2022/11/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/女郎屋の奥」にビョルンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/女郎屋の奥」にアイリースさんが現れました。
■ビョルン > 一雨ごとに季節は深まると、どの時期でも人は謂うもので。
雨戸の外は冷たい雨が降っている。
その雨とは対照的に座敷、夜具の上。
薄い寝具をふわりとかけた姿で声もなく発熱の中浅い眠りに彷徨う者が居た。
通常ならば夕食後の微睡の頃の時間。
発熱の原因たる背中の傷は圧迫せぬよう、うつ伏せ気味になりほんのりと汗ばんだ寝姿がある。
■アイリース > 「それじゃあ、後は」
季節問わず、賑わう商売。
ある程度必要な部分を片付けると、私は従業員の子に後を任せる。
そのまま、すたすたと足早に私室に戻れば。
「……ふぅ」
敷いた布団に、大切な人が寝ている姿。
とりあえず、様子がおかしい、ということもなく。
まずは安堵し、ため息を吐く。
「……今のうちに」
あらかじめ用意しておいた水で布を湿らせ。
ぎゅ、と絞りながら、相手に声をかけてみる。
「起きてますか?
寝てるのならまぁ、そのままでも大丈夫なのですが」
■ビョルン > 座敷の襖の開く音で意識は水面近くまで浮上する。
良く知ったその気配が近くに寄るまではそのまま、揺蕩うとも沈まず微睡んでいる。
そして声が聞こえらば、薄く目を開く。
見栄を張りしゃんと背筋を伸ばして敷居を跨ぎ、この部屋へついて一気に緊張が切れたように寝付いてからさほど時間は経っていないのだろう。
「今、起き……」
疲労に声が掠れているのか。
身を起こす力は入りそうにない。
ちらと見る女の手にあるもの。
今それで口と鼻を塞がれるなら諦めてしまうな、などと短く妄想して表情が歪む。
■アイリース > 季節柄、水はとても冷たく感じるが。
それも必要なこととあれば気にはならない。
声をかければ、相手の気配が変わり。
返答が聞こえるものの、声はかすれていて。
「今起きた、ということは。
睡眠はある程度取れたみたいで、良かったです」
再度、安堵のため息を吐きつつ。相手にじりじりと近づき。
「今から、汗を拭って。
その後、秘伝の薬を背中に塗りますね」
そう言って、寝具を軽くめくり。
私は、相手の体を支えつつ、ゆっくりと上体を起こすようにする。
そのまま、まずは額などから。
絞った布で、滲んでいた汗を拭い始め。
「……しかし。ずいぶんな怪我ですが。
何があったんですか」
そのまま、自然とそうたずねてみる。
相手の背中の傷は、なかなかのものである。
■ビョルン > 「けど、また寝そう。
飯は握ったのを、卓に」
疲労困憊には、まずは睡眠をという体質。
体質と言えば普段から体温は高い方だが、今はとても辛い状況にあった。
「ああ、寒くなる薬でなければ」
夏に薄荷油の加減を間違えて風呂に入り、凍えた経験を思い出す。
言葉を交わすうちに、次第に頭がはっきりとしてくるがその分だけ傷の痛みも明確に己を苛む。
女に助けられながら体を起こし、汗を拭われる。
「ひどい内出血だろう?
膚を裂かないように最大の痛みを与えられるのは、俺以外ならうちの執行くらいだろうね」
役職上は本家の執事や家令とされているが、それは外の世界での処刑人や拷問官と同じ職ということであった。
背中一面、急所を外しながらもみっしりと鞭の打痕が縦に横にと走っている。
「見た通り、ぺちぺちやられました」
受刑中噛み締めていた奥歯が今頃痛み、調子を確かめるように口を開閉させる。
■アイリース > 「食欲もあるみたいですね。
これなら、回復も早いかと」
更なる相手の言葉に、私は少しだけ笑顔になり。
うん、と小さく頷いてみせる。
「寒くはならないですが。
背中の傷がかなり大きいですから。
多少なりとも、痛むかとは思いますよ」
里で覚えた調合の仕方を思い出しつつ。
相手の体の汗を拭っていく私。
「何を仰ってるんですか。
……まぁ、実際のところ。
そういう部分については気づいてもいましたが」
相手のちょっとずれた言葉に、何度目かのため息を吐くが。
実際、この傷は素人のそれではないのは間違いない。
「なんでそんなことに、っていうことを聞いているんですが。
まぁ、いいです。
……よし、汗は拭えましたし。
少々お待ちください」
やれやれ、と言いつつも。
私は相手から一度距離を取り。
調達しておいた薬草をゴリゴリとつぶしていく。
そのまま、調合を続け、出来た塗り薬を手に、相手の傍へと戻り。
「では、塗っていきます。
暴れたりすると危ないので。
ガマンしててくださいね」
と言いつつ。すぐ傍に、包帯も準備しておく。
とりあえずは、この薬と包帯で。
ある程度傷を癒せるはずである。
■ビョルン > 「ンまぁ容体の急変が有り得るので今日は腹のこなれの良いものだけを」
どこか他人事のように、さながら治療院のヒーラーのごとく告げて相変わらず背中を見せている。
「ああ、構わない。どうせ息しているだけで痛むんだもの」
それでもまた日が昇ればぱりっとしたシャツを着て背を伸ばして肩を聳やかして歩かねばならぬ。試されてもいるのだ。
うんざりしたような吐息をついてから、女の言葉尻に乗って遊ぶように言葉を続ける。
「そうだよ、俺が一度でもお前や店の女郎に痕の残るような縄化粧をしたことがあったかい」
ククク、と笑うのも今は現実逃避めいた温度だ。
「なんで、というと。
向こうさんサイドからすれば俺の我儘が過ぎるそうで」
己から少し離れて見慣れぬ薬草を加工している女をぼんやりと見ながら続ける。
「いや、そんなぼんやりした理由ではなく喧々囂々たる会議の末に決まったことなんだ。
──うちには、どんなやらかしにも対応できる分厚い御法度の書があってね……、俺の私生活が自由過ぎるからそこに当て嵌められてしまったようだ」
女に塗られる薬は最初ひやりと、それから薄くなった皮膚を通じてじわじわと染み渡ってゆく。
「薬が沁みるくらいで暴れていたら、今日はショック死している」
薬の効き目で綺麗に治ればそれはそれで、鞭打ち執行の頻度が上がっていく訳だが女の善意は確りと受け取る。
「これでも、指の水かきを深く切ってそこへ代紋の指輪を押し込んでから縫い合わせるっていう趣味の悪い肉体形だけは回避したから」
薬が塗られれば包帯が巻かれるのだろうか。
膏薬が匂うものかどうか気にするようにスンと鼻を鳴らす。
■アイリース > 「はい。かしこまりました」
相手の言うとおり。
こういう状態では、消化の良いものに留めておいたほうが無難である。
なので、私はそれについては気に留めておきつつ。
「でしたら、なおのこと。
薬をしっかりと塗って、早く治したほうがいいですね」
普通にしていても痛い、となると。
やはり怪我の具合としては深刻である。
だが、そうはいっても私は相手を治療することくらいしかできないのではあるが。
「そこじゃあないですよ……。
まぁ、そっちについても。
気づいてはいましたけれど」
怪我の具合についての会話から、少し反れた会話。
とはいえ、それが相手の気を紛らわせているのなら、と。
私は、苦笑しつつ会話を続けるのだが。
「はぁ、なるほど。
……難しい話ですね」
これが、単なる子供のわがまま、とかなら。
大なり小なりの躾も必要なのだろうと思うが。
この相手の場合、立場とか、そういうのが関ってくるのだろう。
そう考えつつ薬草を調合していると。
どうにも、表情が難しくなってしまうので。一度、ぺちぺち、と自分の頬を叩く。
調合は繊細なもの。気が散っては上手くはいかない。
「なるほど、そういうことですか。
……とはいえ。限度はあるとはおもうのですがね」
相手からの更なる補足説明に、私はなんと返していいかわからず。
そんな、当たり障りの無い言葉を並べてしまうが。
「あら、そうですか?
これでもこの薬、里ではかなり不評の薬だったのですが」
もちろん、それは『効き目あれど、沁みすぎる』という意味で嫌われていたのだが。
相手が暴れないのを見つつ、私は、しっかりと薬を塗っていく。
もちろん、下手に傷を刺激しないように。ゆっくり、丁寧に、優しく、を心がけながら、だ。
「う~ん……。いえ、ね?
私は、アナタの生き様には文句は言えないですし、言う気もないですよ?
でもですよ?」
薬を無事に塗り終わったので、私は手早く包帯を巻き始める。
本当はこれで安静にしていてもらいたいのだが。
そうもいかないのだろう、と。
相手のことを思うと、少し心配が強くなるが。
「もうちょっと、ご自愛といいますか。
……ウチの子たちも、アナタを慕ってるわけなので。
もう少し。怪我などは、控えるような生き方をしてほしくはありますね」
はい、と。包帯を巻き終え、相手の背中を軽くぺちん、と叩く。
当然、私だってこの相手を心配しているので。
その辺も考えて欲しいとは思うのだが。
何せ、相手には相手の人生もあるので。ここは難しい問題である。
「あぁ、においはガマンしてください。
時間が経てば、におわなくなりますから」
鼻を鳴らす相手にそういいつつ。
私は、道具を片付けていく。
■ビョルン > 「謂っても、傷を拗らして死ぬこともないよ。
うちの執行だからね」
悲鳴を上げずに耐えられる最大限の痛みを己に与えたのだろうという妙な信頼感がその声にはあった。命には関わらない。
相手が薬を作りながら言葉に困っているのをにんまりと見る。
この女、少しこういった固いような融通の利かないようなところ──かからう楽しみも増えた。
組織の内情、要ははみ出した者を捕えておいて罪状を後付けするようなものなので、厚い律令書を紐解けば大食も深酒も罪であったりするのかもしれない。
ふぅ、と息を吐く。
「お前が知っているところだと、そうだね──…。
いずれかの縁談に応じていれば今、これからの罰は下ることはなかったんだけれど」
薬を塗りつける摩擦も、無論痛みにはなる。
眉根を少し寄せながら零す。
「薬を液体にして筆でスルーっと撫でるように使えるようにしたらよく売れて評判が上がると、郷の者に伝えておいてくれ」
そんな軽口を叩いていたが、相手が己を案ずるような言葉は最後まで聞く。
それから考える。
口を噤んで「んーっ」と考える表情は普段の相手の仕草に、そろそろ似てきたかもしれない。
「──俺は、荒事は控えているほうだし、不用意に危険を求めるようなことは、うーんと……ないと思う。
俺はこの環境でこの歳まで生きて、知ってるだろ。今のところ傷跡はただの一つもない」
女の手が軽く背を叩くと冗談ではなく尻が跳ね上がるくらいの衝撃に変わった。
「正直に言えば、他にどんな道があるのか──知らない。
夏に少し王都の外を遊びまわってもみたが、そこにピンとくる暮らしはなかった」
片付けをする女を尻目にぽつぽつと話した。
相手が己の傍に戻ればその手を引こうか。
■アイリース > 「……それでも。
やっぱり心配は心配ですよ」
相手が言う以上、それは本当なのだろうが。
それでもやはり、心配が生じるのは仕方の無い話だ。
とはいえ、あまりそう言っても、逆に相手を困らせてしまうかもしれない。
「それ、本当ですか?
話をお聞きしてると。なんだかんだで理由をつけられて。
痛い目を見そうな気がするんですけど」
相手の漏らした言葉に、思わず疑わしい、というような声色になってしまう。
もちろん、それが本当の可能性もあるのだが。
正直、それはちょっと、寂しいというか。思うところがあるので。
ついつい、薬を塗る手つきに、力を込めてしまいそうになり。
慌てて、ぶんぶんと首を振って冷静さを取り戻す。
「……なるほど。
それであれば、細かなところにも使えますね」
となると、薬自体の粘度を調整しなくてはいけないかもしれない。
などと思いつつ。秘伝の薬をあまり外に売るのもなぁ、とは思うが。
ある程度の収入は大事なので。相手の提案については、考えておくことにする。
「ならいいですけど。いや、でも確かに。
好んで生死の際に行くことはないですね、アナタは。
……わかりました。ちゃんと信頼します」
思い返すに、意味も無く危険に飛び込んでいる様子は確かにない。
そう思い出し。相手に向き直ると、うん、と大きく頷き。
そのまま、相手の目をまっすぐに見つめる。
「他の道については、まだまだこれから、見つかったり見つからなかったり、ですよ。
何はともあれ、まずは怪我をしないように。
健康でいてくれれば、それでいいです」
じぃ、とまっすぐに見つめつつの言葉。
そのまま相手に手を引かれれば。
抗わず、ただし、背中に触れないように気をつけて。
相手の腰に手を回すようにして抱きつく。
「……どうか、しましたか?」
突然のことだったので、少し驚いてしまった。
が、そう相手に尋ねつつ。私は、笑みを浮かべる。
いけないいけない。あまりだらしの無い表情になっては。
■ビョルン > きれいごとなど一片もなく、組織の運営は煮こまれた歴史の分だけ灰汁がある。
ぴこんと片手の指をふたつ立てて言う。
「早々に名家の子女と所帯を持ち、組織の者を誘惑しないこと。
これが最大限の譲歩だったそうで」
罪人としながら逃げ道が与えられるのは、義父の親心ではあったのかもしれないが筋の通らなさを感じた。
罪も罰もどうとでもなると、そういった実情に途方もない阿保らしさを覚え──背中が痛むこととなる。
己の現状について相手の納得と信頼を得ることが叶えば腰へ抱き着く相手をそっと押し倒す。
「怪我は、なるべく避ける──そして、健康というなら一事が万事。
抱き枕になってくれ、というか、痛い方を下に寝返りをしてしまわないように抱き留めておいてくれ」
笑っている相手の顔に思わず目を細めて返す。
縺れ合ったまま、布団を被ろうとして。
■アイリース > 相手が立てた指を、見た後に。
うん? と首を傾げていれば、言葉が出てきて。
「……う~~~~~~ん。
名家の、というのはまた。難しい話ですねぇ」
当然、相手の立場を考慮に入れるのなら。
それは必須の条件になるのだろう、とは思うのだが。
そうそう簡単に、名家の人間と縁をもてたりするのか。
その辺は、ただの忍の私には良くわからない部分ではある。
そうして、相手に押し倒されれば。
私は、相手の負担にならないように体をずらしつつも。
それを受け入れ、相手の顔を覗き込むように。
「えぇ、それくらいなら。
ただ……アナタが眠りに着いたら、食事の準備をしに行かないといけませんけど」
それまでの間なら、大丈夫ですよ、と。
相手に笑顔を見せたまま、優しく相手を抱きしめる。
正直なところ、こうして求められるのは。
それはもう、悪い気はしないのだ。
■ビョルン > 「ほら、だからいつかの釣書の山」
あったろ、と言い添える。
一緒に開封したのもかなり前のことのように感じられた。
そうして相手からの言葉に、少し甘いような笑みを浮かべる。
「でも用事の後にすぐ戻ってきてくれなきゃ嫌だ」
強請るような物言いをして薄む瞼を伏せた。
上下の瞼を彩る細い金糸が重なる。
■アイリース > 「……なるほど。
既に用意はしてある、と」
だとすると、なるほど。
相手もなかなか以上の苦労をするなぁ、と思う中。
相手に抱きしめられたまま寝転ぶことになれば。
「……はいはい。じゃあ、そのように。
ただ、寝すぎて昼頃に目が覚める。
なんてことはないようにしましょうね」
そう言い、相手が目を閉じるのを見れば。
私も力を抜き、眠りに落ちていく。
だいぶ寒さも厳しい夜だが。
こうして寄り添って寝れば、それも気にならなくなるような暖かさがあった。
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