2022/12/19 のログ
リア > 地図を見てもらっている間に、ぬくぬくして襟から服の中にずり落ちていく仔猫。

「拾われっ子なので詳しい誕生日はわかりませんが、生まれたばかりみたいで。
 昨日脱走して迷子になったので、こう……居所のわかる首輪――魔具が、このお店ならあるだろうと聞いたので」

ヴァンが歩き出す様子に、ほっとしてついていく。
場所柄、疑うべきという前提はあったけれど、話し方や声に何となく安心するものを覚えたのかもしれない。

富裕地区にもペット用品を売る店はもちろんあるけれど、顔も家も知られていると、何かのついでで「この間お宅のお嬢さんがいらして」などと話が筒抜けになる可能性があるということで。
ううん、と少し唸ってから気まずそうに応える。

「行きつけのお店は……家族ぐるみの付き合いをしているので、家に報告が行くかもしれないし……。
 なるべく秘密にしたいんです。
 ご案内、よろしいのですか? とてもとてもありがたいのですけど、お帰り途中だったのでは?」

「この子の名前は正式には未定です。今は毛玉(仮)と呼ばれています。
 あ、私はリアと申します」

簡略ではあるものの、帽子のつばを少し上げてご挨拶とする。

ヴァン > 「ふぅん……居場所がわかるもの、か。確かに一度迷子になると必要かも」

視線は襟からずり落ち、服の中で膨らみとなった仔猫へと向かう。
目を離すと大変なことになりそうなのがみてとれる。

「見た目通り、こんな場所には縁遠いお嬢さん、って感じだな。なるほど。
構わないよ。どうせ数分の距離だし……正直なところ、君をこの貧民地区に一人でいさせるのは不安に感じる」

この場所は平民地区と貧民地区の境から、それなりの距離がある。
路上強盗や、よりタチの悪い連中に少女が遭遇しなかったのは、この寒さが邪な気持ちを抱かせなくしているからだろう。
この銀髪のおじさんも、もう少し暖かければセクハラぐらいはしたのだろうが……いかんせん体中が縮み上がるぐらいには寒い。
それでも足早に家路につくことよりも声をかけることを選んだのは、根っこがお人よしなのだと言えそうだ。

「毛玉……そのまんまだな。なんか、いい名前が思いつかずにそのまま本名になりそうな……。
リアさん、ね。俺はヴァン、という。神殿図書館で司書をしている。
ここを通ったのは、本をお得意さんに届けた帰りさ」

首からさげたのは主教の聖印。額にしている奇妙な模様のバンダナと組み合わせると、この街に同じ身なりはいなさそうだ。
時折立ち止まると地図の現在地を示し、道が地図と一致していることを共有する。あと曲がり角一つ二つ、といったところ。
こんな所で会った人間は本来信頼するには足らない。行動で示し、安心させようとする。

リア > 「脱走常習犯ではなく、幼さゆえの無謀と願いたいところですね……」

ジャケットのお腹のあたりが猫の重みでたぷんとする。
腰まわりは締め付けてあるデザインなので大丈夫とは思うも、猫湯たんぽが落ちないように下から支える。

「見た目、ええと……おかしかったですか? 学校の制服はもちろんいけないでしょうけど、このくらいなら平民地区でも出歩けるし、浮かないものかと……」

尻すぼみになる声。
しかし隣に誰かがいるというだけで、怖さは全く感じなくなるから不思議なものだ。

「けだまも可愛いと思うんですけれどね。毛糸、ケイトとか。まだ考え中です。ちゃんと正式名をつけますよ」

くすくす笑うことができるのは、まさか寒さゆえにセクハラを免れていたとは思いもよらないからである。
心を読めていたら、二十歩くらい離れて歩いていたかもしれない。

「ヴァンさん、ありがとうございます。ああ、神殿の……騎士道精神に甘えさせていただきます。
 神殿図書館は神殿の関係者以外も入れるところですか?
 神職の方にこんなことを言うものでは無いかもしれないけど、我が家は信仰が薄くて……」

騎士道と口に出たのはあくまでもヴァンの振舞いを見て。司書さん、という穏やかなイメージがつく。

ヴァン > 「見知らぬ世界は輝いてみえるものさ。危険があることなんか気にもしない」

脱走が一時的なものか常習になりそうか、端的に伝える。少女自身にも通じるものがあるかもしれない。
見た目については少し首を傾げるが、小さく唸った。

「なんと言ったものか……君が身に着けているものはこの界隈に住む連中にとってはだいぶ質が良い。
奪って売り払ってしまおう、と考えるやつもいる。それは身に着けているものだけではない。
――脅かす訳じゃないが、言っている意味はわかるかな?」

奴隷市場に売られる恐れを言外に伝える。
男は少女の素性を知らない。そんなことをしたら酷い目に遭うのは連れてきた側になるだろうが、親から少女も大目玉を食うだろう。

「なんにせよ、その仔猫にとってはいい飼い主になりそうだ。……っと、あの看板かな?」

一度道を曲がると、道に突き出すように小さな看板があるのが目に留まる。
騎士道、という言葉を聞いて目が細まった。よもや聖印から男の階級を見抜いたとは思えないが……。

「あぁ。よく聞かれるが、誰でも入れる。学校の生徒ならば、学生証があれば借りることもできる。
コクマー・ラジエル学院には図書館に神殿図書館のコーナーもあるよ。もっとも、そちらでは貸し出しはできないが。
信仰は――なくても大丈夫なら、それでもいいと思う。人から強制されるものではない」

およそ神職の発言と思えぬことを口にする。

リア > 自分のことを戒められたのかと思ってどきっとする。
真意をたしかめるようにヴァンの横顔を見つめて。

「……ここではないどこかが、楽園とは限らないのに、どうしても行ってみたくなるものなんでしょう。
 ……この子も、今いる場所を嫌がって逃げ出したわけではないと良いけど」

限りない未知への憧れ、の方がまだしも救われる。目を伏せたのはほんの束の間。
服装について指摘され、悩むように首を傾げる。

「そ、うですか……改めないといけないですね」

平民地区へ出るのにもだいぶ気を付けて服を選んだものだけれど、貧民地区は想像を超えていたよう。
どこで服を調達すれば……? と迷路に迷い込んだ気持ちで眉を曇らせる。

「たまたまヴァンさんにお会いできて幸運だったということですね。
 神様がついでに私のことも守ってくだされば何よりです」

信仰のついでに預かる、という考えがすでに信仰心の無さの極みのような気もするけれど。
やがて見えて来た看板に、めいっぱい安堵の詰まったため息とともに歓声を上げる。

「わあ良かった……もう帰ろうかどうしようか迷っていたところだったので……!
 神殿図書館、いずれお礼に参りますね! ヴァンさん、ありがとう。甘いものはお好き?」

ヴァン > 「もちろん。この子も多くを知り、大きくなれば、どこが一番居心地がいいかが自然とわかるさ」

曖昧な言い方に変える。少女を必要以上に窘めるつもりはない。
服装については顎に手をあてる。男の格好は冒険者の一部が好む、防御力と普段着を併せたような設え。
少女にとって何がベストか、わからないながらも言葉を紡ぐ。

「平民の友人に聞いてみるとか……平民地区でも大量に同じ品物を販売する店で買うとか、かな。
帽子や服で顔や体のラインを隠すのはいい考えだと思う。とはいえ、貧民地区には顔を出さないのが一番だと思う」

幸運だったのは間違いないだろう。安堵のため息に思わず笑ってしまう。
少女にとってはここに至る道のりも、冒険といってよいのかもしれない。

「それは何よりだ。そうだな……あまりにも甘いものは同僚に奪われるのでそれなりなら。
乗りかかった船だ。買い物が終わった後、平民地区までは送っていこう。
か弱い女の子を食い物にしようって悪い連中はどこにでもいるが、貧民地区には特に多い」

己もその一人になることがある、とはおくびにも出さない。
とはいえ、店に入る気はなさそうだ。変わり者の店主が万が一にも男のせいで機嫌を損ねたら少女にとって迷惑になってしまう。

リア > 「この子が独りでも生きられるようになるまで、良い飼い主でいることが私の最低限の義務ですね。……」

猫は可愛い。とても可愛い。
でも飼うという行為は、――……と伸びていこうとする考えに無理やりストップをかけて頭を振る。

「思っていたより、何というか、一人で来るには怖い場所だったので、次また来なければいけないことがあったら、考えます。
 そうそう用事も無いと思うけど……。
 ヴァンさんは甘いものよりお酒派かしら」

手土産を考えながら、ドアに手を掛けて、帰りも送ってくれるというのに、え、という顔のあと、感極まって指を組み、

「何ということでしょう……ヴァンさんの優しさが……無限大……! 私、遠慮しませんよ?
 待っててね! すぐ決めてきますから」

にっこりしてヴァンの肩に手をのせると、両方の頬に順番に口づけて、扉を開けて。

リア > (店主を呼び出しててきぱきと買い物をすると、帰り道もまたご厚意に甘えてしまうのである)
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からリアさんが去りました。
ヴァン > 少女の言葉には頷いて返すのみ。

「あぁ、実感したならそれが良い……酒ならジンがいいな」

大げさにも聞こえるが、それだけ不安を感じていたのだろう。
少女が店内に入ると、そそくさと懐からスキットルを出して蒸留酒を軽く呷る。
アルコールで少しだけ暖かくなったか、一息ついた。

律儀に待ち、平民地区の大通りまで送っていく。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からヴァンさんが去りました。