2023/07/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にシアンさんが現れました。
■シアン > 贔屓にしている飯屋で遅めの飯と早めの晩酌とを済ませた帰り道。
露天の通りに差し掛かれば何か入用というわけでもなかったが、
何か面白いものでも無いかと冷やかし程度に見回っていた時だ。
男の怒気を含んだ声が上がったと思えば今度は悲鳴が上がってお次は見事な捨て台詞、
誰ぞちょっかい掛けちゃかけない誰かにちょっかい掛けて返り討ちにでもあったか?
平民区画でもこの手の騒動は珍しくもなく貧民地区ともなれば割としょっちゅう、
それでも目を向けてみれば小さな女の子が敷物広げて物売りしているのを見掛け。
「……ほほう」
妙な雰囲気のある女の子と妙に雰囲気のある品揃え。
気が向けば足も向き彼女の前へと歩を進め、品揃えを改めてまじまじ見遣る。
「あらまぁ。すげぇな。どいつもイイ女……いや言い方アレだけど褒めてんのよ」
端から端まで短剣から長剣から斧からどれもが魔導具店の目玉商品になっていてもおかしくない輝きと、立ち上る色気にも近い魔力。
ははぁ~~~……なんて嘆息しながら顎を撫でて見入る。
■モカ > 短剣が求めたのは、知性と冷静さある主。
一瞬で相手を凍てつかせる破壊力を秘めているが、それに感けて力押しをするような愚者の手先にはなりたくないと願いを言われた自身からしても、あの男は不適切過ぎる。
溜息を零しつつも、刃の様子を確かめると欠けた様子もない。
安堵しながら元の位置にもどしたところで、自身に掛かる影に緩慢に顔を上げる。
こんなところにいるにしては、物静かな振る舞いは周囲の喧騒と比べても浮いているかもしれない。
「……」
いらっしゃいませとも言えず、不躾ながら彼の顔をじっと見上げていた。
歓迎しても彼らが彼を望まなければ、売ることは出来ない。
だから見るも触るも自由だが、売るかどうかもこちらの自由故に言えないのだ。
そして彼を見て思う言葉は口ではなく、脳裏で語られるのみ。
(「何だか乱暴そう」)
屈強な戦人といった体付きは、正しく筋肉の鎧といった張り巡らせ具合で、服の上からも筋の凹凸の気配を感じる。
とはいえ、筋骨隆々とはいえバランスを感じさせるライン。
ただ、ツリ目と髪型のせいか、少々怖そうという印象も懐くくせに顔には一切浮かばない鉄仮面っぷり。
「……ありがとう。でも、女の人みたいに例えるのは、初めて聞いたかも」
彼の褒め言葉に気を良くしたのか、剣と斧に映り込む光のゆらぎがキラリと強く煌めく。
物言わぬ彼らではあるが、意志も感情もあり、褒められる事は個体差あれど嬉しい。
その個体差の代表例の如く、短剣は全く反応を示さず敷物の中央で冷たく鎮座しているわけだが。
「何かほしいのある……? 貴方は褒めてくれたから、主として認めてくれるかもしれない」
剣と斧はそれほど拗れた意思を持っていない分、うまく気が合えば長く付き合っていけるかもしれない。
お金もほしいが、やはり彼らが自分達の望みを発揮出る場所を与えたい。
それ故にこちらからも望みを問い掛けつつ、抱きかかえていた膝を敷物の上へと降ろして、四つん這いめいた感じに前のめりに。
薄っすらと汗ばむ首筋と狭めの衿口から白磁を覗かせつつも、熱気に乗ったハーブの様な香りが彼へと舞い上がりつつ、紫の瞳が静かに金色を見つめ続ける。
■シアン > 表情筋がぴくりとも動かぬ鉄面皮と揺らがない瞳の裏に隠された心情に、気付かず。
強面具合を余計に際立たせるような目元の隈取りに似た化粧が施された目付きが、
然し存外人懐っこそうに弛めば商品達と彼女とを交互に行き来して口元も綻んだ。
「得物は女として扱えっつってな。男はそっちのが武器に愛着持って手入れもよくするってんで。
昔教えられた事がまー癖になっててさぁ」
昔の教えは今も継続中なのだがおかげでぽろっと口を突いて出てしまう。
気恥ずかしくボリューミーな髪をわしわしと掻くとシャツに隠れた二の腕が撓みシャツの生地を盛り上げた。
「そう、さな、あんまり魔導具は扱わんが……こいつぁちょいと物欲が……んー……」
彼女らもとい彼ら? の、輝きが増した気がする。それも、只輝くにしてもぎらりとしていても上品さがある様な気がする、たとえば月面を映し込む水面が激しく揺れるような……
ますます見事だな、とはぽつりと溢れる本音。
何度目か、武器に彼女に目線を移していれば彼女が前のめりに。男の前でやるにしては少し無防備に晒される首元に視線が吸い込まれたが、ぐ、と眼筋に力を入れれば金色は紫へと向いて。
「あらいい匂い。いやごめん違う。ちょいと迷うが。一番に目ぇ引くのはこいつかな?」
ふわりと鼻孔を刺激した香りに余計な一言が出たが。いやいや、と手を慌てて顔の前で左右に振り。
後、人差し指を持ち上げれば、丁度先程の騒動の原因になっていた短剣を指した。
■モカ > 交互にこちらをみやる彼へと視線を向けていたが、重なる言葉に明らかな変化を見せる。
紫色を丸く、少しばかり見開いて、年相応なわかりやすい表情を浮かべていく。
照れ隠しのように頭を掻く様子も、最初に感じた印象とは真逆で緩やかに広角が上がっていった。
「……いい教えだと思う。物には……魂が宿るなんていうから」
この子たちの実体の器は武器、そして現世に力を及ぼす出入り口でもある。
そうした道具類を大事にしてくれる事は、自身にとっても彼らを預けるには安心できる。
それ故に、真ん丸にしていた瞳を緩やかに細めつつ、嬉しそうにぽつりと思いを溢す。
それでも変化の乏しい顔ではあるが、自身なりの確かな笑みを作っていたと思う。
「……魔導具ではあるけど、この子達は意志がある。でも、ちゃんとその形としての手入れをしてくれれば、大丈夫」
前のめりに語る瞳は気怠げだった最初とは異なり、少々輝いている。
きらきらとした視線を向けながら、逸らすこと無く彼の瞳を真っ直ぐに見つめる子供じみた仕草。
期待を寄せていたが故か、彼の邪な視線には気付かない。
鎖骨のラインがくっきりと浮かび、白磁に浮かぶきれいな水の礫達。
浅く息を呑む度に白い喉の嚥下に、つつっと汗が伝い落ちていく。
「いい匂い……?」
幾度か瞳を瞬かせ、呆気にとられていたものの匂いから連想するワードが脳内で幾つも数珠つなぎに浮かび上がる。
思考のスピーチ・バルーンが沢山浮かび上がったところで、それが自身の香りであると思い至ると、はっとした様子で瞳孔が窄まる。
頬を僅かに絡めつつ、視線をやっと反らしながらそっぽを向くと、横顔を晒しながら片手が衿口を覆うようにあてがわれていった。
「……この、子? この子は……ちょっと気難しいけど、褒めた時に、嫌って感じはしてなかったから……どうかな?」
刀身が水晶の様に透き通る短剣を手に取ると、彼へ柄の方を向けて差し出す。
正しく武器といった整いをした剣や斧と違い、唾や柄頭に銀色のシンプルなパーツを使用しつつも、アンティークなエングレービングを施され、その溝を黒くシンプルに染めた上品な仕上がり。
グリップは手に吸い付くように吸水性の良い布が巻かれ、淡い凹凸が手の収まりを安定させる作り。
造形と機能の美、両方を兼ね備えんとするところは、宿る精霊の拘りの強さが出ているのかもしれない。
そして、触れたなら短剣は彼を試そうとする。
パリンとガラスが割れる様に薄氷の刃を近くに生み出して落とし、更に敷物の端にあるタッセル結びの糸の一部を凍てつかせ、パリンと砕く。
哲学者曰く、強い力を手にした時、その人の本性が出るというそれを彼に問おうとしていた。
■シアン > 武具を大事に扱う。武具を扱う者なら誰もが心掛ける事であり誰もが言われる事だが……
だからといって女と思えは結構な変わり者の教えだし其れを守るのも変わり者の類だろう。
笑われるものかと思いきや笑いはしても柔らかな質の口元と目元の変化に、
「ハハハ。ありがと。ちょっと安心した、いやな? かわいこちゃんに笑って貰えるのぁ男冥利だが?
どうせならそーゆー風に笑って貰いてぇってのは男心だわなぁ」
言動がズレているのに可笑しくて笑われるより言動に対して好意で笑って貰えるほうがよほど嬉しい。
氷の短剣のように鋭利ささえある彼女の表情はほんの少しの変化でも大きく見えて、
目聡くもあるがきちんと気付いていて喉も肩もくつくつと揺らしながら笑った。
「物には魂か。付喪神っつーんだっけな? 意思まであるならまさにそれか。諄くて悪いがほんと見事……
いやごめんて! ほんと! セクハラとかでなくてですね男っつー生き物はこうついそーゆーの敏感でうん」
邪な目で見られているとは思いもよっていなかったろう仕草に罪悪感がよくよく湧き上がる。
匂い嗅ぎました。云々。首元にも視線行きました。云々。
匂いはともかく首元の関連は言わなくともよいのに言ってしまいながら手を持ち上げ胸の前で立てて頭も下げての謝罪と言い訳がつらつらつらと。
……汗の雫が滴ることさえ様になるような首元が隠されたのは少し残念で、隠されたからとまた視線が行きかけ、ぐっと逸れる分かりやすい視線。
「お。じゃ、ちょいと失礼……」
気を取り直すように。犬が水を掛けられたみたく頭をぶるんと二度三度と振ってから差し出される短剣を握る。
意匠の凝りようは実用を目的としたものではなく儀礼用のそれにも近いが……
握り心地はまるで自分の掌に合わせたようなしっくりと来るものがある。
ほほう、と、また一つ感嘆の溜息を零したが、それが最後まで出る前に硝子が砕ける音に視線が向き。
「こら」
べちん。
と、子供を叱るような口調と手付きで柄のお尻を叩いた。
「俺の手ちょいと冷やすぐらいなら大目に見るが人の物壊すな。
お前は良い女だけどだからって何もかも甘やかしゃせんぞ」
べちん。
と、お尻叩きみたいな手付きで柄尻をもう一度叩く。
……強い力を手にした時はまず慣らす派である様だ。慣らし方、子供の躾みたいだが。
■モカ > 男の人は雑な人も多いから、きっとその人は女を扱うように丁寧に手入れしろといったかったのだろうか等と考えも浮かぶ。
正しい結果に導くユニークさは、武器に宿して精霊を送り出す自身としては安心できるし、嬉しく思うが故の微笑み。
「ふふっ……安心? ……っ、そ、そういうのは……ちゃんと、そういう人に……いう、べき」
一瞬キョトンとしていたものの、続く言葉に自身への言葉と分かればみるみるうちに頬を赤らめる。
面と向かって褒められるなんてことはあまりなく、熱くなる頬を両手で多いつつ、しどろもどろに言葉を吐き出しながらうつむく。
彼の笑い声に恨めしそうに顔を上げ、上目遣いを向けるものの年相応な顔の変化が生まれてしまうと、頬を僅かに膨らませてたりもあって鋭さの欠片もないだろう。
「うん……この子達はそれに近い感じ、世界をみたい子、自分の望みを叶えたい子、そういう子を武具の器に入れて……送り出してるの。ううん、褒めてくれるのは、この子達も嬉しいから……。ただ、その……うん、私も……恥ずかしい、とか……ある、から」
褒め言葉に喜びを伝えんとするも、男性故の視線をぶつけられるとそれも抑え込まれてしまう。
ただ、素直に告げる言葉は悪意を感じられず、ちらちらと彼へと紫色を傾け、その顔を覗き見るように確かめながら、おずおずと向き直る。
やはり掌が衿口から降ろされないのは、見られることへの羞恥は消えない為。
わかりやすいほどの視線の動きに気付くと、再びかぁと頬を赤らめていき、再び俯いた姿は耳まで真っ赤にして、銀色のヴェールが顔を隠していく。
そして、羞恥を振り払うように顔を上げれば短剣を差し出すのだが、試すような力の発現に彼はどう答えるのか。
それをハラハラしながら、表情を変えないように唇をかみしめて見つめていくのだが。
「……」
叱ってる。
それはもう、子供を叱るような躾け方。
目が点になるとはこのことで、先程までの無表情さが消えるほど、ぽかんとした顔で間抜け面で見つめてしまう始末。
そして、叱られた短剣はどうかというと、数秒の沈黙の後、ボンッと小爆発を起こすように彼の掌で魔力を破裂させると、その手から逃げるように飛び上がり、からんと敷物の上に着地する。
彼が見ようとすれば、見るなと言わんばかりに明かりを反射してその瞳に向ける始末。
「……っ、ふふっ、ぁはははっ……!」
沸き立つような笑い声と共に、小さな両手をお腹に当てて、前屈み気味になりながら肩を震わせる。
捧腹絶倒そのものな笑い方をしながら、暫く肩で息をした後、まだ笑いの震えが残るまま顔を上げて、涙に濡れた瞳をこすりながら視線を重ねた。
「ごめ……んなさい、この子、貴方を……試したかったの。強い力を使えるとなったら……どうするかって、そしたら、それを叱られたものだから……拗ねちゃって……ふふっ。貴方……面白い人、初めて……こんなこと」
本来しないことを敢えてしたら叱られ、それに拗ねたのだと。
怒られたり嫌われたり、意気投合したりは見たことはあれど、こんなパターンは今までにない。
不意打ちが過ぎて、笑いが溢れ出したというところ。
■シアン >
「え。間違ってはないだろ。可愛い子に可愛いって言ってんだから」
そういう事はそういう人に言うべき。と、反芻しては、うんと一つ頷く。
誂っている、口説いている、等というような気配もなく、
当たり前の事を当たり前に言っているといった口調。
「ふふ。あ、笑っちゃうのはごめんな? ごめんて、こうなんだ、微笑ましくてっつーか……?
ほんとなんだ別に怒らせるつもりとかも無いんだけど。うん怒ってるとこまで可愛いんでさぁ」
褒められ慣れていないのか。褒められるとは思ってもみなかったのか。
見る見るうちに赤く染まっていく頬も、其れを隠す動きも、一々愛らしい、怒らせるつもりはなかったのだが怒り方も頬をぷっくり膨らませるのがどこか子供っぽいが、愛らしい。そことか、そことか、なんて可愛らしさをいちいち指差しまでし。邪な目線を向けてしまった、いや、邪な視線を向けている、のは、男性の性的なものと言い訳しつつも申し訳なくはあるので片手はずうっと謝罪に立てたままだが。
「って。うわ!?」
このまま、どこが可愛いとかでなくどこまででも可愛いを延々続けそうな勢い。が、短剣の光に遮られる。
手の中で光ったと思えば手から飛び出していった先でさらに光り輝くものだから、
眩しい! と、目から眉から口元からがぎゅっと引き絞られて顔に書いてある様だ。
しかもすぐその後から可笑しくて堪らない、とでも言うような声が傍で聞こえてきて、
態とやっているわけではないのだが眩しすぎて変顔になったままに彼女へ顔を向け……
「な、なるほど? いやでも、試すなら尚更だろ。こういう試し方は駄目だぞときちんと言わんとだな……」
短剣が弾けるのも光るのも、可笑しくて笑われるのも、
ん゛~~~~……? と、唸るような疑問符と共に首を傾げたものだが。説明されれば成程、とは言うものの。
教育方針を説明するお父さんみたいな言い草である。
■モカ > 「へ……ぁ、う、ぅぅ……」
さも当たり前のように可愛いを連発されると、むくれていた表情は消し飛ぶ。
言葉に詰まり、何も言えなくなりながら首筋までぞわっと羞恥の痺れと熱が走る始末。
重なる言葉は最早羞恥の追い打ちで、明確な褒め方に変わっていくと羞恥に紫玉が潤む。
それ以上言わないでと言わんばかりに恨めしげに見上げるも、顔を覆う指の合間から彼を覗き見るような格好。
悪気があってのことではなく、褒めてくれているのだから素直に受け止めるべきなのだが、不慣れ故に羞恥が強くて戸惑う気持ちが強い。
そして……両手が顔を覆えば、衿口への防御はガラ空きとなっていく。
そんな中、短剣が臍を曲げて彼の手から逃げ出すと、今までにない反応に笑い転げそうになっていく。
眩しいと瞳を瞑る様子に短剣も少しは溜飲が下がったのか、それ以上光を向けることはしないが、騙され病院に連れて行かれた飼い猫の様な不機嫌オーラが溢れていく。
そう拗ねないでというように、そっと掌で刀身を撫でていけば、少しずつ不機嫌の揺らぎは収まるものの、完全に消えきることはなさそうだ。
「確かにそう……でも、この子はプライドが高いから……子供扱いされたのが、余計に拗ねたんだと思う。本当はとても賢くて……いい子だから」
クスクスと微笑みながら事情を重ねれば、見た目から感じた厳つい怖さはもう感じられなくなっていた。
人は見た目によらぬというが、こういう人もいるのだと笑いが収まっても先程までとは違い、和らいだ表情を見せていく。
「貴方がこの子を望むなら……私が少し、説得してみる。拗ねてるけど、貴方を嫌ってない。それに、貴方はとてもいい人だと思うから……仲良く出来るとおもう。戻って……また来て、だからちょっと時間掛かるけど」
猫を撫でる様に短剣の刀身を撫でつつ、反対の手で遠くを指差す。
丁度九頭竜山脈等がある森林地帯の方面であり、そこに住処があると言葉も重ねていく。
■シアン >
「ほらほら。セクシーなところがまた見えちゃってる。お兄さんあんま無理やりは好かんが理性失いそうだから隠して。
……顔も仕草も可愛いってのに所々色気すげぇんだよなぁ……」
困り果てたというか参ったというかの有様も此れも此れでとても可愛らしいのだが……
わかった! と、両手を上げては唇近くで人差し指同士でばってん作って漸く停止した。
色気云々という別の切り口から責め立てる、わけではなくて、
はだける首元にはやはり視線が行ってしまい白磁に朱色はとても目立ってまじまじ凝視、
する前に銀色のヴェールに手を伸ばせばそれをするりと下ろして首にくるりと巻こうと。
「ははぁん。なるほどなぁ。なんというか。どうもさっきからお父さん目線になっちまってるが反抗期の娘と接してる気分だぜ……」
光が収まると固く固く寄るし結ばれるしの眉間と瞼が解けた。
光は収まったものの光の揺らぎといい魔力の凪ぎといいが、全力で、
不機嫌です!! とでも訴えてくるような短剣を見ては軽く笑って。
娘を持ったことはないのだが娘が成長して反抗期迎えたらこんな気分か……なんて、どうにも可笑しくて笑ってしまう。
「それじゃ、説得お願いしようか。いやしかし、すっかり商売の邪魔しちまったかな? 悪かった。
住処はまた……ずいぶん遠い、が。これから戻るってんなら結構な道程だけど……」
男の怒号が聞こえて立ち寄った時より随分柔らかくなった顔付きに、ふふふ……と、またつい、可愛らしくて微笑ましくてといった具合の含み笑いが漏れるが可愛いとまでは口に出さず。住処、と指さされた先は貧民区画でも平民区画でもない場所だった為片眉と片目だけ器用に上げたり広げたりしつつ。
「お詫びってわけじゃないが。もしこれから戻るってんならタダでいいから近くまで送るぜ。
それか、平民地区のほうに宿取ってっからそこで一室借りれるよう手配してもいいし」
提案を幾つかと共に、首を傾げて見せる。
家まで送るが近くまで、という辺り、やはり初対面の人間に所在を掴まれたくないだろうという気遣いも含めて。
■モカ > 「っ……い、いわなくて、いいっ。私も、無理矢理は……好き、じゃない。だ、だから……そういう、そういうの、は……もう……んんっ」
それほど大きく開かせたつもりはないものの、少しはだける襟元を指摘されればやはり恥ずかしい。
声を震わせながら抗議しつつ、瞳が羞恥で更に濡れていく始末。
理解を示す唇封鎖のジェスチャーを、眉根を寄せた表情で見つめていく。
そして、色気なぞと言われたこともなく、瞳孔を震わせながら緩く頭を振って否定しようとするも、彼の手に動きが止まった。
銀糸が掬い上げられ、それで胸元へとさらりとこぼれ落ちていけば、望み通りに隠れてはいく。
けれど、自分よりも大きな手の硬い感触、熱、それらが体に近づく不意打ちは体勢の崩れた心を大きく掻き乱す。
ぞくんと言い知れぬ痺れが淡く背筋を抜けて、息を震わせながら唇を噤む。
それでも、促された吐息の音色はすべて隠しきれず、一間置いてから、耳まで真っ赤になってカチコチに固まって動けなくなっていた。
「そ、それが……多分、この子の……癪に障ったの、かな」
不意打ちの余韻が抜けぬぎこちない言葉遣い。
彼が父親となるなら……子供もまっすぐいい子に育つのだろうな、等と思うわけだが、それを意味深に思う無意識な反応が脳の片隅に浮かぶ。
そうじゃないと己に言い聞かせる様に頭を緩く振って深呼吸を一つ、落ち着かせねばと思っていると、お願いの言葉に小さく頷いた。
「ううん、この子達も……誰でもいいわけじゃないから、こうして大事にしてくれる人とか、気が合う人を探すのが大事。だから、大丈夫。いつもは森にいて……ここには、たまにくるの。大丈夫、歩くのは慣れてる」
この結果こそが望んだ答え。
褒められなければ、落ち着いた受け答えになりながらも、指し示した先は彼の思う通り遠い場所。
しかしながら、往復ももう慣れているのもあり、さもありなんといった様子で首を傾げている。
そして、申し出には小さく瞳を瞬かせて驚きを浮かべていった。
「えっと……ありがとう、でも、宿……手配してもらっても、お金そんなにもってないから……送ってもらうだけでも、十分」
気遣いには気付いていないものの、彼の言葉はこの街では珍しくて。
その優しさに緩やかに花開く様な微笑みで答えながら、受け止めていく。
店じまいの後、王都を抜けて九頭竜山脈付近の森までの道のりを送ってもらえるなら、その合間に名前を伝えながら他愛もない話を添えて道中の会話に花咲かすことだろう。
お別れの時に、ありがとうのお礼と共に、頬へキスを送ろうともして。
それから逃げ帰る様に森に走っていく姿に、女と娘、どちらを思うかは今は知れず、今日の幕は降りるだろう。
■シアン >
「おっと」
可愛い云々が止まったら色気が云々と口をついてしまった。
人差し指を唇に宛てがい、しーって、沈黙のジェスチャー。
「……」
じっとりと恨みがましい目線に封鎖したばっかりの口元が何か噛むように動くし。さらりとした、何か理由をつけて身体に触ってやろうという意図はまるきりなかったが余りに髪というより上質な生地に似た髪の感触と悶える吐息に。聞こえなかった振りが出来ず、ん゛ん゛……と何か堪えるように漏れ出る息を噛み殺す唸り声。
「ん。うん。た、たしかに? 気位高い子にする対応じゃなかった、かも」
艶めかしい声をもうちょっと。艶めかしい吐息をもっと。
邪な心が浮かんできてしまったのを振り払う様に振って。
彼女と同じようなタイミングで、頭を振るし、彼女と同じぐらい動揺した声も出たし、
お互いどうにも可笑しな具合にシンクロしてしまった事にはまた肩を揺らして。
「そっか。そいじゃ、期待して、ああ、苦労かけちまうがその子が俺んとこ来れるとこ来れるよう頼むぜ。
お代にゃ色付けさせて貰うわ」
そも、物が一級品に、そこに、彼女が説得という一手間も二手間も加えさせるわけだ。
応相談とは書かれてあるが値段も書かれてある札を見ては幾らか割増するのは寧ろ当然だろう。
仕事についての拘りを少しばかり覗かせながら、
「うん。なら、お送りさせて貰おっか。慣れてるたぁいえ夜道であんなとこだ。用心に越したこたぁねぇからなぁ」
彼女の髪を飾る花にも負けぬような見惚れるような微笑みに、片目を閉じて首を傾げてウィンク一つ。
……少し気障すぎたか……でもこんな可愛い顔されたら格好の一つや二つ付けにゃあ……
とは、隠したつもりの内心。本当に小さなものだが声に出てしまっているので、聞こえたかも。
兎角、送るとなれば、店仕舞を待ってからの出立し、それなりの道なりの内にも交わす歓談――
「それじゃ、また……っ。ん。また、な、モカちゃん」
別れ際の挨拶が途切れたのは頬に受けた唇の感触のせい。
慌てて走り出すその後姿に顔ははっきり見えなかったが、
今までよりもずうっと顔を真赤にしているのが透けて見えるようで……
「……次は口説くか」
緩く、遅く、右手を上げては挨拶のように手を振ったあとにぽつり独り言ちながら踵を返し、
来た道の暗がりをゆったりと歩いていくことになるのだった――……。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からモカさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からシアンさんが去りました。