2023/04/02 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にティネさんが現れました。
ティネ > 道端に放り捨てられている毛布から、ふわりと一匹の蝶──に似た何かが抜け出して、羽ばたいて飛ぶ。
この妖精は、気まぐれに貧民地区に遊びに来て、仲良くなった浮浪者に、毛布を貸してもらって、そこで眠っていたのだ。
何か面白いことが起こっていないかなあと、寝ぼけ眼のまま、ふらふらと飛んで。
金色に揺れる髪の束が視界に入る。

「あっ、きれいだなあ~」

この界隈にはいささか似つかわしくない小さな妖精の少女は、あまり深く考えず
ぼんやりと歩く男の背から近づいて、その髪の毛に触れようとする。

リューク > 「ん――」

ふ、と。何らかの良からぬ意思を感じた気がして、くるりと後ろを振り向いた。
と、視界に入るのはこちらに向けて手を伸ばしている小さな少女の姿をしたナニカで。

「なにこの羽虫」

見つけた者が、少女や真っ当な感性の持ち主であれば。可愛らしい、と評したであろうその妖精だったが。
見つけたのがこの男であれば、口から漏れた感想はこの程度で。
無防備に近づいてくるのであれば、ぱっと反射的に伸ばした手で捕らえてしまうかもしれない。

ティネ > 「あっ」

もうちょっとで手が触れられそう!
そう思った瞬間、鋭く勘付かれて、手に囚われてしまう。
手に乗る大きさの妖精にとっては、全身を捕まえるのにそれで充分だ。

「むう。羽虫じゃないですっ。
 ティネだよ! 妖精の! 離してっ。
 ちょっと髪の毛にさわらせてもらおうと思っただけなのに、この仕打はないんじゃない?」

小さな少女は、じたばたと手の中でもがく。ほとんど力を感じられないだろう。

リューク > 「――……」

なんだこれ面倒くさいの捕まえちまったな。手の中でもがいているモノを見ながら、脳裏に浮かんだ言葉はそんな感じだった。
羽虫じゃない妖精だ、となにやら喚いているようだが。

「妖精も羽虫も一緒でしょ。人の髪の毛に勝手に触ろうとしないでくれる?」

鬱陶しそうに半眼で睨みながら言う。どちらも興味が対して持てない、という意味ではこの男にとって本当に似たようなものだった。
多少は手をかけて維持している己の髪に勝手に触れよう、としたことも気に入らない。
ぐぐ、と少し捕らえる手に力を込めてみた。

ティネ > 「むう、でも~」

たしかに人の髪の毛に勝手に触るのは無礼になるというのは正論だ。
何か口答えしようとして、手から与えられる力に顔をしかめる。

「あっ、ちょ、やだ、痛い、やめてっ」

やがて声は涙混じりになる。
手の中で、小さいながらも骨が軋み、関節が悲鳴を上げるのが感じられるだろう。
その気にさえなれば折ることも潰すことも容易い、とわかる。

リューク > 「でも、じゃないよね?」

手の平に返ってくる感触からして、羽虫でも見た目通り人間らしい骨格を持っているらしい、と伝わってくる。
その判断が付けば手に込めた力を少し抜いてやる。
それは間違ってもかわいそうになったから、なんていう理由ではなく、単純に手が汚れたり、殺してしまった後の始末が面倒だったというだけのこと。

「ほら、なんか言う事あるでしょ」

力を緩めてやったのだからこれで喋れるだろうと。手の中のそれに対して、謝罪の一つも要求してやる。
これでこんな羽虫でなく年頃の娘だったらな、とは頭の隅に過ぎってしまうが詮無いことだ。

ティネ > 「うっ」

浴びせられる言葉の圧に震える。翅は握りしめられたために少し曲がってしまっていた。
人間の形をしたものに対しての情けや容赦、躊躇というものが一切感じられず、それが恐ろしかった。
本当に、羽虫として見られているのだとわかって。

「ご、ごめんなさいっ……」

惨めな気持ちで、手の中ですっかりへたり込んで頭を下げていた。

リューク > 「ん」

怯えきった少女の様子には、少しだけ嗜虐心が満たされるのを感じる。
これで本当にサイズさえ真っ当ならな、と思うと惜しい限りだ。
謝罪が耳に入ればあっさりと解放してやる。羽が曲がっていて飛べないかもしれないが知ったことではない、と手の平を開いて宙へと放る。

「ま、口が利けてよかったね。そうじゃなかったら多分普通に潰してたし」

害虫というか、蚊が飛んでいたのが鬱陶しかった、くらいの気軽さで。
まあ実際はあとの処理とかが面倒で追い払うに済ませていた可能性が高いのだけれど。
こうして解放したのも許したとかではなく、取り敢えず謝罪をさせたことで気が済んで興味の大部分を失ったというのが大きい。

ティネ > 「つぶ……」

剣呑な言葉にまたびくっと震える。
さしたるこだわりもなく放されたことからも、本気で無関心なのだろうとわかる。
悔しいが、どうすることもできないし……
気まぐれが逆の方向に傾いていたら、本当に言葉の通りになっていたかもしれなかった。
鼓動が早くなる。

「う~~!」

放られたまま、ふらふらと不自由そうに飛んでいき……
途中で一回だけ振り返って、あっかんべーをする。
それが終われば、一目散に逃げていくのだった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からティネさんが去りました。
リューク > 「――ふーん」

飛び立ちながら。こちらに向かってべぇ、と舌を出すのが見えた。
潰される寸前だったというのに文字通り、いい度胸だ、と関心する。

「ま、いっか」

しかして、だから次に見付けた時にはその鼻をへし折ってやろうと思うかというと、正直そこまでする気にもならず。
その程度のことを覚えておく労力のほうが惜しい、と思った。
まぁ、覚えているうちに出くわしたら、その時には自分の立場というものをもっとしっかりと教えてやってもいいかもしれないが――。

「さぁて、と。今日は、どうしよっかな……」

“そんな事”よりも。再び同じ言葉を呟いて、今日という日をどう過ごすかという方向に気を取り直すのであった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリュークさんが去りました。