2018/11/08 のログ
■彷徨う禍 > ふと気がつけば水の多い場所にいた。
誰かに連れてこられたのか、あるいは誰かについてきたのか、ここに至るまでの経緯は憶えていない。
する事といえば、ただ今いる場所を彷徨うのみ。人の手により作られた自然の模倣を、誰の気にもとまらず眺めて回る。
どれだけの時間そうしていたか。どこかから好ましい気配がする。牝が熱を持ち悶える気配だ。
それまでの当て所もない徘徊を止めて、感じ取れた熱の源を探し始める。鼻先の餌につられた獣のごとく、じりじりと進む。
辿り着いたのは薄暗い通路。人影が一つ、二つ、三つ。
同じ人間であれば取り込み中だろうと行き先を変えるか、義憤から割って入るだろう場面なのは明らかだった。
自らが取った行動はといえば、ただ眺めているだけ。
少しずつ距離を縮めながら覗き込むだけ。
人間同士の営みがどういったものか興味深げに観察する。
男がどういった言葉を発しているか、少女がどんな反応を示すか。それらを面白がるように。
ただ、目の前の光景に少々気を取られてしまったかもしれない。
ここまで誰の気も引かずに彷徨ってきたものの、この場では気配のなさに綻びができた。
結果、空気がじわりと重くなる。過剰な湿気を含んだような水っぽさとなり、まるで肌に纏わりつくよう。
二人の男達はまだ、突然の変化に気付いていない様子で。
■レナーテ > ボトムの布地が指先の愛撫でしっとりと張り付き、淡くはみ出た小陰唇の輪郭を克明に浮かび上がらせてしまう。
その上にある茶色の楕円の茂みも殆ど見えてしまっており、そこを見つけた男達は変わらぬ欲に満ちた笑みを浮かべていた。
せめて一瞬でも、集中力を取り戻せたなら……迫力の無くなった顔で睨みつけ、弄ぶ男の手を引き剥がそうと手首を掴む。
だが、既に快楽と薬で弛緩しきった身体では、ただの幼子のじゃれ付き程度にしかならず、寧ろその手首を掴まれてしまう。
ギリギリと関節が圧迫されていく痛みに、声なく苦痛の悲鳴を唇だけが紬ぎ、じたじたと四肢を暴れさせて振り払おうとする。
しかし、その程度では解けず、ザラついた床へ細い手の甲を叩きつけられると、淡い擦過傷と共に打撲の鈍い痛みが深く広がっていく。
「った……! 離し、て……っ」
『黙ってろ! 暴れると今度は顔面を床に叩きつけるぞ!』
語気強く捲し立て、細い首が大きな掌にすっぽりと包まれる。
動脈ごと圧迫して締め上げられていくと、酸素は全く巡らなくなり、目を白黒とさせながら両足をバタつかせつつ片手は男の手に重なっていく。
引き剥がそうとしても剥がれず、小さな痙攣の波が大きくなり、金色が徐々に上天しかけたところで、放るようにして掌が解かれた。
『次逆らったら、顔がグチャグチャになるまで壁にぶつけてやるから覚悟しとけ。分かったらとっとと股開け、牝猫』
ぱんっと頬をひっぱたかれると、顔が簡単に横へと流れてジンとした痛みがほほ全体に広がる。
喉の奥が引き攣るような悲しみの痛みが重なっていくと、過去の記憶をフラッシュバックさせながら、鼻を鳴らして小さく頷くことしか出来ない。
恐る恐る膝の合間を広げていけば、それでいいというようにスペースが出来たことで指の動きは激しくなり、ずりずりとナイロン状の布地を肉芽へ擦り付ける。
ひんっと甘い悲鳴を上げていく中、尻尾が毛を逆立てながら伸び切り、耳も落ち着き無く暴れだす。
湿気った空気、それも何か力がこもった様な空気が周囲を包み、肌に嫌な感触すら覚えた。
しかし、目の前の男達はそれに反応する様子もない。
相変わらず、ガキの胸だと罵りながら乳房に触れ、水音を強面が溜めに手淫を繰り返すだけ。
その正体を探ろうと、弄ばれる本人は右に左に視線を散らせて落ち着きがない。
■彷徨う禍 > 人ではない。しかし人の顔立ちが美しいか否かを判断する基準程度は備えている。
それに照らしてみると、組み伏せられる少女は愛らしい顔をしているように感じられた。
さあ。この男達は、この少女を、どんなに可愛らしく嬲り鳴かせるのだろう。
たった一人、あるいは一つの観客として、事の成り行きを見守り続ける。
否、見守るつもりではいた。
床に叩きつけられた小さな手に薄く血が滲むのが見える。
痛みに歪む顔を、更に見れないものにしてやろうと脅す声を聞く。
…それは面白くない。
この男達が、どこまで本気で言っているのかは分からない。
ただ現状の遣り取りを見ても、次第に趣向の違い、ずれというものを感じ始めた。
少女は男達に力で抗えず諦めの色を見せ始めている。
もう少し待てば望む通りの展開となるのかもしれない――しかし、それを待つより先に痺れが切れた。
空気に含む湿気が増していき、まるで粘り気のある泥を肌に塗りたくるような感触に変わる。
いつの間にか、ひょろ長い女のようなものが男達の背後に立っていた。
背が高すぎて通路の中におさまりきらず、天井の辺りから身体を大きく右に傾けている。
それは辛うじて女のようだと輪郭で知れる程度の、影が一人でに動き出したような一面真っ黒の姿をしていた。
地面に垂れて木の根のように這う長い腕を擡げて伸ばす。不揃いの長さをした五指を男達の首に絡めつける。
そして、ペンでも手に取るような軽い動作で、ひょいと二人を持ち上げた。
■レナーテ > 身体の自由が取り戻せる一瞬を期待して、今は乱暴に従うほかなかった。
擦過傷の痛みに顔を歪めながらも、周囲に感じる不穏な空気に左右を見渡すも未だにその正体を見つけられずにいる。
しかし、それが不意に変化した瞬間に、猫尻尾の毛が全て逆立ち、ブラシのように変わり果てていく。
『んだこりゃっ!?』
何処から現れたかも分からぬ黒い何かが、首を締め上げながらこちらの身体を持ち上げる。
立場が逆転していく男二人は、離せと両足を暴れさせ、締める黒き手を幾度も叩く。
こちらに映るのは真っ黒な何かが二人を殺そうとする異質な光景。
湿気が滑りを得ていけば、ぶるりと身体を震わせつつ、弛緩した身体を床に放り出しながら、ただ見上げるばかりだった。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」からレナーテさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」から彷徨う禍さんが去りました。