本当のお姫様の可能性も高い。名字を言いよどんだことやミレー族であることを考えると、かなり訳ありだろう。これ以上は聞かないのがよいのではないかと思い、話を終わらせる。
「さて、じゃあ移動するか。リリアン、大丈夫か?」
撫でられて嬉しそうにするのを見て、調子に乗ったヴァイスは軽く抱きしめながらやはり頭をなでる。ふわふわ、モフモフ、プニプニ、そう言った感覚を楽しめるリリアンはまさに天使だった。