2019/08/21 のログ
ご案内:「夢幻窟」にリリアンさんが現れました。
リリアン > 己の立場というものを理解していない者、というのは、存外多いものかも知れない。
自らの足許が、どれほど脆く崩れやすいか―――ほんの一歩踏み間違えるだけで、
どこまで堕ちて行ってしまうものか。

今、薬の力で深い眠りに就いている少女も、また、己の立場を理解していない者の一人である。
その身を此処へ運び込んだのは、少女が信頼する人物の一人。
金を貰ったのか、それとも少女に何か、含むところがあったのか。

兎に角も、少女は白いネグリジェ一枚の無防備な肢体を寝台に深く預け、
四肢を拘束する金属の枷も知らず、その夢を操作しようとしている力の存在も知らず、
――――――夢のかいなに、落ちようとしていた。

夢のなかの己は、王女ではない。
白い猫耳と、細く長い猫の尾を持ち、ミレーの特徴を隠す術も無い、
ただの脆弱な生き物である。
四方八方から、己を蔑み、嘲る視線。聞いたことも無い卑猥な言葉。
白い耳を伏せ、長い尾を身体に巻きつけて蹲り、怯え切った眼差しで周囲を見回す己に、
差し伸べられるのは救いの手か、それとも。

リリアン > 不意に目の前へ伸ばされた掌は分厚く、指は長く節くれ立って、
いきなり自慢の長い髪を鷲掴みにしてきた。

恐怖と苦痛にますます身を竦ませ、悲鳴を上げて逃れようとしたのに、
身体は動いてくれず、喉は引き攣るばかりで声も出てこない。

怖い、痛い、助けて―――そんな感情をぶつける術が無ければ、
恐怖は只管に、己の裡へ澱のように降り積もるばかり。
視界が涙で翳んでくる、相手の顔は殆ど見えない。

髪を掴んだのとは別の誰かの手が、背後から尻尾を掴もうとする。
するり、今度は逃げ出せたと思う間も無く、また別の手で無遠慮に掴み上げられて。
背筋を駆け抜ける激痛と、何か、もっと恐ろしい未知の感覚。
受け止めかねて、意識が限界を迎えて――――――

ふつり、夢が途切れる。
少女の脆弱な神経が、与えられる悪夢に耐えかねて。

リリアン > す、う―――――と、現実の少女が深く息を吐いた。

今宵は此処まで、一度で壊してしまっては元も子もない、と、
何処かで誰かが考えた、とか。

覚醒を迎えるまでには、いつもの己の部屋の中。
王女のために整えられた、柔らかな寝台の上に戻されている筈。
目覚めた己の頭のなか、夢の滓は残されているか、否か―――――。

ご案内:「夢幻窟」からリリアンさんが去りました。